チュンチュンチュン………

鳥の声が聞こえる。うつぶせの状態。うつろな意識の中、卓哉は首を少し上げて目を開ける。
ベッドの向かいの窓から射す太陽の光が目に入り、眩しさに顔を再び枕に、ぼふ、と埋める。
そうしているうちにゆっくりと意識がはっきりとしてくる。
「………………!!」
昨日の出来事。朝、女になってて。呼び出されて。病院に行って。そして…………
鮮明に思い出した。望まぬ初体験。童貞だったのに、「破瓜」。しかも初相手は…男。
そしてその男は小学校からの腐れ縁、灰谷。
灰谷に何回も子宮を突かれ、、何回も精液を胎内に吐き出され……その記憶が卓哉の心をノコギリで引っかいたように乱す。
枕に顔を埋めたまま顔を激しくしかめる。なんてこと………気分が重く沈む。
そういえば股間も、身をよじったりシーツとこすれる度ひりひり痛む。まだ何か挟まってる感じ。

………………は! 俺の体!
そういえば昨日の病院帰り思った事。その時からずっと考えていた一つの可能性。
朝起きたら突然女になってたんだから、その逆もありうるかも、という事。

バッ!と掛けられた布団をはいで、体を見る。裸だ。昨日のまま。そして。
………………見下ろす形で見える大きな胸。がっくり。うなだれる。
このまま元に戻れないのかも………嫌な考えが頭を過ぎる。
おでこを手でペンペンと叩く。止めよう。何とかなる。何とかするさ…………。そう言い聞かせた。

掛けられた布団にふと気付く。昨日は………犯されている最中に気を失った………はず。
5回目の最中までしか良く覚えてないが、その時も自分で掛けてはいないし……灰谷が掛けてくれたのか。

そうだ………灰谷は?
きょろきょろと部屋を見渡す。
部屋奥の大きめの窓。その横に並んだ2つの机。俺と灰谷の。さらに視点を横に動かす。
ドアの無い入り口の先の部屋。隣の部屋は居間と台所。

寮なのに居間と台所?と思うかもしれない。
他の部屋はもちろんそうだ。風呂と冷蔵庫なら他の部屋にもあるけども。豪華なのはお坊ちゃま学校ゆえ。
実はこの部屋、元宿直室。最上階の五階の隅に設けられた部屋で、ここで生徒を見張るわけだった。
でも一括して一方的にオートロックするシステムを導入してからその必要はなくなった。
で、空いたその部屋を生徒に使わせてると。さすがにガスは止められコンロも無いが。

まあいい。で、その横の廊下。先は死角で見えないが、脇に風呂場兼トイレがあり、その先は玄関がある。
ここまで見渡しても姿は見えない。上のベッドに要る気配も無いし……風呂かな?
まあ、顔を見てどうするというわけでもない。むしろ気まずいというか、今は見たくない。

……と、とりあえず何か着よう。タンクトップは破られたし……………。
ベッドの横に足を下ろし、立ち上がろうとした。そのとき。股間にドロリ、という感触。
「…………?」
と立ち上がり股間を見やる。白い液体が膣口からドロドロと垂れてきている。
「……………ぅ」
生々しい。赤く腫れ上がったアソコの中心から白い液体が次々と溢れる。
ぽたっ。ぽたっ。すらりとした太股の内側を伝い、膝で雫となって床に点々とたれていく。
昨日の光景が頭に浮かぶ。腰を目いっぱい押し込んで胎内に精を吐き出す灰谷。…どす黒い感情が湧く。
……取り合えず拭こう。このままじゃ下着も捌けない。
枕元のティッシュ箱から2、3枚抜き取り足を開き、腰をかがめて精液の溢れるアソコを拭く。がさがさ。
………実に惨めだ。
…………灰谷め。どうしてくれよう。がさがさ。ぐりぐり。ひりひり痛むが拭かないわけにもいかない。

と、ふと今迄寝ていたシーツに目を見やる。寝ていたところ、丁度股間のあった辺りが黒い赤の色で、湿ってしわしわになっている。
愛液と血と精液だろう。灰谷のよだれもあるかもしれない。
「………………」
何で俺のベッドがこんなに汚されてるんだ。もとはといえば奴が………。
恨みは募るばかりだ。…………がさがさ、くちゃくちゃ。垂れてくる精液の量が多い。ティッシュが濡れきって拭ききれない。
もう二、三枚ティッシュを抜き取り、拭く。がさがさ。ぐりぐり。がさがさ。
………ようやく精液が垂れてこなくなった。拭き終えたか。
ティッシュを丸めくずかごにほうり込む。
しかしなんて量だ。こんなきったないもんをこんなに………。何処までも恨みが貯まる。
とりあえず風呂に入りたい。体を清めねば。ああ、でも多分風呂にはあの獣が………。どうしようか悩む。

