もう、徹夜続きで体力が涸れ果てている。
高熱を出してぐったりとした感じや、マラソンとかで体を限界まで動かし尽くしたような、
それでいながら意識は奇妙に冴え渡っている不思議な状態だった。
「新之丞、なにしてるんだよ」
 俺は上に乗っかってきた新之丞を払いのけようとするが、どっかりと腿の上に乗っているので、手が届かない。
「重いぞー、しんのすけぇ〜〜」
 返事が無い。
 睡魔が否応なく俺をやすらぎの世界へ連れていこうとするのに、上に乗っている新之丞がそれを妨害する。
「寝かせろ〜。体力が保たない。眠い。どけ〜、しんのすけー」
 もがもがと枕に顔を埋めて言う。
 ああ、なんかいい匂いがする。これが『真琴』の体臭か。
微香料のシャンプーと汗の匂いは、まるでお袋の腕の中に抱かれているような感じだ。
 意識が、すぅっ……と落ちた。

 ――あ、眠っちゃう。

 ところが。
「……うんっ? んんっ、やぁっ!」
 いきなり目が、ばっちんと覚めた。眠りの世界から突然引き戻されて、前後不覚状態だ。
「な、なに、何っ!?」
 頭の中は大パニック。起き上がろうとするが、誰かが俺の体を押さえている。
 新之丞だ。やつの指が体をつぅっとなぞっている。
「ひゃあっ! な、なにっ! どうして、こらっ!」
 ビリビリと物凄い痺れが体を走る。元気のいい海老のように体が跳ねてしまう。
 ばたばたと暴れようとするけれど、どうしても体がいうことをきかない。
新之丞の指が、また俺の体をなぞる。こんどは脇腹だ。
「しん、新之丞、やめっ、んやあっ! やめて、やめてっ!」
「凄いな、『真琴』。服の上からでもこんなに感じてるよ……」
「まこ、真琴っていわ……言わないでっ」
 同じ発音のはずなのに、微妙な言葉の差が今の俺にははっきりとわかる。
 心臓が、どっどどっどと激しいリズムで踊っている。
 頭に血が昇って、顔も真っ赤になって火照っているのだってわかる。
「真琴は真琴だろ?」
 新之丞は俺の脚の上に乗っかって、背中を指でなぞり続ける。
「だ、ダメだって! こ、こら、やめろって!」
 じわーっと体が熱くなってくる。
 いや。はっきり言えば、股間がじっとりと湿っているのがわかる。勃起するのとは全然違う、滲むような痺れる感覚だ。
 だんだん頭がくらくらしてくる。
 そして新之丞の指が、嫌ではなくなってきた。
 息が荒くなってくる。
「だめ……ダメだって、新之丞」
「そう言ってる割には抵抗しないなあ」
「だって、力が入らないから……」
 その言葉は事実でもあり、半分は嘘だった。
 気持ちがいい。もっと触って欲しい。
 それが本音だった。
 どこか変だと思う一方で、これが当たり前……望んでいたことだと思っていた。
 新之丞は抵抗できない俺をひっくり返して、トレーナーの上から胸を覆うようにつかんで言った。
「なあ、幾つ?」
「な、何が?」
 すると新之丞は乳首のあたりを指でくるくるとなぞった。
「うふぅんっ!」
 思わず体がのけぞってしまう。ブラの下で乳首がきゅうっと固くなるのが自分でもわかった。
「もう一度聞くけどさ、胸、何カップ?」
「……じ、Gカップ……65の……」
「うわ、G……すげぇなあ。巨乳だよ」
 俺……いや、『あたし』は羞恥に頬を染める。トップが91センチあるって言ったら、新之丞はどんな顔をするだろう。
 心の中でどんどん、『あたし』が占める位置が大きくなってゆく。
違う人物の心のはずなのに、あたしは本当は男なのに、違和感がどんどんなくなってゆく。怖い。
怖いけれど、それ以上に自分の体が熱くなってくるのがわかる。
「巨乳って、なんか頭悪そうな言い方……」
「嫌い?」
 新之丞があたしの乳首を服越しに指でつまむ。乳首が立っちゃっているのがわかってしまわないだろうか。ちょっと心配だ。
「んふぁっ! き、嫌いだよぉ……そんな言い方……」
 あたしは顔を横に背ける。
 すると新之丞はトレーナーを一気にまくりあげようとする。
「きゃあっ! な、何すんのよっ!」
「何すんのって……誠、女みたいな言葉しゃべってるな」
「だって、あたし……あたし……ん……」
 新之丞が唇を重ねてきた。
 舌と、唾が入り込んでくる。
「ん、うん……っ!」
 体とからだを重ね、彼の背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。
 どうしてだろう。なぜか、とても安心する。
 彼の体がとても大きく感じられる。
 今のあたしは、以前の……『誠』の時の半分以下の体重しかない。大人が子供になってしまったようなもの。
だからなのか、心まで幼くなってしまったみたい……。
 胸が苦しい。
 反発する心と、彼を愛しく思う心があたしの中でぐるぐる回っている。
 つんつんとつついてくる新之丞の舌を、あたしは恐る恐る、自分の舌で迎え入れる。途端に、体が弛緩してしまう。
 だめ……。
 体がふわぁっと浮いてしまうみたい。
 頭の中はパニック状態なのに体は、ぽっぽぽっぽと熱く火照っている。特に下半身が熱っぽい。
 じゅわっと濡れる感触がする。
 もっと体を重ねたい。なのに、唇と唇が重なっているので、密着感がどこか物足りない。あたしは、新之丞に飢えていた。
 もっと、もっと新之丞が欲しい。ただ、それだけがあたしの頭の中を占めていた。
 長い長い口付けが終わってから、新之丞が言った。
「そうそう。この前、言い忘れていたんだけどさ。実は俺、最初っから……誠が女になっていたって、知ってたんだ」
「え?」
「俺んとこにも悪魔のお姉ちゃんが来たんだよ」
 止まらない新之丞の指の愛撫に体をくねらせながら、あたしは聞き返す。
「真琴が気に入ったなら押し倒してしまえってね。そうすれば男に戻ろうなんて思わなくなるからってさ」
「そんなっ!」
 あたし、いや、俺は新之丞の手から逃れようと体をよじる。
「だから、『女』にしちゃえってさ。意味、わかるだろ? 俺、ここ何日か真琴と一緒に居て、たまんなかったよ。
真琴の匂いや仕草が、すっごく可愛くてさ」
 抱きかかえられながら、背中を撫でられる。だめ……力が抜けちゃう。
「最初に真琴を見た時さ。お前が女だっていう記憶があるなんて最初に言っちゃって、めちゃくちゃ焦ったぜ?
 もし、お前に問い詰められていたらやばかったな。だって本当はそんなもん、無かったんだから」
 新之丞の手が、あたしの下半身に伸びてゆく。
「だめ……」
「そう? でも、止めないぜ。俺、真琴が欲しい」
「だめ……」
 声が、甘い。甘えた声になってる。
「だめ?」
「だめ」
「でも、ダメ」
 指が、あたしの股間をつぅ……っと撫でる。
「うんっ!」
「あ、いいんだ♪」
「ち、違うっ! 良くないっ!」
「真琴は素直じゃないなあ」
「やめろって、こら! 新之丞!」
 あたし……俺は少し自意識を取り戻した。
いかんいかん、このままでは新之丞に押し倒され……って既に押し倒された状態だけど、やられてしまう。
 やばいぞ、これ。力はふんにゃりと抜けちまってるし、そのくせ、体はどこを触られても敏感に反応しちまう。
こうしてベッドに横たわっているだけでも、ベッドのスプリングや、服の摩擦さえもが気持ち良くてたまらない。
「いい加減にしないと怒るぞ!」
「怒ってもいいよ。俺、真琴になら何をされてもいいや。だって、本当の兄妹(きょうだい)みたいに育ってきたもんな」
 ん? 何か微妙に腹の立つニュアンスでしゃべってやがるな、こいつ。
「だっ、誰が兄だっての! あんたが弟でしょうが!」
「じゃあ、お姉ちゃんに甘える弟ってのでもいいや」
「よく、ないっ!」
 シャツの裾から直接素肌に触れてきた。
「うわ、何っ、こ、これっ!? やだ!」
「すっげ……すべっすべだぁ……」
「誰、が、スベタ、だって……の!」
「うわ、真琴、いいスタイルなんだな。もっと良く見てみたいな」
 どこか混乱しているようだ。あたしと、俺がごちゃまぜだし、会話が成り立っているようで、成り立ってない。
新之丞は黙って俺の体に手を這わしてゆく。ダメだ。体がジンジンと痺れて、気持ち良くて仕方がない。
「うっ……この! いい加減にしろ……ン!」
 再びキスされた。
「ン……んふっ……あ、ン」
 ぴちゃぴちゃと濡れた音が口から漏れる。
 ああ、いけない……また頭に霞がかかってくる。
抵抗しようとして振り上げた手を、新之丞の首筋に巻き付け、引き寄せてしまう。
 胸の中でぐらぐらと沸騰するものがある。
 本来なら、それはたぶん、怒りなんだろう。だけど今は、違う物に転嫁されてしまっている。
不条理なのに――いやそれだからこそ熱い。
 どうしてだろう。
「はーい、下も脱ごうね」
 物思いに耽っているというのに新之丞はあたしから唇を離すと、さっさとジャージの下を脱がせにかかった。
「やだ、バカ! 新之丞っ!」
 足をばたばたさせるけど、新之丞にあっさりと剥ぎ取られてしまう。
 バカ新之丞。乙女(?)の純情(?)を何だと思っているんだ。
 ううっ、すっかり心が女の子になってしまっている。
 困った。このままでは最後まで……。
「うわっ! 真琴、べっとべとだぜ? ほら」
 新之丞があたしの迷いを断ち切るかのように、股間に指を当てて言った。
