「俺を女にして調教して孕ましてください、神様……っと」
 夜醐慎(やご・しん)はキーボードを叩いてから、口の端を歪めて笑った。
「ありえないありえない。そんなこたー、おこりっこありませんよっ、と」
 椅子を軋ませて、コーヒーの入ったマグカップを取る。
カップウォーマーで保温されていたブラックコーヒーは舌を焼くほど熱くはないが、それでも一気に飲めば喉を火傷しかねない温度を保っていた。
 金曜日の明け方、会社が休みだというのをいいことに、ついインターネット掲示板に熱を入れ過ぎてしまった。
ずっと同じ姿勢だったためか、首から肩の筋が張って痛い。
 窓の外はまだ闇に包まれている。
「さて、そろそろ寝るか」
 たとえ土曜、日曜と会社が休みだろうと、徹夜は体に障る。
 慎はパソコンの電源を落すとカップを持ったまま椅子から立ち上がり、中身がまだ入っているそれをサイドボードに置いてからベッドに身を投げた。
さすがに午前四時ともなると、体が重く感じられる。
 寝間着に着替える手間も惜しんで布団をかぶり目を瞑ろうとした、その瞬間。
「ありえない? じゃあ、その願い、あたしが適えてあげようか」
 慎は驚いて飛び起き、パソコンデスクの方を見た。金髪の女性が、さっきまで自分が座っていた椅子に腰を掛けてこちらを見つめている。
「だっ、誰だお前は」
 驚きのあまり思うように声が出ない。まるで、かすれた声の演歌歌手のようだった。
「ん? あたしはメイア。悪魔のメイアさ」
「悪魔、だぁ?」
 慎は呆れて言ったが、最後までいい終えないうちに口に手を当て、次に喉に手を当てて目を見開いた。
「こっ、声が!」
 もはや慎が出す声はいつもの渋い低音ではなく、どこかのアニメかエロゲーにでも出てくるような、いわゆる可愛らしいアニメ声になっていた。
「ふっふーん♪ どう? 徐々に女になってゆく気分は」
「!」
 慎は慌てて股間に手をやった。
「よかった……まだある」
「そう? ちゃんと確かめた方がいいと思うけど」
「確かめるって言われてもなあ」
 なにしろ見知らぬ女性を目の前にしてち○こをほりだすほど、常識知らずではない。
しかもメイアと名乗った女性……悪魔か? は、匂うような色気を発散している美人だ。
 黒のレザーらしい、服というにはあまりにも露出度の高い体をおおう生地は、自ら発光しているかのようなツヤを放っている。
ボンデージスーツと呼ぶのが一番相応しいだろう。胸はスーツに引き絞られて大きく盛り上がり、先端の部分だけが金色の金属で隠されている。
時々組み替える脚の付け根からは、ちらりちらりと白い肌に生える黒い陰りが見え隠れしている。
 そんなメイアの行動を生唾を飲み込んで見入ってしまった慎が、股間の危険物を固くさせてしまっても誰も責めないだろう。
「どう。脱ぎたくなったでしょう?」
「わっ! いや、ちょっとその……って、なんだこりゃ!」
 驚くのも無理はない。トランクスを押し上げているそれは、いつも以上の勢いで勃起し、なおおさまる気配が無い。
メイアの顔と股間を交互に見ているうちに、痛みが限界に近づいてきた。慎は意を決してズボンとトランクスを脱いだ。
 ぱっつん! と音がして、下腹部に勃起した逸物が当たる。
「わお! 立派立派〜♪」
「ちょっと待てよ、おい……」
 銭湯に行っても恥ずかしくない程度だったはずのそれは、黒人もびっくりの、子供の腕が股間から生えているような恐ろしい大きさに変化していた。
気のせいか、頭がくらくらする。一か所に血が集まったためか、貧血をおこしたようだ。
 メイアの視線から股間を隠そうとした慎は、身体を屈めようとして奇妙な違和感をおぼえた。
 おかしい。
 何か、変だ。
 そうだ。
 無い。
 無いのだ。
 ある筈のものが――無い!
