「博士……暮内(くれない)博士……」
 白衣を着た美女が、無数の書類やディスクの類が乱雑に積まれた、
ダブルベッドほどもある巨大な机の縁に突っ伏している男の肩をつかんで揺り動かした。
体を揺さぶる度に、机の周りに七つも設置されている液晶ディスプレイのアームがゆらゆらと揺れる。
ディスプレイだけではなく、キーボードやカメラ、トラックボールなどのデバイスの他に、
何だか正体不明の物も合わせて数十本のアームが、枯れた樹木のように机から枝を広げていた。
部屋はかなり広いようだが、天井近くまでうずたかく積まれた書籍や謎の機械が視界を塞ぎ、実質的には四畳半程度の広さしかない。
「うーん。あ、あと三日ほど寝かしてくれ……」
「そんなに寝たら体が溶けます! 起きてください!」
 背中を平手で叩かれ、机に突っ伏した小柄な男がゆっくりと体を起こした。
「それでは、一週間……一週間だけ寝かしてくれないか」
「伸びてるじゃないですか! いいかげんにしてくださいッ!」
 恐らくは四十代半ばから五十歳くらい。女性と同じ白衣を着ているが、全体的に薄汚れ、ほころびができている。
頭はぼさぼさでフケだらけ。団子鼻に小さな目は、まるでモグラのようだ。決してハンサムと言える顔ではない。
 対して女性の方は二十代前半。切れ長の澄んだ目をした、息を飲むような美女だ。
ざっくりと着こなした白衣が大部分の体のラインを隠しているが、突き出るような豊かな胸とヒップは、隠そうとしても隠しきれないボリュームだ。
美女コンテストに出れば、どこでも入賞間違いなしだろう。
 男は眼鏡を机の上から手探りで探し当ててかけ、しょぼついた目を瞬かせて言った。
「おお、宮坂君か。今日は何日だね」
「九月の三日です」
「……何年かな?」
「二〇××年ですっ!」
 本気で言っているのはわかっているが、天然ボケもここまでくると犯罪的だ。
「いつも思うんだが、宮坂君は怒り過ぎだ。美容に悪いよ?」
「余計なお世話ですっ! ……別に、美容なんかに関心ありませんから」
 バンッ! と両手で机を叩いてから我にかえり、頬をひくつかせながら、長い髪の毛をうっとうしげに後へ掻き戻す。
「もったいないなあ」
「そんなことはどうでもいいんです。ラボに篭って、もう半月ですよ。そろそろ何か指示してくれないと、こちらとしても困るんですけど」
 目を細め、低い声で詰め寄る。
 男は、あははと愛想笑いをしてみせるが、彼女には通用しなかった。
「まあ、私としても、また妙なことをしでかされるよりは、篭っているだけの方がありがたいんですけどね」
「じゃあ、もう二日ほど寝かせてくれてもいいじゃな……冗談だよ」
 無表情で文鎮がわりに使っている削り出しのチタンインゴットを頭上に振りかざされては、さすがに真剣にならざるをえない。
「ところで宮坂君。どこか怪我でもしているのかね」
「いえ、怪我などしていませんが……ちょっと体調が悪いのは確かですけれど。昨日辺りからお腹のあたりがなんか重くて。
さっきの昼食にとった、一昨日の夕食の残りがいけなかったのかもしれません。さすがにちょっと酸っぱかったですし」
「……ああ!」
 男は何を思いついたのか、左手の平に右拳を叩きつけて大きくうなずいた。
「なるほど、これはめでたい。グレッグにぜひ、赤飯を炊いてもらわねば」
 そう言うが早いか机の上を乱雑にかき回し、コードの付いた電話を土砂崩れした書類の中から発掘した。
ダイヤル式の、しかも恐ろしくレトロな代物だった。
 グレッグとはフルネームをグレッグ・ベイツマンという初老の男性で、彼の秘書兼執事である。
今回の話にはあまり関係ないので、どのような人物かは割愛させてもらう。
 彼はがしゃがしゃとダイヤルを回し、数秒後に大きな声で話し始めた。
「あー、そう、私だ。宮坂君がね……そうか、うん。さすがはグレッグだ。相変わらず、いい仕事をしているね。
