部長の楠樹繭美は、一年生達の様子がおかしい事に気付いた。
この学校のスポーツ部の例に漏れず、テニス部も厳しい練習を課すようなものではなく、
楽しく体を動かそうというのが目的だった。
軟式テニスということもあって、一年生にも一通りのフォームを覚えさせた後は、五
月の連休明けにはもう球も打たせているくらいだった。
さすがにコートが少ない(とはいっても3面もあるのだが)ので全員が一度に練習する訳にも行かず、
公式大会に出る上級生を中心としたカリキュラムとなっている。
5人の一年生部員の顔は、どれも桜色に染まっている。
いつもは時々おしゃべりをしながらボールを拾ったり、素振りの練習に興じる彼女達が、
今日はどこか浮ついているように見える。
しきりにスカートを気にし、少し動く度に無意識に裾を引っ張って下着が見えないように隠そうとしている。
もちろん、アンダースコートなのだから見せてもかまわないし、周りはみな女性ばかりだ。
彼女達の様子は明らかに変だった。
それもそのはず、一年生は全員、上も下も下着無しなのだ。
大きく跳ねれば、お尻も恥ずかしい所も丸見えになってしまうのだ。
あまり動きまわることがないのでわかりにくいが、亜美が動く度に大きな胸がふるんふるんと揺れ動く。
練習するうちに、股間がとろとろになってきた。乳首が擦れて、気持ちが良すぎるのだ。
内股気味に歩くだけでラヴィアが擦れて、感じる。
ラケットを持ち、軽く前傾姿勢でこぼれ玉を待ち構えながら、
持っているテニスラケットのグリップを挿入したら気持ちがいいだろうなどと、
亜美は性的妄想で頭の中を一杯にしていた。
もしここに男性がいたら、どうなってしまうだろうか。
きっと金網に体を押し付けられ、皆が見ている目の前で犯されてしまうに違いない。
逞しい肉棒と、ラケットのグリップの両方を突っ込まれて、繰り返し犯され、そのまま放置される。
そして今度は野次馬が襲いかかってきて、テニスウェアを破かれて輪姦されてしまう……。
「あっ……」
ついに腿を伝って淫らな果汁がしたたり落ちてしまった。
乳首はとっくに尖りきってしまっているし、腰の奥の方にじんじんと痺れるような温かい物が発生しているようだ。
亜美の妄想と感覚は、本来の体の持ち主でありながら今は居候に甘んじている悠司にも伝わっていた。
(あ、くそ、まずいな……なんか変な気分だぞ)
一番近い感覚は、アダルトビデオを抜きどころを探しながらゆっくりとオナニーをしているといったところだろうか。
低いが持続性のある刺激は、徐々に悠司の理性をも奪い始めていた。
その時、
「はい、ちょっと集合!」
繭美が大きな声を上げて皆を呼び集めた。部員達が小走りに彼女のもとへ集まってゆく。亜美も我に返って、走る。
全員が揃ったのを見て、繭美が言った。
「一年生。ちょっと今日、全員おかしいわよ。どうしたの?」
「あの……」
「いえ、なんでも……」
もじもじとしながら、しきりにスカートの裾を気にしている。
亜美にいたっては、頬を紅潮させて心ここにあらずといった風情だ。
「瀬野木さん……!」
背中をつつかれると亜美は一瞬我に返るが、すぐにまた惚けたような笑みを浮かべて虚空を見つめる。
まるで気が触れてしまったような感じだ。事実、亜美は快感のパルスに身をゆだね、心はここに無かったのだ。
この時、悠司と亜美の精神はほとんど完全に溶けあっていた。
無意識にバストに手をやり、つかむ。
「んふっ……」
小声だが、何人かにはその声が聞こえてしまったようだ。
ぎょっとしたような表情で亜美の方を見るが、彼女は全く意に介さない。
繭美はため息をついた。
「ふう。この分では、今日は練習にならないわね」
続けて何かを考える風に、軽く首を傾げて言った。
「それじゃあ……部員の相互理解と親睦を兼ねて、特別ミーティングでもしようかしら」