「わぁぁぁぁぁぁぁっ! たっ、玉が! 玉が無いッ!!」
 なおもそそり立つ逸物の根元に手をやった慎は、そこにありえない感触を感じて、再び絶叫した。
「な、なんじゃこりゃあっ!」
「あんた、いつの生まれよ。それとも、松○健○ファン?」
 なぜ悪魔が70年代の刑事ドラマのネタを知っているのかはともかく、メイアはにやにやと笑いながら、慌てふためく慎の様子を眺めている。
「女になりたかったんでしょ? だから女にしてあげたんじゃない」
「冗談じゃない! ふたなりだなんて、俺は嫌だ!」
「贅沢言うんじゃないわよ。それに、いつまでもふたなりじゃないわよ? その立派なのは、時間が経つにつれてどんどん小さくなってゆくの。
それに比例して、快感も強くなってゆくわ。そして最後には……」
 メイアは人差し指を空中でくるっと回して言った。
「クリトリスになるの。そりゃあもう、歩くだけでも感じちゃうくらい敏感なお豆さんになるのよぉ♪」
「嫌だ! 俺は、認めない! 第一、お前は何者だ!」
「だから悪魔だって、最初に言ったじゃない」
「どっきりか? どっきりなのか? 380さんが窓からプラカード持って、“はい! どっきりビックリ大成功!”とかするのか? 
2ちゃんねらーが“どっきりキター!”とかモニターの前で喜んでるのか? えっ? どうなんだ、おい!」
 慎はメイアに近付いて肩に手を置き、揺さぶりながら言った。
「誰よ、その380さんって。人間?」
「……さあ?」
 首をかしげた慎の隙を見計らって、メイアが立ち上がった。
「うわっ!」
 バランスを崩した慎に、メイアの唇が重なった。
「ん、ふ……」
「ふうっ! んーぅっ!」
 じたばたと逃げようとしても、メイアはがっちりと慎の顔を両手で捕まえて離そうとしない。
 ぬるぬるとした何かが慎の口の中に侵入してきた。
「んごーっ! おごっんごっ!」
「暴れない暴れない♪」
 口が塞がっているのになんではっきりとしゃべれるんだ? と慎は考えた。
「だって悪魔だもん」
 なるほど、そうか……でも、どこかで見たことがあるような展開だなと慎が思う間もなく、さらに口の中へと蠢く物体が侵入してくる。
 最初は舌かと思ったが、それは慎の口の中を圧倒するような大きさで喉の奥へと突き進んでゆく。
「ん! んんっ! ふぅっ!」
 メイアから体を引き剥がそうと両手で突っ張るが、まるで巨大な岩を押しているように彼女が動く気配はない。
むしろ、逆に引き寄せられているような状態だ。
 噛み切ろうとあごに力を入れたが、ゴムを噛んでいるようで、ちっとも食い込む感触がしない。
そうこうしているうちに、肉塊が口の中一杯に広がり、息をするのさえ苦しくなってきた。
 鼻で一生懸命に息を吸うが、喉の奥にまで入り込んできたナメクジのような物体に、慎は吐きそうになった。
 すると、にゅるんと体の中にまで何かが落ちてゆくようなおぞましい感触がして、吐き気はおさまった。
そして喉から口の中へと、蠢く物体が縮まってゆくのがわかった。
「んーっ、んんーっ!」
 メイアはそのまま慎の歯茎を舌でちゅるんっと舐めてから、名残惜しげに唇を離した。銀色の唾液の糸が二人の間を繋いでいる。
「お前、何をした!」
「そのうちわかるわよ」
「わかりたくない! それよりすぐに俺を元に戻せ」
「あら? 女になって調教されて豚のように孕みたいんじゃなかったかしら?」
「そんなのは言葉の遊びだ。誰が実際にそうされたいだなんて思うもんか。サバゲーマニアはみんな殺人嗜好か? エロゲー好きはセックス狂いか? 違うだ ろ。
……まず、この声からなんとかしてくれ。こんな声じゃ、怒っても全然迫力が出ない」
「い・や・よ」
 メイアはゆっくりと言葉を区切りながら言った。
「それに、易々と女にされることに順応するようじゃあ、調教のし甲斐が無いじゃないの。どこまで抵抗してくれるのかしら……?」
 自分の目をみつめるメイアの瞳に、慎は吸い込まれそうな錯覚を感じた。
 原始的な本能が、慎に告げた。
 まずい。こいつは『本物の』悪魔だ。
