気づいた時には『ドンッ』と鈍い音がしていた。
俺は汗ばんだ手をハンドルから離して辺りの道路の様子をうかがう。
暗く人通りはない。
息を整え、シートベルトを外し、ブレーキを深く踏み込んでいた足から力を抜く。
『やっちまった……』
先ほどの居酒屋の酒が残っていたのが良くなかった。車外に降り、また辺りを確認する。
切れかかった街灯以外に明かりはない。人の気配もない。深呼吸をする。
そして車の前方3メートルほどの所に転がっている塊を確認する。
「だ、……大丈夫ですか……」
返事はない。恐る恐る近づいて、見る。女性だ。茶髪で皮膚も浅黒い、いかにも今風の若者であった。
俺はテレビなどの見よう見まねで相手の首筋の動脈に触れる。
確かめるまでもなかった。
「死んでる……」
俺はまた辺りを確認する。人はいない。
「…………」
辺りは畑が続く。民家も見当たらない。
俺は不思議と落ち着き、女性の亡がらを道路の隅へと蹴り、ぼとっと、畑に落とした。
人生をこんなことで無駄にしたくはない。急いで車内に戻るとハンドルを握った。
身体中に嫌な汗をかいている。俺は袖で額の汗を拭って、車を発進させた。
家に帰り、ベットに入ると俺の身体はあんなことがあったというのに眠りを欲していた。
俺は深い眠りにつく。
夢を見る。真っ暗闇の中、歩いている。ふと光るヘッドライト。
脇腹に走る衝撃、俺の身体は宙に舞って地面に叩き付けられる。
「ああっ!?」
そこで目が覚めた。
ガバッとベットから上半身を起き上がらせる。
知らない間に朝がやってきていた。ペタっと自分の額に手を当てると慣れない感触があった。
髪……?
見慣れぬ長い髪。茶色く、パーマがかかっている。
皮膚の感触も、すべすべとした、柔らかい感じに変わっている。
やけに肩が重い。俺は目線を落とした。
「な、何だコレ」
男物のTシャツを押し上げる見慣れぬふくらみが俺の胸に張り付いていた。
肩を揺するとぼよんぼよんと連動して動く。
その度にわずかな痛みを感じ、それが俺の身体の一部であるという事を認識する。
「…………」
そのまま数秒あっけにとられる。俺の身体に何が起こったのか。
ふと思いつき、ベッドから立ち上がって廊下にある姿見の前に急いだ。
「なんてこった……」
俺の身体は女性のものに変わっていた。
長く、茶色い髪。色は浅黒いが端正な顔。日本人離れした風船のように大きな胸。
腰はシャツに隠れているが触ってみればたしかにキュッとくびれている。
トランクスのゴムはぴちぴちに張って、大きな尻を隠しきれていない。
むっちりとした太腿から伸びる足は、すらっと長い。
そしてその身体は昨日撥ねた女性のものだった。一瞬しか見ていないが、確かにそうだ。
「呪い、なのか」
自分でも馬鹿げたことを呟いたと思う。しかしその状況はそうとしか説明がつかなかったのか。
「あ、っ」
気づかないうちに俺の右手は自分の右胸を握っていた。
「なっ、んだこれ」
好奇心に身体が負けたのか、俺の身体は勝手に胸を強く揉みしだいていく。
「っ、はあっ」
すぐに甘い息があがる。胸に痛みと、感じた事のない快感が走る。
先端はシャツの上から見ても解る位に隆起し、ポッチを作っている。
「んっ……」
じれったくなり、Tシャツを脱ぐ。鏡を見ると、メロンのように大きい肉の房が俺の胸からぶら下がっていた。
「ああっ、はあっ」
力を込めて揉むごとに胸はしこりを増して、張りつめ、血管が浮き出る。母乳でも出そうだ。
俺は右胸を持ち上げる。乳首が顔の前に来る。ためらう事なく口に含む。
むちゅっ。うちゅるっつ。舌をつかい舐め上げ、一心不乱にしゃぶりつくそうとする。
最早理性で押さえきれなかった。
左腕は自然に下半身に伸び、トランクスの中をまさぐる。男のモノはなく、亀裂ができていた。
もうぐちょぐちょに濡れているそれに、俺は迷う事なく指を入れる。
「あああっ!? はあっ」
がくがくと身体が震えるほどの快感。立っていられなくなり、地面に膝をつく。
「うあっ、ああっ、ああああっ」
俺はあられもない声を上げて喘ぎ狂っていた。身体を別のものが動かしているみたいだった。
「ひっ、ひいっ」
自分が無くなっていく恐怖を感じる。しかしそれ以上に快感のことしか考えられない。
俺は右胸の乳首を抓る。
「――っ!!!」
びくびくっと身体に電撃が走る。
「ああっ、気持ち、いいっ。コレぇ……」
右手では夢中になって胸をこね回す。
トランクスがびしょびしょになる位股間からは粘液が分泌されてゆく。
さわさわと左手は秘芽を探り当て、すっと手を添える。
「そ、それっ、駄目っ、駄目ぇ……」
俺は懇願の言葉を口にする。それをされたら俺はいなくなってしまう。ような気がしたから。
「ダメッ、駄目だっ、ああっ」
しかし左手は俺の言う事を聴かなかった。秘芽に添えた手で、それを、ちゅっとつまんだ。
「い、嫌だっ。嫌、嫌、嫌!」
そしてじわっと力がこもる。瞬間、視界がホワイトアウト。
「ああああああああああああっ!?」
物事の意味が分からなくなる。自分と世界の境目が解らない。
がくがくと身体は震え、そのまま背筋をピンと張りつめさせて、白い世界へと達した。
気を失っていたらしい。起き上がると鏡を見る。
女性の身体。そして「私」はにやりと笑い、そのままその家を後にした。