― プロローグ ―

「神様。……もし、本当に居るなら、僕の最後の願いを叶えてください…」
少年は空に舞った。




1:

何時ものように退屈な朝の筈だった。
優(まさる)は、とろんとした目をこすり、う〜んとベッドから起き上がる。
「…ふぅあぁ……」
欠伸をしながら、顔を洗うために洗面台へ向かう。
なんだか頭が重く感じる。髪が纏わりつき、うざったい。
それにパジャマのズボンの裾が足元に絡まり、微妙に歩きづらい。
(……んん? なんだよ…ったく)
洗面台の前に来て、さて顔を洗うかと寝ぼけ眼に入ってきたものは…。
「な…なんだぁ…?」
驚きのあまり、口からこぼれた声も変声期前の子供のようだ。
「!?」
ハッとする。
まさか…。
まさか、まさかっ!?
自分の身体をまさぐる。
明かにおかしい。
パジャマのサイズが合っていない。
あってはいけないものの感触があり、無ければいけないはずのモノの感触が無い。
「………うそだろ…」
優の姿を映している筈の鏡には、ボーゼンとした表情の少女が映っていた。
「なんじゃこりゃぁ!?」
甲高い声が家中に響く。
「だ…だれだよコレ!?
優は鏡の前で顔をぺたぺたと触って慌てふためく。
明かに自分の顔なのに、そうじゃない。
船元に膨らむ異物は、苦しそうにパジャマを押し上げている。
腰回りがスースーするズボンだが、尻はむしろ張っているような感じがする。
何より、毎朝元気なはずのアレがそそり立っている気配が無い。
「ふ…ふざけんな!ふざけんな!なんだコレっ!?」
もうパニックである。
「なんだ、なんだ…?…朝からうるせえなぁ…。でっけえ声でキンキン騒ぎやがって…」
優の兄、豪志(ごうし)が頭と股間を掻きながら、欠伸をしつつ現れた。
「…あ…兄貴…」
ハッとして優は兄に振り返る。
当然目が合う。
「………」
「………」
暫しの沈黙。
豪志はキョトンとした顔で少女となった優を見る。
「…あ、あのさ…」
優が言いかけた途端、「誰だ?アンタ…」と優を睨む。
「優の女か?」
「ち…ちがう! ちがう!ちがう! お…俺、優なんだ!! 信じてくれ兄貴っ!!」
優は兄に向かって、兎に角どうしてこうなったかを説明した。
「…あのなぁ…、んな話信じると思うか?」
豪志は呆れたように優を睨む。
その表情は、好色そうに歪んでいた。
「うそじゃねーって! マジなんだって! 頼むから信じてくれよぅ…」
もう優は必死である。
だが発した言葉の最後のほうは、自信なさげに小さくなってしまう。
当然である。
何処の誰が、イキナリそんな突拍子も無い事を信じてくれるだろうか。
せめて顔つきに男の時の面影があったのなら、まだ少しは望みもあったかもしれないが。
今の優は、男の時とはまるで似ても似つかぬ少女の姿だ。
「信じるも何も、不法侵入じゃねーか。なぁ? アイツのパジャマまで着てよー。ストーカーか? お前」
ジリジリと優に近づいていく豪志。
猫背気味でひょろっとしているが、男であった時の自分よりも長身であるため、
こうやって距離を詰めてこられると嫌な圧迫感が襲ってくる。
優は、女に対してこういった表情を見せている時の兄が何をしようとしているかぐらい直ぐに分かった。
(…や…やべぇ…。このままだと犯られる…)
身体中から一気に冷汗が噴出すのが分かった。
喉も渇いてくる。
今の兄にどう説明しても、信じては貰え無いのを優は確信した。
豪志は、もうこちらに手の届くところまで近づいてきていた。
取りあえず、この現場から逃げ出すにはチャンスは一瞬。
ためらったらアウトだ。
「勝手に人様の家に潜り込んだらどうなるのか、教えてやるよ…」
にやりと唇の端を歪ませて、豪志は優に手をかけようとした。
その瞬間。
豪志の金的めがけて優は足を蹴り上げる。
バチンッ!ドシャッ!
激しい音がして、優は床に叩きつけられた。
「うっ……!!」
豪志はあっさりと優の行動を読み、蹴り上げてきた足を手で打ち払ったのだった。
打ち払われた勢いで、優はそのまま床に叩きつけられるハメになった。
状況的には逆に悪くなってしまった。
叩かれた方の足が痺れている。
見た目よりもはるかに強い、兄、豪志の力。
何時もなら、自分は兄がこういう風に女を嬲っているのを面白おかしく見物する立場だった優だが、
自分が嬲られる対象になって見て兄の恐ろしさを再確認した。
下手に兄をこれ以上刺激すると、ヤバイ。兄は女であろうが容赦は無い。それがブスであろうと美人であろうと…。
だが、このままでは自分も兄に犯されてしまう。
優は今の状況を呪うしか無かった。
「あんまり、お痛するなよ? その可愛いツラボコボコにされたくなかったらな?」
豪志はうずくまっている優に諭すように語り掛け、圧し掛かっていった。