「びしょびしょだし、おまんこの形までわかっちまう。真琴、スケベなんだな」
「ば、バカぁ……」
 返す言葉も無い。だって、確かにここ二日は、いつもは穿かないようなちょっとセクシーなショーツを穿いていたからだ。
新之丞が顔を近づけて、スンスンと犬のように鼻を鳴らした。
「なんだろう、これ……墨汁みたいな匂いがする」
 あたしの顔が、かあっと熱くなる。
 そう。あたしは感じてくると、そういう匂いを出すようになるみたいだ。
数日前にシャワーを浴びた時、どうしても我慢できなくて、この体で初めてオナニーをした時、あたしはそれを『発見』した。
 疲れた体にまとわりつく倦怠感と、身体中にじわっと広がる濃厚な快感。
 はまってしまった。
 それからは、椅子に座っていても無意識のうちに股間をペンでなぞっていたり、
ジャージをまくりあげて胸を揉んでいたりした。
新之丞がいる時はがまんしていたけれど、一度あの気持ち良さを味わってしまったあたしは、
もはや快感には抵抗できなくなっていたのだろう。
 新之丞はショーツの股布の部分に指を入れて引っ張る。指の感触に、あたしはびくん、と震えた。
「へぇ……真琴って結構濃いんだ」
「いやぁ……」
 あたしは顔を手で隠しながら、いやいやをする。まさに、頭隠して尻隠さずといった状態。
こんなことになるんだったら、手入れをしておくんだったという考えが、ちらっとあたしの頭をかすめた。
 ああ、もうあたし、すっかり女の子になっちゃってる。
 弟のようだった新之丞に、いいように弄ばれている。それが悔しくて悔しくて、たまらない。
抵抗したいのにできないのが、どうしてだかわからない。
 新之丞はぐったりと力を失っているあたしのショーツを脱がせて両脚を抱えて自分の方に引き寄せると、
左右にばくっと開いた。あたしは恥ずかしくて、目をつぶって顔を横に背ける。
「いい匂いがするぜ。真琴の匂いだ」
 腿の内側に息がかかっている。
 なんか凄い格好をしているような気がする……。
「ぬるぬると光ってて、おいしそうだ。それに綺麗だよ、すっごく。
びらびらがこんなに切れ長なのに、おまんこは小さいんだな。……そうか、濃いって言っても上の方だけか。
下の方はほとんど生えてないなあ」
「もぉ……な、何言ってんのよぉ……」
 息が苦しい。
 心臓が体の中で暴れまわっている。
「食べちゃっていいかな?」
「やだ、汚いから……」
「真琴のだったら何だって平気だよ」
 新之丞はためらいもせずにあたしの股間に顔を埋めてきた。
「ひゃあっ!」
 彼の髪の毛が腿に当たって、擦れて、すごくくすぐったい。
「や、やだ! くすぐったいよ、やめっ! ……ん、やぁっ!!」
 ぬるん、と大きな何かが挿(はい)ってくる。
「ん、ぎ、ふっ!」
 ガン、ガン、ガンッ! と続け様に衝撃が走る。続けて上下の感覚が消え去った。
「いやあっ! やぁぁぁぁっ!」
 背中にベッドがあるのに、重力が感じられない。新之丞の舌があたしの中をかき回す度に、部屋がぐるぐると回転する。
ジェットコースターどころか、曲芸飛行をする飛行機にでも乗った気分だ。
 新之丞は丁寧にラヴィアを舌で舐める。もどかしい。中に挿し入れる。かき回される。
内側をぐるっと、ざらっと舐められて意識が飛んだ。戻っては飛び、飛んでは戻りと、何度も繰り返す。
 イク……と言う余裕すらなかった。下半身が重くなってくる。
クリトリスを吸われた時は、新之丞の頭を脚で締めつけてしまったほどだ。
 しばらく翻弄されてから、あたしは新之丞の手が止まったことに気がついた。
「新之丞……?」
 ベッドの上に姿が見えないなと思ったら、床に座ってあたしの足首をつかんでいた。
何をするんだろうと思っていると……足の指を舐められた。
「ひぃ……やぁっ!」
 足を縮めようとしても、足首はがっちりと捕まれている。
 くすぐったいという感覚が頭に届く頃には、すっかりキモチイイという信号に変わっている。
あそこが……おまんこが、指をしゃぶられる度に悲鳴を上げている。
「おっ、真琴って潮吹くんだな」
「やだぁ……」
 自分では自覚していなかったけれど、腿やシーツが濡れている。お尻の方に伝うものも感じる。
これって、愛液じゃなかったんだ……。
 あたしが足下の方を見たので、新之丞が言った。
「ほら、見てみろよ」
 止める間もなかった。新之丞があたしの足の親指をしゃぶると、お尻が踊った。
 今までで一番強い快感だった。自分のあそこから、まるでおしっこのような液体が、ぴゅっと吹き出したのが見えた。
 頭の中が恥ずかしさで真っ白になる。
 どこまでいってしまうのだろう。どこまで感じてしまうんだろう。
 でも、不安は新之丞に足の指をしゃぶられるたびに、快楽で打ち消え去れていく。迷う余裕も消えてしまう。
 気がつくと、あたしは両脚を新之丞に抱えられていた。
 新之丞は裸になっていた。
 男の裸なんて見慣れているというのに、どうしてか新之丞の裸を見るのが恥ずかしくて、あたしは彼から目を背けた。
見られることより見る方が恥かしい、と思うのが不思議だった。
 心臓の激しい鼓動はおさまらない。このままだと高血圧で倒れてしまうかもしれない。それくらい、ドキドキしている。
「いくよ」
 言わないで欲しい。だって、身構えてしまうから。
 新之丞のが、入って……くる!
「んっ……」
 力が入んない。
ふにゃーっと体が崩れるような、ゼリーになってしまったようなあたしの中に、新之丞の固い部分が押し入ってくる。
「ん、あれ? これでいいのかな」
「え?」
 ぐいっと、いきなり奥の方まで入ってきた。ちょっと痛いけど、ずきずきとするほどでもない。
 あたしが顔を上げると、凄い光景が目に飛び込んできた。
 うわあ、これは女の子しか見られない絶景だわ。AVだとこういう視線からは見られないもんね。
でも、女の子の視線で見ても、男はあまり嬉しくないかな。
「ちゃんと入ってるのか……うわ、血が出てきた!」
「バカ! 最初は血が出るのが当たり前じゃない……もぉ……」
 大きなおっぱいの向こうに、血にまみれたペニスがゆっくりと出入りしているのが見える。
うう、新之丞、意外と大きい……って、ちょっと待って!
「ちょっと! し、新之丞、避妊してよ!」
「え? 今日は大丈夫な日なんじゃないの?」
 思わず頭の中で計算する。えーっと……今は高温期というのだから、大丈夫かな。
こればかりは『真琴』の知識があったことに感謝する。
絶対妊娠しないわけじゃないだろうけど、なぜかそうはならないという妙な自信というか、確信があった。
「普通、そういうのは前に訊くもんでしょ」
「真琴に言ったって、教えてくれるわけないだろ」
 言われて、あたしは納得しかけた。
 けど。
「言う暇も与えてくれなかったのは、どこのどいつ?」
 あたしの胸の上あたりにある新之丞の頭を、ぺしっと叩いた。
「なんか俺達、普通じゃないかも」
「普通じゃないね」
 あたしと新之丞はお互いの顔を見て、笑った。
「凄くリラックスしてる」
 痛くないわけじゃないけど、指をちょっと切ったくらいの感覚。
それよりも圧迫感と、どう表現していいのかわからない満足感のようなものがある。
 兄弟のように育った新之丞と、セックスしている。
 一月前だったら笑い話にもならなかった関係になっている。
 不思議としか言いようがない。
 新之丞は上に覆い被さりながらも、じっとしている。
だけど、あたしの中にあるアレがひくひくと動いている。ただそれだけで、気持ちがいい。
「う、動かないでよぉ……」
「真琴のおまんこがひくひくしているんだけど?」
「ばか……」
 じゃあ、これで動かれたらどうなっちゃうんだろう?
 あたしの考えを読み取ったかのように、新之丞が腰を動かし始めた。
ゆっくりと、いたわるように、入口付近を浅く、角度を変えながら……。
「あはぁ……いやぁぁ……」
 結合部分から目が離せない。
 胸が震えると、それだけで感じてしまう。新之丞に触れている部分が、動く度に擦れて気持ちがいい。
彼の固い肌と、自分の柔らかい肌。男と、女。あたしは突っこまれ、出される側。
 そんなのは嫌だと思う気持ちとは裏腹に、あたしの体は新之丞を受け入れて悦んでいる。
 新之丞の動きが徐々に大胆になってゆく。
「いや、だめ……痛いよ……」
 あたしの訴えなんか、新之丞は聞いちゃいない。それに、痛いなんていうのはほとんど嘘だ。
痛みより、快感の方がはるかに大きくなっている。脳が、ピンク色の麻薬でどろどろと溶けてゆく。
「あっ、あっ、あっ! しんっ、新之丞っ!」
 怖い。落ちてゆく。体が浮いているようなのに、どこまでも落ちてゆく矛盾した感覚があたしを襲う。
新之丞は黙ってあたしと抱き合う。腰の動きがゆっくりと、でも、ねじ込むようなものへと変わってゆく。
「ひゃっ……ひゃ、ひゃめぇ……」
 声が裏返っちゃう。目の前に星が、いや視界がきゅうっとせばまってゆく。あたしは新之丞を抱く手に力を込める。
 どくんっ!
 下半身が爆発した。
 あたしは全身の力を込めて新之丞にすがりつく。彼の……新之丞のが震えて、あたしの中に精液を吐き出しているのがわかる。
 嫌悪と愛しさという相反する感情を抱いたまま、あたしの意識はホワイト……いや、ピンクアウトしていった。

