「ぁん、やん……」
時折零れる上擦った声。快楽を求めて妖しげにもせわしく動く二本の腕。
一本は形の整った胸を歪めるように攻め、もう一本は指先に付いた染み出た粘りけもろとも秘所を軽く弄る。
くちゅ――
ねっとりした音が閉ざされた空間に響く中、
「――クスッ」
!?
上気した顔を驚きに歪め横を向けば、いつの間に入ってきたのか由宇がニタリ顔で立っていた。
その視線は、反射的に胸と股間を隠す腕を見下ろす。
「あれだけ嫌がっていたクセしてサカってるなんて、何だかんだ言って先輩も好きものね」
「ば、ばきゃろー!」
顔を真っ赤にして叫び返す。
「ただの知的好奇心だ、知・的・好・奇・心!」
「ふーん、知的好奇心ね〜」
眺め眇める瞳に本心を見抜かれそうに感じ、顔を伏せた。
「シャワーを浴びたら、余韻冷めやらぬ身体に再び火が付いたってトコか」
図星を言われ反射的に聞き返す。
「何故?」
「何故って、シャワーを使った形跡があるし……
あっ、先輩。あたしが先輩に紅茶や水を掛けた理由って解る?」
「そんなの知るかよ」
素っ気なく応える。
「だいたいの理由は先輩にその身体を感じさせる為」
『感じさせる』の一言に、驚きで冷め燻っていた火が少しずつ威力を増してきた。
無意識に悦びを求めて動きそうになる手を、理性をかき集めて押し留める。
「それ以外にも、お風呂に入るように仕向けるためだったのよね。
濡れた服はまとわりついて気持ちが悪い。だから脱ぐ。
そして新しい服に着替えようとした先輩だけど、身体がまだ濡れたままなのに気付き――シャワーを考える。
イったばかりの身体は敏感なままだからね。
過敏な肌がシャワーの一滴一滴に感じ、納まりかけていた快感が呼び起こされ――」
「…………」
「そして、見事なまでに策にはまってくれた先輩がそこにっと♪」
指さして楽しげに笑う。
「で、今度は何の用なんだ?」
身体に残る疼きを気にしながらも睨み上げる。
「ん〜、先輩のオナニ姿を見ていても面白いんだけど……外へ行こうかなって思ってね。
準備の方が終わったから誘いに来たの」
その一言に、悦楽を求めて濁っていた思考が完全に醒めた。
「外って、解放してくれるのか!?」
「あ、違う違う。リアルじゃなくてネットよ」
がっくり肩を落とした。
「今度は外で女の子を楽しんで貰おうと思ってるのよね♪」
悪びれもせず浮かべる笑顔に、酷く疲れた気がした。
仮想太陽の下、屋外を歩く二人。
部屋に出る前に由宇に無理矢理着させられた格好は、白い清楚なワンピースに同じ色のつば広の日よけ帽。
首元にはワンポイントの黒いリボンのチョーカーが飾られていた。
「なぁ、もう少し服装何とかならないのか?」
生足に履かれたパンプスに慣れないまでも転ばないようにしながら、先を行く由宇を呼び止めるように声を掛ける。
「ジーンズとかTシャツとかさ」
深窓のお嬢様的ファッションに対し、由宇の出で立ちは黒のノースリーブに黒のミニスカートにハイソックス、
同系色のスニーカーにキャップと言った全身黒尽くめの活溌そうな格好だった。
「えぇ、せっかく可愛い姿なんだから、おしゃれを楽しまないと損だよ、ユキ」
「ユキ?」
自分を指さして問う。
「最初に言ったでしょ。ここでの先輩はユキだって。だからこれからはユキだって呼ばせて貰うね。
あっ、それとあたしのことは舞島由宇じゃなくて、舞って呼んでね。知り合いにあったら恥ずかしいでしょ?」
艶っぽく横目を眇めて言う。
知り合いの一言に、一瞬身が竦んだ。
確かに、こんな姿を見られたら何を言われるか堪ったものじゃない。
「解った。舞って呼べば良いんだろ?」
「う……ん」
あっさり同意した割に、舞の顔が優れない。
「まだ何かあるのか?」
「それ」
「ん?」
「その言葉遣い」
口を指さして続ける舞。
「せっかく可愛いんだから、言語を矯正する用に女の子の言葉辞典を入れようと思うんだけど、いいかな?」
「勝手にしろ」
ぶっきらぼうに応える。
ここまでやられて、今更言葉遣いが変わろうが些細なことだ。
