廊下を歩いていると、それまでのざわざわとした雰囲気が消え、視線が僕に集中した。
 通り過ぎた途端、再びざわめきが復活する。
 「ああ、アレが……」「へぇ、オレ好みだな」「でも男なんだろ?」「あれだけ可愛ければ何でもいいぞ」
「きゃー、素敵ーっ」「お姉さまーっ」「『お姉さま』というにはちょっと可愛すぎるんじゃないかしら」「ロザリヲ欲しいっ」
 何か方向性が間違った言葉も聞こえてくるけれども、すべて僕に対する言葉らしい。
 僕は欝な気分にとらわれて、自分が今はいているプリーツスカートのすそを見下ろしつつため息をついた。



「遊君には、これから文化祭までこの制服で過ごしてもらうわ」
 そう言って僕が委員長に渡されたのは、女子用の制服……セーラー服だった。
「あのー、ちょっと、ソレッテイッタイドウイウコトディスカー?」
「遊君には文化祭での演劇のお姫様役をやってもらうって言ったでしょ?
そのためには、まず女の子の服装に慣れてもらわなくちゃ。
いくら今は本物の女の子とはいえ、しぐさとかは微妙に違いが出るから」
「ちょっと待って。そもそも本職の演劇部はどうしてるの?」
 微妙に話をそらしてみたりする。
「あら、知らないの? 今は部員が少なくって、役者が足りないからって全生徒から協力者を募ってるのよ」
「全生徒から募集してるんじゃ、別に僕がヒロインやらなくっても……」
「ダメ、絶対」
「ど、どうして?」
「可愛いから」
「は?」
「初日からずっとそのことを考えてたのよねー。ああ、この子は女装させたらものすごく可愛いだらうなぁ、って」
 委員長が変だ。
「まあでも、すぐに川村君に相談されて本当は女の子だって知ったんだけど、でもそれ激萌えよね?」
 委員長が大変だ。
「それで演劇部と実行委員会とうちのクラスにこっそり打診してみたら、全会一致でOKが出たの。
さすがにみんな、萌えっていうモノをよくわかってるわ」
「わかるなそんなものっ!」
「まあ、そんなわけで遊君には今日からセーラーで過ごしてもらうわよ。
ああ、先生方にも話は通してあるから心配はいらないわ。……どうせなら体操着にブルマも用意すればよかったかしら?」
「いらないっ。っていうか、これも着ないし」
「あら、貴方は貞操を守った恩人の純粋無垢な願いを無下に断るのね」
「誰が純粋無垢なんだ剛拳空木……ってそうじゃなくて……川村、なんとか言ってよ」
 僕は、さっきから一言も喋らずに存在感を消していた川村に、助けを求めた。
「あ、そのー、なんだ。……セーラー服萌え」
 オンドゥルルラギッタンディスカー!?
「何気に頬を赤く染めてそっぽを向くなそこっ!」
「うふふー。彼はすでに私の軍門に下ったわ。もう貴方に逃げ場は無いの。さあ、おとなしくこちらの要求を呑みなさい」
 川村を指差しながらにんまりと笑みを浮かべて、委員長は言った。
 今度は脅迫ですか。
「……楽しそうだね、委員長」
「大丈夫、別に貴方の正体があの小生意気な海原祐樹だからってもてあそぼうなんて考えていないから」
「それは嘘だ」



 そういうわけで、孤立無援になった僕は否応無くセーラー服姿で学校生活を送ることになったのだった。


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