***

 新之丞は疲れ果てたのか、軽いいびきをかきながら寝ている。
その隙にあたしは、ぽてぽてと暗い廊下を歩いてシャワーを浴びに行った。
 部屋を出る時から、何も着ていない。素裸だ。でも、気にならなかった。
 体中、新之丞と自分の獣のような濃い臭いがへばりついていた。それがあたしの理性を麻痺させていたんだろう。
 中に出されてからも、あたしと新之丞のセックスは終わらなかった。
 一度「して」しまったからか、あとは坂を転げ落ちるように理性に歯止めが効かなくなっていた。
 何時間もかけて、あたし達は貪るようにセックスを楽しんだ。言葉も無く、性器がひりひりするまで、激しく求めあった。
ペニスの皮の表面が何箇所も切れて、うっすらと血がにじんできても、新之丞はあたしから離れなかった。
あたしも新之丞を離さなかった。
 上に乗っかっている新之丞が寝ていることに気がついたあたしは、
それでもなお固いペニスに貫かれていて、しばらくはそれで楽しんだ。
そして柔らかくなるまで、ずっとそのまま眠っている彼を下に組みしだいて犯した。
もちろん、精液なんかとっくに出尽くしていた。
 シャワーを浴びると、少しずつ理性が戻ってきた。
 浴びながら、あたしは泣いた。
 どうしようもなく、新之丞に惹かれている自分が悲しかった。
 ああ、そうだ。
 思い出した。
 あの、メイアって悪魔が言っていた。
「男に戻りたいんだったら、心の底から戻りたい! って願いなさい。だから女の体で深入りはしないことね。
女の快楽を知ってしまうと、男の精神の『芯』が折れてしまうから」
 確かにその通りだった。
 もはやあたしは、『俺』に戻れない。
 元に戻りたくても、戻れっこない。体は戻れても、心が死んでしまう。男なのに、女の快感を求めてしまう。
 心が、折れてしまった。
「ああぁぁぁ……」
 涙が出た。
 次から次へと溢れて、止まらなかった。
「う、うわぁぁぁぁ……」
 声を押さえようとする。
 でも、止められない。止められるはずもない。
 兄弟のような感情。幼なじみとしての感情。親友としての感情。
それがいつの間にか、彼への恋愛感情に繋がってしまっていた。
 あたしが大きく変わったわけじゃない。
 ほんの少し。ほんの少しだけ、あたしの中で心が動いた。それだけで、あたしは新之丞が好きになってしまった。
幼なじみとして、いや、本当の兄弟のように、産まれた時からほとんど一緒に新之丞と過ごしていたあたしの中には、
彼が大きな位置を元から占めていた。
 男のままだったら、決して恋愛感情にはならなかった。
 女として産まれていたら、やっぱり恋愛感情を抱くことはなかった。
 男として産まれ、育ち、そして女へと変えられたから、あたしは新之丞を異性として好きになってしまった。
いや、させられてしまった。
 新之丞が、あたしを変えたんだ。新之丞があたしを犯したから、あたしの中でスイッチが変わってしまった。
 だけど、怨めない。
 だって、あたしは新之丞が好きだから……好きになってしまったから。
 あたしは胸を震わせて、吐くように涙を振り絞った。
 三十分ほどもそうしていただろうか。
泣いて体の中にあった物を吐き出し尽くしたように、あたしの体はすっきりと軽くなっていた。あらためて髪を洗い、体を洗う。
そしてまたシャワーを浴びて、バスタオルを巻いて部屋へと戻った。
 ドアをそっと開けると、寝息が聞こえない。
 薄暗い部屋に目を慣らしていると、新之丞がベッドに腰を掛けてこっちを見ているのがわかった。
「おいで」
 ふら……と、あたしの脚が新之丞に吸い寄せられるように動く。
もう、体が疼いている。新之丞に見つめられただけで、さっきまでの快感が蘇ってくる。
 断頭台のギロチンの刃が落ちるように、ドアが閉まった。
 バスタオルが、はらりと床に落ちた。

