西暦20XX年。
地球上に生まれた新人類“ノウブル”たちは旧人類の上に君臨した。
世界人口の0.01%に満たないノウブルたちが、残りの人間たちを支配したのである。


「おいで、敬介」
手招きをする詩織の口調は、すっかりノウブルのそれになっていた。
敬介は無表情で詩織の前に進み出た。
詩織は三年前、敬介の前から連れ去られた。ノウブルとしての資質が遅れて発現したためだ。
一夜にして、詩織は敬介たち一介の高校生には手の届かない存在になってしまった。高校三年の夏のことだった。
三年ぶりに目にする詩織は、昔のままの姿だった。ノウブルは肉体的な加齢が非常に緩やかになる。
詩織が正真正銘のノウブルである証拠だった。
詩織は迷宮のように広大な館の中を勝手を知り尽くしたようにすいすいと歩いていく。
「ああ、そうだ。忘れてた」
詩織は敬介のほうを振り向くと、ほんの一瞬精神を集中させるように瞼を閉じた。
「……これでいいわ。精神凍結を解除してあげたから」
「あ……」
敬介の表情に生気が戻った。
「詩織! どうして俺を女に変えたんだ!」
敬介は──館のメイドと同じ服を着せられた敬介は、詩織にくってかかった。
敬介の肉体は完全な女に変えられていた。
マリンスポーツで鍛えた浅黒く引き締まった肉体は奪われ、
かわりに白く弱々しい人形のように可憐な姿が与えられたのだ。
たったいままでの人形のような敬介は、詩織に干渉されて感情の一切を凍結された状態だったのである。
メイドの服に着替えろといわれれば機械のように淡々と指示に従っていた。
詩織は眉をひそめた。
「自分の立場をわきまえなさい、敬介。あなたは卑しいメイドなのよ」
詩織が指を鳴らすと、敬介は身動きひとつできなくなった。現実干渉力によって全身を固められてしまったのだ。
突然、股間を引き裂くような衝撃が走った。
ノウブルの力は易々と無から有を生じさせる。
女に作りかえられた敬介の股間の性器に、忽然と凶悪な張り型が出現していた。
それは可憐な花弁を押し開き、秘奥に深々と突き刺さってのたくっていた。
不気味な虫の羽音のようにバイブが唸る。
「あ、くうぅ……!」
「これも敬介のため。敬介は昔からなにかと私に指図をしてきた。
猫を殺しちゃダメ、友達の物を取りあげちゃダメ……あれもダメこれもダメって。
一人前の保護者気取りであれこれ私に干渉してきた敬介がどんなに目障りだったかわかる?
あたしはね、能力が発現するずっと前から感じてたの。自分が特別だって。
そうよ。普通の子ならともかく、私には権利があったのよ。猫を殺すことも同級生の子から物を取りあげるのも。
下等な存在をどう扱おうと、ノウブルであるあたしにはそれが許されてたんだわ。
あたしを叱った敬介が間違ってたの。それをはっきりさせるために、敬介を館に呼んだのよ。
いまは私はノウブル。敬介はただの人間。昔の関係は忘れること。
敬介は私と一緒にここで暮らす以上、ノウブルに比べて自分がいかに卑しい存在か自覚なさい。
あなたはもうあたしの兄代わりじゃない。メイドなの。ノウブルの命令ならどんなことでも喜んで従う、メイドよ」
「くぅぅ……確かに俺たちにはノウブルのような力はない。
だけどノウブルだって俺たちだって同じ人間……あああああ!?」
ヴヴヴヴヴヴ……
秘部に挿入されたバイブが急激に激しく震動し、敬介の言葉を中断させた。
「あ、あああ……!」
詩織が再び指を鳴らすとバイブの震動はさらに激しくなった。
いまは精神のかわりに体を固められている敬介にはどうすることもできない。
ただただ女性器に加えられる野蛮な暴力に耐え、嗚咽に喉を震わせるのがせいぜいだった。
「敬介はあたしに手も足も出ない。喧嘩では誰にも負けなかった敬介が。
