西暦二千七十七年。民営化された警察は性犯罪者の増加に伴い、新たな法案を国会へ提出した。
それは近代刑法を仰天させるような、非常にぶっ飛んだ内容だった。
題して、

『性犯罪者に対し、性転換を課す刑罰の骨子』

この法案は立法と司法の有識者による立案で、それを政治家が三日三晩、
料亭で芸者をあげながらどんちゃん騒ぎをしつつ、まとめたものだという。
いわば特措法に近いのだが(どこが!)、居眠り国会といわれている衆議院を難なくクリアし、早々と法定化と相成った。
ちなみにこの時代、参議院は廃止されている。
平成のお笑い宰相、鯉墨内閣の時、あまり役に立たなかったので、要らないという話になったのだ。

「おい、怒髪天実。出ろ」
刑務官が鉄格子の鍵を開けると、連続婦女足舐め露出魔で名の知れた犯罪者が、のっそりと身を起こした。
怒髪天実(どはつてん・みのる)、二十五歳。
極度の足フェチの上、己の下半身を異性に見せたがるという、困った性癖の持ち主である。
「釈放ですか」
「そうだ。特赦ってやつだ」
刑務官は咳払いをひとつして、実を別室へ連れて行った。
「身体検査をやるから、服を脱げ」
「はい」
実は縞模様の受刑服を脱いだ。すると、細い体に不似合いなほど実った乳房が、刑務官の前でぷるんと揺れた。
次いで実はズボンも脱ぎ、一気に生まれたままの姿となる。
だが、逮捕時は青年だった彼の股間には男性のシンボルはなく、代わりに女性自身があった。

「脱ぎました」
「うむ・・・本当に女になってるんだな。いや、これは刑務官としてはあるまじき好奇心なんだが・・・どうだ、女になった感想は」
「まあ、別に・・・ただ、チンポコがないせいか、女が欲しくなりませんね」
「そうか。じゃあ一応、あの法律は意味があったといえるな」
刑務官は身体検査を終えると、実に真新しい服を与えた。
この冬、フリースのスウェットを一枚、五十円にまで値下げした、某ユニクロ社の製品だった。

「しばらくは精神的な面でケアが必要だろうから、カウンセリングを定期的に受けるんだぞ」
「はい、分かってます」
実は不慣れな手つきでブラジャーを着けた。
そしてパンティに足を通し、スウェットとジーパンを身に着けると、急に娑婆へ近づいたような気がして、落ち着かなくなってくる。
「それじゃあ、怒髪天実。性転換の刑罰を受けたために、特に刑を赦される事となった。しっかり更生してくれよ」
「はい。ありがとうございます」
実はぺこりと頭を下げ、刑務官の前から立ち去っていった。


「久しぶりの娑婆だな。シャバダバ、シャバダバ・・・」
刑務所を出た実は、大きく深呼吸をしてみる。
壁一枚の差しかないが、塀の中の空気は澱んでいた。それをあらためて確かめると、
「やっぱり外の世界はいいな」
と、微笑むのであった。

実を言うと彼、いや彼女は、件の性転換刑を初めて受けた受刑者である。
この刑は逆転の発想で、異性に悪さをしたくてたまらないのであれば、いっそ異性になりなされという、無茶な考えから作られた物だ。
それ故、人権侵害も甚だしいと世間では言われたが、再犯を防ぐには最も効果的だという意見も多く、
ノーマルな性癖を持つ人々に支持されたのである。
まあ、薬品を使って性欲を減退させる更正法が以前からあった事を考えれば、
DNAレベルから性転換を行うこのやり方も、決して悪いとは言い難かった。

「とりあえず、どこへ行こうかな。昔の友達でも訪ねてみるか」
実はまず、友人に電話してみた。お金も無く行くあてもないので、誰かの助けが必要なのだ。
「あ、俺、実だけど。元気してたか? ああ、ちょっと会えないか」
久しぶりに友人と話していると、不意に涙にむせた。
塀の中にいる間は、こういう触れ合いが無かったので、何だか嬉しくなったのである。
しかも友人は、刑に服した彼を蔑視するでもなく、すぐに迎えに行くと言ってくれたので、実は思わず落涙してしまった。
電話を切り友人を待つ間、実は何を話そうかと心の中で、ずっと考えるのであった。

電話をしてから三十分後、昔馴染みの芋田猛がやって来た。
猛は実の大学時代の友人で、よく酒の杯を交わした仲である。
「実、おーい、実!」
「ああ、猛か。わざわざ迎えに来てくれて、すまないな」
猛はスーツを着込み、いかにも仕事中といった感じの出で立ちだった。
にも関わらず、彼は来てくれたのである。そう思うと、実は胸が詰まるような思いがした。

「あ、あんまり変わってないな! 安心したよ!」
胸が膨らみ、体も丸みを帯びた友人を見て、猛がそんな事を言うと、
「無理するなよ。どうみたって、別人じゃないか」
と実は笑って、無骨で気の良い友人を思いやった。

