危ない──ある日の学校帰り、都筑喜久は目の前を行く友人の長谷部保が、バナナの皮を踏む瞬間を目撃した。
「保! 足元に・・・」
気をつけろと言おうとした時、喜久は保が宙に舞う姿を目撃した。
その様は、まるでタンゴでも踊るかのように華麗だったと彼は後に述べるのだが、問題は保の方である。
「うわわーッ!」
バナナで足を滑らせた保は体を一回転させると、勢いをつけてガードレールに激突。
更にその弾みで道路へ転げ出た所を、たまたま通りがかった象に踏み潰されてしまったのである。
「た、保!」
慌てて喜久が近寄ると、保は紙のようにひしゃげて、ひらひらと風に舞っていた。
まるで某米国で人気を博した、ネコとネズミのいがみあいアニメを見るようであるが、事態は案外、深刻そうである。
「誰か、空気入れを! ち、違う、119番してくれ!」
ペラペラになった友人の姿を見て狼狽する喜久。
空気で膨らませればあるいは、とも思ったが、それでは問題は解決しないであろう。
このままでは、保は十六歳という若さで往生してしまう。喜久はいよいよ焦りを募らせた。
と、その時、保の体から何やら眩い球体が、すうと飛び出したではないか。喜久はこれを見て、顔面蒼白になった。
「た、魂が抜けていく」
喜久は眩い球体を掴もうとするが、それは霞か雲のように手の中には収まらなかった。
そうしている間に、保の魂は徐々に秋晴れの空を目指していく。
「駄目だー! 保、戻って来ーい!」
突然、別世界へ旅立つ友を見送る羽目になり、嗚呼と落涙する喜久。
するとその時、象に乗っていた男が喜久の前に立った。男の身なりはヒッピーとかそんな感じで、見るからに怪しい雰囲気である。
「すまない事をした。あれは、君の友人か?」
「そうだよ! あんた、何て事をしてくれたんだ!」
今にも噛みつかんばかりの勢いでまくしたてる喜久に対し、男は存外、平静な顔をして、
「実は俺、シャーマンの資格を持ってるんだ。国家U種の」
などと言うのである。その言葉の意味が分からない喜久は、相変わらず怒り続けている。
「それがどうしたっていうんだ!」
「落ち着けよ、君。今ならまだ、彼の魂はここに引き戻せる」
男はそう言うと、腹の底から唸るような声を絞り出した。それは喜久にとって、聞いた事の無い未知なる言語であった。
「君も念じてくれ。彼の魂がここへ戻ってくるように」
「は、はい」
男の勢いに押され、うむむと共に祈り始める喜久。この際、何でもいいから、奇跡よ起これと念じるしかなかった。
(保、帰って来い! 俺が持ってるAV女優の、蝗(いなご)みるくちゃんのサイン入りパンティやるから)
喜久は念じた。強く強く、念じたのである。
するとどうだろう、念じた甲斐あってか昇りかけていた保の魂は、段々とこちらへ帰ってくるではないか。
(保! みるくちゃん! 保! みるくちゃん・・・)
友人と、友人の好きな物を頭に浮かべ、必死に魂を呼び寄せる喜久。そして、遂に奇跡は起こった。
「おいでませ、還俗プリーズ!」
男が叫んだ瞬間、ペラペラになっていた保の体が膨らみ、顔に生気が戻ってきた。
そして見る見るうちに立ち上がり、髪はズバッとロングに、そして胸は89センチのFカップに、
更にキュッとくびれたウエストと、むっちりと脂の乗ったヒップが──
「ありゃ? 何か変だな」
「保が女になっていく・・・」
男と喜久が呆気に取られている内にも、保の体はどんどん力を漲らせていく。
まだ意識は戻っていないものの、何とか往生を免れたようだ。それは良いとして、問題はその体つきである。
「・・・君、何か雑念、入れなかったかい?」
男が訝しげな目で喜久を見た。そう言われてみれば、確かにあるAV女優の姿を、喜久は思い浮かべている。
「何かまずかったかな・・・」
「魂の形って不安定だから、肉体から離れているとどんな風にでも変われちゃうんだよね。