虚空から言語デバイスとフリーの言葉辞典を幾つか呼び出しながら、色々セッティングしていく舞。
「ただ、先輩の場合直接繋がってるからね。
下手にインストールすると脳の方にまで焼き込まれる心配があったんだけど――勝手に入れるね」
「まぁ、まて――――」
付け足された物騒な内容に慌てて止めるが、時既に遅く――
「うわぁ!?」
頭を貫く様に青白いスパークを受けた。
「無茶苦茶しますね。そのような物騒な事は先に言って下さいませ――うわぁ、本当に言葉遣いが変わってますわ」
発せられる言葉と思考言語とのズレにかなりの違和感を感じる。
「どうかな?」
「悪くはありませんね。意識を強く持てばコントロールも出来そうだしな」
意図的に一時だけ戻し、後は流れるままに口調を任せる。
「それでこれからどうなさるおつもりですの?」
「ん〜
女の子二人での散歩と言ったら、ウィンドウショッピングかな?」
その言葉通り、ネット中に作られた仮想現実の街並みの散策へと誘う舞。
舞の後ろをおっかなびっくりと歩く姿は、至る所からの視線を感じどんどん身が縮こまっていく。
気分は女装させられて街を歩いているようなモノだ。
「もっとシャキンとしなさいよ。
いい、ユキ! 女は見られて育つモノなのよ」
人差し指を立てながら女の生き様を説明する舞。
「そう言われましても、こう周りから見つめられては恥ずかしゅうて……」
「そんな恥ずかしがってうじうじ俯いていたら、性格まで暗い女になるわよ」
「きゃっ!」
背中を叩かれ、背筋を伸ばす。
「そうそう。胸を張って生きていかないとね。
見られてることを意識し、いつでも注目を集めるように生きる。それがいい女の条件よ」
「で、でも……
これはさすがに恥ずかしすぎますよ」
「なんなら、もっと過激な服装にしてみる?
今以上に視線を感じれば、あなたの中の何かが覚醒するかも知れないわよ?」
目一杯首を横に振って断った。
「そう? 扇情的で男を誘うユキってのも面白そうだったんだけど……」
「今のままでいいですから、先を急ぎましょ」
慌てて話題を変え、舞の手を取り駆け出す。
ぽぉ〜――
「ユキ?」
振り返れば、ウィンドウに飾られてる振り袖を興味深げに眺めてた。
「何? 着てみたいの?」
近付いてニタリ顔で問う舞。
「別にそぎゃんコト、考えておりませんどすえ」
顔面真っ赤にして否定する。その口調は乱れまくっていた。
「そぎゃんってね」
あまりの言葉遣いに苦笑する。
「フリーの辞書を複数入れたのは間違いだったかな?」
「みたいですね。感情が高まると言葉が乱れますわ」
努めて冷静に受け応えるが、
「ふ〜ん。感情の高ぶり――ね♪ やっぱり振り袖に興味があるんじゃない」
「な、何故にそげんこと仰られるでござるか!?」
「その言葉の乱れが理由よ」
眇め、ニヤリと笑う。
「直そうかと思ったけど、丁度いいわ。言葉の乱れを感情の判断基準にさせて貰うから」
「そ、そんなんかんにんや」
「はいはい、かんにんでも何でも良いから。興味を持ったら即実行よ♪」
強引に背中を押して店へと連れ込む。
「ここで脱ぐんですか?」
連れてこられたのは店内の奥。周りには舞以外にも店員が一人いた。
「着物は一人じゃ着付けられないんだから、店員さんの前で脱ぐのは当たり前よ」
「で、でも……」
「でもじゃない。嫌ならあたしが脱がせてあげるわよ」
深く溜息をついて、渋々ワンピースを脱ぐ。
「お客様。下着も外して下さいませ」
「えっ?」
困ったように舞を見れば、
「下着を付けたままだとラインが出るのよ」
「うぅ……」
目尻に涙を浮かべながら、ブラジャーを外しショーツを脱ぐ。
一糸まとわぬ姿になれば、二人に見られてることを意識して白い肌が朱に染まる。
半分自棄で目を閉じ、なすがままに着せられていくユキ。固く締められる帯によって腹と胸に圧迫感を覚えた頃――
「はい、終わりましたよ」
店員の終わりの合図と共に瞼を開けた。
「ほぇ……」
鏡の中は華やか且つ雅な女性がいた。
