「くそっ! まだ誰かがSS投下してスレの流れを戻そうとしてやがる。仕方がねぇな、また煽らねぇと」
薄暗い部屋の中、一人の男がパソコンに向かいブツブツと独り言を言っていた。
彼の名・・・本名はあるのだが、ここでは仮に「根蔵新斗:ねくら・にいと」としておこう。
もう30歳に近い独身の彼は、現在仕事もせずに親のスネをかじり続ける生活をしていた。
「(一時間もたたないうちに乙レス2件ねぇ・・・ ふーん・・・)と、これでよし。
あとでまたいつもの【荒らしへの対処について】コピペでageて目立たせるとするか。
タイミングとしてはもう3,4レスついてからだな」
最近は外出することもめっきり減り、一日中パソコンに向かっていることが多くなった彼。
昔はエロゲーとエロマンガ雑誌を買う時だけは外出していたのだが、
最近では通信販売の利便性も上がり、彼の引きこもりをより助長させていた。
そんな彼の最近の一番の楽しみはインターネット上のとある複合掲示板への書き込みであった。
そのアダルトジャンル内にある「強制女性化小説ない?」というスレッドを彼がチェックしない日はない。
どんなに間を空けても半日が良いところで、これが人間相手なら確実にストーカーである。
実際彼はこのスレッドにおいて”粘着”として認識されていたのだが、
住人を困らせることに何よりの喜びを見出していた彼には、そんな評価はどうでもよかった。
「ケケケケケ・・・・これでもまだ正常化するようなら、また自作自薦を匂わせる話題を出して、また”ふいんき”を悪くしてやるぜ」
母親をコンビニに行かせて買わせてきたペットボトルのジュースを飲みながら、
根蔵新斗はカーテンを締め切った薄暗い部屋で不気味な笑いを浮かべていた。

その日の昼、根蔵新斗は不機嫌だった。
母親にバイトでも良いから働かないかと言われた事が原因だ。
そんな話題を出されること自体が、彼には苦痛なのである。
「ボクだってがんばってるんだよぉ!」と半泣きで叫んで無理矢理話から逃げ、さきほど部屋に戻ってきたばかりだ。
当然鍵をかけることは忘れない。
「ふ、ふざけやがって! ふざけやがって!ボクだって本気を出せばすごいんだ! それをあの親も世の中のみんなも、なんにもわかっていない!」
暗い部屋で新斗はブツブツと俯いたまま独り言を言う。
しかしその後、彼は突然飛びかかるように机に座り、パソコンの前に座った。
彼のパソコンの電源は24時間入れたままである。
操作をしていない時は自動検索ツールでネット上にあるエロ画像を無作為にダウンロードするようにしてあるからだ。
「そうだ、こういう時こそ、あのスレッドを荒してボクの実力をわからせてやるんだ」
不気味に笑いながら、彼はIEのアイコンをクリックし、
お気に入りの一番上に登録してある「強制女性化小説ない?Part17」へのショートカットを選択する。
するとすぐに複合掲示板の該当スレッドが画面に表示された。
「どれどれ。くそっ!、無難な話題でレスを流そうとしてやがるな!
でもこれぐらいならさっきの話題を蒸し返せばいいかな・・・・ウケケケケ、苦しめ!