 理屈ではない何かが、真実を慎に伝えた。
 人間が破滅するのを何よりの喜びとする、人類の敵……。
「あら。人類の敵ってのは酷いわね。別にあんた達を滅ぼそうだなんて思ってないわよ? だって勝手に自滅しちゃうんだから。
むしろ、手助けしていると言ってもいいわ。天界は基本的に地上不介入を貫いているからね」
「日本の警察かよ! って、それを言うなら民事不介入だろ」
「あはは! ノリがいいわね、あんた」
 うっ、となって慎は言葉に詰まった。
「それより、さ……」
 メイアの雰囲気が一転した。
「セックスしたくない? ほら、あんたのそれ……先走りの汁でべとべとじゃない。あたしの体……味わってみたくない?」
 耳をくすぐる甘い声が、慎の精神を蝕んでゆく。
 メイアの体が慎に近づき、彼のいきり立ったものを柔らかく握り締めた。
 メイアにペニスを握られた時点で、腰は砕け、足に力が入らなくなった。そのままベッドに押し倒される。
 快感が一気に高まった。
「ん、ふぁぁっ!」
 女性の感極まった声が狭い室内に響く。
 だがその声を発しているのは、股間から並外れた物を屹立させている、紛れもない男性だった。はたから見ると、かなり無気味な光景だ。
 メイアは快楽にうめいている慎を細めた目で眺め、嗤(わら)っている。
 先走りの汁に加えてメイアの唾液をも加えた手は、まるでローションをまぶしたようにぬめぬめと常夜燈のオレンジ色の光を反射している。
 ゆっくりした手の動きなのに、快感が天井知らずで上昇してゆく。射精を堪え、溜めに溜めた精液が一気に噴出するような気持ち良さだ。
しかもそれが、長く長く続く。声を出すまいとしても勝手に漏れてしまう。
男のままの声であれば気持ち悪いだけだが、慎の口から出るのは悦楽に蕩けるオンナのうめき声だった。
 だが、快楽は次第に痛みへと変わってゆく。
「あ……くぁっ!」
「まだ出しちゃだめよ」
 メイアが鈴口に人差し指を押し当てていた。彼女は空いた左手の、これまた人差し指で、幹を先端から根元へ向かってつぅ、となぞった。
「あ、ああうあっ!」
 ほとばしりかけていた精が体の中へ無理矢理引き戻される異様な感覚が、先端から肛門へと走る。慎は痛みのあまり、きつく目をつぶった。
「もっと体の中で熟成させてからじゃないと、ね?」
「だ、出させてくれ」
 慎は切なさと痛みのあまり、プライドをかなぐり捨てて言った。
「だーめっ」
 慎が目をつぶっている間に、メイアは人差し指をペニスの表面に走らせ、二、三言、何かの言葉を呟く。
「もっと我慢してからの方が気持ちいいわよ」
「今っ、今すぐしたい!」
 慎は腰をメイアに押し付けようとして、何かにじゃまされたような不思議な感触を感じて下半身を見た。
 何もない。
「触っちゃダメよ。もっとも、触れないようにしたんだけどね」
 メイアの言う通りだった。慎がペニスに触ろうとしても、二十センチより近くには手が届かなかった。
ベッドに横たわっても、まるで透明な筒で覆われているように空間ができて刺激を与えることができない。
 それどころか、息を吹き掛けても何も感じない。よだれを垂らしてみても、手前で弾かれてしまう。なのに……。
「やめっ……もう、やめてくれ」
「あらぁ。こんなにぬるぬる、ひくひくなのに?」
 メイアが幹の根元を、つい……となぞる。
「あひぃっ!」
 声だけはかわいらしい女の子の悲鳴だが、慎は男だ。声を上げるたびに、慎の心は傷ついてゆく。
悪魔にいいようにいたぶられて、快楽の声を上げている自分が情けなかった。
 だが、なんという快楽なのだろう。
 息を吹き掛けられたり、触れるかどうかという微妙なタッチで撫でられたりするだけで、純粋な快楽のみを神経に流し込まれたような衝撃が慎を揺さぶる。
吐息は女の体よりも柔らかくペニスにまとわりつき、手は絶妙のポイントを押えて快感をヒートアップさせる。
これに比べれば自慰やセックスで得られる快感など、たかが知れている。
 別に体を拘束されているわけではない。