だから、友達である君に彼の事を強く念じて貰いたかったんだが・・・」
保の魂は完全に体に定着したようで、とりあえずは一安心というところ。
しかし、保は以前とはかけ離れた姿になってしまった。
そう、分かりやすく言うと、AV女優の蝗みるくに瓜二つという姿形になったのである。
「もしかして、俺の蝗みるくちゃんへの思いが、強すぎましたか・・・?」
「まあ、有り体に言えばね・・・」
「でも、そんなんで体つきまで変わるものなんですか・・・?」
「普通はならないが、君の思いが尋常ならざる物だったんだろうね・・・」
恐るべきはDNAまで変えてしまう、思春期の性欲といった所であろうか。
かくして、保は不運にも友の手によって、女性へと変化してしまったのであった。
「ん? 俺・・・何やってたんだろう」
と、保が呟いた。だが、声もすっかり女の物になっている。
「保! 生き返れたんだな! 良かった!」
もろ手をあげて感涙する喜久。形はどうあれ、保が生きている事が当たり前に嬉しい。
「何、泣いてんだ、喜久。どうかしたのか?」
「どうかしたのはお前だよ。しかし、まあいい。良かった、良かった・・・」
気がつけば泣き笑い顔。喜久は保の肩を叩き、鼻水が垂れるのも構わず、友の生還を喜んでいた。
「なんじゃあ、こりゃあ!」
わなわなと保の体が震えた。無理もない、僅かな間に己が男から女へと変わってしまったのである。
しかも、喜久はその訳を告げてはいなかった。理由は言わずもがな。
「そう、騒ぐなよ」
喜久がプラッシーとうまい棒を持って、自室へやってきた。ちなみにここは、喜久の家である。
まさか、女の姿となった保をそのまま自宅へ帰す訳にもいかず、とりあえずここへ落ち着いたという訳だった。
「俺、一体どうしたっていうんだよ? 何があったんだ?」
「ま、おいおい話すからさ、まずはプラッシーをやってくれ」
喜久は黄色いジュースの栓を抜き、はて何から話そうものかと思案に暮れた。
「保。まず、今の状況を整理しよう」
「うん」
「お前は学校の帰りにバナナの皮に足を取られ、ガードレールに激突した後、通りすがりの象に踏まれて一旦、あの世に行きかけた」
「そこいらへんは、何となく覚えてるな」
保がそう言うと、喜久の背に冷や汗が流れた。問題はこの後にあるからだ。
「それで、まあ・・・象に乗っていた人がたまたまシャーマンで、お前の魂をこの世に引き戻してくれたんだが、そこで手違いがあってな」
「ふむふむ」
保の鼻息が荒くなっている。喜久は一息、間を置いて──
「スマン! お前を現世へ呼び戻すために、お前の好きな蝗みるくちゃんの事を考えたら、そのまんまになっちゃった!」
がば、と手をついて詫びる喜久。それを聞き、保が激昂した。
「お前が原因か、この野郎!」
保は立ち上がると、喜久に覆い被さった。
そして右、左とパンチを繰り出すのだが、女の体ゆえか今ひとつ力が入らない。
「イテテ!やめろ、保。謝ってるじゃないか!」
「それで済むか!」
ポカスカと頭を殴られ、喜久は思わずぐいっと保の胸を押した。すると──
「あうッ!」
と、保は胸を抑えて後ろに倒れてしまった。その途端、豊満な乳房がぷるんっと揺れ、喜久の視線を奪う。
「だ、大丈夫か、保」
「・・・うん。女って、胸を押されると駄目なんだな」
きゅっと唇を噛み締める保。もし、男のままだったらこんな事はあり得ないとでも言いたげで、悔しそうだった。
「いがみあってても仕方がない。打開策を考えないか」
「・・・そうだな」
喜久が提案するも、保は何故か顔を赤らめてうなだれるばかり。しかも、潤んだ目つきで視線を喜久へと注いでいる。
「・・・シャーマンの人が言ってたんだけど、お前を男に戻す方法を調べてくれるってよ。近いうちに連絡くれるらしいから、希望を持とうぜ」
「そっか」