そーれ(やれやれ、また賞賛のレス時間が集中してますね ・・・誰とは言わないけど)っと」
新斗は不気味な笑い声を上げながら”書き込み”のボタンをクリックした。
「ケッケッケ、ボクの力を思い知れ! 何度でも荒してやる! 何度でも! 何度でも!」
可笑しくてたまらんというように口を押さえて、目を細めてモニターを見る新斗。
そしていつも通り、レスが来るのを更新ボタンを定期的に押しながら待ち続けた。
彼にとってはもはや日常であるこの行動。
しかしその日常が今日を持って終わりをつげようなどと、彼には予想もできなかっただろう。
怒りを貯めたスレ住人、そんな怒りに沸く彼等の中に、ある集団がいた。
その集団を敵に回したことが、彼にとっての大きな誤算になったのである。
あくる日の夜、突然彼の部屋の扉が開けられた。
入って来たのは黒ずくめのスーツを来た二人の巨漢。
両親以外は誰一人に対して強気に出られない新斗は、なすがままに二人の男に車に乗せられ連れ去られた。
その時、彼を見送っていた両親が実に嬉しそうな顔をしていたため、
周囲にはこの男達の行為ことを不審に思う者は誰一人居なかったという。
ちなみに鍵がかかっていた新斗の部屋、その鍵を二人の男に差し出したのは、まぎれもないこの彼の両親であった。
目隠しされたまま1時間ほどして、新斗は後ろから尻を蹴り飛ばされて無様に顔から地面に落ちた。
そして鼻血を出した状態で目隠しを取られる。
そこはドアもなにもない真っ白な円形の部屋。
そして部屋の外周には彼をとり囲むように数人の男女が豪奢な椅子に座っており、まるで新斗を見世物にしているかのようであった。
そして彼の正面、一段高い場所の椅子にいるのは他のメンバーとは雰囲気が違うボンテージを来た長身の女だった。
「お前がクズの中のクズ、根蔵新斗か」
女が立ち上がり、高圧的に新斗を見下ろす。その手には鞭を持っており、彼はその姿を見るだけで脅えて騒ぎ出した。
「な、なんだよお前! 誰なんだよ! ボクをこんなところに連れて来て・・・・帰せよぉ帰せって言って・・・・ブギャッ!!」
騒ぐ新斗に女は無言で平手打ちを食らわせた。新斗はその場で泣き叫び、打たれた頬をさする。
「なにするんだよぉ〜! ぼ、ボクが何をしたって言うんだよぉぉ〜!!」
「うるさい、だまれ」
冷たい視線で女が新斗に命令する。すると新斗は途端に泣き止んだ。
いや、泣き止んだのではない。彼は口をぱくぱくさせて涙を流しているのだが、まるで声を出せなくなっているのだ。
「我々は貴様の罪を糾弾するために貴様をここに呼び寄せた。
お前は自分の犯した行為が大罪だと知りながら、その薄汚い根暗な心の糧としてそれを続けた。情状酌量の余地はまったく無い」
「・・・・・・! (ボクが何をしたって言うんだよ!)」
言葉を発しようとしたが、やはり彼は喋ることができなかった。
だが、目の前の女は彼の言葉をまるで理解しているかのように答えた。
「何を? お前が毎晩毎日毎週毎月やっていることを”何を?”だと? このブタが!」
女は怒り、新斗の顔を思いきり蹴り上げた。ブヒィ!と本当にブタのような悲鳴を上げて仰け反る新斗。
「ぶ、ぶひ! ぶひ!・・・・・ぶひぶひ!? ぶひ!?」
蹴られた新斗が床でのたうつ。しかし彼は自身の言葉に驚いた。
ぶたの鳴き声以外に彼は喋ることができなくなってしまっていたのだ。
「ぶぶ、ぶひー!(な、なんだよこれぇ〜!)」
「ブタにはブタの声がお似合いだ。もっともそれはブタに失礼だろうがな」
「ぶひ、ぶひひい!ぶひひっひ!(お前なんなんだよぉ〜! なんでこんなことができるんだよぉ〜!!)」
「馬鹿が、まだわからんのか? 我々が”ノウブル”だということが!!」
「ぶひひひぃぃぃー!!」
新斗はその言葉に飛び上がらんほどに驚いた。無様に鼻水と涎を流しながら、その場でガクガクと震え出す。
「(ば、ばかな! ノウブルなんてスレッド内の作り話だろぉ! なんでボクの目の前にいるんだよぉ〜!)」
「お前はこのスレ住人を、我々を敵に回したのだ。よって我々は貴様を弾劾する」
「弾劾する!」
周囲の男女・・・ノウブル達が一斉に叫んだ。
ただですら小心者なのに、自分一人が集団に責められるという状況に新斗が耐えられるはずはなく、彼はその場で失禁しながら叫んだ。
「ぶひひん! ぶひひひーん!(な、なにをするんだよぉ! やめろよぉ!)」
「何を? 無粋だな・・・ここでの制裁行為と言えば、決まっているだろう?」
「ぶひひっ! ぶひひっ!(やめろぉ!)」
女が新斗を睨み付ける。すると新斗はのたうちまわって苦しみ出した。
ごりっ、ごきっと彼の身体から奇妙な音がする。それは体を改造されている音だった。
そして音が止まると新斗はその場に倒れた。全てが終わったのだ。
動かぬ新斗に対して軽く指を弾くような動作をするノウブルの女、同時に新斗の服が瞬時に引き裂かれ、裸となった。
そこには新斗はいなかった。いや、元々新斗であった者、一人の女が床に寝ているだけであった。
その変わり果てた新斗に女の容赦のない鞭が襲いかかる。
「ぶひぃ!」
衝撃で叫び、目をさます新斗。
だが声は先ほどの嫌味で音程の外れたどもりのある男の声ではなく、女のそれになっていた。
「ぶひいぃぃ! ぶひいぃぃ!(ボクの、ボクの体がああぁぁ!!)」
「ふん、感謝して欲しいものだな。
あれだけ無様で見るに耐えない貴様のどうしようもないオタク毒男の代表のような体を、見れるものにしてやっただけでもな!