「ぅあっ…はがあっあぁ…」
ベッドを軋ませながら、少女が男に抱きかかえられるように突き上げられている。
既にその結合部からは、大量の白濁液が破瓜の色を滲ませながら溢れ出てきているが、
男は気にもせずに少女を犯し続けている。
「ひっ…!?あっああはぁぁぁぁっ………!?」
ビクン、ビクン、ビクン…。
もう何度目の絶頂だろうか。
少女が昇り詰めると共に、また大量の液が胎内に注がれるの感じていた。
(…な…なんで…こんな事に…?)
朦朧とした意識の中で、少女―…優はクタッと身体を男―豪志に預けた。
あの洗面台の前で、無理矢理パジャマを剥ぎ取られ、兄の巨根を捻じ込まれた。
穿いていたトランクスを見て兄は、「こんなものまで穿きやがって、この変態が!」と優を罵り、
苦痛に身を震わせる身体を思いっきり責め上げた。
その内なんだか分からないままに、身体の内側に熱い滾りが入って来るのを感じると、
自分が中出しされた事が分かり、優はイヤイヤと身体を捩った。
豪志はそんな優のアソコに突き込んだまま、軽くなった身体を抱え上げ、
繋がったままで自分の部屋まで連れて行き、そして更なる責めを始めたのだった。
何度も胎内に注がれ、無理矢理口にペニスを捻りこまれ、思わず歯を立ててしまうと、容赦の無い平手が飛んだ。
巨大になった胸も楽しそうに弄ばれ、パイズリもさせられた。
獣のような格好で激しく貫かれ、もう何がなんだか分からない位に身体は悲鳴を上げ、心が壊れていく。
次第に自分が最初から女であったのでは?と思い始める始末。
優は、短時間のうちに、豪志によって女をその身体、心に刻み込まれようとしていた。
「…ふぅ〜。お前いいぜ?今まで犯ってきた女の中でも5本の指に入るよ」
豪志は、二カッと白い歯をこぼし、虚ろな表情で彼を見上げる少女、優に言った。
自分が犯してきた女の中でも、トップクラスのこの少女が、自分の弟である事など微塵も考えもせずに。
「…ぅぁ…し…」
優は虚ろな表情のまま何かを呟いている。
「ん? 何だって? ハッキリ言えよ」
豪志は優の柔らかな黒髪を頭ごと摘み上げて、強制する。
「……ぅれし…く…な…ぃ……」
ようやく優はどうにか聞き取れる声で、ポツっとこぼした。
それを聞いた豪志はイヤらしい表情を浮かべながら
「じゃあ、嬉しくなるまで張り切って犯ってやるからな。俺に全部任せておけ」
と、身勝手な事を口に出し、更に優を犯し始めた。
「…!!…ぁぁぁぁああああっっっ……!!」
ぐったりしていた優の身体が、またもやリズミカルに跳ね上がる。
まだまだ、豪志は開放してくれそうに無かった。




2:

「………………」
優が気がつくと、既に豪志の姿は見えない。
疲れきった身体を我慢して起こしてみる。
胸から下腹部にいたるまで、豪志の放った精液がこびり付いている。
そして、まだ自分でも触っていない女の部分からは、この瞬間もドロリと液が溢れ出てきていた。
(……逃げなきゃ…)
ふと、そう思って、優は転がっていたティッシュの箱からペーパーを何枚も抜き取り、身体についた精液をぬぐう。
その感触に気持ち悪くなりながらも、大体抜き取ると、今度は股間にティッシュをあてがうが、
あまりの液の量に、直ぐにティッシュが役に立たなくなってしまう。
(シャワー…浴びよう…)
ふらつく身体を何とか立たせ、股にティッシュをあてがったまま、優は浴室へ向かった。
浴室に入る前に、汚れたティッシュをくずかごに放り込み、ドアを開け中に入る。
シャワーのハンドルを回し、しばらくすると心地よい温度の温水が飛び出してきた。
水滴が柔らかな身体の汚れを落としていく。
思いのほか心地よいシャワーの刺激に、優は戸惑いつつも、ほのかな安堵を感じていた。
「ん……」
だが、問題の花弁にシャワーを恐る恐る当てた瞬間、想像以上の痛みと快感が同時に走った。
「…!っううんっ…!」
ビクン!と身体を捩じらせ、思わず手に持ったシャワーを落としてしまう。
(…い…今のは…?)
身体が熱く火照っているのは、温水を浴びた為だけではない事に優は気付いた。
(感じている…のか…。この身体が…)
ただ、その衝撃は、自らが本来持っていたはずのペニスが、初めて剥けきった時に手に触れた感触よりも遥かに強いものだった。
落としたシャワーを拾い、今度はもっと注意深く吹き出る飛沫をソコに当てていく。
「…っ…ふっ・・・ぅう……っ」
なんともじれったい、ヒリヒリする痛みと共に、やはり快感が身体を駆け巡る。
(…なか…綺麗に出さないと……)
恐る恐る優は膣口へ指を這わせ、ゆっくりと人差し指を潜り込ませていく。
「……!!っああ!!」
堪らず声があがる。
だが、どうにか我慢してゆっくりと中を温水を当てながら掻きだしていく。
その間にも、身体は強く反応し、時折甘い嬌声を上げてしまう。
「ひぃんっ…!…くふっ……っうあん…!」
これではまるで、自慰行為に耽っているようだ。と、優は心の中で思った。
そして、嫌でもいま自分が置かれている立場を痛感してしまう。
(…俺……本当に、女に…なっちゃってるんだな……)
実の兄に無理矢理陵辱され、大量の精を子宮に注ぎ込まれた。
その感触を思い出し、身震いするが、洗っているアソコはそんな思いとは裏腹に、
じっとりとした液を溢れさせてきているのが分かる。
それは兄に注ぎ込まれた精子とは別の…。
(なんで……)
優は情けなく感じつつも、少しでも豪志の精を外に出そうと洗浄を続けた。