 あたしは心の中で、『俺』に別れを告げた。
 なのに、出てきたのは涙なんかじゃなく、淫らな汁だけだった。

 そしてあたしと新之丞はまた、互いの体に溶けこもうとするような激しい交わりを始めたのだった……。

***

 気がつくと、夜が明けかかっていた。
 確か仮眠をとろうとしたのが夜の八時ちょっと過ぎだったから、十時間もセックスし続けていることになる。
休み休みとは言え、新之丞のタフさには驚かされる。あたし……いや、『誠』はこんなに絶倫じゃなかった。
我ながら、この貪欲さには呆れるばかりだ。うん、なぜかこっちの方が恥かしい。変だな。
 もう作業に戻らなきゃ、という思いは頭の中にあるのに、どうしても新之丞から離れることができなかった。
「んふぅ……新之丞ぇ♪」
 あたしは新之丞のペニスを涎でべとべとにしながらしゃぶっている。
頭の中はもうセックスのことだけで一杯だ。ベッドに付いた赤い血の染みも、もう気にならない。
だって、フローリングの床やシーツは二人の汁でべとべとで、そのくらいのことはもはや大したことじゃなくなっている。
 一秒ごとに、あたしの中で新之丞への想いが書き換えられてゆく。
新之丞があたしを貫く度に、心の中の澱が少しずつ清められていくみたい……。
 男のペニスをしゃぶるという行為はもちろん初めてだし、そんなことをしようとも思わなかった。
なのに今、あたしは顔をぽっぽと赤く染めながらではあるものの、一生懸命に舐め、しゃぶって、咥えている。
 どうしてだろう?
 なんで、嫌じゃないんだろう。
 妙に冷静な頭の片隅で、あたしは考える。
 きっとそれは、相手が新之丞だからだ。自分の次に良く知っている相手だからこそ、そして今の自分は「女」だから……。
 もし、最初からあたしが女だったら、どうなっていたんだろう。こんな風に新之丞とセックスをするようになったかな?
答えなんか出っこないけど、どうしても考えはそこにたどり着いてしまう。
 新之丞があたしの肩に吸いついた。
 また、頭の中がからっぽになってゆく。
セックスをしている時のあたしは、かなりバカになっていると思う。というか、恥知らずの淫乱なんだろうか?
 ふと、頭にあるアイデアが浮かんだ。
「新之丞、ベッドに座って」
 ベッドの端から足を下ろしてベンチに腰をかけるような姿勢になった新之丞にまたがるようにしながら、
あたしは腰を下ろしてゆく。
「わぁ! 真琴のオマンコが丸見えだ」
「こ、こらぁ……そんなこと、言わないでよぉ……」
 彼の肩に手を置き、ゆっくり、ゆっくりと腰を下ろしてゆく。上を向いた新之丞のペニスが見える。
 唾を飲み込んだ。
「や、やだ……」
 ジュースが、とろ……っと溢れ出てしまった。
新之丞が、くくっと声を押し殺して笑った震えが、肩に置いた手から伝わってくる。
「なに笑ってるのよぉ!」
「いや、真琴がずいぶんと可愛らしくなったなと思ってさ」
「えっ!?」
 これで何度目だろう。熱を持ったあたしの顔が、さらに熱くなる。
 そんなあたしの腰に新之丞が両手を添えて、下に引いた。
「がまんしないで、もっと自分に素直にならないとね」
 かくん、とあたしの腰が落ちた。
 ずぶぅっと、一気に、奥まで入ってしまう。
「いひぃんっ!」
 視界の中に火花が散った。
 直接的な快感じゃなくて、圧迫感がトリガーになって、敏感になった全身に快感が走る。
もう、何をされても快感だ。きっと頭の中は脳内麻薬というか、快楽物質でいっぱいなんだろう。
 折ったひざをバネにして、上下運動を繰り返す。
 ごりっごりっと膣(なか)が擦れる。
「あ、あひっ、ひっ!」
「おっと危ない」
 新之丞が倒れそうになったあたしの腰に手を添えて引き戻してくれた。
ベットの端に膝が辛うじて乗っかっていて、ふくらはぎの方はほとんど宙に浮いている不安定な姿勢だ。
なのに新之丞はわざとバランスを崩しては、あたしの反応を楽しんでいる。
 こんなことを今晩――もう朝だけど――何度繰り返したかな。
 あたし達はたった一晩の経験だけで、まるで長年連れ添った夫婦のように息のあったセックスを楽しんでいる。
それでいて、まだお互いをよく知らないでいる。
 そりゃそうだ。あたしが女になって、一月もたっていないんだから。
 新之丞がベッドに上半身を倒した。
 あたしは彼の意図を知って、困惑する。
 さすがにこれは……。でも、迷ったのは少しの間だけ。すぐに新之丞の胸に手を置いて、左足を持ち上げた。
「あっ……」
 あたしの中で、新之丞がよじれる。今までとは違う感覚に目眩がする。
「お、おい真琴っ!」
 新之丞が切羽詰まった声を上げる。
 ゆっくりと手と脚を動かして、体を回転させてゆく。あたしの両脚は時計の針で、新之丞のペニスは軸だった。
 よじれる。潰れる。擦れる。
 三回転半くらいしただろうか。新之丞があたしの腰をつかんで止める。
「これ以上されたら、また出しちゃいそうだ」
「やだぁ、離してぇ……」
 すごく気持ちが良かったのに、どうして止めちゃうのよ。男だったあたしにはわかる。新之丞だって気持ちがいいはずなのに。
あたしの中でねじれるお肉の気持ち良さが、その快感を裏付けている。
「でももう出ない。マジで。さっきから出そうなんだけど出ない」
「あー……」
 痛いんだよね、あれ。
そういえば此実ちゃんも最初は痛がるだけだったんだけど、一年もすると、
会うたんびに、セックスしよ♪ って言ってきて、ずぅっと離してくれなかったな。出せなくなっても乗ってくるし。
 思えば、あたしってあれで女の子に幻滅しちゃったのかもしれない。それさえなければいい子だったんだけどね。
でも、そうさせたのもあたしか。これって自業自得?
 ぼんやりと考えに耽っていたあたしを、起き上がった新之丞が後から抱きかかえるようにして、腿を跳ね上げた。
「ひゃんっ!」
「とりあえず、イッちゃえ、真琴!」
 新之丞は乱暴だ。でも、そんな考えとは裏腹に、あたしの『キモチイイ』はどんどん高まってゆく。
「あ、はぁっ! し、新之丞、そんな、だめ、激しくっ! いやぁっ!」
 胸がたっぷんたっぷんと大きく揺れる。上下じゃなくって、微妙に楕円を描きながら。
それだけで乳首がジンジンと痺れて気持ち良くなってしまう。
 その時だった。
「真琴ちゃん、新之丞君、頑張ってる? 差し入れだよぉ〜」
 コンコンとドアを叩く音がして、いきなり扉が開いた。
 制止する暇も無かった。
 開いた扉の向こうには、チーフアシスタントの苑山さんが差し入れらしいビニール袋とケーキの箱を片手に固まっていた。
 何しろ、あたしが大股を広げてベッドに腰掛けた新之丞に下からずっぷりとちんちんを突っこまれているのが、
真正面から見られているのだ。
 新之丞はあたしの体がじゃまになって、扉が開いたのがわからないようだ。
「あっ……」
 気が遠くなりそうだ。
 めちゃめちゃ恥かしい。中学生の時から憧れだった彼女に、全てを見られているんだ。
知らず知らずのうちに、下半身にきゅうっと力を込めてしまった。
「うぉっ、しっ、締まるぅぅっ! すげっ、気持ち良すぎっ!」
 新之丞があたしの気も知らずに呑気な台詞を吐く。
 あたしのあたまは真っ白だ。
「……ごめんなさいね、お楽しみのところ」
「ち、違うの苑山さん! これは、ぁはぁぁっ!」
 まだ事態を把握していないのか、新之丞はあたしの乳首とクリトリスを刺激してくる。
「だめ、だめっ、新之丞、もう、だめだったら、だめ、だめぇぇぇぇっ!」
「ああ……真琴の恥ずかしがっている声、すっごく萌えるなぁ……」
「そんなこと、言ってる場あぃやぁぁぁんっ♪」
 見られているということが、あたしの消えかかった羞恥心を蘇らせ、高みへと昇らせてゆく。
「ああっ、で、出る、出る出るぅっ!」
 新之丞が上擦った声を上げる。
 それはやめて。ほら、苑山さんが固まってる。
 こころなしか目が潤んでいるように見えなくもないけど、あたしはそれどころじゃなかった。
新之丞のラストスパートの激しい突き上げに、堪えようと思っていても声が出てしまう。
「やんっ! いいっ、いいの! 新之丞のちんぽ、すっごくおまんこ、奥までぇぇぁ
はぁっ! いいっ、いいぃっ! いいよぉぉぉっ!」
 恥ずかしい部分をあますところなく、見られている。
とろっとろにとろけた、ばっくりと開いている裂け目にずぶっと刺さったちんちんが、びっくんびっくんと震えた。
 来るっ!
「出る、出るっ! 真琴のおまんこに、俺のっ、ザーメンッ!」
 ゴスンッ! と勢いよく突き上げられてあたしの鼻の奥がつーんときな臭くなる。
奥の奥に、出なかったはずの新之丞の精液が、激しく叩きつけられている。凄い。一杯、出ているぅっ!
「イクぅっ! あはぁ……いっ……いっちゃうぅぅぅぅぅぅっ!!」
 新之丞は小刻みにあたしを突き上げる。コンコンコーン! とあたしを高みへと昇らせるかのように。
あたしは扉が開け放たれているというのに、今までで一番大きな声で叫んだ。
「あぁあああああああぁぁぁっ! ひぃ、いぃくふぅぅぅぅぅぅぅっ……!」
 頭の中がパァッと真っ白になってゆく。
「あー……」
 苑山さんが顔を強ばらせたまま小さな声を上げて後退り、ゆっくりとドアを閉めた。
 ばたん、という音と同時に新之丞とあたしは、ばったりとベッドに倒れた。