3年生部員が、その言葉を聞いて顔を見合わせた。驚いているような雰囲気だ。2年生もやはり驚きを隠せないようだった。
「全員、必ずシャワーを浴びてから部室に来るように。いいわね」
「はい!」
揃った返事が返ってきた。
繭美が更衣室の方に歩き始めて、他の部員もそれに従う。
何人かの1年生が亜美に近寄って耳打ちをした。
「やっぱり、先輩怒らせちゃったのかな」
「そんなことないわよ。でも、布夕(ふゆ)ちゃん、感じてたでしょ。皆に見られるかもしれないって……」
「もう!」
握り拳で、軽く背中を叩かれる。
そして彼女は、亜美に胸を押し付けるようにして囁いた。
「もう、いぢわるなんだから。”お姉様”ったらぁ……」
ハートが語尾につくような甘えた声だった。
自分でも胸がときめいているのがわかる。
悠司は、自分のと亜美の心が徐々に溶け合ってきているのがわかった。
前に進もうとすると、体もすっと動いた。
靴の上から痒い所を掻いているような感じだが、ある程度の意思は通るようだ。
すっと手が動いて、布夕と呼んだ少女のお尻を触る。
「ひゃん!」
まだ固いが、それでもしっかりと女性らしさを漂わせ始めた丸みを帯びた柔らかさをしかりと楽しむ。
「だめですよぉ、お姉様ったらぁ……」
それでも布夕はまるで抵抗しない。背後からはお尻が丸見えのはずだ。
「うふふ、布夕のその顔、ぞくぞくしちゃう。ここで押し倒しちゃいたいくらいよ」
亜美の顔をのぞきこんだ布夕の表情が一瞬、強ばる。
その顔は亜美でありながら、悠司の表情をたたえていた。
「亜美ちゃん?」
「なあに?」
布夕はまばたきをした。
そこにいるのは、いつもの亜美だ。さっきのは自分の思い違いだったのだろうか?
「ううん、なんでもないの」
そう言って、小走りに更衣室の方へ走ってゆく。
あそこがじんじんと痺れていた。
まるで知らない人に触られていたみたいだった。
それなのに……気持ちよかった。走るだけで股間がぬるぬると濡れてゆくのがわかった。
早くシャワーを浴びなきゃ、と布夕は思った。
シャワーを浴びた瞬間、亜美は軽く達してしまった。まるで全身が性感帯になったようだった。
悠司にもその衝撃が伝わってきた。かなりの部分、亜美と悠司はシンクロし始めているようだった。
悠司の心は、妙に浮き立っていた。
衆人環視のもとで同級生のお尻を触れた事ではなく、今までの違和感が徐々に消えてゆくのがわかったからだ。
不思議だった。
徐々に体がしっくりしてくるのがわかる。
張りのある双球の頂きにある蕾が固くしこっているのが感じられる。湯滴はまるで全身を舐めるように愛撫してゆく。
だがその一方で、彼は用心を怠らなかった。
シャワールームは、個室とまではいかないが区切りとカーテンで最低限度はプライバシーを守れるようになっている。
仕切りの下から両隣の人の脚と頭が見える。
顔を仕切りの上から突き出せば他人の裸を覗けるのだが、そんなことをする者は当然のことながらいない。
誰もが無言だ。
どこかが変だった。
服を脱いだ時、上級生がこちらを見ていたのも気になる。
亜美の心のどこかに思い当たる事があるようだったが、
悠司にはそれを知ることができないのは腹が立ったが、これはしかたがない。
汗を流し終え、バスタオルで体を拭いて下着の上に直接ジャージを着る。
既に三年生の何人かはシャワーを浴び終えている。
急がなければならなかった。
小走りに先輩達を追い抜いて、部室に集まる。1年生は亜美が最後だった。
思ったよりも長くシャワーを浴びてしまったようだ。布夕という少女が軽く亜美をにらんだ。
もう、だめじゃない! と言っているようだ。亜美は両手を会わせて軽く頭を下げた。それだけで布夕の表情が緩む。
やがて先輩達も全員揃い、空調の良く効いた部屋で、各個人についての寸評と、練習メニューについての提案が行われた。
贅沢な学校だ。教室どころか、廊下にまで空調が効いているのには悠司も驚かされた。