息も絶え絶えになりつつも、どうにか膣内を洗浄し終えると、優はホッとして浴室の壁にもたれてしまった。
(………いっぱい、出たなぁ……)
ポーっとして、自分の体内から溢れ出てきた白濁したものを思い出してしまう。
(…あんなに、いっぱい出されていたのか…)
もう、自分の身体が男ではない事は嫌でも感じさせられてしまった。
流石に大量の精子を注ぎ込まれたのが分かったために、一瞬妊娠の恐怖も感じたが、
今の自分は女の身体とはいえ、まだ生理も来ていないというか、本当に妊娠するのかも定かではない。
変に気にしていたら、それこそ気が狂いそうな気がした。
(あ…?そうか、…もう、身体も洗ったし、とにかく兄貴に見つかる前に家から出なきゃ……)
優は重要な事を思い出し、疲れる身体を奮い立たせた。
浴室を出て、びしょびしょの身体のまま、自分の部屋へと向かう。
廊下が濡れてしまうが、今はそんな事を気にしてはいられない。
自分の部屋に入ると、まず片付けてあったタオルを取り出し、身体を頭の先から足元まで拭う。
男の時より明かに伸びてしまっている髪が、タオルで拭いても綺麗に水気が抜けきらないが仕方が無い。
これ以上あんまり悠長な事をしていると、また豪志がやってくるかもしれない。
シャワーを浴びた事によって、いくらか頭がスッキリしてきたのか、段々と兄に対する恐怖心が蘇って来る。
今は、何処に出かけたのか知らないが、どうやら家の中にはいないようだ。
結構長くシャワーを浴びていたはずだが、兄が戻ってきている気配は無い。
運が良いと思ったほうが良いのだろうが、それも何時戻ってくるか分からない。
どうして、赤の他人と思い込んでいる自分を放置したまま出かけたのかは判らないが、今はそれに感謝するしかない。
優は、もうサイズが合わなくなってしまった普段着を着込んだ。
トランクスは腰回りがブカブカで妙に張ったお尻に引っかかっている感じだし、
シャツも大きく膨らんだ両胸が自己主張をしていて正直変な気分だ。
しかも、シャツに乳首が擦れてしまうので、変な刺激をどうしても感じてしまう。
ジーンズも穿きにくかったが、ソフトタイプのある程度の柔軟性がある物だったため、どうにか穿けた。
ウエストはヤッパリがばがばなので、仕方なくベルトの穴を増やして対処した。
ジーンズの裾も背がかなり縮んだため、余ってしまっている。
比率的には男の時よりも長いんだろうが…。
仕方が無いので折り曲げる。
そして胸がなるべく目立たないように、自分の持っている中で最も大きなトレーナーを身に付ける。
「………」
正直、多分、イヤきっと、……今の自分は変な格好だろうなと考える優。
机の上に置いてある携帯電話と財布を掴んで、ジーンズのポケットに入れる。
最後に帽子を目深にかぶって、部屋を出ると、気配を探りながらそっと玄関へと向かう。
(……やっぱり兄貴は居ないみたいだな……)
ほっと一安心すると、優は自分の靴を手にとり、念の為に裏口から外へ出る事にした。




3:

「…大丈夫だな…」
少し辺りを伺って、裏口から外へ出た後、恐る恐る家から離れていく。
途中、兄に見つかるのでは?と危惧しながらも、どうにか家からは脱出出来たようだった。
「……これからどうしよう…?…」
とぼとぼと当ても無く歩きながら、至極当然に優は考えた。
当然、しばらく家には戻れまい。
今朝の二の舞になるだけだろう。
その時、ポケットに入れてある携帯電話が振動した。
「わっ」
おもわず小さな悲鳴を上げてしまう。
優の今の身体は、随分と敏感に出来ているようだった。
携帯電話を取り出すと、どうやらメールが届いているようだった。
「…幸治のヤツか…」
メールは仲間の一人で、小学校時代からの腐れ縁で微妙に唯一の親友とも言える中尾幸治からだった。
(…あ、そうか、幸治なら…)
慌てて優は幸治に電話をしようと思ったが、ふと今の自分の声を思い出して、メールで連絡する事にした。


(おせえな幸治のヤツ…)
優はメールで幸治と待ち合わせの連絡を取った。
待ち合わせの場所は、街外れの公園だった。
ここなら、人も多くないし、何より知っている奴等が来る事も殆ど無いと判断して優が選んだのだった。
幸治は、またなんでそんなところで…と返信メールに書いて送ってきたが、それ以上の突っ込みは無かった。
まぁ、その方がありがたいのだが。
その時、チャラチャラした格好のあまり背が高くない少年が歩いてくるのに気がついた。
なんというか、この公園の雰囲気には全然合ってない姿だ。
(うっわ〜っ…。すげー浮いてる…)
こんな平日の日中に、せいぜい贔屓目に見ても中学生ぐらいにしか見えない可愛い顔立ちの少女が、
微妙にずれた格好でこんな場所に居るのも充分浮いているのだが。
優は自分の事を棚に上げて思っていた。
幸治は辺りをキョロキョロと窺いながら、優の座っているベンチの側に近づいてくる。
そして、優に気付かずに前を通り過ぎようとした瞬間、幸治の携帯電話が鳴り出す。
「…! ぉっ、マサか?…」
幸治は携帯電話を出すと、着信を確認する。
メールが届いている。
メールを確認すると、にわかには信じられない事が書いてあった。