え? うむ、わかっている。宮坂君には早めに休んでもらうことにしよう。それでは、よろしく頼むぞ」
「あの、話が良く見えないんですが。それに――話を逸らさないでくださいッ!」
 彼女が机を手の平で、バンバンと何度も叩いて言った。
「ああ、いや大丈夫だ。それより宮坂君、おめでとう」
「別に祝ってもらうようなことはありませんが。……何か、ごまかそうとしてますね」
 立ったまま腕を組んで、じろりと男を睨みつける。
「別にごまかそうなんて思っていないよ。指示書はね、もうできているんだ。詳しい指示書をメールで送っておくから後で確認してくれ」
 アームに設置されたキーボードの一つを手繰り寄せ、素早くコマンドを打ち込む。
「できているのなら、私の用事は済みました。ですが、たまにはまともに食事をしてください。あと、臭いです」
 白衣から薬品臭だけではなく、汗や垢じみた肌が醸し出す体臭が鼻を刺激する。
「いや、君も匂うよ」
「臭いませんっ! 毎日シャワーか風呂に入ってますから」
「それでも、下着は替えた方がいいと思うな。いや。その前に、シャワーでも浴びた方がいい。
清潔にしておかないといけない……おお、そうだ。後で診察をしなければならないね」
「診察?」
 嫌な言葉を聞いて、彼女は眉をしかめた。
「診察って、何を……うわっ! な、なんか足が血ぃっ、血まみれですっ!」
 腿に伝う血にようやく気がついた彼女は、男に背を向けてスカートをまくりあげた。
そして血の跡を指で触って股間にたどり着き、そこから血が滴っているのを発見して大声を上げる。
 男は何度もうなずいて、言った。
「生理が始まったのだよ。君は今日から、名実ともに真の大人の女性になったのだ。おめでとう」
「何ですってぇぇぇぇっ!?」

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 彼女の名は宮坂夕樹(みやさか・ゆうき)。二十三歳にして既に博士号を取得している、天才機械工学者だ。
大学は飛び級で十四歳の時に某国の名門校に入学し、十六歳で卒業。
博士号を取ったのも三年前の二十歳。正に天才と呼ぶに相応しい。
機械工学だけではなく、人工知能の研究やプログラム技術にも精通しているマルチタレントの持ち主だ。
 だが、実は彼女は本当は女性ではない。
 男性なのだ。
 事情を説明するには、まず彼女……いや、彼が師事している人物のことを語らねばならない。
 彼の名は、暮内清久郎(くれない・しんくろう)。世紀の大科学者にして、千年に一人の大天才とも呼ばれている、とてつもない人なのだ。
 彼は何が専門とくくるのがバカらしくなるほど、様々な分野にその才を発揮している。
子供の玩具の発明をしたかと思えば画期的な内燃機関の概念を発表したり、
生命科学の神秘の一端を解き明かしたと思えば、大宇宙の真理に思いを馳せつつ健康食品を開発し、
うるさ型の評論家も唸らざるをえない大作の絵を描くといった具合なのだ。
 まさに、歌って踊れる科学者なのだ。インド人もびっくりである。
 しかし困ったことに、彼は天才にありがちなことではあるが、非常に気まぐれであった。
一つの研究や分野を極めたことなど、一度もない。
何かを極めれば世界が一転どころか百転するほどの発見をするだろうと期待されているのだが、誰も彼をコントロールできないでいる。
 そこで白羽の矢が立てられたのが、宮坂夕樹ら、各界の天才達であった。それぞれが暮内に働きかけ、研究を進めようというわけだ。
様々な国の政府の思惑もあって、多種多様な人材が暮内研究所に送り込まれた。
 だが、彼らのほとんどが三日もたたずに研究所を逃げ出したのだ。
 そのわけは、天才達のプライドがズタズタに引き裂かれてしまったたからである。
