人生で初めての告白。
私は、絶望と焦燥感を胸に、告白をした。
希望はひとかけらもない、そういう告白だった。
涙にまみれ、鼻水にまみれ、ただ気持ちに任せて叫んだ。格好など、どうでもよかった。
そんなのは些細なこと。

私の告白をした相手は、男だったのだから。


+99:22:51:15

涙が止まらない。
こいつが鈍いのか無視しているのかは知らない。いや、どちらでもいい。
ただ、もうこの気持ちを押さえ込むことだけはできない。
「お前が……ひっく、好き、なんだ……。ううっ、好きになっちまったんだよっ、バカヤロー!!」
夜の公園。辺りは誰もいない。三日月が浮かぶ空の下、噴水のそば、時計台のすぐ脇。
時計台の明かりで相手の顔がしっかりと分かる、でも手は届かない、そんな位置。
俺はこいつを呼び出した。
今日、この場に来るようにと。
間に合わないよう、気付かれないように、使っていないはずのパソコンにメールで送った。
間に合うよう、気付くように、2時間ぐらい前に送った。
送ったメールは、こう書いた。
『秋花公園にいる。絶対に来るな』
こいつは来た。3分ほど前に息を切らせて、自転車を放り捨て、駆けて来た。
「でも、……お前は「いうな!」」
言葉をさえぎる。聴きたくない。その先に続く言葉を聴きたくない。男だの女だの、そんな話は。
きっとこいつは心配そうな顔をしている。涙で見えなくても分かる。こいつはそういう奴だ。
「うっ、ぐっ、……なにも、いうな」
嗚咽が止まらない。ひどくみっともない。まるで母親に怒られて感情の行き先を見失った小学生のようだ。
「聴いてく「いやだ!!」」
両手を強く握り締める。指先の感覚がなくなるほどに。爪で手のひらが裂けて血が流れるほどに。
ぼろぼろと涙がこぼれる。痛いからじゃない、悲しい訳でもない、悔しいからだ。
悔しい。
告白をしても想いが重なることはないからだろうか。
俺が、これから元に戻って、この激しい気持ちも思い出のひとつになってしまうからだろうか。
いや、違う。
聴いてくれないからだ、俺の言葉を。
見てくれないからだ、俺の今の姿を。
分かってくれないだろうから、俺の想いを。
「お、うっ、お前が、ひっ、いうのは嘘だ。ひっく、嘘なんて、俺を気遣って出る嘘なんて、そんなものはいらないっ!」
駄々をこねるように首を左右に振る。
こいつは優しい。だから、俺の言葉を受け取ったフリなんてできないし、受け取ることもできない。
でも、こいつは優しいから俺を気遣う。
すっきりと振られたい。
納得のいく説明なんていらない、気遣いなんていらない、せめて一言で振って欲しい。
「嘘は言わない」
真摯な声でこいつは言った。
「ひぅ、信じ、られな、い」
「気遣いもしない」
またぼろぼろと涙が出てくる。
今さっき、一言で振られたいと思ったのに、想いを完全な拒否の言葉で断ち切って欲しいと思ったのに。
もう、今は、そんな理屈なんて、分からない。あれほど考えたのに、告白することを決心したのに。
間違っていたんだ。
気持ちをしまいこんで、男に戻って忘れてしまえばよかったんだ。思い残してもいいから、なかったことにすればよかったんだ。
嫌だ。もうなにも考えたくない。
逃げ出したい。こいつが次に言う、決別の言葉を聴きたくない。
こいつがその後に言う、慰めの言葉を聴きたくない。
背中を向けて一目散に走り去りたい。もう、いっそ、消えてなくなりたい。
でも、俺の脚はがくがくと震えていてまともに動くこともできない。
そして、俺は消えてなくなることもできない。
「いや、いや、いやぁ……」
「僕は―――」

「どうします?少佐」
「……引き上げるぞ。該当者は都合により来ることができなかった」
「来させることはできますよ、もちろん」
「ふん、そんなやぼったい話はごめんだね。いいんだよ、報告書のつじつまさえ合えば問題はない」
「はぁ、だから出世できないんですよ、少佐は……」
「そんなつまらんことに興味はない」
「直属の部下のことも考えてくださいよ……」
「嫌か?そうは見えんが」
「……ビュナル・ア・スポリウム少佐の命令どおり、今作戦を終了とします」
「くくっ、さ、帰還するか」
「ははっ!」

+100:00:00:00

時計がちょうど0時を指した。
3ヶ月と少しの間で、女としての人生が終わりを迎えることはなかった。
回りは変わってしまった。
俺は、奇異の目で見られ、友を失い、自分をも見失った。
でも、その全てに代わる新しいなにかを得られた。
俺は、隣で眠る親友だった男をぼんやりと見た。
腕を見て、その太さの違いを。
胸を見て、そこにないものを。
股間を見て、そこにあるものを。
全てに覚えがあり、ほんのしばらく前まで俺もそうだった。
変わったのは、俺だ。
涙がにじむ。
もう、戻れない。もう、戻りたくない。でも、戻りたい。
こいつがかたわらにいて、でも元の生活をしたい。
「ううっ、ひっく……」
無理なのは分かっている。
俺は、選んだのだ。こいつを。

慰めて欲しかった。優しい言葉をかけて、そっとなでて欲しかった。
でも、そんな都合よくこいつが起きることはなく、俺は、『俺』を捨てるために一晩泣いた。

『私』は、今日から、女になる。
とりあえず、こいつが起きたら徹底的に甘えてやろう。目覚めのキスからはじめてやる。
そして、さんざんおごらせてやる。財布が空っぽになるまでデートをするんだ。
ああ、楽しみだ。
私は、今日から、こいつの女になるのだから。


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