あたしは力の百分の一も使ってないのに。──これがノウブルと普通の人間の差。明確な“種”の差なの」
「……みとめ……な……」
「黙りなさい、敬介」
詩織がぴしゃりと言うと同時に、真っ黒な張り型が現れて敬介の小さな口をいっぱいに塞いだ。
「んむぅぅっ!」
「ンフフ。いい姿。お似合いだわ、敬介」
詩織は敬介のふくらんだ胸をまさぐった。
「う、ううっ!」
張り型に口を塞がれ、抗議は言葉にならず、ただ唇の端からみじめに唾液がこぼれただけだった。
身動きできない敬介の胸をもて遊び、詩織の指が胸の先端の敏感な蕾をきつく摘んだ。
「んんぅ、んんんんぅぅ!!」
強烈な痛みだけでなく、その感覚には快楽の種子も含まれていた。
詩織の指がコリコリと蕾を転がすと、はっきりと快感がそこに生まれた。
「んんんんっ!!」
敬介の意思など関係なく、胸の蕾は固く立ち上がってしまった。
快感を意識させられていくにつれ、秘奥を貫くバイブの震動とうねりまでもが、ただの苦痛ではなくなってきた。
甘美な被虐の快感がじわりじわりと作りかえられた体に浸みてくる。
すっとスカートの中に手が差し入れられた。
詩織はバイブを埋め込まれた敬介の股間をためらいもなくまさぐった。
「なあに、このベトベトする汁は? 敬介、まさか感じてるの?
女に変えられてメイドの姿をさせられて、それでこんなに愛液垂れ流すなんて、恥を知りなさいよ」
愛液でぬらぬらと光る指先をつきつけられ、敬介は悔しそうに目を伏せた。
屈辱に敬介の頬が紅く染まった。
「バイブを美味しそうに呑み込んで愛液垂らしてるような変態の敬介に男言葉なんていらないわね。
いまからお前はメイドらしい言葉遣いしか許さないわ」
詩織の命令は強制力を伴っていた。
敬介は見えない力が自分の精神に触れ、どこかを一部分を勝手にいじり、作り替えていくのを感じた。
敬介の口を塞いでいた張り型を詩織がピンと弾くと、それは一瞬にして消滅した。
「あ……」
口の中にたまっていた唾液がこぼれそうになり、敬介はとっさに手で口を押さえた。
猿轡代わりの張り型が消滅すると同時に体の自由も戻っていたのだ。
それを悟った敬介は、いまだ股間で暴れているバイブを引き抜こうとした。
「そんな……」
股間のバイブは継ぎ目の見えないストラップによって完全に敬介の腰に固定されていた。
どんなに鶏鳴に引っ張ってもバイブを抜くことは許されず、
それどころか微妙に力が加わって膣内にバイブがより深く突き刺さり、敬介を悶えさせた。
詩織はそんな敬介の姿を冷ややかに笑いながら眺めていた。
絶え間なくバイブは蠢き続ける。
「し……詩織様、どうかお許しください」
敬介は自分の口から出た声の響きにぎょっとした。
ただか細い女の声になってるだけではない。
さきほど詩織が“強制”したように、敬介の言葉は主人に哀願するメイドのそれになっていたのだ。
出てしまった言葉を押し戻そうとするように桜色の唇を手で押さえる敬介。
それを見た詩織が甲高く嘲笑った。
「お……わたくし……わたくしは……くぅ、言葉が勝手に……」
「アハハハ。もっと可愛くお願いするなら考えてあげてもいいわ。
お前の薄汚いオマ●コでのたくってる物を消してほしいの?」
「あう……はい、詩織様。どうかわたくしのオ●ンコからバイブを抜いてください」
自分自身の言葉に辱められ、敬介の目にうっすらと涙がにじんだ。
詩織が手を振ると、あれほどきつく固定されていたバイブがフッと消え失せた。
「どう、敬介。これで少しは自分の立場が理解できた?」
「詩織様、わたくしは……」
敬介は形のいい唇をきっと引き結ぶと、平手を振りあげ、詩織の頬を張った。
ぱしっ!