トイレやこんな部室にまで空調が行き届いている。並の設備ではなかった。さぞや授業料は高いことだろう。
ホワイトボードの前に立っている部長と副部長は3年生。
3年生はあと3人いて、2年生は6人いる。1年生も6人だ。合計で17人のクラブだ。
「以上です」
副部長に全てを任せ、じっとしていた繭美が副部長の締めの言葉で、一歩前に出た。
「いつものミーティングはこれでおしまい」
時刻はまだ2時半。
これで解散なのだろうかと思いかけた時、繭美が言った。
「さて、これからが本番」
彼女の顔に、子供っぽい笑みが浮かんでいる。なんというか、悪戯っ子のような感じがする。
「特別ミーティングは、本当は冬休みのクリスマス会の時にするの。部員の結束を固めるためと親睦を兼ねてね。
そうして一年生は本当のテニス部員になるの」
足を横に流すようにして座っていた繭美が、すっくと立ち上がった。
「一年生、立ちなさい」
弾かれるように6人の1年生が立ち上がった。
繭美は緊張して立っている彼女達の目の前に歩み寄って言った。
「あなた達、バージン?」
一年生達の目が点になった。
「は?」
「えっ!?」
「……」
「あ、あの……」
「えーっと、その」
「違います」
それぞれが違った反応を返した。戸惑っていないのはただ一人、亜美だけだ。
亜美の言葉に、全員の目が彼女に集中した。
それを彼女は、うっすらと笑みすら浮かべて受けとめている。
「みんなバージンじゃないでしょう?」
非難の目で見られるかと思ったが、二人が恥ずかしげにうつむいている他は、
むしろ潤んだような熱い視線を、亜美に送ってくる。
「もう、亜美ちゃんったら……」
小声で言ったのは、瀬尾杏子という同級生だった。
うつむいている二人のうちの一人だ。
「亜美ちゃんは……知ってるのよね?」
「ええ。姉様から聞いてますから」
心が−−痛い。
これは、亜美の心だ。
亜美は目の前まで近寄ってきた繭美の手を取る。
そして片足を後に下げ、膝を折り曲げてまるで貴婦人に対してするかのように、彼女の手の甲にキスをした。
「特別ミーティングの始まりは、このキスでいいんですよね?」
「やっぱり瀬野木先輩に聞いていたのね」
「ええ。先輩の話も聞いてます。一年の時から二股ディルドーの使い方が凄く上手だったって……」
亜美の姉、観夜は四才年上で、同じ学校に通っていた。今年の6月に結婚して、現在は妊娠3ヶ月。幸せの最中にある。
亜美の心に複雑な感情が芽生えるのが悠司にもわかった。
それは、愛憎。
彼女にとって姉は愛し、憎しむ対象だった。
一人っ子の悠司にはよくわからないが、彼女の中にある深い闇は理解できた。
とてつもない大きさで、手で触る事すらできそうな密度の、暗く、血と死の臭いがする闇だ。
苦しい。
胸を切り開いてかきむしりたいほどの苦しみを、今、悠司は初めて知った。
それでも彼女は心の闇を隠す仮面、微笑みで繭美を迎える。
殺したいほど憎いのに、誰よりも愛している。姉を守りたいのに、痕跡も留めずこの世から消し去りたかった。
悠司は相矛盾する亜美の激しい感情の渦に飲み込まれ、自我を失った……。
彼女が気がついた時、テニス部の部室は濃密な性臭でむせかえっていた。
エアコンは効いているが、それ以上の、汗と、吐息と、そして性分泌物が15人分。脳細胞を蕩かせる。
いずれも美少女と言うにふさわしい少女達が全裸で睦みあっている様は圧迫感すら感じるが、
その中に溶け込んでいる彼女達にとっては、どうでもいいことだった。
「どうしたの?」
繭美の胸の中で、亜美は目覚めた。
自分は起きていたはずなのに、なんで目が覚めたなんて思うのだろう?
「なんでもないです。先輩」
そういって、目の前の乳首を甘噛みして軽く引っ張る。
恵理はこれが好きだった。なぜか、何度もこれをねだったものだ。
でも……恵理って誰だろう?