これでもし、髪の毛も結っていたら凛とした雰囲気が加わった大和撫子にでもなっていただろう。
鏡の前で少し動いてみれば、ワンピースとは違いかなりの違和感を感じる。
「似合ってるわね♪ それに、仕草が女らしくなってきたかな」
たおやかに手を添えた頬が朱色に染まる。
動きにかなりの制約を課す着物。無理のないように動くため、自然と動作が優雅なものになっていた。
鏡に映る自分の着物姿を魅入るユキ。その表情は満更でもない。
そんなユキの背後に舞が回り込む。
「そうそう。ユキは知ってる?」
「何をです?」
首だけを返してみれば、そこには楽しげに笑う舞の顔があった。
「女性用の着物の脇の下には穴が開いてるってコトよ♪」
「え――――ひゃん!?」
いきなり手を突っ込み、背後から胸をまさぐり始める。
熱い息を首筋に感じ足から力が抜けていく。腰を落としてもなお胸を攻め続ける舞。
「ちょ、ちょっと、止めてくださいませ――ぁはん、ぃや……」
裾が捲り上がり足が見え、着崩れした襟元から肩が露出する。
零れる吐息は熱を帯び、目尻に涙が浮かぶ。
「もっと感じて良いの――」
ゴッツン――
「痛い!」
痛みの走る頭を押さえて振り返れば、店員が静かに佇んでいた。
「お客様、お戯れは困ります」
やんわりとした笑みを浮かべているだけなのに、何故かとてつもない恐怖を感じ取る舞。
「ご、ごめんさない」
姿勢を正し素直に謝るその隣では、ユキは鏡に映った自らの艶姿を見ては慌てて目を反らし、
今の出来事を頭の中で反芻しては更にいっそう肌を赤くしていた。
その後も続く二人のウィンドウショッピング。
第三者の前で胸を揉まれたことで吹っ切れたのか、
それとも自棄になったのか――手当たり次第に店に入っては試着を繰り返す。
お嬢様風な清楚な装いもあれば、活溌そうな今時のファッション。際どいミニもあればシックなドレス。
何故かレオタードや水着があり、さらにはコスプレ系にも手を出しメイド服や巫女装束等も着込んでみたりもした。
「疲れた、ユキ?」
「舞さんが襲ってきましたからね」
着せ替えをすればその都度、何らかの悪戯をしてくる舞。
「でも良い写真を撮らせて貰ったわよ」
その手に、いつの間に撮ったのか多数の写真が現れた。そのどれもが、先ほどまでの着せ替えの写真だ。
「いつ撮っていたんですの!?」
「ん〜、面白そうだったからあたし達の周りに画像キャプチャーを仕込んでおいただけよ」
今現在の真正面からの絵が現れた。
「写真の方は後で編集して渡すね」
ピラピラと写真を振りながら続ける。
「それで、おしゃれはどうだった?」
「疲れはしましたが、楽しかったと思います。男性と違って服のバリエーションも多いので面白かったです」
「うんうん。おしゃれは女の子の特権だからね」
感心したように頷く舞。腕の時計を見て、
「もう少し楽しみたかったけど、これでユキ――先輩の拘束は終わりかな」
「え? 5分で1時間ならまだ全然経っていませんと思いますけど?」
数日は拘束されるものだと思っていたから拍子抜けだ。
「あれ? 気付いてなかったんだ。 ネットに出た時に時間圧縮を解除してるのよ。
隔離領域ならまだしも、公開領域じゃさすがに時間圧縮を掛けると周りとの時間にズレが生じるからね」
特殊な状況に押し込められていたため、言われるまで、周りと自分が同じ時間に生きてることに気付いていなかった。
「まだ数時間は遊べるけど、リアルの方もさすがにお腹が空いてると思うから、これで終わりよ」
「…………そうなんだ」
落胆色の呟きを聞き逃さなかった舞。悪戯っぽい笑みを浮かべた口を耳元へと近づけ、
「ユキの身体のデータは後で先輩の方にも送っておくから、『女の子』を楽しみたかったらいつでもどうぞ」
囁かれた内容に思わず跳び離れる。
「べ、べつにそんなこと――」
「はいはい。知的好奇心を満たすんじゃないの?」
「あ、うぅ……」
うなり声と共に全身を真っ赤に染め上げる。完全に心の内を見透かされていた。
「では、あたしが支配下に置いていたユキの権限をもど――」
ドッゴ!