『もう、どうだっていいや――』

 そんな気になるくらい、このセックスは気持ちよかった。
 あたしは頭によぎる締め切りよりも、今はただ、この初めて経験する感覚に身を委ね、
新之丞に抱きかかえられたまま、久し振りの心地好い眠りの世界へと沈んでいった……。

***

「あんた達も世間並みにクリスマスイブを過ごそうって意識だけはあったのね」
 なんてお母さんは苦笑いしながら言ってた。
 そう言われて気がついたんだけど、あたしと新之丞が結ばれたのはクリスマスイブの夜だった。
日付なんて感覚はとっくに無くなってて、締め切りまであと何日という残り時間しか頭に無かったとは言え、
これには自分でもちょっと呆れてしまった。
 苑山さんは、せっかくのクリスマスにケーキも無しじゃかわいそうだって、それでケーキを差し入れにきてくれたんだって。
 それで、あたし達がセックスしている現場を苑山さんにばっちり目撃されてから、事態は大きく動いた。
 あたし達二人は、出版社のパーティーに出席するはずだったお母さんと左牧の叔父様の目の前で、経過を説明させられた。
 叔父様は新之丞の頬を拳骨で一発殴ってから、
「息子の不始末は親の不始末。だが、幸いにして年内の仕事はすべて完了している」
 ほっぺたを押さえて顔をしかめている新之丞を前にして、叔父様はにかっと笑った。
「なんて面白そうなことをしているんだ。私にも参加させろ」