彼ら天才達も、超天才の暮内博士に比べれば凡人同然。並外れたプライドの持ち主である彼らに耐えられるはずがなかった。
 そんな中でただ一人残ったのが、夕樹であった。
 今にして思えば、あの時にさっさと逃げ出していればよかったと思うのだが、もはや後の祭りである。
ちゃんと任期を務めた後に政府から与えられるはずの莫大な報酬も、彼の頭にあった。
 夕樹は助手として暮内の研究を助けた。
博士号を取ったばかりで、まだ二十歳と若かった彼は、暮内のでたらめなまでの奔放な研究に魅了され、
彼の知性に一歩でも近づこうと努力したのだ。
 天才が努力をしたのだから、その進歩は目覚ましいものがあった。今では畑違いの生化学や分子工学の分野でも認められつつある。
 しかし、師を信頼し過ぎてしまったのが災いした。
「宮坂君は実に優秀な助手だ。君がいなくては、私の研究が進まないよ」
 などと、間違いなく歴史に名を残す世界的な頭脳に言われて自尊心をくすぐられない者などいるだろうか?
 ここで舞い上がってしまったのがまずかった。間違いだった。
 何度か人体実験の検体として博士の実験に協力して、安全性に信頼をおいていた夕樹は、ある実験で女性へと性転換させられてしまったのである。
その後も、必ず男に戻すからという言葉を信じて、博士の手頃な実験台としていいように使われた。
そして様々な実験や投薬を重ねているうちに、類希なる美貌とスタイルの美女になってしまったというわけである。
 博士の癖を完全にのみこんだ今では、事前に念を押してからでなければ絶対に博士の実験の被験者にはならないが、
女になって三ヵ月間は、ショックのあまり、博士の言うがままに様々な実験を受けてしまったのが痛恨の極み。
おかげで、どこからどう見ても完璧な美女になってしまったのだ。
 女から男に戻すことは可能なようだが、今のところきまぐれ極まりない博士の興味は、まったくそこには無い。
夕樹はあの手この手で博士をその気にさせようと手立てを尽しているが、今のところ彼女、いや、彼の努力は徒労に終わっているのであった。

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「まったく、なんてことだ」
 夕樹は快適な温度に保たれたシャワールームに飛び込み、白衣と服、そして下着を脱ぎ捨てると、頭から熱いシャワーを浴びた。
体中にわきおこるピリピリとした刺激に、唇を引き締めてぐっと堪える。
 最初はこの刺激だけで頭が真っ白になってしまったものだが、今ではなんとか耐えることができるようになった。
この敏感な肌も博士の作り出した薬の作用によるもので、不感症を改善する薬の実験によるものだった。
 健康体の人に不感症を改善する薬を投薬すれば、当然感覚過敏になる。
最初はベッドに寝ているだけでも、シーツとの摩擦で何度も絶頂を感じてしまっていた。
身をよじれば更に気持ちよくなり、悶えれば声を押し殺すのが難しいほど感じてしまう。
おまけにそのシーンが映像として記録されていたのだから、よけいに腹が立つのだ。
 さすがに効果が強すぎると判断されて過剰な感覚は無くなったが、それでもなお、夕樹の肌は刺激に対して敏感なままだった。
完全に薬の効果を消すこともできるはずなのだが、投薬の経過を見る必要があることと、
博士の興味が別の分野に行ってしまったことが夕樹の不幸であった。
 これに限らず、バストアップをする薬品や食欲を押さえる療法の開発、万人に通用するセックスアピールの研究や、
外科的手段によらない後天的要素によって自然に容貌を変化させる研究など、様々な実験が夕樹の体によって行われた。
 その結果が、過剰な色気を発散するこの体である。
「自分でなけりゃ、結婚したいくらいなんだけどな……」