目の前で突然倒れ込む舞。
「舞さ――――うっ」
自分も後頭部に衝撃を受けて崩れ落ちる。
朦朧とする意識が途切れる瞬間――空間が揺らぎ何もない所から人が出てくるのを見た気がした。
・
・
・
…………反応が……無い…………
…………さらった……にでもシステ……フリーズした…………ぐ復活すると思……さっさと犯っとけって…………
…………それもそ……どうせ反応し……て喚き散……だけだ…………さ…………
混濁した意識の遙か向こうで何かの囁き声が聞こえ――
ッ!?
激痛が股間から走る。
「ひぎぃ!?
痛い、痛い、痛い、痛い――」
覚醒し始めた意識が、痛みの一色に塗りつぶされる。
「なんだ、この女?
もしかして、バイブでも突っ込んでいたのか?」
「清楚そうな格好していた実は淫乱娘だったとか?」
「バイブ突っ込んでるなら、楽しませてやらないとな」
後ろから突き上げられる動きが一段と勢いを早め、
「痛い! 痛い! 止めて! お願いですから、止めて下さい!!」
それに呼応する形で痛みが増した。
涙に鼻水まで流しながら嗚咽する。そこに悦びはなく、あるのは訳解らない貫かれた痛みのみ。
何とか逃げようとするが、両の手は錆びた鉄製の階段に縛り付けられ、
後ろに突き出された腰は動かないようにがっちりと掴まえられていた。
「すげーぞ、こいつの絞まり具合! まるで処女みたいだな」
「処女がバイブなんて突っ込んで彷徨っているかよ。どうせ、がばがばの淫乱女がぶっといのを刺してるんだろうよ」
「いや、男がケツの穴にバイブ刺してるんじゃないのか? この間襲った中にそう言うのが混じっていたぞ」
「気持ち悪いこと言うなよ。せっかく見栄えは良いんだからさ」
「んなコトいいから、さっさと終わらせろよ。次は俺のば――――――どべっし!」
鈍い音を上げて見ていた男の一人が吹き飛んだ。
「なん――――うわぁっ!!」
振り返ったもう一人は、顔面から壁に打ち付けられた。
「誰だ!?」
襲っていた最後の一人が叫ぶ。
ただその腰はいまだ攻め続け、ユキの口からは既に言葉は無い。あまりの激痛に失神してるようだ。
「良くも、あたしの先輩を襲ってくれたわね! さっきは不意を喰らったけど、今度はそうはさせないんだから!!」
「――ぶべっ!」
ハイキックを顔面に受け、ユキの秘所から逸物を引き抜く形で吹き飛んだ。
そのままの殴る蹴るの一方的な暴行に、三人が三人、ログアウトで難を逃れようと
虚空にシステムウィンドウを呼び出したが、そこには《Lock》の文字が重なっていた。
「ログアウトなんてさせないわよ。
既にあんた達三人はあたしの支配下なんだから」
逃げ場を失った三人。反撃しようとするが身体が動かない。
パッチン!
舞が指を鳴らすと固まっていた三人の男達は宙に浮き上がり、壁を背に並んで腰を下ろした。
「どれだけ痛めつけたところで、フィードバック装置が無ければリアルには意味が無かったわね」
殴るだけ殴って気は落ち着いてるが、怒りはまだ納まらない。
触れてもいないのに三人のズボンは脱がされ、ペニスが顕わになる。
それを一瞥しては、嫌悪に眉を顰める舞。
「確か、ホール(疑似SEXの男性器専用フィードバック装置)は
付けていたようだけど――――あたしの許可無くユキを虐めた罰よ」
パッチン!