 そして『クリスマスの奇跡』は、起こった。

 お袋……というか、お母さんと左牧の叔父様が全面協力の上、
双方のアシスタント合わせた合計十六人がバックアップしてくれた。
 シナリオは全部、左牧の叔父様とうちの苑山さんが共同で作り直して、ゲーム業界流れという
叔父様のアシスタントの美濃部さんが、ゲーム用のシナリオ起こしとスクリプト、そして特殊効果まで作成してくれた。
さすがは今年、月例新人賞をとっただけのことはある人で、シナリオを読んだだけでも燃え燃えだった。
他にもゲーム好きのアシさん達がスクリプト作成を手伝ってくれた。
 導入部はなんと、お母さんがカラー六ページ付きの書き下ろしマンガを、三十二ページも描いてくれた。
器用なことに、今の萌え画風でやったんだから凄い。
いい練習になったわとか言っていたけれど、きっと影で凄い努力をしていたんだと思う。
アニメ化の二作目となる番組が来年の四月から始まるというのもあったんじゃないかな。
「まだ若い子には負けてられないわよ!」
 というその気持ちが、今でも第一線で活躍してられる原動力なのかも。
 これに新之丞が描いた表紙とカットを入れて説明書を作成して、印刷所に超特急料金でお願いした。
色々特別な色を指定したりしたんでページ数の割には目が飛び出るような料金だったけど、
叔父様がポケットマネーで、ポンと払ってくださった。
 音楽も左牧の叔父様のツテで、ボーカル入りメインテーマとエンディング、そしてBGMがたちまち揃った。
制作してくれたのはプロのミュージシャンも多くて、中には名前は出せないけれど、
CD売上げベスト10に入るような人まで参加していたりする。
こういうお遊びが好きな人ばかりだって言うけれど、叔父様の人脈の広さにはあらためて驚かされるばかり。
この年末の忙しい時期だというのに、みんなノリノリだったって。
 背景も全面作り直し。
新たに背景担当アシさんが描き起こした背景をパソコンに取り込み、立ち絵のタッチに合わせて色調を揃える。
色は少な目だけど、ちゃんとキャラを引き立てるようになっているのは、さすがにプロの仕事だと思う。
 イベント絵は、パソコン総出で人海戦術。
色彩設計をアニメみたいに描き起こして、十数人総がかりで、猛烈な勢いで色を塗っていった。
もちろん、あたしもその中に入っている。
みんなマンガ家だからどうしてもマンガっぽい塗りになってしまうのは仕方がないけど、それも味になったと思う。
今のゲームにはない雰囲気で、同人ゲームっぽくなった。
 ダミーの絵を入れたデバッグ作業が並行して進められ、CGの完成に合わせて徐々にゲームが形を成してゆく。
最終的にはイベント絵が百枚近くまで行ったのには驚いた。みんな、ノリ過ぎだよ。
 制作作業が終わり、業務用デュプリ屋さんに頼んだ記録済みCD-Rとマニュアルを
パッケージに封入する作業が終わったのがコミック・グランバザール開催前日の明け方だから、本当にぎりぎりだった。
イベントは二日間開催で、新之丞のサークルは二日目の参加だから、少し余裕はあるんだけど。
「完成ーっ!」
「ばんざーいっ! ばんざーい!!」
「完成だ〜! うーほ、ほっほ♪ ほっほうっほ♪」
 全ての作業が終わり段ボール箱にケースを収め終わった瞬間、
新之丞とあたしと、お母さんと叔父様、そしてスタッフの皆さんが一斉に声を上げた。
叔父様は恒例の「感謝の躍り」を踊っている。
なんでも、アメリカに取材に行った時にネイティブアメリカンの人に教わったんだって。
 あたしは椅子に体を投げ出したまま、天井を向いて脱力していた。
 本当に終わったんだ……。
 疲れたんだけど、ものすごい達成感がある。
 でもまだ、サークルの責任者のところに持っていかなければならないんだよね。
叔父様のアシスタントの舵(かじ)さんが車を出してくれて、それも無事終わった。
 何もかも終わった頃には、日もとっくに暮れて夜になっていた。

***

「もう、新之丞ったら! 明日、イベントでしょ?」
「いいだろ。俺達がやることはもう全部終わったんだから。それに、真琴を人前に出したくないんだよ」
 新之丞はあたしの乳首をぺろっと舐めた。
「うぁん♪ ……あたし、というか俺、元は男なんだけど?」
「いいだろ。俺、血の繋がらない妹っていうのに萌えまくりなんだ」
「誰が妹なの。誰がぁ」
「だって、真琴は三ヵ月も年下だろ?」
 なおも胸を舐めてくる新之丞のお腹に軽く蹴りを入れて、あたしは体をちぢこめてタオルケットにくるまる。
あー、極楽ごくらく。なにしろ、ここ一月はまともに寝床に入って寝たことなんて無かったし、
さっきまで新之丞と疲れることをたっぷりやったからこのまま一気に睡眠の世界へダイブできる。
「それより、新之丞の方が弟って感じだけどー?」
「じゃあ、お姉ちゃんに甘える弟でもいいや」
「それ、前にも聞いた……」
 新之丞はもそもそと布団の中に潜って、あたしの下半身に顔を埋めようとする。まったく、眠いってのに……。
「眠いから寝る〜」
「眠ったら死ぬぞ?」
「さっき何度も死んだー」
 ずぅっとまともに寝てないってのもあるんだけど、今日のセックスでは何度も続け様にイった。
もう下からガンガン突き上げられて体を起こしてられなくなっても、新之丞の腰は止まらなかった。
 心底疲れた時にするセックスというのも、それはそれでいいもの……じゃなくて。
 なんかこれって、全てを完成させた時の解放感に似たような感じもする。
「もう、いいかげん寝かせてー。もうだめ、あたし今日はマグロ〜」
「マグロでもいいや」
 なんてこと言うんだ、こやつは。
 あー、もう眠くて頭の中はてろんてろんに、くにゅくにゅ状態。
こういう状態だからこそ新之丞はあたしを好きなようにしてくる。
マグロとは言っても、新之丞に触られるだけでびっくんびっくんと反応しちゃうし、声も出ちゃう。
 いつもはどうしても、男って意識が邪魔をして出せない甘えた声も、蕩けきった時にはいくらでも出せる。
日頃身構えている分、甘え方もべたべたなものになっちゃうんだと思う。
 あたしはなおも体を触ってくる新之丞の愛撫と襲いくる睡魔に身を委ねながら、今日のできごとを思い返していた。

 美麗なレーベルがカラープリンタで印刷されたDVD用トールケース入りCD-R二千枚+αを
サークルの会長の家に持っていった時は、後でデジカメで撮っておけばよかったと悔やむほど面白かった。
 いつまでたってもあたし達から連絡が無かった会長は、夜逃げするべきかどうか悩んで部屋の中をうろうろしていた。
間に合わないのはわかりきっていたのに、コレクションを置いていくのが忍びなくて逃げられなかったのだそうだ。
 あたし達が段ボールの箱をどさどさと積んだ時は、目が点になっていた。
 震える手で箱を開け、ケースを取り出して信じられないような表情で何分もそれを眺めていた。
 パッケージにはコミック入りカラーマニュアルも同梱してある。ケース封入の表紙イラストはあたしと新之丞の合作だ。
慣れないパソに戸惑う新之丞をなだめたりすかしたりしながら、やっとの思いで作り上げた、言わばあたしと彼の愛の結晶だ。
このままお店で売っても通用するくらい立派な物だと、あたしは思った。
 愛の結晶……うーん、恥かしい台詞だ。
 なんかこういうのって、自分が女の心に傾き過ぎたようでちょっと嫌なんだけど、それはそれで「萌え」だからいい。
それに今のあたしは、完璧な女なんだから、新之丞を好きだと言っても、何の障害もない。
 そして会長はパソにCDを突っこんで奇声を上げた。
「か、完成している! 俺の構想したとおりの出来だっ!」
 誰があんたの手を借りたんだっつーの。猫の手どころか、蚤の手すら借りちゃいないし。
あんたはプロデューサーとか言って、けちをつけてきただけでしょうが。
お金は一円も出さない、口を出すのは十人前、何かにつけて人の意見に反対するくせに他の方法を提示しないとか、
とにかく、どうしてこんなのがサークルの会長をやっていられるんだか不思議だ。
 それに、よくもまあ、あたしもここまでやったもんだとつくづく思う。
 もう意地だったからね。一度引き受けたんだから、何がなんでも最後までやり遂げてやるって。
結局、他の人の手を借りて迷惑をかけちゃったけど、
これもまた、あたしの日頃の行いがよかったからよねと、自分で自分を慰めてみたりする。
 ダメでしょ、あたし。
 今度からは自分のキャパシティーを越える無理な注文は絶対に引き受けないようにしようと、心に誓う。
 でも新之丞が絡んでくると、そうも言ってられないかなぁ……。