もっとも、これから貴様に起ることを考えれば、ほんの一時の幸運なのだがな・・・・」
ボンテージを来た女は残酷な笑みを浮かべ、新斗を嘲笑する。
そして横の壁際に座っている一人の男を一瞥すると、その男は頷き指を鳴らした。
すると新斗のまわりに透明な壁が迫り上がり、新斗を閉じ込める。
「さあ、裁きの始まりだ」
ガラスの檻の中で脅える新斗。すると突然地面の一部が開き、奥に続く階段のようなものが現れた。
しかも中から、なにか地鳴りのような、何者かが登ってくる音がする。
「(な、なんだよこれぇ〜)」
あとずさり脅える新斗。そしていよいよ飛び出した複数の物体に新斗は絶句する。
それは男の新斗の顔を持つ豚であった。
臭い息、剃り残した髭、ぼさぼさでフケのついてる油ぎった髪、にきびと脂ぎった肌、そして豚のくせに黒いフチの太い眼鏡をかけている。
だが、首より下はブタそのもので、唯一の差は性器だけ。そう、性器は明らかに普通のサイズを越えた巨大なものだったのだ。
「そいつらは今が発情期だ。そしてお前は全身から豚のフェロモンを出すように改良してあるから、お前はそいつらにとって雌豚にしか見えない。
さらにお前は雌豚として、そいつらの子どもを孕めるようにしておいたから、お前とそいつらは絶好のパートナーということさ」
ガラスの檻のむこうで、ボンテージのノウブルが笑う。だがその笑みは本心で笑ってはいない。
それが当然の報いだとばかりに彼女の笑いは皮肉めいたものを帯びていた。
そしてそれは、回りにいるノウブル全員がそうだった。
ぶひひ・・・ぶひひひ・・・
新斗の顔をしたブタが集まり、新斗を包囲する。もう逃れる事は不可能だ。
そして部屋に、雌豚の悲鳴が響き渡った・・・・。

数日後、町外れの農場を尋ねる一人の女性の姿があった。
「こ、これはノウブル様、ようこそいらっしゃいました!」
50歳ぐらいの農場の主は、娘ほどの年齢に見えるその女性に深く頭を下げる。
それはあの部屋でボンテージを着ていた、あの女だった。
「この前預けたウチのブタ子ちゃん、元気でやってるかしら?」
「は、はい! こちらでございます・・・・」
農場主は緊張しながら女性を奥の飼育棟に案内した。
そこは主に出産間際の家畜を飼うための建物である。その奥に豚の棟はあった。
「ふふっ、元気そうね」
「ぶひひぃっ!ぶひひひぃぃーん!」
そこにいたのは、娘の姿に変えられた新斗であった。しかしあの時と違い、その腹が大きく膨れている。
一目みて孕んでいることは明白であった。
そして今も、一匹の雄豚に圧し掛かられ、豚のあえぎを上げ悦んでいた。
「貴方は受精から出産まで10日ほどにしてあるから、おめでたももうすぐね。効率が良い豚だってここの主人も大喜びよ。
よかったわねブタ子ちゃん、あなたのような存在自体が害悪だったクズでも、社会の役に立つことができて・・・・って、もう聞えてなかしら?」
そこにいたのはもう人ではなく、一匹の豚だった。
そのことを確認した彼女は、一度だけ微笑んだ後、一度も振り返ることなく颯爽と建物を後にした。

(完)


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