再度指を鳴らせば、
「な、なんだよ、コレ!?」
「おい、勝手にあそこが――」
「と、止めてくれよ!!」
見えない力が締め上げ始めた。通常の使用方法ではあり得ないまでの刺激に、
男達の先端から白い液体が勢いよく出る。それでもまだ伸縮運動は止まらない。
「あんた達のホールを支配させて貰ったわ。そんなにお盛んならそこでずっとイってなさい」
そう言い残して、腕の戒めを解いたユキを背中におぶさりながら路地裏から立ち去る舞。
ふと足を止め、
「あ、そうそう。丸一日はずっと動くように設定しておいたから、擦り剥きたくなければ早く誰かに見つけて貰うコトね」
思い出したようにそう付け加えた。
「どう? 落ち着いた?」
飲んでいた缶ジュースを見つめながらコクリと小さく頷く。
裏路地から助けられ、今は通りの中心にある噴水の縁に腰掛けていた。
それでも完全に立ち直れないのか、
「何なのよ、あの人達は……」
力無く呟いた。
少しだけ女の子の姿で歩くことに気持ちよさを感じていたらこの仕打ちだ。気分は一気に下降気味。
「非18禁エリアで暴行行為を働いてる変態よ」
嫌悪顕わに吐き捨てる舞。
「そのクセ、反撃を怖がってタイツ(装着型全身一体フィードバック装置)を着込まず、ホールなんて使うチキン。
あれって、装着部分のみに仮想体験を反映させるでしょ?
あいつらに取っては自分が楽しめればそれでいい――言ってみれば見た目がいいおかずになるお人形が欲しいだけのクズよ」
汚らわしいモノに触れたとばかりに悪態をつく。
「災難だったね。
普通なら、あの手の装置は互換性のあるモノじゃないと同調はしないようになってるから、
あたしや先輩が使ってるヘッドギアタイプ(脳波干渉型電脳ダイブ装置)じゃ同調はしないはずなんだけど……
先輩の作った人格投影システムのフィードバック率が高かったのが原因ね。
周囲の干渉情報を疑似感覚として全て脳にフィードバックしてくれるから、
装置の有無関係なく強引に犯された痛みまでユキに感じさせたのよ」
説明されるまでもなく、それは解っていた。
でも、解りたくもなかった。
いまだヒリヒリする股間の痺れ。まさか自分の開発したシステムでこんな目に合うとはは思いも寄らなかった。
ブルッ――
突然小さく震え、隣の舞にすり寄る。
「どうしたの?」
「べ、べつに……
ただ、男の人の視線が恐いだけだから」
ざっと見渡せば、通りを歩く人達の中から数人の視線を感じた。
「また、あんなコトされると思ったら恐くて」
「あっ」
顔を押さえ気まずそうに声を零す。少し考え、
「ちょっとついてきて」
腕を取り、通りの先へと引っ張る。
連れてこられたのは、妖しげなピンク色に覆われた一室。
「こ、ここって!?」
「ユキの思ってるとおり――ラブホテルよ」
正確には電脳世界における18禁エリアの隔離ルーム。
「何をするのですか?」
「ここでするコトと言ったら一つしかないでしょ♪」
艶っぽい笑みに、思わず後ずさる。
そんなことはお構いなく、言葉を続ける舞。
「このままユキ――先輩を解放すると男性恐怖症にもなりかねないからね。
別に、男嫌いになるぐらいなら問題ないんだけど……自分のあそこにまで嫌悪していたりしていたら、
すっこしばっかりやばいかなって思うの」
「…………」
指摘に何も返せない。
確かに、レイプしてきた男達と同じモノが自分にも付いていると考えると、限りなく鬱になる。
「そうなると、悪戯をしたあたしとしてはさすがに心苦しいしってコトで、先輩のトラウマを無くしてあげようかな――って」
一歩前へと出れば、一歩後ずさる。逃げ場を無くすように角へと追いやる舞だったが、最後の一歩で足が止まる。
「――と、このままだとただのレズになって、男性恐怖症は消えなかったわね」
ホッと胸を撫で下ろす暇も無く、
「先輩、男の好みってある?」
「あるわけないでしょ!」
反射的に叫び返す。
「では、こちらで選ぶね」
パッチン!
