「緒里先生、こっちこっち」
 学習塾の教え子達に連れられ、俺は夕焼けに赤く染まった山道を歩いていた。
 俺の名は緒里。地元の大学に通う大学二年生の19才。
 昼過ぎの街角で、バイトとして講師をしていた学習塾の生徒である女子中学生達が集まってるのを見かけ、
 声を掛けたのが運の尽き。これ幸いとばかりに無理矢理俺は彼女達に付き合わせられる羽目に。
 なんでも、約束をしていた一人が急な用事で出てこられなくなり、
 これから行う遊びは5人と言う人数がどうしても必要な遊びで、困っていたとのこと。
「で、六見山なんかに行って何をする気なんだ?」
「精霊召喚ですよ、先生」
 生徒の一人桜野が教えてくれた。
「精霊召喚? なんだ、それ?」
「えぇっとね、先生。カメラ付き携帯を持った五人の人間が五角形を作って、隣の人を順番に撮るの。
 その場合、相手の身体の一部を撮るんだけど、別に全身図でも意図的に被写体から外しても良くてね。
 それぞれが撮った5枚の写真を見比べてね。身体のどの部分も重なることのない全身のパーツが揃うと、
 その写真の像を依り代に、その地に居る精霊が召喚できるの」
 こっくりさんとかの類か……
 話を聞いてそんな印象を受けた。
 そう言えば、俺が中学生の頃も、女子共はこう言うのが好きだったな。
 しみじみと昔のことを思いだす。
「それでなんで六見山なんだ? 別に5人揃うならどこで良いだろ?」
「それがね。心霊スポットとかの様な霊地で行う方が成功率が高いって言われてるの」
「前に学校の教室でやった時は成功しなかったしね」
「六見山なら鬼が封じられているって言うからね。上手くすれば何かが召喚できるかなって話になったの」
「六見の鬼ね」
 それはこの地元に伝わる鬼伝説。
 かつてこの地方で悪さをした鬼が、旅の巫女に身体をバラバラにされて封じられた伝説。
 六見山の六見は、本来六つの身と言い、鬼の身体を6個に分けて封印した事に起因する。
「先生、早く早く」
 六見山にある六見神社の石階段を上る4人の少女。これが高校生ぐらいなら、
 ちやほやされて嬉しいかも知れないけど……中学生じゃ、良くてロリコン。悪くて危ないヤツ。
 まぁ、中には発育の良い娘もいるが……襲えば犯罪者には変わりない。
 階段を上りきった先には少しだけ広い空間があった。西日を横に受けて赤く染まる神社は、酷く儚い印象があった。
「じゃあ、五角形の頂点にみんな立ってね」
 生徒の一人の織田が言う。
「あっ、先生。先生の携帯ってカメラ付いてる?」
「いや、付いてないな」
「じゃあ、コレ使って」
 隣りにいた柳井が一台のカメラ付きを渡してきた。
「柳井、お前二台も携帯持ってるのか?」
「まさか。姉さんが前使っていたお古の携帯を借りてきたの。
 姉さん、この携帯解約しても予備のカメラ代わりに使っていたからね」
 受け取り、簡単な操作のレクチャーを受ける。
「じゃあ、あたしから始めるね」
 右隣の柳井が俺の姿を撮り、その柳井を織田が――と次々に写真を撮っていき、
 最後に俺が左隣の遊佐を撮ろうと携帯を構え、シャッターを切った。
「いい具合に撮れたかな?」
 集まって液晶を見せ合う。
 俺が撮ったのは遊佐の横顔。
 身体の一部と言っていたけど、下手な場所を撮って後で何突っ込まれるか解ったモノじゃないから、無難な選択だ。
 もっとも4人の中で一番美人なため、何かのからかいくらいはされるかも知れない。
 そして、その遊佐が撮ったのは桜野の細い腰とすらりと伸びた足の下半身。
 桜野が撮った織田の写真は彼女の形の整ったバストと腕。織田は重なるコトを避けてるように地面。
 ただし、柳井の影が写り込んでいた。そして最後の柳井が撮った俺の写真は――
「俺の全身図?」
「だって、男の人の身体なんてどこ撮って良いか解らなかったし、
 別に、男女って考えれば全身図撮っても重ならないかなって思ってね」
「なる」
 そんな説明に納得する残りの三人娘。
 おいおい、そんないい加減でいいのか?
 呆れはしたが、わざわざ突っ込む気にもならなかったので話を進めることにした。
「それでどうするんだ?」
「えぇっと、後は携帯が掛かるのを待つんだけ――あっ、電話」
 付き合わせていた携帯の内一台から音楽が流れ出してきた。
 それは、地面が写し出された織田の携帯。
「成功した!?」
 みんなの注目を浴びる中、織田が携帯に出た。
「もしもし……」
『――――、――――』
「きゃぁ!」
 突然悲鳴を上げて携帯を投げ捨てる。
 耳を押さえてしゃがみ込み震える織田。
「ど、どうしたの?」
「携帯から聞こえたのよ! 腕寄こせ、胸寄こせって!!」
「腕寄こせ? それって失敗なの――!?」
 続いて桜野の携帯から音楽が聞こえてくる。
「はい……」
 恐る恐るそれに出る桜野。
『――――、――――』
 顔面真っ青にして携帯を切った。
「どうしたの?」
「足寄こせ、腰寄こせって言ってる」
 その言葉に俺と柳井は遊佐を見た。
 それとほぼ同時に、遊佐の携帯から軽快な音楽が鳴り響く。
 一度俺達四人を見て、おもむろに電話に出る彼女。
『――――』
「どう?」
「頭寄こせって」
 それは、俺が撮った彼女の写真通りの言葉。
「ちょ、ちょっと、あなた何者? 精霊なの?」
 遊佐の手から携帯を引ったくり、代わりに叫ぶ柳井。

