愕然とする和泉に、レイは無言で新聞を差し出した。日付は13日前…つまり、巻き込まれた翌日。
「はは…こりゃぁ…納得するしかないわな…」
震える声で呟く。記事を見るまでもなかった。一面に載っている写真…それを見ただけで解る。
歩きなれた裏道だ。自分が歩いていたあたりがクレーターと化しているのだ。無理も無い。
その間に、レイが散らばったカップの破片と紅茶を片付けてゆく。
「すまないな、悲観的事実ばかりで…。だが、君が自分自身でこれからを考えてゆく為には必要な事だろう」
「…ああ…そう…だな…」
「ともかく、落ち着くまではゆっくりしていてくれ。この部屋は自由に使ってくれて構わない。
部屋から出ないでくれ、とは言わないが…無駄に広いのでな。迷うと少々手間だ」
「ん…ありがとう」
泣き笑いのような表情で、和泉が頷く。
「…君は、強いな。こんな常軌を逸した状況でもさほど取り乱さず、礼も言える…そうそうできる事ではあるまい?」
「んー…まぁ…元々自分を第三者的に見る癖があったから…そのせい、かも」
「そうか。…一応伝えておくが、今の君の存在は当然、表沙汰には出来ない。その辺りは考慮してもらえると助かる」
「ああ…解った…」
では、と言い置いてレイは部屋を出て行った。残された和泉はベッドに横になり、
「俺は…もう死んでる、か…」
呟くと、じわじわと実感がこみ上げてきた。『自分』はここにこうして生きている。が、その『自分』の居場所はもう既に無い。
会いたい人にも…会えない。
「…やめよ。シャワーでも浴びよう…」
鬱々とした考えばかりが浮かんで来た頭を振り、和泉は気分転換の為にバスルームを探し始めた。
どうやら部屋に備え付けてあるらしく、バスルームはすぐに見つかった。どうやら、ホテルの一室のような作りらしい。
着替えは無かったが、少し前に着た服なのでさほど問題は無いだろう。
そう思い、和泉はシャワーを浴びる事に決めた。
「…そーいえば…下着、着けてなかったんだな…」
脱ぎながら呟く。とはいえ、ショーツはともかくブラジャーを着けるには抵抗があるが。
ふと見た洗面所の鏡には、まだ16,7の美少女の姿。薄く頬をそめたその表情には、ナルシストの気の無い和泉も思わず見入ってしまったほどだ。
「…何をやってるんだか…」
肩をすくめると、視点を観察へと傾けて変化した点を列挙してゆく。
まず、背が10センチくらい小さくなった。今は165センチくらいだろうか。当然筋肉も付いていない。
決して大柄やマッチョではなかった以前と比べても、随分小柄に見える。
ほっそりとしていた指や手足はあまり変わらないが、肌の色が全体的に白くなったせいか、やけに目立つような気がする。
胸は可もなく不可もなく。CからDくらいだろうか。あまり見ているとヘンな気分になってきそうなので止めた。尻…ヒップも同様。
(とても、元の身体のクローンとは思えないよな…でも、実際に違和感無いし…)
それは、この新しい身体を脳が受け入れているということなのだろうか。憂鬱ではあるが、事態に際しては自分でも驚くほど冷静だった
鏡に向かって苦笑し、浴室に入る。微かに汗臭い身体を流す為、シャワーのコックを捻る。
お湯の温度は高めに設定。頭から浴びると、重く凝り固まった鬱思考が流されていくようだ。
「あー…生き返る…」
呟いて、髪・身体を洗ってゆく。スポンジもタオルも無かったので、手にボディソープをつけて泡立て、撫でる様に。
髪、腕、足、背中と順番に洗い、胸に触れたとき唐突にそれはやってきた。
「んっ…ふっ…」
乳房部分はまだ平気だったが、乳首に触れたときに和泉は思わず吐息を漏らした。
何とも知れない、数時間前に自分のモノを確かめた際、裂け目に触れたときと同じ強烈な感覚。
モットサワリタイ。ナデマワシタイ。
モウサワルナ。ワスレロ。
二つの思考が同時に和泉の頭に浮かんだ。触りたい…男として? 女として? 自問してかぶりを振る。
「…ええい!」
パン、と両頬を叩いて気を取り直す。
(しっかりしろ…俺は男だ。俺は男、俺は男…)
自分に言い聞かせ、その感覚と欲求をやりすごす。しばらくじっとしていると、むずむずとした感覚はどこかに消えていく。
ほっと安堵の溜息をついて、和泉は身体を洗う作業を再開した。

やりすごした、と思っていた。
「う…んっ…」
いつもの癖で肉棒を洗おうと伸ばした手が、偶然股間に…秘裂に触れた。とたん、胸のときの数倍の感覚が電撃のように和泉の身体を貫いた。
「うぁ…あ…」
サワリタイ。モットサワリタイ。
そんな言葉がちかちかと瞬いた。当然の事ながら、胸のうずきも再び表面化する。
理性の抵抗はあまりにもはかなく、また抵抗するには巨大だった。一瞬で押し流され、何も考えられなくなる。
「んっ…くぅっ…あん…」
右手が秘裂に、左手が胸にあてがわれる。すぐさま指が裂け目の入り口をまさぐり、乳首をこね回し始めた。
「っはぁ…あふっ!んぅぅ!」
覚えているのは身体か脳か。以前女性を愛撫した時の手つきそのままで、今度は自分の身体を愛撫する。
(やば…きもち…よすぎっ…)
「はんっ…く!ひぐっ」
手が止まらない、止めようとも思わない。むしろ、無意識のうちに指の動きを激しくさせていた。
漏れ出る声も、既に官能に悶える少女の喘ぎ声。和泉は我知らず、自らの発した喘ぎにさらに興奮し、上り詰めていった。
「ああっ…ダメッ!くる、くる…!」
ぐちゅぐちゅと淫猥な水音を響かせながら、何かが背を駆け上ってくる。その感覚が『イク』のだと、本能的に和泉は気付いた。
やはり無意識に、口から言葉が漏れる。
「イク…ふあぁぁぁぁっ!」
ピン、と背筋を張り、絶頂を迎える。プシャア、と音を立てて潮を吹き、和泉の身体から力が抜けた。
「はぁっ…はぁっ…んぅっ!」
指を秘裂から引き抜く時にも快感が走り、喘ぐ。座り込んだバスタブには、湯に白くにごった愛液がかすかに混じっていた。

ザァァァ…
流しっぱなしのシャワーに打たれながら、和泉は膝を抱えて座り込んでいた。余韻の引いた身体を、今は自己嫌悪が満たしていた。
「ん…だよ…」
小さく呟くと、のそのそとシャワーを手探りで止める。やけに、身体が重たかった。溜息をついて、タオルで水気をぬぐってゆく。
以前と同じ拭き方では髪に水気が残りすぎ、気持ち悪い。そんな些細なことにもイラついた。
(そりゃ…気持ちよくなかったわけじゃないけど…さ)
むしろ、男の時とは比べ物にならないほどの快感だった。初めてだということを差し引いても、全く女の身体とは恐ろしい。
バスルームでの自分を改めて思い出し、和泉は再び溜息。
女の身体になって数時間(実際には約10日)だというのに、早くも『高遠和泉』のアイデンティティにヒビが入ったような気がした。
「とは言え…今のままじゃどうしようもないんだよねぇ…」
一人ごち、また溜息。この時、和泉は自分の言葉遣いが若干柔らかくなっていることに気付かなかった。


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