指を鳴らすと、舞の姿が揺らぎ男性のものへとモーフィングを始めた。
「こんなモノかな」
そこに現れたのは、ジーンズにシャツ姿の細身の背の高い何処にでもいそうな男性。
ただ、どこか本来の自分に似てる気がしたユキだった。もっともかなりこちらの方が美形だが……
「一応あたし――じゃなかった、俺の理想な男性像になるかな」
姿に合わせた口調に変える舞――舞島。身体の調子を確かめるように少し動かすと、
ズボンのポケットからタブレットを取りだし一つのカプセルを飲み込む。
「準備オッケイ♪」
止まっていた足を進めれば、
「ヒィッ」
壁を背に爪先だって逃げようとする。
「大丈夫、優しくするから」
そう言いつつも強引に腕を取り、自分の胸へと引きづり込む。
「きゃぁっ」
胸板に当たり小さく悲鳴を上げる。
反射的に上げた顔に舞島の口が重なってきた。
ねっとりと絡み付いてくる舌。濃厚なキスは、女同士の時と違い荒々しさが混ざっていた。
ユキの瞳から力が抜けてきた頃、
ハッと気付き――
「ば、ばかやろ。勝手に何するんだよ」
無理矢理引き離しては、口を拭ってそっぽを向く。
突然のキスに頭が真っ白になったのか、口調が男のそれに戻っていた。
「フッ。脳の回路がショートするような快感を味あわせてあげるよ」
クルリと背後に回り込むと、そこから胸を揉み始める。
視線の下で二つの膨らみは形を歪め、着込んでいるワンピースには指の動きに沿って皺が走る。
「や、やめろよ! だから、やめてろってば!」
「だーめ♪」
急所を攻められてるため力が出ず、叫ぶ声が上擦る。優しく、時には荒々しい力加減は、女の胸の弱点を心得ていた。
「ひぃん!」
いきなり同時に両の乳首を摘まれた。
尾てい骨まで一気に痺れが走り、足腰からは力が抜ける。
「お願いだから、やめてくれ」
ブルブルと小刻みに震え、涙に潤ませた瞳で懇願する。
「ここで止めたら、キミは一生男性恐怖症――自分のあそこにすら嫌悪するようになるんだぞ」
「そんなん、戻ってみなければ解らないだろ。男に戻れば何ともないかも知れないんだし」
「だけど、それはあくまで仮定だろ?
責任の一端を担ってる者としては、ちゃんとした形で戻したいんだよね。
下手して不能になっていたりしたらあたしも困るし……」
「え?」
続けた呟きに意識が向いた瞬間、腕を掴まれ背後へと回される。
「だから、キミがコレを受け入れられれば、トラウマは無くなったって俺も安心できるんだよ」
その手のひらにジーンズ越しの膨らみが触れられた。何なのか解り、
思わず手を引っ込めようとするが、掴まれた腕の束縛は強く動こうとしない。
狭い空間で形こそ定かではないが、それが張り切れんばかりに勃とうとしている男性器なのは、経験上体験していた。
「これから俺のこいつでユキ――キミの身体を貫く」
レイプされた時の痛みが思い出され、顔が青色に染まる。
「そんなに恐いなら、ユキもこいつを飲むといい」
「え?」
半開きの口に何かを入れられ、そのまま押さえ込まれた。
舌で触れれば、それが先ほど舞島自身が飲んだカプセルと同じモノだと解る。
ただし、それが何であるのか解らない以上飲み込むかどうか躊躇していれば、
次第に表面が溶け唾液に混じって喉の方へと流れ込んでいく。
ゴックン。
溶け始めてる以上、耐えたところで吸収は防げないと諦め、潔く飲み込んでみれば――
身体の芯が一気に熱くなってきた。
熱は中心から広まり末端の指先まで伝わる。身体全体が微熱に覆われた頃、
触れられてもいないのに胸からは揉まれていた時以上の快感が波打つ。
ワンピースの上からもくっきりと解る乳首の尖り。
「なんだよ、これ? 何を飲ませたんだよ!?」
「ドラッグウィルス♪ さっきの三人が持っていたから失敬してきたんだ」
それはヘッドギアのフィードバック率を高めより強く感じさせるためのウィルスであり、
主に疑似SEXを楽しむ輩が使ったりする電脳麻薬の一種。
「だから、俺のあそこもビンビンなんだよ」
ズボンのファスナーを降ろし、出されたそれは反りかえらんばかりに勃起していた。
舞島の男性器を目の前にしては、嫌だとばかりに首を横に振るユキ。
「そ、そんなの入らないってば。絶対に無理だよ」
「スカートにそんな染みを作って言っても、説得力なんて無いさ」
「え?」
注意が下へと向いた瞬間、身体を押されベットへと倒れ込む。
舞い上がったスカートをそのまま捲り上げる舞島。
濡れたショーツを剥ぎ取り、そっと指先で撫でる。
「――ぁん」
嬌声を上げ、シーツを握る。
「しっかり受け入れ態勢出来てるじゃないか」
「受け入れる?