「こ、こらっ新之丞! お尻はダメだって!」
 ぬるま湯のような眠りの世界に引きずり込まれていたあたしを、新之丞が無理矢理、現実に引き戻す。
 いきなりお尻に指が突っこまれていた。それも二本。
「でも真琴のアヌス、もうぬるぬるだよ?」
「違うよ、それは……その、お、おまんこのおつゆだよぉ……」
 もちろん嘘だ。
 弛緩しきったあたしのアヌスは、新之丞の指をやすやすと受け入れてしまっている。
指がくいくいと蠢く度に、おまんこまでがきゅーんっと痺れる。
「やだ、ダメっ! 汚いし、それにっ! で、出ちゃうよぉ!」
「真琴のだったら何でも平気だよ。それにおしっこだったら昨日飲んだし」
 恥ずかしさで頭が爆発してしまうそうになる。
 確かに昨日、あたしはお風呂場で新之丞におしっこを飲ませたんだった。
新之丞はお尻の穴まで舐めてくれたし、あたしもおかえしに新之丞の前から後のアヌスまで綺麗に舐めてしまった。
 冷静に考えてみれば、まだアシさんも何人かいるのになんてことをしちゃったんだろ、あたしは……。
 絶対に聞こえていたよね、あれ。
いくら仕事場が地下にあって防音されているとはいっても、ずっとそこにいるわけじゃないし、
アシさん用のシャワールームはあるけど、二十四時間風呂の浴室を好んで利用する人もいる(陽子さんなんかがそうだ)。
 二時間くらいしてたかなあ。
 よく考えてみれば、お湯が循環するお風呂で、なんてことをしたんだ、あたしらは。
我ながら、ここまで堕ちたかと思うと情けなくなる。でも、身震いしたくなるほど、二人っきりの時間が愛しい。
 もっと抱きたい。もっともっと抱いて欲しい。
 新之丞と体を合わせていたい。手を繋いでいて欲しい。ずっとあたしの中に、新之丞を挿れていて欲しい……。
朝目が覚めた時、新之丞に隣にいて欲しい。
 自分がどんどん欲張りになっていく。
 きっと明日、目が覚めると恥ずかしくて悔しくてたまらなくなってしまうんだろう。でも、この時間を手放したくない。
 あたしは新之丞の方に顔を向けて、そっと言った。
「もう、新之丞ったら……一回だけだよ?」
「真琴がそれで満足できるとは思わないけどね」
「言ったな、このぉ」

 結局、三回しちゃいました。あはは……。
 あたしってば、堪え性が無くなっちゃったのかなあ。

 そして翌日、イベントに行ったあたしが、新之丞の言う通りにしておけば良かったと深く後悔したのは言うまでもない。

***

 年が明けてからは、ネットはそりゃもう大騒ぎになってた。

「とんでもない完成度の同人ノベルゲーが売られていた!」
「五千枚以上が、二時間足らずで完売したそうだ」
「一枚二千円のゲームが、ネットオークションで五万円にまでなった」
「早速海賊版が大量に出まわっているらしい。本物と見分けるコツは、付属マニュアル。
海賊版はマニュアルの紙質が悪くて印刷も雑で、色がボケている。本物は蛍光特色なんかも使ってかなり豪華。
本物は某社の、現在は販売していない良質の国内産CD-Rメディアを使っているが、
偽物はどこの国のかわからない粗悪品を使っている。プレスだったら100%偽物」
「原画家とペインターを、エロゲの会社数社が獲得に乗り出したらしい」
「さっそく某社が動き始めて商業化の動きがあるらしい」
「今度の夏のコミグラに『完璧版』が出るらしい。イベント倍増でCGも総入れ替えだって話だ」
「売り子のコスプレイヤーの胸がでかかった。超萌え!」

 などなど。
 五千枚なんて絶対に無い。確か二千五百枚ちょっとだったはず。マニュアルだけは三千ちょっと印刷したけどね。
なにしろ時間が無かったもんで、三千枚も CD-Rに印刷している余裕がなかったというのが枚数が少ない理由だ。
 あと、件のサークルでは、俺がシナリオを担当したとか言っているメンバーが十人もいるそうだ。
バカ言ってんじゃないよっての。あれは完全に左牧の叔父様と苑山さんと、美濃部さんの合作だ。
あたしの原案なんか、ほとんど影も形もなくなってたものね。
 聞いたところによると、あのゲームのシナリオを書いた人に小説を書いてほしいという打診が某出版社からあったらしい。
あいつらじゃすぐ馬脚現わすだろうけど、あたしも、
それまでは少しくらい夢見させてやってもいいってくらいの寛大な気分になっている。
 なぜって?
 実はあたしと新之丞が、正式にお付き合いを始めたからだ。
 なんというか、その、いわゆる恋人ってアレかな。うん。
お互いにそういう意識はないし、お付き合いしましょうと言ったことも無いんだけど、
いつもよりちょっと……いや、だいぶ二人の距離が短くなった。
 自分でも新之丞と付き合うことに抵抗を感じていないのが、ちょっと不思議だ。
ずっと兄弟みたいに育ってきたからというのもあるのかもしれない。
セックスをする時以外は、男や女という立場を気にしないで自然にふるまえるのがいいんだろう。
 新之丞はあたしの部屋に入り浸りで、半同棲状態。
 あ。でも別にセックスばかりしているわけじゃないぞ。さすがにそこまで恥知らずじゃないし、慎みを捨てていない。でも、
「真琴ちゃんが早くうちの娘になってくれるといいなぁ。初孫はいつかな?」
 なんて叔父様が言うので、あたしは顔から火が出る思いだ。
叔母様はもうすっかりその気で、左牧の家にあたしのための部屋まで用意してくれているばかりか、
花嫁衣装まで手配していたりする。でも着物は勘弁して欲しいなあと思う。
すっごく重そうだったし。正絹(しょうけん)の極上の反物から仕立てたって言われても、ねえ?
 嫁入りするという言葉にはすごく違和感と抵抗を感じるけれど、
どうせ隣の家だし、本当の親戚みたいなつきあいをしてきたから、いざそうなってもなんとかやっていけそうだ。
 ちなみに、最後の噂の、コスプレをやっていた人ってのは、あたしだ。あんな格好で売り子までさせられるとは思わなかった。
半分眠ってなけりゃ、絶対にあんなことやらなかったのに。
 でもみんな、胸しか見てなかったのか、胸しか。おまけに、投稿雑誌にまで目線入りで出ちゃったし。
ウイッグ(かつら)つけて金髪の超ロングにしていたし、顔も半分くらいはかぶり物で隠れていたから
はっきりとあたしだとはわからないけど、
妙に悔しい。なんでハイレグの股間と胸だけアップにする?
しかも見開きで。自分の体に欲情するのは変だけど、萌えている自分と恥かしい、
悔しいと思っている自分が一緒の身体の中にあるというのはすごく変な気分だ。
 角度から考えるとたぶん、あのサークルの奴が隠し撮りしたんだと思う。
思い出してみるとうしろでごそごそやっていたり、意味も無く行列の前に出て何かやっていた奴もいたし。
コスプレの衣装のサイズがぴったりだったのも無気味だった。さすがにこの衣装は、あたしが無理矢理、家に持って帰った。
万が一にでもオークションに出されたり、よからぬこと(というかオカズだよね)に使われたらと思うとぞっとするからだった。
 完璧版って噂も、出所はあいつらだよね。
 あたしとしてはもうかかわりを断ちたかったんで、完成品と一緒に原稿とか音楽やCGの原版とかソースリストまで
全部あちらに引き渡したんだけれど、よりによってあのサークルの会長のバカは、
それを全部オークションに出して売ってしまったんだ。
 たまたまチェックする機会があったんだけど、生原画とかは終了間際にするするっと相当な値上がりをしていた。
全部を合わせると驚くくらいの値段になっていたのには、ちょっとびっくり。
でも、お母さんの生原稿の価値を考えると、安いんじゃないかな。名前は出してないんだけどね。
新之丞のは……あんなに高く買っていいの? って思った。
 原稿を全部売っちゃってどうするんだろうとか思っていたら案の定、あたしの携帯に当の本人から電話がかかってきた。
「夏もよろしくお願いします。次は全面的にグラフィックを刷新します。つきましては新作原稿の締め切りですが……」
 冗談じゃないっての。
 あたしは誰にナンバーを訊いたのかと問い質すと、言葉を濁してなかなか答えない。
どうも新之丞から聞き出したらしい。
もちろんあいつにはあとで、たっぷりと仕返しをしてやった(たまたまちゃんを、手でぐりぐりっと……。
涙を流して痛がってたけど、自業自得だよね?)。
 お願いしますと繰り返す会長に、では正式な契約を結んだ上で相応の原稿料をいただきますと言ったらしばらく絶句して、
「どうして?」
 と訊いてきた。
 こっちの方が言いたい台詞だってば。だって、今回の印刷費や人件費とか全然そっちに請求していないんだよ?
最初っからこれで縁を切るつもりだったからなんだけど、
あっちは無償でいくらでも仕事をしてくれるもんだと頭から信じこんでいたらしい。
 今回の件は、叔父様やお母さんが興味を持って、面
白そうだから手伝ってあげるということでできたことで、いつもそうなるとは限らない。
だって皆には本業があるからね。
 それに、誰がタダで働くかっちゅうの。あんたバカ? って言ってやったわよ。
そりゃ今回の売上げ、丸々利益になったんだもんね。美味しいわよねぇ。
よっぽど税務署にタレこんでやろうかと思ったけど、やめといた。
 そのあとも会長はあーだこーだ言っていたけど、全部右から左に聞き流して無視した。
最後は泣き落としで、今月中に同人ショップに卸すゲームのマニュアルをなんとかしてくれないと首を吊るしかないとか、
夏に完全版+ファンディスクが出せないと殺されるからあなたも死ぬ気で頑張って欲しいとか、
トドメに犬みたいにうぉんうぉん鳴いてたけど、自業自得。自分の都合で原稿売っ払っといてそれはないでしょ。
徹底的に他力本願な上、最後まで原稿料を払うと言わなかったせこさだけは認めてあげるけど。
 それに、ファンディスクって何よ。勝手に構想ばかり膨らませないでよね。
 やっぱり持ちつけない現金を持っちゃうと、豹変する人って本当にいるんだなあと思った。
 そしてあたしがどうしているかというと……。

