僕は五樹夏海。高校2年。
女ともとれるような名前だがれっきとした男。
そんな名前をからかうような人もいたけど、そういうのは中学の時と今の高校に入学して1ヵ月もしないうちにいなくなった。
僕も内心は昔からその名前にコンプレックスは持っていた。
でも、誰もが一度見ただけで女と間違うような顔立ちと、男子の平均よりも背が低いのもあったから仕方ないとも諦めていた。

しかし、そんな気持ちがあったから今の状況を導いてしまったのかもしれない……。

  ◇◆◇

キーンコーンカーンコーン──
午後4時。
どこの学校にでもある放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
とある町の高校に、たった今家に帰ろうとしている2人の生徒がいた。
どうやらその2人は部活にも入っていないようである。
「おーい、夏海ー! 帰るぞー!」
「あ! ごめんね啓介!待って〜!」
「まったく、夏海はいつもトロイんだから。ま、そこがいいんだけどな」

この背が高く、体格もがっちりとした男子は桜井啓介。
僕の小学校からの親友である。
彼とはずっと小学3年から高校2年の今にいたるまで、9年間同じクラスという奇跡も持っている
その顔立ちも大人びてかつ整った顔立ちは女子からも人気があり、高校に入ってからはラブレターも届いているみたい。
でも、彼はすべて本人の前できっぱりと断っているらしい。
気になるのは断られたほうだけど、相手を傷つけずに自分とは合わないことをはっきりと伝える紳士的な口調に、誰もが心を許してしまうみたい。

なぜ彼はプロポーズを断り続けているのだろう。
今だに僕は理解できない。

ともあれ、僕と啓介は小学校で同じクラスになってからずっと一緒に下校している。
しかも、啓介と僕はほぼ近所である。
学校から徒歩で行き、しばらく歩いて僕の家から5件隔てた家が啓介の家。
ということは、
幼稚園や彼と出会う前の小学校2年までずっといたはずなのに僕は彼を知らなかった。

そして、今日も僕は啓介と一緒に並んで帰っている。
一見すると、僕達はあまりにも身長が不釣り合いなカップルに見えるらしい。
実際は男同士なのに……。
まぁ、そうすると僕が男子の制服を着ているのは変だけど。

午後4時半。あと15分もあれば僕達の家がある住宅街に着く。
そこの角を曲がればもうすぐだ。

「なぁ、夏海」
「ん? なに、啓介?」
「今日も手繋ごうぜ」
「えー、僕達男同士だよ〜」
「もうその言葉は飽きた。さあ早く」
「うん...」

まあ、普通に見ればカップルが手を繋いでるのはおかしくないわけで。
しかし、僕達の認識は男同士…のはず。
そうして僕らの手はつながれた。

 ++++++

シュイイイン──
まわりにまばゆいばかりの光が溢れだす
その中心にある僕の姿は明らかに変わっている。

まず、男子としては背が低いほうだったはずの僕の身長は縮んでいき、女子の中でも平均的に見れば背が低くなった。
そして、小振りながらも胸が大きくなり自己主張を始める。
それにともなって髪も伸び、背中まで長くなっていく。

さらに僕の中では股にあるべきはずのものが体の中に押し込まれる感覚。
痛いというわけでもないけど妙な感じ。

シュウウウウウ……

 ++++++

光がうっすらと霧のように消えていく。
その光が消えた頃にはさっきよりもアンバランスな男女のカップルがいた。

まず普通の僕が155センチだったのに対して、この姿になると145センチともなる。
反対に啓介は182センチ程の大きな人である。
ただでさえ、身長差が30センチ近いのに40センチともなるとあまりにも差があることこの上ない。

そして僕はどう見ても可愛い女子中学生くらいしか見えないだろう。
基本的な顔のパーツは変わってないけれど、目はぱっちりと見開いて肌はきめ細かく、触ったら壊れてしまいそうなほど整った顔立ち。
さらにその顔に合わせたとしか思えない長く、さらさらとした髪。
それでいて少しだけど胸も出ている。

総合的に見ればどことなく幼い印象さえある顔に対して、これから大人になろうとしている体は将来良い体型になることを感じさせる。
それで肉体的には14歳ほどに戻っていて、初潮も来たばかりの体質みたい。

もっとも、僕が高校を卒業する頃には肉体も実年齢に追い付くらしいけど。

さらに、律儀にも制服は近所の中学校のそれになっている。

「うーん、相変わらず夏海は可愛い! 早くこれが毎朝拝めるようにならないかな〜!」
「そんなことないよ啓介ぇ。この姿結構恥ずかしいんだから……。それに、まだずっとこれが固定されるかわからないんだし──」
「まったく、夏海はぁ。大して顔は変わってないじゃないか。大丈夫、おまえは可愛い。それは揺るぎない真実だ。
お前となら絶対にこれからの困難も乗り越えられる」
「うぅ…、啓介ありがとう」
「うわ、泣くな夏海。よしよし。ところで、今日も交わろうか?」
「もう! 啓介ったら! 最初から僕の体が目当てだったんだね! 僕怒るよ!」
「よっしゃ! 元気になった! やっばり夏海はどんな顔しても可愛いなぁ」
「うぅ…啓介のバカ。    気持ち良くしてよね(ボソ」
「何か言ったか夏海?」
「ううん、なんでもないよ」


そう、僕は啓介とずっと一緒。
これが幸せだから。


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