少し考えたが、なにしろ百人を軽く越える子猫ちゃんとの逢瀬をもつ亜美のこと、すぐには記憶から出てこない。
繭美が顔を寄せてきて、おでことおでこをすりあわせて笑った。
「他の子のことを考えていたんでしょう? 顔に書いてあるわ」
「わかります?」
答えの代わりに繭美は亜美の顔を引き寄せて、唇を合せた。すぐに舌と唾液がかの序の口の中に注ぎ込まれる。
亜美はそれを味わってから、自分の唾液を混ぜて先輩の口へと返した。
淫靡な遊びを何度か繰り返してから二人はようやく顔を離した。
「亜美ちゃん、キスが上手ね。先輩……お姉さんに教えてもらったの?」
だが亜美は曖昧な笑みで彼女の問いに答えず、反対に彼女に質問をした。
「先輩が経験した男性は、婚約者さんだけなの?」
「そうよ……私の胎内(なか)に入れる男の人は、晶さんだけなの」
「もったいないですね」
「だって、他の男の人に抱かれるなんて考えたくもないもの」
「でも女の子は平気なんですね」
「柔らかいから、好き……」
繭美が亜美を抱きしめる。
テニス部でも1、2を争う美少女の楠樹繭美と瀬野木亜美、二人の胸が互いの体で押しつぶされる。
「肌と肌で触れ合う事が、一番人を理解できるの。先輩もそう言ってたわ。私も、そう思うの」
また亜美の心に、鋭い痛みが走る。
そんな言葉なんか聞きたくない。
心臓を鷲づかみにされたような苦しみを感じながらも、彼女は笑みを絶やさない。
だって、自分に求められているのはそんなことではないから……。
「亜美ちゃんは眼鏡を外さないの?」
「外すとよく見えなくなってしまいますから」
「なんでコンタクトにしないのかな」
「あまり、得意じゃないんです。異物を常に感じちゃってだめなんです」
「じゃあ……これもだめ?」
手探りで何かを探していた繭美が差し出したのは、二股ディルドーだ。いや、それに黒いゴムのバンドがついている。
「これで亜美ちゃんを愛してあげるからね」
ざざっ!
亜美の背中に寒気が走る。
二の腕と背中に鳥肌がたってしまった。
犯されるなんて嫌だ。犯されたくなんかない。
それなのに、亜美は彼女の言葉を待っていた。矛盾している。
戸惑いながら、亜美は今度は自分から繭美を抱き寄せてそのまま押し倒す。
「先に、先輩に気持ちよくなってもらいます」
おおいかぶさるようにしてキスをする。
脚と脚、お腹とお腹、胸と胸。そして、顔と顔。
相手の温もりが体に染み渡ってゆく。
「亜美ちゃんって、ひんやりとしてるのね」
「低血圧ですから」
くすりと笑って、またキスを交わす。
ちょんちょん、とつつくようなキスを何度かしてから、繭美の唇を舐めまわす。唇は甘い香りがする。
亜美はリップクリームを剥ぎ取るように自分の唇と舌で、繭美の唇を凌辱する。
片手は繭美の乳房にあてられている。乳首を親指でくじりながら、円を描くように揉む。
長くもつれるようなキスをしながら、亜美の手が繭美の全身を這いまわる。
「ふー……んふぅーっ!」
前歯や歯茎までも、歯垢を削ぎ落すかのように舐めまわす。
繭美が舌を突き出せば、受け入れる。今度はお返しに歯を舐めまわされる。
直接的な快感はないのに興奮した。何度もして、されてきた行為なのに、とてつもなく新鮮な快感のように感じた。
何分、いや何十分キスをしていただろうか。
いつの間にか周囲で睦みあっていた少女達が二人を取り囲んで見つめている。
「もう、なんでこっちを見てるの?」
繭美が膨れっ面で抗議した。
「だって……とってもきれいだったんですもの」
2年生の部員が、ため息をつくように呟いた。
「だめよ。1年生をたっぷりと愛してあげて。身も心も、私達は一つに繋がるの。それがこの部の伝統だから……」
それだけを言うと、また繭美と亜美はいつ終るとも知れないキスを始めた。