勃起したままどうやって外へ出るかとか、この声をどう説明すればいいかなど不安要素は多々あるのだが、逃げようと思えば、たぶん逃げることは可能だろう。
 でも逃げられない。
 逃げようとすると、快楽がやってきて心を焼く。意思が砕けてしまう。
 体が、悪魔が与えてくれる快感をおぼえてしまったのだ。メイアだけが慎のペニスに触れることができ、彼女の気まぐれな愛撫は、麻薬のように慎の心を捉ら えて離さない。
人間が悪魔を恐れるのも当然だ。こんなことをずっとされたら、気がおかしくなってしまうに違いない。
「ああ、ああっ! ああああっ!」
「ふふっ……気持ちいい?」
「あ、あい、あ……」
 脳を焼く未体験の快感に、慎は返事すらできない。
 メイアは慎の高ぶりを見計らっては手を止め、息が落ち着くのを待ち、彼が冷静さを取り戻す前に愛撫を再開する。いいように弄ばれている。
 十回まではなんとか数えられた。
 だが、その先は憶えていない。二十か、三十か、はたまた百以上か。上げては下げ、下げては上がる快楽の波は、彼から時間と記憶を奪った。
 どれほどの時間が過ぎたのだろう。下腹部を襲う切羽詰まった感覚で、慎はメイアの手が止まっていることにようやく気がついた。
「ちょっと、と、トイレに行かせてくれ」
 メイアの愛撫で先走りの液をシーツが濡れるほどほとばしらせているペニスに目をやらないようにして、なんとか言葉を口に出すことができた。
「いいわよ」
「だからさ……その……」
 慎は言いよどんだ。
「これ、なんとかしてくれないかな。触れないと、便器の中に出せないし」
 天井を向かんばかりの角度でそそり立っている勃起を指差す。だが、メイアは笑みを顔に張りつかせたまま、何も言わない。
「なあ、その、メイア? 俺、ションベンがそろそろ限界なんだけど」
「トイレに入って何をするの? あたしの見えないところで、思う存分オナニーでもする気?」
 慎は図星をさされて、ぎくりとした。
 完全に手玉に取られている。
「だいじょうぶよ。おしっこは女の子の方から出るから」
 メイアの何気ない言葉に、慎は自分の体に起こった変化を再び思い知らされた。
 既に陰嚢……つまり玉袋は無く、その代わりに女性器がついているのだ。まだ直接見たわけではないが、最初に股間に手をやった時の感触を思い出して身震い した。
 立とうとすると、生まれたての子馬のようにガクガクと震えてしまう。
脚全体が快感に敏感になっていて、脚を擦り合わせると、痺れるような快感が体全体に響き渡る。
「だいじょうぶ? 手助けしてあげようか」
「断る」
 なんとか言い切って、酔っぱらいのようにふらふらと扉へと歩いてゆき、ノブにすがりつくようにして扉を開けた。
 トイレは浴室と兼用のユニットバスだ。シャワーで体を洗い流したい衝動をこらえて、扉を閉め、便座に腰を下ろす。
「やっぱり触れないか」
 何度か空しい努力をしてから、独り言を呟く。
 彼の目の前には、触ろうとしてもできない見事な陽物がいきり立っている。血管が浮き出て、いかにも固そうだ。
だが見慣れたものではなく、しかも触ることができないとなれば、実感がわかないのというのも無理もない。
 本当にこれでだいじょうぶなのだろうか。
 万が一外に出してしまっても、バケツもぞうきんもある。万が一の時のためにバケツを手繰りよせ、覚悟を決めて下半身に軽く力を入れる。
便器の中に液体が滴り落ちる音がする。むずがゆい刺激と共に未知の感覚が伝わってきた。
「くそ……頭がおかしくなりそうだ」
 小声で呟く。
 確かに今の自分は、一部が女性になってしまっているらしい。だが、なんとかメイアの快楽地獄から抜け出すことはできた。
今度は、なんとしても相手に主導権を握られないように注意しなければならない。
「悩んでいても仕方がないな……。とにかくあいつと交渉して、元に戻してもらわないと」
 やがて長い放水も終わり、慎は覚悟を決めて便座から立ち上がった。
「ん?」
 足が濡れたような感触がして、慎はがに股になって股間をのぞいた。ペニスが邪魔になって良く見えないが、どうやら残尿が太腿に垂れてしまったらしい。