― 幸治、俺ならお前の直ぐ側にいるぞ。
  直ぐ側のベンチに座ってるだろ?  ―

「はぁ??」
間抜けな声を出し、今しがた前を通ったベンチを振り返ると、可愛い少女がこちらを向いて手を振っている。
(…!…うっわ、いいーじゃん!…でも?…マサ…??あ〜ん…????)
幸治は訳がわからないので、取りあえず手を振って挨拶している少女のほうへ歩み寄る。
確かに着ている物は、以前優が着ていたことがある物のようだが、どう見ても少女は優には見えない。
「よう」
少女が幸治に気安く声をかける。
あどけなさが残った可愛らしい顔立ちには似合わない挨拶ではあるが。
「………なぁ、アンタ誰よ?なんか、マサの服着てるみたいだけど…。マサに頼まれたのか…??」
一応、愛嬌のあるといえばある顔に複雑な皺を浮かべ、幸治は少女に尋ねてみた。
「……やっぱ、お前でも気付かないか…」
少女は、残念そうな、悲しそうな表情を浮かべ、ふぅ…と溜息をついた。
その仕草が、幸治のハートを鷲づかみにする。
(…やややややや、やっべ。マジ可愛い…)
アホ面になり、思わず鼻の下が緩んでしまう。
目の前の少女は何処の誰だか知らないが、間違いなく可愛らしかった。
「いいか? 順を追って説明するから、ちゃんと聞いてくれよ?」
少女がそう言ったので、幸治は「ん? ああ」と生返事を返した。
正直、説明なんてどうでも良かった。
既に幸治の頭の中では、自分に組み伏せられ、イヤイヤをしながら悶える少女の姿をずっと妄想していた。
だから、少女が語る説明はあまり真面目に頭には入ってこず、ある意味いい加減に聞いていた。
まぁ、少女が語った内容もあまりにも眉唾物だったからと言う理由もあるのだが。
「……というわけだ…。判ったか? 幸治?」
少女―優は幸治に説明を終えて(流石に自分が兄に犯された事は伏せていたが)、幸治を見つめる。
「ん。判った判った。よーするに、お前がマサなんだな?…なははは、イマイチ実感ワカネーケド」
その表情に心底ソソられながらも、幸治は話を合わせるために取りあえず、当り障りの無い返事を返した。
「俺だって、全然実感がねーよ……」
優はまた、切なそうな表情を浮かべて溜息をつく。
今の自分のそんな仕草が、自分に更なる危険を引き寄せているとは考えもせずに。
「とりあえずさ、何時ものトコいこーぜ? オレ、こんなトコじゃ落ち着かなくってさーっ…」
幸治はタハハと短く刈り込んだ頭を掻きながら、優を促した。
「…でも、なぁ……。やっぱ……」
優は尻込みをするが、そんな事はお構いなしで幸治は続ける。
「ダイジョーブだってよ! オレがうめーこと説明してやっからさ」
そう言うと、愛嬌のある表情を浮かべて、優の手を引き、立たせる。
「……う…ん…」
渋々といった感じで、優はベンチから腰を上げると、仕方ないかといった風情で幸治の後に続く。
「心配すんなって。第一、今の姿でこんなトコに居たほうが余計に目立たねー?」
真昼だが人通りの少なさを見越して選んだ場所だったが、確かに今日に限ってなのか、珍しくこの公園に人が溢れて来ていた。
(……こんな時に限って…)
優は内心、舌打ちをした。
「…そうだな…。わかったよ…」
後に続く優に気付かれないように、幸治は仲間にメールを送っていた。

― いいオモチャを連れて行く
  期待して待て
  いつもの場所で      ―

「さっ。いこーぜ」
「…ああ…」
幸治は馴れ馴れしく優の肩に腕を回し、歩き出す。
あまりに何時もの幸治の為に、優は気付かなかった。
自分が後戻りできない選択をしてしまった事に。




4:

「うっし、とうちゃーく!」
幸治が元気いっぱいに声を上げる。
「………」
優は気だるそうに後に続く。
街中にポツンと存在する廃工場、それが彼らの溜まり場だった。
人通りが決して少なくない場所にあるにもかかわらず、一歩敷地内に入り込むと、
まるでそこだけ異世界のような気にさせてくれる。
その雰囲気が、いまの優にとっては不気味なだけに感じてしまう。
それは、今から自分の身に降りかかる災難を予測しての直感だったのかもしれない。
二人で建物の中に入っていくと、昼間にも関わらす薄暗い。
彼らのグループが、今まで何度も狂乱の限りを尽くしている場所だ。
目星の女を誘い出し、徹底的に嬲り尽くしてきた。
そんな場所だ。
「お。遅かったじゃねーか」
仲間の一人が声をかけてくる。
小太りな身体に、にやにやとした薄笑いを浮かべている。
その視線は、間違いなく優の姿を視姦している。
「……!…」
優は思わず逃げ出したくなる衝動に駆られたが、幸治がしっかりと腕を掴む。
「だいじょーぶだって。みんなに説明してやるからさ」
軽くウインクをして優を諭す。
「で…も、なぁ……」
優はここに入った瞬間から、ぞわぞわとした不快感を拭いきれず、不安で不安で仕方が無かった。
幸治が居るからこそ、まだ我慢出来てはいたが、それも限界に近づきつつあった。
「ん? その子だれよ?」
また仲間の一人が現れた。
「おー! いいじゃん」
「うわはっ」
それを皮切りに、何処にいたのやら他の仲間連中も出てきた。
皆で十人ぐらいだろうか?
まるで優と幸治を囲むように皆、近づいてくる。
無意識に優は幸治の腕にしがみ付いていた。
触れた部分から伝わる、柔らかな感触に満足しつつ、幸治は仲間たちに経緯を説明し始める。
「……つーわけで、こんなに可愛らしくなっちまってるケド、こいつ優なんだよ」
優は幸治が取りあえず説明をしてくれた事に少し安堵を覚えた。
仲間たちの表情を見る限り、比較的神妙に聞いてくれたような感じもする。
「へー…、すると優は今や優(ゆう)ちゃんなわけか!」
「そ。マサの優(まさる)って字は、優しいの”優”だからもう、ピッタリ!!」
「―!?―」
その時、優はハッとして幸治を見た。
幸治の表情はいつも通りだ。

そう、いつも通り。
いつも通りの、「女」を見る目だ。

その時になって、ようやく優は気が付いた。
自分が嵌められた事に。
(ど…、どうして……)
優は眩暈を起こしそうになる。
実質的な付き合いが希薄な仲間内でも、幸治だけは別だった。
幸治とは子供の頃からの親友―の筈だった。
裏切られた?
いや違う。
そもそも、幸治は最初からあの目で自分を見ていたじゃないか!
自分が気付かないふりをしていただけだ。

幸治は。
最初から、自分を頭のイカレタ女としてしか見ていなかった。

「ユ〜ウちゃん。オレ達と遊ぼうねェ〜」
仲間たちが優に対して、いつもの女を嬲り尽くす時の顔を見せ、じわじわと迫ってくる。
「…なっ…ば、ばかやろ……なんでっ!!」
優は幸治を睨みつけるが、幸治は涼しい顔で口笛を軽く鳴らすと、豊満な優の胸を背後から弄り出した。
「たまんねー! すっげ、イイヤ! もうユウちゃんサイコーっ!!」
「ひあっ!?」
不意を突かれた優は可愛らしい悲鳴を上げる。
その声が合図になったのか、一気に他の連中も優に襲い掛かり始めた。




5:

薄暗い廃工場内に肉の交じり合う淫靡な音と、香りが漂っている。
その音と香りの発生源と思われる場所では、一人の可憐ともいえる少女が、複数の男達に蹂躙されている最中だった。