 童貞のまま女になってしまった彼にとって、このモデルとも超人気AV女優とも言える見事な女体は目の毒であり、そして欲求不満の原因にもなった。
 男として欲情してしまっても、どうしても燃え上がらない。
ホルモンや脳内分泌物のバランス、脳のわずかな構造の違いなどがその原因のようなのだが、
体のもやもやとした欲求だけは自慰によって解消することはできる。
 もちろんペニスなど無いから勃起などするはずもなく、男としての妄想を発散することはできない。
これは、博士が以前に開発した妄想消化マシーンによってなんとかなっていた。
 この機械は一種の明晰夢を見せることによって海馬に偽りの情報を伝え、疑似体験を与えることで欲求不満や精神の問題を解決させるものである。
個人に合わせた調整が必要なことなど諸所の問題があってまだ世には出ていないが、少なくとも夕樹の役には立っていた。
 記憶の中ではあまたの美女とセックスをした、百戦錬磨の千人斬りの大性豪である夕樹だが、現実は厳しい。
限りなくリアルな記憶ではあっても、あくまでも妄想上での体験だとわかっているだけに空しさもひとしおだ。
「はあ……早く男に戻りたい」
「いやあ。本当にいい体をしているねえ、宮坂君」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 背後から突然聞こえてきた声に夕樹は悲鳴を上げた。
「なっ、なっ、何をしにきたんですか、博士っ!」
「ナニってもちろん、診察に決まっているじゃないか。宮坂君が服を脱ぐのはここか寝室くらいだからね」
 眼鏡の奥のどんぐり眼(まなこ)が、ぎらりと鈍い光を放つ。
「最近の宮坂君はこうでもしないと、なかなか診察に応じてくれないから。さあ、そこのマッサージ椅子に座りたまえ、ささっ、ずずずいっと」
「そりゃ、こんな体ですから……って、はっ、博士! 私はシャワーを浴びているんです。出ていってください」
「君だって男だろう。恥ずかしがることはないんじゃないのかね」
「それもそう……ではありません! プライバシーの侵害です」
 一瞬納得しかけたが、すぐに顔を左右に振って手近にあったタオルを体に巻きつける。
胸から膝上くらいまでの長さのある大きなタオルなので、少なくとも隠したい部分は完全に隠すことができた。
「安心したまえ。君が眠っている間に、何十回となく診察をしている。
それに、私が研究にのみ淫していることは、君もよく知っているはずだ。
これは性欲の解消のためではなく、研究のため、科学の発展、ひいては人類の明るい未来のためなのだ。さあ、宮坂君」
「そりゃまあ、博士が私を襲ったりしないことは十分理解していますが」
 夕樹はすすめられるままに、ついうっかりと博士がすすめるマッサージチェアーに座ってしまった。
 がしがしがしッ、ばちばちぱちんッ!
 軽快な音と共に椅子からベルトが何本も飛び出し、あっと言う間に夕樹を完全に椅子に拘束してしまった。
「何をするんです博士!」
「こうでもしないと宮坂君は診察させてくれないからね」
「こんなことをするから診察されたくないんですっ!」
 どっしりとしたマッサージチェアーは、夕樹が全力で体を揺さぶってもびくともしない。
それどころか、暴れるたびに体を締めつけるベルトが増え、ぎちぎちに縛り上げられてゆくのだ。
 気分はほとんどSMプレイだ。
「博士、これちょっと変じゃないですか」
 無駄だと思いながらも抵抗をしつつ、夕樹は尋ねた。
「ああ。それはだな、先月に……何だったかな、縄師とかいう職業の人と話す機会があってね。
その方に人間の拘束についてレクチャーを受けたのを応用してみたのだ」
「SMですか! SMですね!? ベルトなのになんで亀甲縛りなんですかっ!」
「まあ、宮坂君。興奮しないでくれたまえ。なんなら洋風モードもあるから、試してみるかね。または、瞬間硬化ジェルによるラバープレイもあるが?