俺が男を受け入れる!? 何を――」
バカな――と続けるはずの言葉は飲み込まれた。
何か熱いモノが股間に触れたのが解る。
「行くよ、ユキ」
同意求める前に、それはずぶりと入り込んでくる。
あり得ない。
あり得ることがあっていいはずがない現実だ。
先ほどのレイプでは痛みが先行しすぎてよく解っていなかったが、今はハッキリと感じ取っていた。
自分の中へと潜り込んでくる異物を。
それは酷く違和感を感じるモノ。
なのに、
何故か――
男としてはあり得ない器官がその進入に歓喜するように体の中で蠢く。
もっと、もっと、もっと――欲しい。それが欲しい。誰にも渡したくない。だから、それが欲しい。
現実(思考)が仮想(身体)に支配され、本来あり得るはずのない虚構の本能が目覚め始めた。
「ぁん、あん、はぁん、ぅん、いい、いいよ……もっと、つよく、つよく突いて、
感じる、感じるんだよ、身体ん中が感じるんだよ――――」
――――ッ!!
半狂乱に叫びだしたかと思うと、その力強い一突きに身体が一度硬直し、
果てた。
暗闇の中言葉で犯された時よりも遙かに激しく、そして――
「気持ちよかった……」
本音が紡がれた。
身体に余韻こそ残っているが、全てが終わった。そう思い込んでいたユキ。
女としての初体験のため、この時のユキは気付いてなかった。それがまだ軽度な快感であることを。
そしてすぐさま知ることになる。女の快感はその後が続くことを――
くたーっと弛緩してる身体に更なる振動が襲ってきた。慌てて身を起こせば、いまだ接続したままの腰を動かす舞島がいた。
「ちょ、ちょっと!? 何するんだ――あぁんぅ」
「何って、第二ラウンドに決まってるじゃないか♪ それに俺はまだイってないんだから」
リズミカルに、それでいて先ほど以上に荒々しく突いてくる。
余韻冷めやらぬ前に更なる刺激が髄を駆け巡る。
「や、やめろ、やろって。
俺はもうイったんだか…………はぁん、あぁああん……
な、なんで感じるんだよ。もうイったんだ…………あぁん」
シーツを握りしめて耐えようとするが、
「これが、これが、女の快感……」
「そうだ。それが、女の快感だ。男と違い、刺激すれば際限なく続く快感。それが女の身体だ」
「女の身体……あぁ、あん、はぁん――――」
一度、女を意識した以上、理性は意味を成さなかった。
既に気持ちいいのかどうかも解らない。
ただ、そこからうち寄せる刺激は体中を駆け巡り、理性の全てを吹き飛ばしていた。
考えることすらも億劫になり、漠然と快感のみを求めて腰を振る。
いつしか体勢は二転三転し、いつしか裸の女は裸の男の身体の上でよがり続けていた。
「――――!!」
音にすらなってない叫び声を上げ、何十回目の頂点に達したユキは完全に身体の力を失い、
男の身体からずり落ち、ベットの上に倒れ込んだ。
「やっと終わったか」
気怠そうに立ち上がる舞島。途中で身体のシンクロを断って人形と化していたから良かったものの、
搾りに搾り取られ身体はかなり疲弊していた。これがもし現実だったら干涸らびていたかも知れない。
ベットの上で倒れてるユキを横目に、揺らぎと共に元の女子高生の姿に戻る――舞。
「せっかくだから、男に戻って貰って、あたしも楽しませて貰おうと思ったけど……これは無理そうね」
見下ろせば、涙と涎を垂れ流し、下の口から白い液体を零れさせながら太股を痙攣させていた。
残念そうに思いながらちょっと身体に触れてみれば、ピクリと大きく跳ね上がる。
どうやら、またイった様だ。
「しっかし、随分とイったモノね」
ひい、ふう、みぃと指折り数えたかと思うと、
「こんなに女の子としてイって、生身の方大丈夫か――――」
こめかみに指を当て、目を閉じて何かを探ろうとした舞の顔が青くなった。
「緊急事態よ、先輩! 今すぐリアルに戻すね」
「…………え?」
気怠そうにベットの上で顔だけを上げた瞬間、意識がとんだ。
・
・
・
(舞島のヤツ、何だってんだ……)
脳波トレース&フィードバック用のヘッドギアを外す。
眼前に広がるのは見慣れた自室。ゆっくりと身を起こせば、
(濡れてる?)