『我は鬼なり』

 その言葉は、携帯に耳を当てていない俺達にまでハッキリと聞こえてきた。
「きゃぁ」
 震える少女達を抱きしめながら、辺りを見渡せば、
『腕寄こせ、胸寄こせ、足寄こせ、腰寄こせ、頭寄こせ』
 携帯を切っても、低いうなり声が神社に響き渡りだす。
 逢魔ヶ時――
 脅える少女達を見つめながら、そんな言葉が思い出された。夕暮れ時の薄暗い時間帯は魔物が出ると言う言葉。
 良くある都市伝説でしかないはずのこんな儀式にどれだけの意味があったのかは知らない。
 ただ、豊かすぎる彼女たちの感受性の成せる技か、
 それとも場所か時間が悪かったのか……何かが起ころうとしてるのは確かだった。
「神社から出るぞ!」
 とにかく、そこから出ないとやばい気がした。
 近くにいたヤツの腕を引っ張って外へと向かう――
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
 絶叫と共に俺の手に急に重さが増した。
「え!?」
 振り返れば、俺が握っていたのは桜野の腕こそはあったが――彼女の下半身が無くなっていた。
 胸の下から大量に血を流す桜野の上半身。
「ひぃ」
 手を離し後ずされば、頭と下半身のみ残して血まみれに倒れている織田の頭に踵が当たった。
「鬼よ、鬼がみんなの身体を持っていったのよ!!」
 ガクガク震えながら絶叫する柳井。その隣では突然首の上から頭を無くし、大量に血を吹き上げながら倒れる遊佐がいた。
「せ、せんせい……」
 スプラッタ映画真っ青な猟奇現場に場違いなメロディが流れる。
 それは、柳井の携帯電話。
「切れ、携帯を切るんだ! えぇい、貸せッ!!」
 柳井の手から携帯を引ったくり切るが、先ほどとは違う曲と共にメールが着信された。
 そして、なんの操作もしていないのに勝手に開かれるメール。そこには、
『影寄こせ』
「きゃぁ」
 小さい悲鳴と共に、柳井は崩れるように倒れ込んだ。
 その身からは、本来あり得るはずの影が消えていた。
「何なんだよ、コレ!?」
 訳の分からない状況に叫ぶ俺の元に――
 解約して掛かるはずのない携帯電話に電話が掛かってきた。
 意を決してそれに出ると、俺は叫んだ。
「身体を返せ! 鬼にそれはやれないんだから!!」
 携帯越しに感じるしばしの沈黙。
 そして、突然若い少女――遊佐の声で返事がきた。
『これは返す。だから、貴様の身体を寄こせ――――』
 俺は強い衝撃を全身に受け意識を失った。
「ぅ……ん」
 目を覚ませば既に赤い空は闇に変わっていた
「何だったんだよ……あれは?」
 気怠そうに身を起こす。いまいち調子が出ない。
「みんなは……」
 一緒に来た少女達の事を思いだし周りを見渡せば、暗い中、木の向こうに倒れている頭らしきモノが見えた。
 目を懲らそうとすればタイミング良く雲が切れ、月明かりが天から射し込む。
「おい、大丈夫か――!」
 明るく照らし出された先を見ては絶句。
 そこにあったのは確かに人間の『頭』。
 でも、それだけ。
 血まみれのソレの下には何も無かった。あるのは血溜まりの中に鎮座する一つの頭。
 奥歯をガタガタ鳴らしながら腰を下ろしたまま後ずされば、指先に触れたのは一本の腕。
 周りにはバラバラに千切られた肢体が多数転がる。