これはアメリカの顧客によるものなのだが、是非とも体験して宮坂君の意見が聞きたいのだ」
「結構です、遠慮します!」
「ふむ、残念だ。では、診察を再開することにしよう」
 あっさりと説得を諦めた博士は、夕樹が座っている椅子の右側にあるボタンを操作した。
背もたれが地面と水平に倒れた。そのままバスタオルの裾をめくり、夕樹の体の状態を観察する。
「ふんふん。恥毛の発毛状態は変わらないが、ラヴィアはだいぶ発達してきているようだね。
以前と比べると外部に常時露出するようになっている。
色はやや赤褐色気味に濃くなっているようだな。陰核も格段に発達しているように見えるが……宮坂君、自慰は週に何度するのかね?」
「してませんっ!!」
「……まあ、後で映像をチェックすればいいことだが」
 ポケットから薄汚れたメモ帳を取り出し、何やら書きつける。
「またですか。また勝手に人の寝室に監視カメラを取りつけたんですか! 二度とカメラは取りつけないと約束したじゃないですかッ!!」
 夕樹は足をよじらせて抵抗しながら言ったが、すぐに別のベルトが伸びてきて、今度は両脚を広げた状態にされてしまう。
「カメラは設置していないよ。
宮坂君の部屋の壁全体にマイクロマシンを応用した、可視外光線による微弱発電と無線送信機能を持った映像素子を撒布しただけだ。
だが、どうも情報処理デバイスの調整がうまくいかなくてね。
恐らくプログラムに冗長な部分があって、処理に過大な負荷がかかって情報伝達が期待値を下回っているのだろう。
宮坂君、後でチェックをよろしく頼む」
「あ、はい……じゃなくてぇっ!」
 博士はしゃべりながら、薄いゴム手袋を両手にはめ、指をわきわきと動かした。
「恥ずかしがることはない。医師の診察に身を任せているだけだと思いたまえ」
「思えません! それに博士は医師免許は持っていないはずです!」
 博士の言葉がいい終わらないうちに即答する。
「宮坂君は最近、どうも短気で困るなあ。ふむ、これも薬の副作用なのかもしれないな。どの薬なのだろうか……宮坂君はどう思うかね」
「そうですね。ん、やぁん! は、博士……ちょっと、そ、そこあはぁっ! だ、ダメですっ、ダメですって、やぁあはぁぁぁぁんっ!」
 ゴム手袋をした指でラヴィアとクリトリスをたっぷりと刺激してから、
夕樹のラヴィアを左右に広げ、博士は膣内部の粘膜を指でぐりぐりと擦り始めた。
「はあぅっ!」
「うむ。陰茎との摩擦を補助する、粘度の高い潤滑液が分泌され始めているな。宮坂君、どうかね」
「どうかって、そのぉ……き、気持ち……いい、です……って、博士、やめ……やめてください……」
 内腿がぴくぴくと震え、顔ばかりでなく全身が上気してピンク色に染まっている。
はだけたタオルから顔をのぞかせている乳首も、固く隆起していた。
「ふぅむ。性感もだいぶ発達しているようだ。半月前の触診の時よりも反応が早く、大きい」
「半月、前ってぇ……」
 快感を感じる神経がもっとも集中している部分をこすられているために、夕樹は息も絶え絶えだ。
「うむ。週に一度は、君が寝ている間に触診をしていたのだよ」
「道理でっはぁ……へ、変な夢を……んっ! そ、こは……み、見るはずだ、とぉっ! だ、ダメです博士、そこはぁぁぁぁぁっ!」
「グレーフェンベルグ・スポットと呼ばれる部分だが、どうかな。いや、訊くまでもないか。非常によく反応している」
 指の第二関節を曲げて、ドイツの産婦人科医エルンスト・グレーフェンベルグ(ちなみに、女性だそうである)が発見したという、
略称をGスポットと呼ばれる部分を二本の指でぐりぐりと刺激している。
「い、ふっ! いやぁっ! は、博士っ! 怖いっ!!」
 体をのけぞらせようとしてもベルトで拘束されているので、顔を左右に振ることしかできない。
「ひっ、あっ、あひっ、ひっ、ひっ、ひっ……」
「ふむ。その反応は快感によるものからなのか、それとも純粋な恐怖心か。どうかね、宮坂君……返事もできないか。困ったものだ」