ふう、と保はため息混じりに答えた。男に戻れる希望があるのなら、まだ救いようもあろうというもの。
そうなれば緊張も解け、体から強張りも抜けていく。
「しばらくは学校にも行けないかな」
「それどころか家にも帰れないんじゃないか?お前の母さん、今の姿見たらショック死するぞ」
「どうしよう・・・俺、行くあてなんかないぞ」
「俺ン家に泊まればいいさ。どうせ、父ちゃんも母ちゃんも外国暮らしで、滅多に家には帰らないんだからな。俺がお前の母さんに言っとくよ」
喜久の父母は高名な考古学者で、一年のほとんどを海外で過ごしている。今の保の身を隠すには、ここ以上の場所はないだろう。
「んじゃ、そうさせてもらうかな」
あーあ、と保が大の字になって寝転んだ。
するとどうだろう、保が穿いているミニスカートの中身が、喜久の目に映じたではないか。
非常に深い黒色のスカートの中に、見るも眩い白いショーツのレースが煌いている。
「保、こっちに足を向けるなよ」
顔を赤くした喜久が言うと、
「何か見える?」
と、保が挑発的な流し目を返してきた。
「パンツが見えてるんだよ」
喜久はそう言って、座布団を保の足にかけてやった。今は女だが、保は自分の友人である。
友人の下着を盗み見る性根など自分にはないと、喜久は気張っているのだ。
「そう言うけどな、これだってお前のせいなんだぜ」
「そりゃ、そうだけど」
保は座布団を抱くと、子猫がじゃれるように喜久へ詰め寄った。まるで、遊んでくれと言っているように。
「ちなみに喜久、お前、女のアソコ・・・見たことあるか?」
ぐぐっと保が顔を喜久に近づけながら問う。何か思惑があるのか、含み笑いを浮かべている。
「ネットでなら見たけど」
「そういうんじゃなくて、生のアソコだよ」
次いで保が、ひひひと嫌らしい笑いを漏らした。その様子を見て、喜久はおぼろげに友の思惑が読めてきた。
「み、見せてくれるのか?」
喜久が訊ねると、保は黙って頷いた。そして、
「鏡あるか? 俺も見たいからさ」
と言って、いそいそと身に着けている物を脱ぎ始めたのである。
女になった保は、薄手のタンクトップと超がつくほど短いスカート、それにショーツしか身に着けていなかった。
これは、喜久が持っているDVD、『蝗みるくの破廉恥家政婦さん』のパッケージから投影された物だと思われる。
「おい、喜久。なんかこう、そそるものあるか?」
一糸まとわぬ姿となった保が、長い髪を束ねて微笑んで見せると、喜久はおもむろに前かがみとなった。
理由は言わずもがな・・・
「あ、ああ・・・」
喜久は保の体から放たれる女臭にくらみ、肉棒を恐ろしいほど硬化させている。
初めて嗅ぐ女の匂いとはなんて淫靡で艶かしいのだろうか。喜久は股間を押さえながら思う。
「おお、これがみるくちゃんのFカップか。自分で自分のオッパイ触るなんて妙な気持ちだけど、柔らかくて良い感じだ」
保が言いながら、豊かな乳房を手で下から掬った。
89センチのFカップはたっぷりと量感をたたえ、その手の中でゆらゆらと弛む。
「お前も触ってみろよ、喜久」
「・・・うん」
ぐいっと乳房を突き出され、喜久はおずおずと手を差し出した。
「内側から円を描くように揉んでみてくれ」
「分かった」
ハアハアと息を荒げ、喜久は乳房を揉み始めた。
手が、指が乳房の汗ばむ様子や、硬く尖っていく乳首の変化を感じ取る。
これが女か、と喜久は感嘆し、興奮で肩を弾ませた。
「・・・気持ち良い」
保が不意にそんな事を言って、背を少し反らした。そして体を震わせ、目もうつろにこう囁くのである。
「・・・喜久、セックスしてみたいか?」
「え・・・? セックスって、お前・・・」
乳房を揉む喜久の手が止まった。そこへ保が言葉を繋げていく。
「俺さ・・・何だか、ここに・・・何か入れたくなってきたんだ」
保が喜久の手を取り、若草が生い茂る恥丘まで導いた。