「ハハハ! 実を言うと、お前って分からなかったんだ。すまない」
「いいよ、いいよ。それより猛、仕事の方は?」
「半休取ったから気にすんな。俺ごときが居なくても、会社は屁とも思わんとよ。だから俺、課長の前ですかしっぺこいてきた。ハハハ!」
「くだらない! アハハ!」
久しぶりの再会で不安はあったが、猛の態度に実は安堵を覚えた。
そうだ、昔からこういう奴だったと、妙に懐かしさすら感じる。
自分は良い友人を持ったと、実はつくづく思うのであった。
「行くあてないんだろ? だったら、しばらくは俺のアパートに住めばいいさ」
「悪いな。すぐに仕事、見つけるからさ」
「俺とお前の仲じゃないか。遠慮は無用さ」
猛が運転する車の中で、実はシートに深く身を埋めながら、とりあえずの生活には困らずにすんだと胸をなでおろす。
出所時に持たされる金は僅かで、もしこの友人がいなければ、二、三日も経てばすぐに困窮してしまう所だった。

アパートに着くと猛が酒を持ち出してきて、実の出所を祝ってくれた。
こういう所も、学生時代からまったく変わっていない。
「しかし刑罰とは言え、性転換とはいささかいき過ぎじゃないか? いよいよこの国の雲行き、怪しくなってきたな」
「そうだな。でも、おかげで女に興味は無くなったよ」
今の実には女の生理もちゃんとあり、心情としては完全な女性といって良い。
ただ、戸籍が男のままなだけである。

「性転換って、どうやるんだ? 聞いた話じゃ、DNAからいじるらしいが」
「俺の場合、眠らされて培養液の入ったカプセルに放り込まれたみたいだ。
そこでDNAを書き換えるプログラムが仕込まれるのさ。目が覚めたら、あら不思議。女でございという訳さ」
「ふうん。体に悪くないのかな」
「今のテクノロジーなら、何の問題も無いってさ。まあ、俺にとっては、ここからが苦難の道でな・・・」
実は三杯目の酒を干してから、遠い目をした。
「苦難の道って?」
「考えてみろ。俺は女になってからもム所の中にいたんだぜ。戸籍上が男だから、女の刑務所には入れなかったんだ」
「という事は・・・」
「ダッチワイフだよ」
実は自虐的に笑い、たっぷりと実った乳房を自らの手で揉み始めた。

「外国でも、ニューハーフが刑務所に入れば・・・ってな話は聞いたけどな。まさか、自分がそうなるとは思わなかったぜ」
酔いにまかせ、刑務所内での自分を語りだす実。それはまさに、性転換刑を科された受刑者の、過酷な運命であった。
「刑の副作用的なもんだろうが、女になった性犯罪者が刑務所内でどんな目に遭わされるかは想像がつくだろう?
今度は自分が被害者になるのさ。大勢の男たちに、幾度も幾度も犯され、嬲られ尽くすんだ。
これを味わうともう、女になんか興味が無くなるぜ。その代わり・・・」
実は猛の傍へ寄り、倒れるようにしなだれかかった。

「・・・男が好きになるよ」
「実・・・」
猛は眉をひそませ、実の体に手を触れてみる。
するとどうだろう、共に大学時代を過ごした青年の面影は失せ、今は華奢な少女のようになっているではないか。
この体で男ばかりの刑務所内に居たのか、そう思うと、実を以前の友人の様には扱えないと、猛は思った。
「俺が哀れだと思ったら、抱いてくれ」
「いいのか?」
「ああ」
猛はそっと実の体を起こすと、着ている物を脱がしにかかった。
真新しい服はすっかり女性化した実の甘い体臭を吸い、何ともいえぬ良い香りがする。

「荒々しくしてくれると・・・嬉しい」
「それも女になってから、目覚めたのか?」
「・・・うん」
かつての友人に色っぽく請われ、猛は女体化した実の体を押し倒した。そして自分も衣服を脱ぎ、激しく屹立した肉棒を扱き出す。

「これを何本、しゃぶったんだ? 実」
「・・・分からない。数えてないもの」
スウェットを剥かれ、ジーパンも脱がされた実はいやらしい質問に対して、顔を横に向けて答えた。
きっと、こういう反応も荒淫が続く日々の中で覚えたに違いない。
そう思うと、猛の心は昂ぶった。
「咥えろよ」
ぐい、っと肉棒を鼻先に突きつけられると、実は黙ってそれを唇で包み込んだ。
むっと性臭が鼻をつくが、女性化した今の実は、この臭いが好きになっている。
「上手いな、さすがに。この手の風俗に行けば、すぐにナンバーワンになれるかもな」
ツボを心得た実の口唇愛撫に、猛はご満悦という様子だった。
自らをダッチワイフと蔑む実ゆえ、娼婦扱いだって気にしない。

「もし良かったら、俺・・・いや私、風俗で働いてもいいけどな。そうしたら猛、ここに一緒に住んでいい?」
「ああいいぜ。そのかわり、たんまり稼いでくれよ」
「うん、ありがとう。私、頑張るから」
そう言うと実は肉棒の先に、チュッと愛しげなキスを捧げた。
これで住まいも決まったし、おぼろげながら将来のビジョンが見えてきた。
まだ二十五歳、しばらく風俗で働いてもやり直しは十分にきく。

「おい、パンティ脱いでケツを上げてくれ。俺のイチモツ、ぶち込んでやる」
「待ってました」
下着を取った実が四つん這いになると、すぐさま猛が中へ入ってきた。
これを味わうと、実はあっという間に上り詰めて行きそうになる。
「ああ・・・チンポ大好き。猛のこれ、大きくてゴツくて最高」
「そうか。だったら、存分に味わいな」
猛は緩やかなカーブを描く腰を掴み、激しい抽送を開始した。
こうして、実は社会復帰を果たすと同時に、女性として人生をやり直す事と相成ったのである。

おしまい


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