***

「それで、どうするの?」
 夏のコミグラ用のサークル参加申込用紙を前にして、あたしは新之丞に訊いた。
「エロ、エロ。絶対にエロマンガ! オリジナルで、俺と真琴のセックスをマンガにして同人誌を出すってことで」
「誰がそんなこと許すか、バカたり!」
 あたしは手元にあった空箱を新之丞の顔めがけて投げつけた。
「ぽんぽん物を投げるなよ!」
「投げさせるようなことを言うからだ、バカ新之丞」
 実はこのエロマンガ、既にあったりする。
無修正でめちゃくちゃ描き込みがしてあるんだけど、よりによってあたしのを参考にするんだから困る。
ヘアーの生え方からあそこの形、おまけにほくろの位置までそっくりだったり。
案外、新之丞はエロマンガの方に才能があるのかもしれない。
 でもこれ、絶対に発表できないよね。誰が見たって、あたしがモデルだってわかる姿形なんだから。
男の方は新之丞じゃないってところが余計に腹が立つところ。
しかも、新之丞にやらされたことをそのまんまマンガにしてるし。
最初に見せられた時、顔から火が出ると思ったぞ。もちろん、取り上げて没収した。
 実はあたしのオカズになっているのは、新之丞にはナイショだ。
男の側に感情移入しているってのは、もしかしてあたしってナルシストの気があるのかな?
 新之丞は年が明けてから、あたしをなにかと色んなとこに引っ張り回したり、
お母さんの原稿を手伝った後を狙ってあたしの部屋にやってくるようになった。
 その理由は、原稿を描き上げたりして疲れ果てたあたしが、
抵抗なんてできなくなってしまうというのを良く知っているからだ。
 日頃はどちらかというと『誠』としての意識が強く、新之丞がすり寄ってきても肘打ちをくらわして逃げることが多い。
ところが疲れていると『真琴』の意識が強くなって、彼に甘えるのも平気になってしまう。
 それに、疲れて力の抜けたあたしが、普段の何倍も感じやすくなってしまうことを新之丞はおぼえてしまった。
 実はつい三十分ほど前まで、あたしは犬みたいにバックから突かれていた。
なんとなく触れ合って、黙って服を脱いで、言葉も無く激しく体を求め合うのは、傍から見たらつまらない関係に見えるだろう。
でも、あたし達に言葉は必要ない。
 たぶん、 元から男と女だったら、こんな関係にはならなかったと思う。
ずっと「いいお友達」か、本当の姉弟みたいな仲で終わっていたはず。
姉、と言ったら新之丞は怒るだろうけど、でもやっぱり誠としても真琴としても、
新之丞はだらしがなくって、でもなぜか目が離せない『弟』だったりするのだ。
 それでいて、あたしの大事な人……。
「まこちゃん、聞いてる? 寝てない?」
「誰がまこちゃんだ、こら」
 あたしは新之丞の顔から目を逸らして言う。何を考えていたかわかっちゃったかな。
「んー、だってポニーテールだし胸大きいし。背はちっちゃいけど」
「しまいにゃ雷落とすぞ、コラ!」
「落すんならセーラー服でよろしく〜」
 それまでは、こんな関係だって悪くない。
あたしはじゃれてくる新之丞をあしらいながら、
夏の追い込みの後でどんな気持ちのいい事ができるのか……そんなことに想いを巡らせる。
「あ……」
 漏れてきた。下着が新之丞の精液で濡れてしまったのがわかる。
 オナニーをするより、新之丞に触られる方が気持ちがいい。リラックスできるというのが一番大きな要因かもしれない。
 新之丞のなら舐めるのも咥えるのも、飲むのも出されるのもなんだってできる。
それなのに、他の男に体を任せることを考えると身震いがする。
正直言うと新之丞のは標準よりちょっと大きいかなって程度なんだけど、あたしにはそれがぴったりと合っているみたいだ。
 だからあたしは、新之丞専用なんだって思う。
「どうしたんだよ」
 新之丞が笑いながら言った。
 ……わかってるって表情だな、これは。
「新之丞が一杯中出ししたから、ザーメンが溢れてきちゃったなあ、どうしよう」
「うっ。俺のせいにするか?」
「シャワー浴びるから、もう帰って」
「心にもないこと言うなよ〜」
 まだ新之丞には言うつもりはないけど、いつかきっと、『誠』の中でけりをつけられたら、彼には言うつもりだ。

『好きだよ』

 って。
それまでは、この心地好いぬるま湯のような、
互いを特に意識することもない幼なじみの関係を続けているのもいいな、と思っていたりする。
 でも、あたしがいつまでがまんできるか、自分でもちょっと自信が無い。

 やがて春がやってくる。
 あたしと新之丞の新しい季節が、もう、すぐそこまでやってこようとしていた。


 おわり



 Ending theme : manzo "マイペース大王"


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