『合わない……この身体も合わない……
 喰うべ、魂喰うべ……身体の代わりに娘たちの魂喰うべ…………』

 聞こえてきた怨嗟の声から逃げるように、俺はその場から駆けだした。

「何なんだよ……さっきのは? それに、みんな鬼に喰われたのか!?」
 階段の下の鳥居に手を付きながら零す。
 確かめる――
 本当ならそうすべきだけど、さすがに一人でそれをする勇気が持てなかった。
 誰か、誰かの助けが欲しい。
 そんな想いが通じたのか、一台の車が麓の方から走ってきた。
「おーい、おーい。止まってくれ!」
 道の真ん中に出て手を振って車を停めた。
「何のようだ、お前?」
 一人の若い男が降りて来た。
「た、助けてくれ! 鬼が、鬼が出たんだよ!!」
「鬼が?」
 胡散臭そうにこちらを見る男の手を引いて、俺は神社へと駆け戻った。
「ここでみんなが鬼に襲われたんだ」
「どこで誰が何に襲われたって? 何も無いじゃないか」
 暗い中、男の言葉に辺りを見渡せば何も無かった。
「な、な、何で無いんだよ!? 何だったんだよ、あれは?」
 半狂乱に叫ぶ俺の耳に男の冷たい言葉が届いてきた。
「それより、お前って露出狂の痴女?」
「え?」
 それは虚を突かれた質問。
 痴女? 俺が痴女? 女!?
「だってお前、裸で男をこんなとこ誘って、やりたいんだろ?」
 何言ってるんだ、こいつ?
 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて言う男の言葉が解らない。
 男の視線から逃げるように後ずされば、すぐさま腕を掴まれ、御神木の一つに押し付けられた。
「ちょ、ちょっと待て。俺は男だぞ!」
「男? どこが? そんな可愛い顔して、どこが男なんだ? それに胸もあるし」
「え?」
 いきなり男は俺の有るはずない胸を掴んできた。
「痛い、痛い、痛い!」
 あり得ない痛みに逃げようとするが、男の力は強く外れない。
「おっと、悪かったな。いま優しくしてやるからよ」
 そう言うと手から力を抜く男。でも、胸を揉むのは止めようとしない。
 解らない状況に俺の心は止まり、身体が勝手に男の愛撫に反応し始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 零れ落ちる吐息。
「乳首が立ってきたな」
 身体は更に熱くなり、男の言葉がハッキリとは聞こえない。
 まるで熱で魘されている様な感じだ。今にも溶け出しそうになる身体の状態に、意識が保てない。
 俺は一体どうなってるんだ?
 自問してみても答えは無く、ただ奮えるような快感が胸から全身に浸透してくる。
 尖っていく乳首を内側から感じ、股間が濡れていくのを知る。
「そろそろ頃合いはどうかな?」
 男は胸から手を離すと、俺の体勢を換えてきた。
 下を向かせ、御神木に手を付けさせ、俺の尻を立てる。
 何をしようとしているのかは解る。
 でも、それ以上に、地面に向かって真っ直ぐ垂れる胸の存在に、俺の心はグチャグチャだった。
 普通の男ではあり得ない胸で感じる重力。それを意識した途端、身体は一層熱くなる。
「ひぃん!?」
 突然の股間からの快感。
「綺麗だと思ったらお前、処女だったんだ。痴女だからやりまくってると思ったが、これはラッキーだな」
「しょ……じょ…………」
 その言葉の意味することを理解するには、俺は未だ自分状況が解っていなかった。
「少し痛いかも知れないけど、我慢しろよ」
 背後から何かが股間に当たり、無理矢理めり込んでくる。
「――――!!」
 身体の芯を裂かんばかりの激痛に言葉を失う。
 逃げようとしても、後ろから腰を押さえつけられ逃げることが出来ない。
 目から流れ落ちる涙。少しでも痛みに耐えようと御神木を掴む手に力が入る。
「お、お。さすがに締まりが強いな」
 男の弾んだ声がやけに心に障る。
「もう少し耐えろよ。それがお前が女になる儀式なんだからな」
 女になる? 誰が? 俺が? 何故?
 痛みに思考がまとまらない中、いくつもの疑問が浮かんでは消える。
 どうして、俺が女なんだ?
 嫌だ。痛いのは嫌だ。逃げたい。こんな痛いのからは逃げ出したい。
 逃げろ。逃げるんだ。今すぐ逃げろ。こんな痛みから逃げるためだ。
 だから、感じろ。感じるんだ。女の快感を。もっと。もっと深く。深く感じるんだ。心の底から感じ取るんだ……
「ぁん。はぁん。ああん」
 痛みはいつしか消え、女としてのスイッチが入った身体は、貪欲に快感を欲した。
 腰を振り、男のソレを身体の奥へと誘う。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「そろそろ行くぞ!」
「いい、いい、いく、いく、いく――――!!!」
 下半身が浮かび上がったかの様な一突きを受け、俺の心は真っ白に染まった。
 ヌルリと男の分身が抜けるのを感じ、意識が少しだけ戻った。
「処女のクセしてさすがは痴女だ。淫乱だな」
 感心したような男の呟きを無視し、俺の腕は勝手に胸を襲い、股間を犯していた。
「はぁ、はぁぐ、ぁン……」
「もう少し楽しませて貰うかな――ん? カメラ付き携帯?」
 男はそれを拾い上げて、俺に向かってシャッターを切った。
「ほら見ろ。いい顔でよがってるぞ」
 朦朧としながらも見た携帯の液晶に、手の動きが止まった。
 そこに写し出された顔は紛れもなく――
「…………遊佐?」
 塾での俺の教え子の少女の顔だった。
 遊佐? 俺の顔が遊佐!?
 じゃあ、この身体って――鬼が奪って俺に返されたあいつらの身体を繋ぎ合わせたモノだって言うのか!?
 浮かんだ考えに心が一気に覚醒する。
 そうか。そう言うことだったのか。
 鬼は最後に俺の身体を奪う代わりに、既に奪っていた彼女たちの身体を俺に返してきた。
 そして、肉体を失い彷徨っていた彼女たちの魂を鬼は喰ったのだ。