「ん…むあっ…ぐっ…」
剛直が口内を蹂躙する。
乱暴に腰を動かしながら、男は短く呻き声を上げて少女―優の口内に大量の精を流し込む。
「…ぶぅむ…ぅっ…!…」
のぼせそうになるのを必死に堪えて、濁った体液を飲み干す。
「…そらっ!…コッチもイクずぅぇぇぇええっ…!!」
一際激しく腰を打ち付け、真下から優の腰を引き寄せ、密着させると精を迸らせる。
先から溢れ出す精子は、優の子宮に一気に流れ込む。
「ぁっ、ぁぁぁああ……」
男のイチモツから開放された口からは、悲鳴とも歓喜とも判らない声が漏れる。
今の優は、さながら生きた最高級のダッチワイフだ。
真っ裸にされたその身体は、既に放たれた精により汚れ、頬の片側もペニスを咥え込むのに抵抗したため平手を喰らい腫れている。
その瞳は朦朧とした輝きしか見せず、表情も絶望と快感が混ざり合った奇妙なものだ。
だが、そんな状態になっても、優は男達にとっては欲情を掻き立てる存在だった。
「コイツ、マジでたまんねーよ! 何回やってもミミズ千匹ってヤツ?? 気持ちいいわー」
真下から優を犯していた男が、優の身体をひっくり返して起き上がる。
下半身は何も身につけていない。
まぁ、今ここに居る男達の殆どが、半裸、或いは全裸なのだが。
「イヤほんと? 大変イイひろいもんしたよなー。今日はついてるゥ!!」
ニヤニヤ笑いながら、幸治はぐったりとした優に近づき、うつ伏せにさせると、腰を持ち上げ、お尻を突き出す格好にさせた。
「お! こーちん、また尻か?ホンっト好きだよな〜」
「へへ。まな。オレは前も後ろもイケルノヨ」
そう言うと、幸治は手際よく自分のそそり上がったモノにコンドームをかぶせ、
優の菊座に先端をあてがうと、ゆっくりと押し込んでいく。
「……!?……ぅぁあっ……!! ひ…っぃぃいい…!」
かなり反応が弱っていた優が、久しぶりに強い拒絶の反応を示した。
「ぉおーおー。かっわいいー声あげちゃって! そんなにキモチいい?
さっきから何度もローションで慣らしていたからだいじょぶダヨネー?」
そうお気楽に言うと、幸治はゆっくりとピストンを始める。
「…ひぃいいぃっ…!?」
ビクンっと優の身体が反り返る。
今まで味わった事の無い気色悪さが身体を走り抜ける。
その間にも、幸治は優を放さまいと強く腰をひきつけ、徐々に肛虐の速度を速めていく。
「あっあっああ…!がっ、があぁぁああ……」
優は朦朧とした意識の中で更なるパニックを起こしていた。
「あ〜ん、ダメじゃん? 可愛い女の子がそんなハシタナイ悲鳴を上げたら……さっ!!」
ズン。
と一際強く肛門にペニスを押し込むと、幸治は優を抱え上げる。
「ひっ!!ひぃぐぅっぁぁああぁ!?」
強い衝撃に、意識が少し戻ってきてしまう。
その瞳に、若干正気の光が戻る。
このまま虚ろなままのほうが、今の優にとっては有難かったのに。
(…ぁあ、俺……どうして…こんな…)
混濁した意識の中、優は記憶を手繰り寄せる。
今朝目覚めると、イキナリ女になっていた自分。
実の兄に陵辱され、女を強く認識させられてしまった事。
どうすべきなのかを相談しようと思い、親友―少なくとも自分にとっては、そうだった筈の幸治に助けを求めた事。
そして…。
その結果が、今のこの惨状になっている事…。
(どこで間違えたんだろう……?…)
抱え上げられた状態で、リズミカルに肛門を犯されながら、優は考えていた。
結局、幸治や他の仲間に襲い掛かられ、唖然としている間に、一気に陵辱は始まった。
今朝の兄に言われたように、仲間だった筈の男達も、自分が着ている男物の下着に対して、
それを脱がしながら執拗に言葉責めを繰り返し、心を引き裂いた。
豊満な乳房は何度も揉まれ、しゃぶられ、べちょべちょにされた。
我先にと、アソコに指を突き立てられ、舌を捻じ込まれ、嬌声を上げさせられた。
そんな状態になりながらも、まだ信じられず幸治に救いの手を求めたが、
幸治は優しく何時もの女を嬲る時に見せる笑顔を浮かべながら、自分に圧し掛かってきた。
そして、ペニスを捻じ込まれ。激しく陵辱された。
大量の精子が、何度も何度も子宮に流し込まれ、あっという間に溢れ出した。
幸治は満足げに腰を引くと、周りで楽しそうに見物していた男達に合図した。
男達は幸治の後を継いで、自分の膣を陵辱し始めた。
「ん〜。でも、ちょっぴり残念かな? ユウちゃんの初物奪ったのが俺じゃなくて」
幸治は、組み伏せられ悲鳴を上げる自分を楽しそうに見つめながらそう言った。
そう言った。
(幸治は最初から俺を犯すつもりだったんだ……。なんで……気が付かなかったんだろう…? 親…友なのに…。腐れ縁なの…に…)
もう、優の菊座は幸治のモノをスムーズに受け入れていた。
当初は悲鳴だけだった声も、段々と艶のあるものに変わりつつあった。
「…くふ・・・ぅん…。っはぁ……ぁぁ…ぁ」
その姿は、淫靡でたまらなく可憐で、その場に居る男達の欲情をまたもや燃え上がらせる結果となった。
「な、なぁ…。コージ、オレも混ぜてくれよ」
小太りの男が我慢できずに参加する。
「ん。前、空いてっからな。いいんでない?」
ニカッと表情を崩すと、男のモノを入れやすいように優の向きを調整する。
「ぁっ…、ゃぁ…っ」
思わず、優は可愛らしくイヤイヤをしてしまう。
一度に体内に二本も突き入れられたら…。
もっと、おかしくなってしまう。
だが、そんな優の思いなどお構いなしに、男のイチモツが前の入り口にあてがわれ、途端に肉壁をこじ開け乱入してくる。
「ひっっ!! ひぁぁぁぁああああっっっ!!」
一際高い嬌声が工場内に響き渡る。
それは、男ではありえない絶叫。
どれだけ信じたくなくても、今の優は女だという証明だった。
前と後ろから、微妙に違うリズムで剛直が体内を蹂躙する。
「ぁあっ!ああっ!ふわっ、ああっっ!ひぁっ!」
あまりにも艶っぽい優のそんな姿を見て、他の男達もまた臨戦態勢を整えつつあった。
「オレもヤルぞ!」
「おれも」
更に同時に陵辱する男達が増えていく。
男達は、上手く優の身体の向きを変え、自分のモノを優に慰めさせる。
「ぐっむぅっぅぅ……!!」
意識がいくらか戻っている、今の優にとっては、まさにそれは地獄だった。
(…あ…。いつ…も、俺たちがやってきた事が……俺にされているん…だよな…)
優は、また自分が混濁した意識の中に潜り込んでしまえば良いのに…と思いながら、男達の成すがままにされていた。
「ユーちゃん! 出るよ! また、イッパイ出るよ!!」
「うぉぉおおおおっ!!」
「ぐああああああっ!」
男達の叫びと共に、また大量の精子が優を混濁した意識の中へと突き落としていった。




6:

