俺は、焦っていた。
だから、この研究所で俺に次ぐ地位にある、このやさ男の言葉をうのみにしてしまったのだろう。

この『中身』もだめなのか。
半ばあきらめに近いものを、俺は足元の女に感じていた。
「あーっ、あひ、あ、あ、あ」
「返事をしろ、コラ」
俺の言葉など聞こえていないかのように―――いや、実際聞こえてないのだろう、一心にバイブを出し入れしている。
「いいーっ、ああっ、ひいっ」
「返事をしろっていってんだよっ!」

ぼぐっ

女の腹に蹴りをくらわせた、だが。
「ぐっ……げほ、げほ、ああぁ……いい、もっとぉ……」
こいつはもうそれすらも快感の一部にしてしまった。
やはり壊れている。
もう、この『中身』は使えない。
「ちっ、また壊れたか。これで何人目だ」
俺は傍らの男に振り向く。
「14人目ですね」
白衣を着たやさ男がそう答えた。
「くそっ、いい『身体』は作れるようになってもそれに耐えられる『中身』がいねえ」
「もう出荷まで時間がありませんね」
やさ男が淡々と告げる。
うるせぇ、だから焦ってるんだろうが。
「おい、なにぼけっとしてやがるっ! とっとと次の『中身』を用意しろ!」
下っ端どもを怒鳴り散らし、俺はその部屋を後にした。

くそっ、くそっ、くそっ。
使える『中身』がない。

―――この研究所は……というか、この肉奴隷生産工場は『身体』を造っている。
その『身体』には、どのような外見、感度、反射も植え付けることができる。
だが、理屈はさっぱり分からない。
製法は、研究所の外の上層部から突然ぽんと渡されたもので、この研究所で考えられたものではない。
それ自体にもいろいろ珍奇な部分のあるこの製法は、「悪魔との取引で得たものではないか」というウワサさえある。
俺を含む研究所内の上層部にいわせれば、それは冗談と言い切れるものではない。
なにせ、『中身』が必要な身体を造っているのだから。
―――『中身』、人格、魂、呼び方はなんでもいい。
とにかく、造った身体を動かすために必要なもので、誰かから注ぎ込む必要のあるもの。
注いでしまった身体はすぐに死ぬ。
注がれた身体には、注いだ身体の人格が現れる。
そういうものである。

さらってきた、もしくは金で買い取った女の数も、もう残りが少ない。
「だから、感度80なんて無理だっていったんだよ……」

―――感度80―――100の設定範囲の中の80段目。まだ出荷できる状態になったもののいないレベル。
50を超えると4人に1人が壊れる。
60を超えると2人に1人が壊れる。
70を超えると4人に3人が壊れる。
75を超えると8人に7人が壊れる。
80では果たして何人が壊れるのか、それとも造ることはできない値なのか。それはまださだかではない。

「なにか手がないか、なにか……」
もうじき期限が来る。
間に合わなければ、俺は消されてしまうだろう。
あのヒヒ爺どもにいい女を提供できなければ、俺は死ななければならない。
あんな爺どものせいで……。
くそっ。
俺は、焦っていた。
だから、
「ひとつ新しい方法を考え付きました、試してみる価値はあると思うのですがいかがでしょう」
この研究所で俺に次ぐ地位にある、このやさ男の言葉をうのみにしてしまったのだろう。


ピッ―――0031に上書きを開始します
う、あ、あ、あ、いや、いやだ、やめろ、やめて、くるな、こないで、がっ、きゃ、ぐおお、きゃああ、ぐあ、きゃあ、ああ、あああ、あああああ!
ピー―――0031の上書きが完了しました

「がはっ、はっはっ、はぁ、はぁ、はぁ……」
まるで、4分ほど息を止めていたかのような勢いで、俺は空気を吸い込んだ。
悪い夢でも見ていたのだろうか。
「おはようございます。所長」
目を開けるとそこにはやさ男が立っていた。
「はぁ、はぁ……貴様、俺の部屋に入ってくるなといっただろうが!」
声が妙に高い。息を切らしていたせいだろうか。
「ふっ」
「なにっ!?」
鼻で笑いやがっただと。
「いえ、失礼。あまりにあなたがバカなようなので笑ってしまいました。これだからチンピラ上がりの男は……」
「ば、バカだとっ」

がちゃがちゃっ

両手が台につながれている!
「てめぇ……俺を監禁する気か!?」
そういうと、やさ男は一瞬きょとんとした表情を見せ、そして、
「はははははっ!そういうことですか、いや、妙なところばかりあなたが怒るので、変だとは思っていたんですがね、ははは」
「どういうことだ?」
「胸元を見下ろしてみれば分かりますよ」
「胸元ぉ?……!?」
胸がある。でかい、GもHもありそうな胸がある。
「ま、まさか、お前……」
「そのまさか、ですよ、所長。いや、0031」
「ふっ、ふざけるな!元に戻せ、このやろう!」
「ははは、無理だと知っているでしょうに。もうあなたの身体は亡くなりましたよ」
そうだ、注いだ方の身体はすぐに死んでしまうんだ!
じゃあ、俺は……。
「ま、心配せずとも私が、きちんと一人前の肉奴隷に仕上げて見せますよ」

ぐにっ

「ひっ、ああっ!?」
目を見開き、もだえる。
胸が熱い、燃えるようになにかを感じる。
なんだ、これは、なにをされたんだ、俺は!?
「へえ、胸を軽くもんだ程度でこの反応ですか。すぐに壊れてしまいそうですねぇ、ま、どちらでも私は構いませんけれど」
胸をもまれただけ?
そんな、そんな、あの、バカでかいなにかの感覚は快感だったというのか。
身体が勝手に震えだす。
「ふふふっ、ま、壊れれば上書き、壊れなければ肉奴隷として出荷される。0031、運命を楽しんでくださいね」
やさ男は、最悪の二択を提示して、優しげに微笑んだ。
「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
俺は、最悪の二択を前にして、ただ絶叫した。


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