 ゴメン。

 涙が頬を伝う。

 俺が悪い訳じゃない。
 誘ったのは彼女たち。安易なお遊びが招いた自業自得の死でしかなく、誘われた俺は言ってみれば被害者でしかない。
 でも、彼女たちが死んで自分だけがこの巫山戯た身体で生き残ってることに不甲斐なさを感じる。
 だからこそこ、行きずりの男にこれ以上彼女たちの身体が嬲られるのが許せなかった。
 もう一度俺の――桜野のだった股間に勃起したペニスを刺してこようとする男を避けるように御神木に回り込む。
「おい、おい。自分が堪能したらもう終わりか? まだまだ楽しませてくれよな」
 いやらしい笑みを浮かべ近付いてくる。腕を取られ、そのまま男の元へと引っ張り寄せられる。
 力では勝てず、男の空いた手は織田のだった胸を揉み、無理矢理遊佐のだった唇に自分の口を併せてきた。
 固く閉ざし拒むつもりが、胸からの快感に耐えきれず半開きに開いた口の中に男の舌が進入してきた。
 貪るように絡めてくる舌。
 甦った理性が再び消えようとする。
「そうそう、そうやって大人しくしてくれよな」
 地面に押し倒され上にまぐわって来る。
 月明かりが映す影は、犯される柳井のだった影。
 既に逃げ場を失ったこの身体は、男の一方的な愛撫に反応していく。
 何か無いのか?
 伸ばした手に硬いモノが触れた。
 それは一台の携帯。
 咄嗟にそれを手に取り、上にいる男の顔へとレンズを向け――一枚の写真を撮った。
「鬼よ。この身体をくれてやる」
 社の方に携帯を投げ捨てる。
『頭を寄こせ』
「何だ!?」
 突然の嗄れた声に腰を突き立ててきた男の動きが止まった。
「おい、今何をしたんだ!?」
「頭が欲しければ持っていけ!」
 男を無視して叫べば、

 ぶちり。

 力強い何かで引きちぎったような音共に、鮮血の雨が俺に降り注いできた。
 それは首を持っていかれた男の血。
「あっはっはっはっはっは…………」
 全身に血を浴びながら俺は狂ったように笑っていた。
 何がおかしいわけでもない。
 何がたのしいわけでもない。
 ただ、嬉しくて、悲しくて、切なくて、愛おしくて――
「やった、やったんだ。助かったんだよ。遊佐、桜野、織田、柳井。みんなの身体は俺が守ったんだよ」
 血まみれの手で胸を股間を犯しながら、俺は恍惚と笑い続けていた。
 いつまでも。
 そう、いつまでも。
 逝った少女達を想いながら、深夜の神社の中央で壊れたように嬌声を上げて……


 −お終い−


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