「じゃあねー。ユウちゃん楽しかったよー?」
「俺たちに逆らおうなんて考えちゃイカンゼヨ? 証拠もイッパイ撮影したしねぇ〜」
「あ、そうそう。身体を洗いたくなったら、そこの水道。まだちゃんと出てるみたいだから、それで洗いなよ?
そのままだと、折角のカワイイ顔も台無しだよ」
「じゃ、またあそぼーねー」
「はぁー。優ももったいないよなー。こういう日に限って結局、連絡とれねーんだもん」
「ま、その分俺たちが大満足だったからいいじゃん」
「そだな」
「バーイ」
男達が、それぞれ勝手なことを言いながら引き返す頃には、外も薄暗くなってきていた。
優は、ぐったりと身体を横たえて、身体中に欲望の残骸を纏わりつかせたまま、力なく存在していた。
意識はあるのか、無いのか。
その瞳は中空を彷徨い、唯唯、呆然としているようだった。
そんな状態の優の視界に影が二体浮かび上がる。

それは現実には見えているような見えていないような希薄なモノではあったが。
(……………)
何時の間にか、優は無意識に、その二対の影を注視していた。
すると、影の一体が優に「声」をかけて来た。
それは頭に直接響くような声。
「どうだった? 今まで自分がやってきた事が、自分にされてみると? とても素敵な体験だったでしょ?」
その影は女だろうか?
朧気だった影の形が、段々と鮮明なモノに変わってきている。
その女は浮いていた。
(………!……)
「あらん。そんなに驚かなくてもいいわよ?私、貴方達が言う神様だもの」
女の影はそんな事を言った。
(…?…かみ…さま…。なに…言ってんだ??)
「そんな、疑問はもつだけ野暮よ。私はあの子の願いを叶えてあげただけ。
現に貴方は、だれもが怖がる街のチンピラから、とーっても可愛い女の子になっているんだから。私の力でね」
(!!……)
思考を読まれている!?
自分を女に変えたのはこの女なのか?
そして何より、優が引っかかったのは「あの子の願い」と言う言葉。
あの子?
一体誰が…?
ソイツが元凶なのか!?
「んふ。あの子が誰か知りたいのね?いいわ。じっくりと思い出しなさい。
貴方が間接的に殺したも同然の、あの子をね。―ホラ、もっとコッチに来なさい」
女は、後ろに控えてこちらをずっと窺っていた影を促した。
前に出てくるにつれ、その輪郭は精度を増し、それが何者であるかを優に思い起こさせる。
(あ……、あの顔は……)
優の瞳に生気が蘇る。しかし、それは恐怖の光。ありえないハズの人物が今、自分を見下ろしている。
「……ぁあ、…う…そ…だ…」
驚愕の呟きがこぼれる。
目の前の人物は、もう居ないハズだった。
優の知る限りは。
女は、その人物の後ろに回りこみ、肩から両の腕を絡め、うっとりとした表情で言った。
「どう? この子が貴方に罰を与えて欲しいと願ったの。
私、あんまりこの子が可愛くて不憫に思えたから、本当はいけない事なんだけど、思わず力を貸す事にしちゃったの。
この子を永久に私の物にする事と引き換えにね」
エヘ。
と、まるで神様どころか小悪魔の笑みを浮かべる女。
こんな状況なのに、その表情がとびきり可愛く見える。
女の言っている事は正直滅茶苦茶だ。
だが、現実に自分はこんな目に合い、しかも、目の前には死んだハズの……幼馴染の姿がそこにはあった。
幸治とは違う、もう一人の幼馴染。
中学に入る頃には、友人から、虐める対象へと変わっていた気の弱い、うざったいヤツ。
つい先日、通っている校舎から飛び降り死んだハズの…存在。
幸治から「そいや、あいつガッコの屋上から飛び降りて死んだんだって」と聞かされて、
「あ。そーなの?」と返事をした事を覚えている。
それほどまでに、関係は希薄になっていた。
「…正…樹……」
(そうか…。お前か…お前が俺を陥れたのか……。へ…、死んで呪ってまで、俺の事が憎かったのか…)
優は目の前の少年、美少年と言っても差し支えが無い死んだハズの幼馴染……正樹(まさき)を、
ここ数年で初めて畏怖の対象として見ていた。
「………優くん」
正樹から出た言葉もまた、女と同じように直接頭に響いてくる。
「…僕だけなら良かった……。でも……、君は……。君は…………!!」
物凄い強い絶望と、哀しみと、苦しみと、怒りの思念が優に襲い掛かってくる。
その、思念に圧倒され、優は唯でさえ、弱弱しくなってしまった身体を縮こませてしまう。
「…ひっ……」
無意識に、優は失禁していた。
「あら?オモラシしちゃって、可愛いわね〜」
そんな優の状況を楽しむように女は嬉しそうに笑っている。
優は正直、今すぐにでも逃げ出したかった。
だが、身体はすくんでしまい、まともに動く事もままならない。
今、ここに存在する優は、何の力も持たない、ただの可愛らしい少女だ。
「……思い出せない? 君が何をしたのか。……妹に何をしたのか…!」
「!」
その思念で、優は思い出した。
自分が、正樹の妹を……犯した事を。
(…僕だけなら良かったって……、そういう事か…)
「それだけじゃないよ…優くん」
「…ぇ…」
それだけじゃない?
どういう事だ…。
「君に犯された後、妹…由利(ゆり)は妊娠した」
「…ぁ…」
「由利は苦しんだ…。
そりゃそうさ、信じていたはずの幼馴染の君に犯されて、結局、君に抱いていた由利の気持ちは粉々にされた。
望まない妊娠…」
「……」
「由利の妊娠を知った母さんは、唯でさえ身体が弱っていた処に心労が溜まって、結局死んでしまった」
優は何も言えずに、唯黙って聞いているしかなかった。
反論する気も起きない。
由利を犯したのは紛れも無い事実だったから。
「由利も―…母さんが死んだのは自分のせいだと、苦しんで、結局自殺を選んでしまった。お腹の子と一緒にね。
……優くんは何も知らなかったんでしょ…?」
正樹の視線は冷たく、それでいて哀しいものだった。
「僕は、全部嫌になってしまった。結局、大事な家族を助ける事も出来ないまま、見殺しにしてしまった。
生きている事に絶望した僕は、……情けないよね。結局、死ぬ事で逃げようと思ったんだ…」
「……正樹…」
どういえば良いんだろう?
謝っても意味があるのか?
死んだ人間に謝って意味があるのか?
俺が悪い……のか。
優は自分が彼の家庭を崩壊させた事について、少なからず罪悪感を持った。
それは、何年ぶりの心の痛みだろう?
他人の痛みなど、ずっと昔に置いてきた物だった。
自分が弱弱しい少女の姿になり、今まで自分達がそうしてきたように身体を蹂躙され、心を蝕まれて、ようやく思い起こされた弱さ。
心の痛み。
……俺は、殺されるのかな……結局。
優は、小さく嗚咽を漏らし、そう思った。
そんな優を見つめていた正樹は、言葉を続ける。
「……でも、僕は死ぬ前に思ったんだ。
僕ら家族が死んでも、結局、原因を作る事に一役買った君は、今後も何も後悔もせず、
また僕らと同じような存在を生み出すんだろうな…って考えると、とても悔しかった。だから、願ったんだ」