股間に湿り気を感じた。
あれだけ性感帯を刺激されたのだ。リアルの方でも夢精の一つもしていておかしくない。
事実、顔の方には涙や涎の濡れた跡があった。
近くにあったタオルで顔を拭きながら下を向けば、
「――――ッ!?」
目に入るそれに、固まる。
俯いた先に見えるのは、Tシャツの下で自己主張するように張り詰めた双丘――襟元を引っ張って覗き込めば、
嫌味の無い大きさの美乳の膨らみが――
慌ててその下を窺えば、お漏らししたような染みを作ったジーンズ。
ベルトを外し、ジーンズと一緒にトランクスを降ろせば、そこには肝心要の男性のシンボルが無く、
閉じた割れ目から煌めく液体が垂れていた。
唖然と横を向けば、点いてないTVの黒い画面に電脳世界での髪の長い女の子の姿が映り込んでいた。
「な、なに……これ!?」
引きつりながら腰を下ろしたそこへ、
『やっほ、先輩』
モニターの一つに、恐縮そうに縮こまって手を上げて応える由宇の姿が現れた。
「これは、どう言うコトなんですか、由宇さ――――えっ!?」
咄嗟に両の手で口を押さえる。感情の高ぶりで消えたと思っていた言語矯正までもがしっかりリアルに反映していた。
頭を振って、言葉遣いを強引に切り替える。
「舞島、これはどう言うコトなんだ!」
『それが……先輩の作った人格投影システムのフィードバックが強力すぎたのか、
あちらで感じたモノ全てをリアルにまで反映させたみたいなのよね』
「リアルにまで反映って……」
俯き小さく肩を振るわす。
「――ぃや」
『ゴメンね、先輩。あたしの悪戯のために――』
「やったッ!!」
殊勝に謝れば、返ってきたのは歓喜の歓声。
『え!? あ、あの、先輩……怒ってないの?』
「怒るって、何故?
電脳世界の事象がフィードバックするなんて、世紀の発明なんだぞ、世紀の大発明!
上手くいけば大病だって完治するし、性転換も自由だ。
これはハッキリ言って、ノーベル賞だよ、ノーベル賞ものの発明だ!」
奇声を上げて狭い部屋を喜び駆け回る。
『で、でも先輩。女のままじゃ……』
「男になんていつでも戻れるって。お前がしてくれたのと同じコトを、今度は男の仮想体でやればいいだけじゃないか♪
もっとも、ちゃんとこの身体のデータ取りしたいから、
しばらくはこのままだな――あっ、そうそう。この身体用の服も揃えたいから、
代金の半分ぐらいは出してくれよ。お前の悪戯が原因なんだからさ♪」
『はぁ……それぐらいはかまわないけど』
喜び嬉しがってる美少女の姿を目の当たりにしては続けるべき言葉を飲み込み、心の内で呟いた――
『でもね、先輩。
男の性感帯は女と違って一点に集中しているから、今の『自分』を塗り替えるほど
強烈なフィードバックが出来ても……一部分が男性化する可能性の方が高い気がするのよね』と。
−ちゃんちゃん−