「……女って面倒なんだな」
 慎はトイレットペーパーをくるくるっと左手に巻取り、無造作に股間をぬぐった。
「んはあぁっっ!!」
 電撃が走った。
 メイアに触られているよりも、ずっと気持ちがいい。慎はもう一度股間にやった手を動かした。
「……んんんんんっ!」
 体の中から込み上げてきたものが、慎のペニスの先端から一気に吹き出た。
 足に力が入らなくて、どすんと便器にへたりこんでしまう。どうやらペニスには触れなくても、股間に触れることはできるようだ。
しかもラヴィアをいじってはいるが、そこから快感が伝わるのではなく、メイアの愛撫と同じか、それ以上の快感をペニスに与えることができるようだった。
「だ、だめだ……こんなことして……あうっ!」
 トイレの中に響くのは耳慣れた自分の声ではなく、すっかり快楽に溺れきった少女の声だ。
トイレットペーパーはとっくにぬめった液体でぼろぼろになって、指で直接、女の部分をいじっている。
「は、はぁぁぁぁぁっ!」
 背筋をのけぞらせて、再び射精する。壁にびしゃびしゃと股間から吹き出す液体がぶち当たる。
止まらない。怖いくらいに次から次へと精液が吹き出てくる。
 ようやく噴出がおさまると、慎の指が再び動き始める。
 先程よりも、もっと大胆に。
 より滑らかに。
 壁に吹き付けられた黄色がかった白濁液は、まるで固まりかけの木工用ボンドのような塊がたっぷりと混じっており、とてつもない濃度であることを示してい た。
普通ならすぐに流れ落ちてしまうのに、ねっとりと壁にこびりついたそれは重力に逆らってなかなか落ちようとはしない。
 青臭い臭気がユニットバス中に広がり、慎の思考を狂わせる。
 壁の粘液を眺めながら彼は口を開け、犬のように喘ぐ。
「うひ、うひひ……ま、また、で、出ちまう……」
 あまりの快感に、慎の頭の回路がどこか変になってしまったらしい。
 唐突に、頭の中にみさ○らな○こつのマンガが鮮明に浮かんだ。
「おち○ぽみるく……おち○ぽみるくっ!」
 どくん!
 再び、射精。
「止まらないっ、止まらないよぉっ! おち○ぽからミルクっ! じゃぶじゃぶ溢れて、射精しちゃうっ!」
 あまりの勢いに天井まで白い線が伸び、べったりとはりつく。
「スゴイ勢いっ! 濃いっ、濃いの精子っ!」
 もはや自分でも何を言っているかわからない。
 直接しごけないもどかしさを補うかのように、慎の指は激しさを増し、
「あはは……まだ出てる、まだ出るっ! 止まらないっ!! ち○ぽ、おち○ぽ、びっくんびっくんしてっ!」
 小便だってこれほど長くは放出することはないだろう。たっぷり一分経っても、まだ精液の勢いは止まらない。
「あひっ……」
 腰を突き出すようにして、空いていたもう片方の手でラヴィアをいじる。
「ん、ふぅぅっ!」
 おさまりかけていた精液が再び勢いを増し、ぬらぬらと壁を汚してゆく。
 指が止まらない。
 射精が、止まらない。
 いつまでも続く射精の快感に、慎の心はすっかり虜になっていた。だから、自分に起きている変化にまだ気がつかない。
 壁から足下にまで滴る、信じ難いほどの精液を放出している慎の体は、明らかにトイレに入る前よりも縮んでいた。
「ぎい゙っ!」
 慎が痛みに体を捻ると、ユニットバスの壁に白い横断幕がかかる。
 骨が、筋肉がきしむ。
 だが手は止まらない。止められないのだ。
 全身を苛む苦痛と快楽で、慎の理性は完全に吹き飛んでいた。
「あいっ! あひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 もはや青年とは言い難い姿形になりかけている慎の手が、ついに止まった。
 力を失って精液にまみれたユニットバスの床に崩れ落ちる。
 意識が暗闇の中へ落ちてゆく。

 だがその暗闇さえも、いずれ訪れるであろう闇とは比べ物にならないものであることを、幸いながら慎はまだ、知らない。


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