― 神様。……もし、本当に居るなら、僕の最後の願いを叶えてください… ―

「…とね」
正樹がそう言うと、正樹にしなだれかかっていた、自称”神様”の女はにっこりと妖艶な笑みを浮かべて言葉を引き継いだ。
「んで、私があんまりに可愛そうで私の好みでもあった彼の願いを聞き入れたってワケ。
その後の展開は、優君? 君が体験した通りだよ? どう、今まで自分がしてきた事が、我が身に降りかかってみると?
とーっても哀しかった? それとも快感に目覚めちゃった? あは! 快感に目覚めちゃったら、罰にはならないか」
舌をペロッと出して陽気に笑う。
女の表情は、こんな状況でもたまらなく小悪魔的に魅力的なものだった。
「……俺を…殺す…のか?…」
優はもう、殺されても仕方が無いかと考えていた。
その表情は諦めにも似た、ある意味穏やかなものだった。

……どうせ、このままの姿じゃ、今後まともに生きていけないだろう。
また、繰り返し、男達の慰み者になるだけだ。

優はそう考えていた。
「ん〜。優君はああ言ってるけど、正樹、どうするの?」
「………」
正樹はじっと優を見つめたまま何も語らない。
「ねぇ、正樹。正樹の好きなようにしちゃえば良いんだよ? 私は約束したんだから」
正樹は優の目を見ながら言った。
「………僕は…僕が、君に望む事は…」




― エピローグ ―

淡い光の中、少女は激しく責めたてられていた。
「ぅぅんんん…!…くはぁ…ぁぁぁああっ…!!…ひゃうっ!…」
見事な肢体に甘い香りすら漂わせながら、汗と体液を迸らせる。
少女―…いまや、優(まさる)から優(ゆう)へと生まれ変わった彼女は、
今日も恋人とも言える自分のご主人様―…正樹によって何度も何度も貫かれていた。
「ああぅぅっっ…!…だ、ダメぇ…です…! は、はげし…っ!? ひっやぁぁぁんん!!」
「ダメだよ…。もっと感じて、もっと僕を受け入れるんだ……」

あの時、正樹が望んだ事。

それは……。

「君を安易に死なせたりしない。その姿のまま、死ぬまで生き続けてもらう。……僕と一緒に」

この望みに”神様”は驚いたようだが、
「まっ、惚れた女のよわみですからねぇ〜…。どうせ、正樹の命は私が握っているんだから」
と事も無げに承諾した。
そして、この世界において、優は新たに正樹の従姉妹「黒木優(くろき ゆう)」としての存在に生まれ変わった。
正樹も、新たな生を受け存在を再開した。
この世界で、優は最初から正樹の従姉妹として存在し、正樹は自殺もしておらず生きている事になった。
そんな二人の関係は、前とは違う主従関係になっていた。
……男と女としての。

「……で、でも…!…あっ!? ぁぁぅぅぅううんんっ!!」
下から容赦なく突き上げられて、優は悲鳴を上げる。
新たな存在となってから、二人は毎日交わりあった。
学校でも、家でも、野外でも。
今の優は見えない鎖につながれた、正樹の奴隷。
一生を尽くして、正樹に仕える存在。
もう、元には戻る事は出来ない。
自分も、あの時、それを受け入れてしまったから…。

「あっ!ああっ!!ひうっ!はぁぁああああっっーーーーーーーー!!」

新しい命が、優の胎内で産声を上げようとしていた。


― 終 ―


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