 と言いつつも指を動かし、Gスポットを刺激する手を休めない。おかげで夕樹は息も絶え絶えで、しゃっくりのような呼吸しかできないでいる。
「うむ……襞の構造は、触診では際立った変化は感じられないか。いや、薄いとは言えゴム越しでは微妙な差異を感じるには無理があるな」
 椅子の脇で何やらごそごそしているかと思ったら、銀色に光る器具を取り出した。
いわゆるクスコ――膣内を診察するための器具である。どうやら椅子の中には怪しげな道具がいろいろと詰まっているようだった。
 ちなみに処女膜は、とっくにこのクスコによって破られている。
器具で処女を失ったこと自体はショックではないが、それを少し残念に思っている自分に気付き、自己嫌悪におちいったこともある。
「ちゃんと足を開いていたまえ」
「……やっ!」
 いつの間にかベルトから解放されていたのに気づいて脚を閉じようとしたが、下半身からすっかり力が抜けてしまって抵抗もできない。
博士が当てた冷たい金属の感触に一瞬体がぴくっと跳ねるが、スムーズに奥へと突っこまれてしまう。
 指とは違う圧迫感と奇妙な挿入感に、ぞくぞくぞくっと背筋を震わせる。
クスコは何度も挿入されているが、慣れることはない。恐らく、一生慣れないだろう。
「男性との性経験はあるかね?」
 クスコを開いたまま固定するためにネジを回している博士が、膣口を覗きこみながら言った。
「あっ……あるわけ、ないじゃないですか……」
「美人なのにもったいない。女性は男性に抱かれると世界が変わるそうではないか」
「気持ち悪いだけです」
 何しろ、心は男である。
同性愛者でもない限り男性とセックスをすることに抵抗があって当たり前だが、ややこしいことに今の夕樹の肉体は完全に女性なのである。
「うーむ。宮坂君くらいの年頃では、平均して十数人の男性と性経験があるということのようだが」
「どこでそんな情報を仕入れたんですか」
「妻が購読している婦人雑誌と、娘が読んでいる若者向け雑誌だが?
うむ、健康的なピンク色でよろしい。陰茎を挿入したら、さぞや心地好いことだろうな」
「い、陰茎だなんて言わないで……ください」
 いつものきつい口調ではなく、声が甘く柔らかいのは、博士の触診が止まらないからなのは、言うまでもない。
「陰茎がいけないのならば、ペニスでも魔羅でも男根とでも言い替えるが……宮坂君。診察の邪魔になるから、その、粘液を分泌するのをやめたまえ」
「止められるものなら……と、止めてます……」
 ラヴィアを撫でられ、クリトリスやGスポットを指でさんざんいじられ、
ヴァギナにクスコを挿入された上に試験管のような透明な筒を挿入されて刺激されているのだから、快感を感じない方が難しい。
ましてや夕樹は、博士による数々の人体実験によって、男性との性経験が皆無でありながら極めて感じやすく、
そして魅力的な肉体を持つに至っている。
下着の上から撫でる程度のソフトなオナニーしか経験していない夕樹でさえ、それで充分に熟れた体の欲求を発散できるのだ。
 しかし、博士が性的な欲望で診察をしていないのは、まったく勃起をしていないことからも明らかだ。
ちなみに博士は不能者ではなく、ちゃんとした一男一女の父親である。
「うむ。今回はこのへんでやめておくとするか。ここでは充分な検査ができない。今度はきちんと検査器具を揃えてからにしよう」
 博士は白濁した愛液をあふれさせている膣からクスコを抜き取り、バスタオルで夕樹の股間と器具を拭ってから椅子のボタンを押し、
夕樹の体を拘束しているベルトを外して立ち上がった。
「は、博士……?」
「宮坂君、無理を言ってすまなかったな」
 拘束は解かれたが、夕樹は立ち上がることができない。体は火照り、顔は薄く紅潮している。
白くなめらかな肌もうっすらとピンク色に染まり、乳首は乳輪ごと、いつもよりツンと突き出ている。身動きするだけで、体が痺れる。
「おお、そうだ。これを忘れていた」
 部屋を出て行こうとした博士が、白衣のポケットからなんとも冷たそうな銀色に光る、長さ二十センチほどの物体を取り出した。
「宮坂君、これを試してみるかね?」