小気味いい乾いた音がした。
詩織はきょとんとした顔で、打たれた頬を押さえた。
「人の尊厳を踏みにじることは許されないです。いくらノウブルでも」
詩織の唇が濡れ、微笑みの表情を浮かべた。
「……そう」
詩織の瞳に浮かんだのは炎のような色だった。
「人の尊厳、ねえ?」
「し、詩織様……」
気圧されるように、敬介は一歩後退った。
もう一歩下がろうとしたとき、敬介はふらりと上体のバランスを崩していた。
「きゃうっ!」
前方につんのめるように倒れかけて、あわてて両手を床についた。
敬介は自分の身に何が起きているか分からないでいた。
両手をついた姿勢から立ち上がろうとして敬介は愕然とした。
「あう……どうして起き上がれないの……!?」
立ち上がろうとするたび、重心がおかしくてバランスをくがし、すぐに両手を床についてしまう。
どんなに頑張っても立ち上がれなかった。
「どうしてって? 決まってるじゃない。犬は四つ足で歩くものなのよ」
「犬!? そんな……ひどいです!」
「ふうん、まだ人間の言葉が喋れるんだ?」
「え……あ、きゃうぅ……」
俺は人間だ!
そう叫びたかったのに、敬介の口から出てきたのは犬の鳴き声だった。
「キャン、キャン……あぅぅぅ……あうあう……キャンッ!」
「あーあ。キャンキャンうるさいメス犬だこと。クスッ」
「あうううぅぅぅ!」
言葉はいともたやすく奪われ、犬の唸り声しか出せない。
尾てい骨のあたりに妙な感覚があった。人間には存在しないはずの器官が、骨格が、そこに生じている。
敬介の尻に、ふさふさと柔らかな毛で包まれた尻尾が触れた。
やがて敬介の耳にも異変が生じ、耳の感覚が頭頂近くへと移動し、同時にその形も変わった。
耳を意識するだけで、ぴくぴくと勝手に耳が動いた。三角形をした犬の耳が髪の間から突き出ていた。
詩織が手を開くと、その手に手綱が現れた。手綱の先は、いつのまにか敬介の首に巻かれていた首輪に繋がった。
「おいで、敬介」
「くううう……キャンキャンッ!」
強く首輪を引かれ、情けない犬の悲鳴が口をついた。
手綱を強くひきしぼられると敬介はその動きに従うよりほかなかった。
惨めに両手をついた四つん這いの体勢で敬介は館中を連れ回された。
その姿勢で歩くたび、メイド服の上からもそれとわかるぐらい胸の双球が揺れ、屈辱を倍化させた。
館のノウブルとすれちがうたびに詩織は深窓の令嬢そのものの仕草で挨拶をする。
そんなときノウブルたちは詩織には優しく微笑みかけ、次いで敬介に目をやり、冷笑するのだった。
「可愛らしいペットを連れてること」
「ええ。詩織の新しいペットですの」
敬介ははぁはぁと舌を出して息をした。そんなことはしたくないのに、自然とそうなってしまう。
ノウブルたちが敬介を見下ろす目はまさしく家畜を見る目つきに他ならなかった。
館をひと巡りし、詩織は地下のとある一室の前で足を止めた。
「ここが犬小屋がわりの部屋なのよ」
詩織が戸をあけると、中からむっと獣の臭いが漂ってきた。
「ううう……」
敬介が尻込みをしていると詩織がまた強く引き綱を引いた。
首が絞まりそうになり、敬介は抵抗できず、よろよろとその部屋に足を踏み入れた。
暗い部屋の中に誰かがいた。
敬介と同じように両手を床につき、首輪をはめられた誰かが。敬介と違って、その誰かは全裸だった。
尻尾と耳だけが本物の犬と同じように毛皮に覆われて生えている。
──有紀!?