すると、そのすぐ下にある陰裂からは、とろりと熱い樹液が溢れているではないか。
「ぬ、濡れてる」
「今の俺は蝗みるくちゃんだから・・・きっと、セックス大好きなんだろうな。オッパイいじられただけで、おかしな気分になってきた」
喜久の指は粘っこい液体に濡れ、気がつけばぐずぐずと解れた女穴の中に入っていた。
初めて知る女の内部は熱く、本人の意思とは関係なく蠢いているようだった。
「・・・喜久、お前も脱げよ」
「う、うん」
喜久が服を脱ぐ間に、保は静かにベッドへ腰掛けた。
まだ女になりたてではあるものの、体が女の作法を呑み込んでいるらしく、目が勝手に喜久の股間へと行ってしまう。
「もう、勃起してるじゃん」
「悪いかよ」
「ううん、なんだか嬉しい気がするんだ。変だけどさ」
ギリギリと上向く喜久の肉棒を見て、保は淫靡に微笑んだ。
気がつけば保はベッドから降りて、喜久の前で膝を折っている。
「何する気だ?」
「しゃぶってみようと思う」
「出来るのか、そんな事」
「何か、そうしたい気分なんだ」
保の手が優しく肉棒を掴むと、喜久は天を仰ぐように体を強張らせた。
「うッ!」
ぬるり、という感触が喜久の肉棒を包んだ。咥えられたのだ。
「ああ・・・何かおかしくなってきた」
肉棒を這うように蠢く生肉──それが舌だという事は分かる。
保は淫らに顔を上下させ、舌で喜久の肉棒をジワジワと苛んでいるのだ。
「どう、喜久。気持ちいい?」
「う、うん・・・」
「そう。俺も初めて知るけど、チンポの味って案外、悪くないぞ」
喜久は己の肉棒を握り、いやらしい質問をしてくる女が、わが友人とはとても思えなかった。
しかし、現実に保は女となり、今は肉棒を咥え込んでくれているのだ。
いよいよ喜久は眩暈を覚えるほど、混乱し始めた。
「保・・・ベッドに寝てくれないか」
「したいんだね? いいよ」
保は髪を掻き分け、ベッドの上へ身を投げた。そして静かに足を開き、目を閉じる。
「いくぞ、保」
「あッ、今チンポ当たった。ふふ・・・」
保は無邪気に笑い、余裕げである。やはりAV女優の姿だけあって、男を翻弄する手管に長けているのだろう。
「入った・・・かな?」
「まだ、入り口。もう少し下・・・」
喜久が腰を突き出すと、保は一瞬、ぴくりと身を震わせた。
その後、肉棒がずるりという感じで胎内に収まると、瞼をピクピクとしばたかせ、喜久の背中を抱いた。
「ああ・・・入って来た。すごく・・・気持ち・・良い」
うっと低くうめいた保は、足を喜久に絡ませて、更なる深い結合を望んだ。
そして肉棒をすっぽりと女穴に飲み込むと、ゆるゆると腰を使い出したのである。
一方、その頃、例のシャーマン男は象に乗って街を出て行く所だった。
「彼らには悪いけど、男に戻す方法なんて無いんだよな。一度、肉体を離れた魂が、帰ってくるだけでも奇跡に近いのに」
男はチャイを飲みながらごめんなチャイと呟いた。これで、何もかも済ませようというのである。
「ああ・・・喜久、すごく良いんだけど」
「俺もだよ、保」
ギシギシとベッドが軋み、激しく揺れている。すでに二人は何度目かの交わりで、幾度も絶頂を得ていた。
しかし、体が求め合って離れないでいる。
「俺、このまま・・・女のままでも・・・いいッ・・なあ・・・」
保は半目になって、女穴を出入りする肉棒の素晴らしい働きに理性を蕩けさせていた。
願わくばずっとこうしていたい──保は喜久の体にしがみつきながら、そう思う。
「俺も、保が女でいてくれたらって思うよ」
女犯の愉悦を知った喜久も考えは同じだった。
友であり恋仲であれば、どんなに良い関係が構築されるであろう。そんな思いが頭を過ぎる。
「ああ・・・また・・・イクッ」
「俺もだ」
激しく体を求め合い、二人は高みへと登りつめた。
実を言えば、仲睦まじい二人はこの先、様々なトラブルに巻き込まれていくのだが、それはまた別のお話である。
おしまい