「い……嫌ですぅっ……」
 何とか気力を振り絞って夕樹が言った。
 形状は先の丸いルージュケースにそっくりだが、想像通り、博士が取り出したのはバイブレーターであった。
「とりあえず渡しておこう。これはだね……」
 再び夕樹の座っている場所までやってきて、しゃがんで股間にそのバイブの先端を軽く押し当てた。
「微弱な電気信号が表面を流れ、快感を一層高める。なにぶん理論だけなので、効果があるかどうかは今一つ確証が持てないのだが」
 博士の説明も聞かないうちに、夕樹は目をきつく瞑ってうめいた。
「あ……いひぃぃっ……」
 太腿がびくびくっと震えて、夕樹の体が小刻みに震えた。軽く挿入された瞬間に、エクスタシーに達してしまったのだ。
「ふぅむ……想像以上の効果があるようだね。どうだね、宮坂君?」
「だ、だめ……だめです……あそこが……あそこが痺れてぇっ!」
「あそことはどこだね。具体的に説明してくれたまえ」
 夕樹の手を握って問いかけるが、返事は返ってこない。
「困ったな。こればかりは私が自分自身で確かめるわけにもいかんのだが。肛門で試してはみたが、感覚が違い過ぎてわからんのだよ宮坂君」
 真面目な顔をして言う台詞ではないが、本人は真剣そのものだ。
 不意に夕樹の手に力が入り、博士の手を振りほどくとバイブを両手で握り、自ら奥へとバイブを挿入した。
「あ、あ……ああああああぁぁぁぁっ!」
 太腿がビクビクと痙攣する。あやうく博士は夕樹の脚であごを蹴られるところだった。
「危ないではないか、宮坂君。君も科学者ならもっと冷静に行動してくれたまえ」
 だが、返事はない。
 夕樹は股間を両手で隠すようにして、快楽に蕩けきった表情で悶えている。
「う、動かしていないのに、中で――中でぇぐりぐりぃ、動いて、ますぅ……」
「それはだね、新開発の流体突起構造を採用しているのだ。
表面の突起が滑らかかつランダムに動き、単に挿入しているだけでも十分な快感を期待できる……
以前に開発して忘れていた流体金属が、こんなところで役に立ったよ」
「う、あ……」
 口の端からよだれを垂らしながら、どこか遠くの世界へ行ってしまったような表情で、夕樹は喘ぐ。
 膣口を刺激する突起は縦横無尽に回転し、奥深く挿入されている部分の突起は、
前後運動に似た動きをしている。しかも突起の大きさは、どんどん大きくなっている。
「埋めこまれたマイクロチップのAIが、最も膣の反応が著しいポイントを探り出すようになっている。
突起の大きさや位置、微弱電流による刺激などはおおむね二、三分で最適化が完了するはずだが、何分試作品なものでね。実地試験は今回が始めてだ」
 博士の台詞通り、無作為に動いていた突起が動きを止め、再び動作を始める。
「あ、い、やはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 夕樹の全身が風呂上がりの直後のように赤く色付く。額には汗が浮いているほどだ。
「すごい、すごいのぉっ! おっ、おま○こに吸い付くのぉっ! チ○ポ、チ○ポがしびれて、おま○こにぃぃっ!」
 挿入したまま、手の平を奥に捻りこむようにして前後左右に動かす。
「あたまっ! あたまがおかしくなっちゃうぅっ!」
「悪くなってもらっては困るんだが。ふぅむ……快楽による過剰な脳内分泌物が、精神と知性に与える影響にも着手する必要があるか。これも宮坂君のためだ」
 博士は愛液に濡れたままのゴム手袋をはめた手でポケットからメモを取り出し、何かを書き留め始めた。
「どうだね、宮坂君。そのバイブレーターはいけそうかね?」
「イクっ! イケますっ! もぉ、最高ですッ!」
 強烈な電気ショックを与えられたように体をびっくんびっくんと震わせながら、夕樹は未知の強烈な快楽に溺れている。
バスタオルはいつの間にか完全にはだけ、仰向けなのにほとんど形を崩していない美乳が、ぶるんぶるんと大きく震えている。
「ぐり、ぐりってぇっ、おま○こぉっ! あたっ、頭にっ! おま○こから頭に、突き抜けっ!