その犬は、敬介の恋人の顔をしていた。
「うぅぅ……」
低く悲しげに唸り、有紀は顔をそむけた。
有紀!
そう叫んだはずだった。
「アウ、アウウウ、アウッ!」
代わりに敬介はメス犬そのもののように吠えていた。
「ユキ。もうわかってるわよね? これ、敬介だよ」
敬介は変わり果てた姿の有紀へ近寄った。
有紀の股間に奇妙な“モノ”を認め、ぎょっとして敬介はその場に固まった。
全裸の女性の身体に、そこだけ不似合いな男の器官がついていたのだ。
「そう。その女はオス犬にしてやったの。敬介はメス犬。お前たちはつがいで飼ってあげるわ。キャハハハ」
目の前の光景も、詩織の言葉も、敬介には信じられなかった。信じたくなかった。
どんな悪夢よりも酷い現実がそこにあった。
敬介の見ている前で、有紀のペニスがゆっくりと角度を上向きにしつつあった。
「うぅぅぅ、うぅぅぅぅぅ……!」
己の身体の反応を恥じ、有紀は唸った。
「アウ、アウ、アウウッ!」
敬介は叫んだ。
頬を涙がつたっていった。
有紀の身に起きた変化だけでない。敬介の股間でも、女の花びらがひとりでにほころび、蜜で潤い始めていたのだ。
二人の体の反応を見計らったように詩織は言った。
「そうそう。お前たち両方とも、いま発情期だからね」
「…………!」
有紀のペニスから漂ってくる牡の臭いが、どうしようもなく敬介の体を甘く疼かせた。
花弁がどろどろに溶けたように濡れ、乳房の先で乳頭が痛いほど固く尖りきった。
どうしようもないほど、敬介は発情していた。──雌として。
「お前たちがセックスしないでいられたら、人間に戻してあげるわ。
……もっとも、メス犬の敬介が我慢できるわけないけどね。アハハハハーッ!」
詩織の笑い声が閉じられた戸の向こうで響くのを、敬介はぼんやりと聞いていた。
「クュゥゥン……」
かつて有紀という女性だった雄犬が、ゆっくりと近づいてきた──。

一週間後……。
詩織はその部屋のドアを開けた。
射し込んだ明かりに気がついた敬介が、詩織のほうを見た。
「メス犬のケースケ。どう気分は?」
敬介は答えなかった。いや、答えられなかった。
二匹の犬の激しい息遣いが部屋中に響き渡っていた。
四つん這いになった敬介の上にのしかかった有紀が、壊れた機械のように激しく腰を振っていた。
「ア、ア、アウ、あうぅぅぅン!」
敬介は犯されながら、鼻にかかった甘い声で乳房と尻をふっていた。
ボロボロになったメイド服は獣の精液で汚れきっていた。
「ねえ、ケースケ。人間の尊厳がなに? どの口がそんなこと言ったのかしら?」
詩織は近づくと、むき出しになった敬介の胸を掴み、グイと乳首を摘んだ。
「アウウウゥゥ!」
敬介はひときわ甲高く叫んでイッていた。
有紀がひときわ深くペニスを突き立て、敬介の体の中でドクドクと精を放った。何度目ともつかぬ射精。
結合部からぽたぽたと白濁液があふれ、こぼれ落ちた。
ひとときだけ獣の発情から解放され、わずかな理性をとりもどしていく敬介の頭を詩織は優しく撫でた。
「ケースケ。お前、孕んだわよ。おめでとう。子犬が生まれたら見にくるわね」
もう一度愛おしそうに敬介の頭を撫でると、詩織は立ち上がり、部屋を後にしていった。
絶望が敬介の心を支配した。
そして、その絶望をも忘れるほどにメス犬に変えられた体は疼いていた。


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