このカーブを曲がれば我が家はすぐそこだ、2人の旅行はは終わりを告げようとしていた。
僕はハンドルを握りなおしカーブを抜ける。しかしそこには道をはみ出た対向車が迫っていた。
「!!!っく」
とっさにハンドルを切り、回避を試みた。
それを最後に僕の意識はブラックアウトし、次に目覚めたとき目の前には割れたフロントガラスと栗色の瞳に涙を溜めた理恵の姿だった。
「恵ちゃん、恵ちゃん、恵ちゃん」
彼女は僕の手を握り僕の名を叫びつづけていた。
「理・・・恵・・・よかった無事で」
僕は理恵の手を握り返し、そう言うと再び闇に落ちていった。

「・・・・木さん・・・・鈴木さん・・・・」
誰かが僕を呼んでいる。僕は・・・助かったのか?
目をあけるとそこには無機質な白い天井だった。体を起こそうとするが体が動かない。
傍らには白衣を着た男が立っていた。
「鈴木さん気づかれましたか。落ち着いて私の話を聞いてください。
あなたは交通事故に遭いかろうじて薬品と機械によって生かされている状態で、もう長くは持ちません」
「僕が・・・死ぬ?」
「はい、残念ながら。5年前の技術ではこうして会話することもできなかったでしょう。そこであなたにお願いがあります。
脳移植実験のドナーになっていただけないでしょうか?・・・おっと、失礼しました。私は構成労働省技術開発部の杉田と申します。
誠に勝手ながらあなたの血液サンプルを検査させていただきましたが保存してある体とあなたが適合しました。ぜひあなたの脳を使わせていただけないでしょう か」
『そんな・・・勝手に』
そう僕は思ったが杉田は僕の思考をさえぎるようになおも話し続けた。
「それにあなたにとってもいい話のはずですよ。このまま放置すればあなたは間違いなく死にます。
もしも提供していただけるのならば100%とはいえませんが動物実験の結果を見る限り記憶が残る可能性はあります。
もちろん体は赤の他人になってしまいますが生き残る事ができるかもしれません。どうですか、あなたの脳を我々に託してみませんか?」
その言葉を聞き僕はそっと眼を閉じ理恵のことを考える。杉田のことを信じるのならば僕の記憶が残る可能性はある。
もしここで断れば二度と理恵には逢えない。もし手術を行い成功したとしてそのとき外見は他人のものだ。そ
のとき理恵は僕を再び受け入れてくれるだろうか?そんな前例がないことに結論が出るわけもない。
だが断れば可能性は完全に消えうせる。たとえ受け入れてくれなくても僕は生きて理恵を見守っていたい。
 僕は意を決し目を開き、そして杉田に告げた。
「本当に記憶が残る可能性があるんですね?」
杉田は黙ってうなずく。
「わかった、脳を提供します。必ず成功させてくれ」
「ありがとうございます。では時間がありませんので早速はじめさせていただきます。あなたのご厚意は決して無駄にいたしません」
杉田がそう言うと待機していたであろう看護婦が部屋に入ってきた。看護婦は僕の腕に注射を打つと僕の様子をじっと窺っていた。
おそらく麻酔なのだろう、僕の意識は徐々に遠ざかっていった。
「それではまたお会いしましょう」
その杉田に言葉が『鈴木恵一』として聞いた最後の言葉になった。

2022年12月24日 クリスマスイブ 鈴木恵一 死亡


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