じぇんぶぅ、全部がぁ……からっ、からら(体)が痺れぇっ! ぜんぶ、じぇんぶぅおまっおま○こほぉぉっ!」
「ふむ……理解不能だな。宮坂君、もう少し要点を整理して言ってくれたまえ」
 真面目な顔をして夕樹に顔を寄せる。
「奥ぅっ、奥までぇっいいっ! いいのぉっ!」
「宮坂君。それはもしや、ポルチオ性感帯とかいうものかね?
妻が購読している雑誌でしか読んだことがないので今一つ理解しにくいのだが、
本来鈍感である子宮口部で、君はどのような感覚を感じているのかね」
 返事を待つが、夕樹ははっはっと小刻みに呼吸をするだけで返事をしない。目は虚ろになり、それでいながら手の動きはしっかりとしている。
「宮坂君……宮坂君。宮坂君?」
 反応がない。
 屍(しかばね)ではないが、視線はあわず、息も荒い。
「気をやってしまったようだな。しかし、なんだ。宮坂君もずいぶんと女性になじんでいるではないか。
以前は自慰をする時も、最後まで女らしい言葉など言わなかったものだが――興味深い。
脳の活性部位に何らかの変化が起こったのだろうか、それとも……」
 博士はぶつぶつと呟きながら、そのままドアも閉めずにシャワールームから出ていってしまった。
数分後、バイブレーターが最終モードへ突入することを知らせる、小さなビープ音を発した。
「あごぁおぉぉぉぉっ! イぐぅッ! イ゛ッちゃう゛ぅッ!! おまっ、おま○ごで、おま○ごでぇイッちゃぶうぅぅぅぅぅぅっ!!」
 バイブレーターが新たな動きを始めると同時に、夕樹の体は海老反り、廊下まで響く大声を上げながら盛大に潮を吹きつつ気絶してしまった。
バイブレーターは膣内の強烈な圧力に負けてすぽんと抜け落ち、一メートル以上も宙を飛んで壁際まで転がっていった。
 だがそれだけですんだわけではなく、続けてマッサージ椅子が発するバイブレーションによって、夕樹は再び快楽の波に囚われてしまう。
タイマーによって全身マッサージが終了した頃には何十回もエクスタシーに達していて、体は汗と愛液にまみれ、すっかり足腰が立たなくなっていたのだった。

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 この日の夜、暮内家に招かれた夕樹は博士の家族に「初潮」を祝われることになる。
その後、遅い初潮による体調不良と湯冷めしてしまったことで、夕樹は十日も寝込んでしまった。
 夕樹が身を以って体験した新型のバイブは、半年後に商品化されて記録的な大ヒット商品になるのだが、
製品化にあたって、夕樹が動作試験に応じることは二度と無かったという。

 END


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