と、そのとき浴室のドアを開く音、廊下を歩く足音がした。目をやる。と、灰谷が姿を見せた。
風呂あがりなのかトランクス一丁で頭にバスタオルをかぶり濡れた頭を拭きながら。
と、全裸で立っている俺に気付いた。目が合う。と、
「お、起きたか卓哉。おはよう♪」
普通に。片手を上げて。
風呂上がりも手伝って顔は赤く、昨日の行為で蓄積したフラストレーションがふきとんだのか、実につやつやとしている。いい顔だ。
ニカっとナイススマイル。

それを見て、切れた。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
さっきの悩みは何処へやら一直線に駆け寄り顔面に跳びげりを叩き込む。
奴に全部丸見えだろうが知った事ではない。この豚は今死ぬのだから。

……………俺は堅実な男だ。女か。いや、そんな言葉遊びはいいのだ。
殺しては元に戻る以前に刑務所行きだ。豚1匹の屠殺で人生が終わるのは避けたい。
鼻血の染みたティッシュを鼻の両穴に挿し込み、片目に青タンを作り正座した"豚骨"に、
食堂に行って飯を食ってくるように、それと俺の分の食事を取ってくるよう命じた。
その間に風呂に入る。
命じると同時に"豚レバー"の首根っこをつかみ、起床時間が過ぎて鍵の解除されたドアを開け放ち"ポーク"を蹴飛ばして追い出した。
閉める前にティーシャツとズボンも投げつけてやった。裸で行かせて寮内ストリーキングプレイもよかったのだが、俺もつくづく甘い。
あ、全裸でドアの外に乗り出してしまった。ま、五階の隅の部屋だし誰にもみえまい。

"家畜"を追い出したらさっさと風呂に入りボディーシャンプーを通常の3倍の速さ……量をスポンジにぶっ掛け、ぐわしぐわし!と体を磨く。
まず胸。昨日、灰谷の唾液にまみれたままだ。ぐわしぐわし!
念入りに。形の良い胸が激しく歪む。少し痛いが清めるためだ。我慢しよう。がしがしがしがし!!

大体洗いおわっただろうか。次。ひりひりするアソコ。最もアレな所。
「ぅーん……………ょし」
ぐわし!
「いでっ……つぅぅ……!!!」
股間を押さえうずくまる。アホだ。

…………ここばかりは手洗いで。と、手にボディーシャンプーを出し数回手を擦り泡立てた後、しゃがんだ姿勢でまず上下に手のひらで表面を洗う。
無毛のそこを。ぬるぬるくちゃくちゃ。
そういえば………何で毛が生えてないんだろう?………まあ生えていてもしょうがないが。
「(うーん、第二次性徴とかすっ飛ばしたからなあ……)」
呑気な事を考える。

ぬるくちゃぬるくちゃ。少しひりひりするがそれほど痛いって程でもない。続ける。
ぬるぬるくちゃくちゃ。手と、突起部分が擦れる。その時。………じん。
「…………………?」
くちゃ、ぬちゃくちゃ、ぬちゃ。少し強めに擦る。突起部分も。
「……………………」
ふと、その度に、じん、じん、と甘い痺れが股間に広がるのを感じる。
「………む」
くちゃくちゃくちゃ。じん、じん、じん。
「んふ…………」
吐息がもれる。こ、これはなかなか……。
少し強く、早く擦る。くちゃくちゃくちゃくちゃにちゃ………………。じん、じん、じん、じん………
「ん…………ふぅ……くんぅ………」
恍惚とした表情で。くちゃくちゃにちゃにちゃ。
愛液がトロトロと流れ出て来る。膣についた精液を押し流しながら。くちゅくちゃくちゃくちゃ。
そうすると流れ出た精液も一緒にアソコに塗りたくるようになる。くちゃくちゃ。しかし、気付かない。
そうして愛液も手伝い、音はさらに淫靡になる。ぐちゃぐちゃにっちゃにっちゃ。
「ふう、ふう…んは…」
止まらない。昨日の激痛地獄の反動も手伝ってか、つい降って沸いた快楽に酔う。くちゃ…くちゃ…。
片方の手も自然に胸に行く。そして泡でヌルヌルのマシュマロのように柔らかい胸を揉みしだく。
整った胸がまた歪む。ヌルヌルほよほよ。今迄経験した事のない触りごこち。さらに揉む。
ぬるぬるぐにんぐにん。先端は次第に固くなっていく。くちゃくちゃぐにぐにコリコリ。甘い痺れが股間と胸からやってくる。
「んはぁ……………んふ………くぅ………」
目的を忘れ一心不乱に擦る。
くちゃにちゃくちゃ…むにむにこりこり…
「ふう、ふぅ、………はぁっ………」
たまらない。脳が痺れる。くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ………
「はぁ、はあ、はぁ、はぁ、…んふ……」
次第に腰が突き出されていく。上半身は後ろにのけぞり、たわわな胸が自己主張するようだ。
手の動きに合わせて腰をくねくねと轟かせ、擦る。より強く。大きな音を立てて。

ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ!!!!
股間が激しく泡立つ。それは新たに分泌された水分も手伝っている。
「はふ、はふ、はう、はぁ、んっ、はぁ、はぁ、んっ、くっ、ひはっ」
ぐちゃびちゃにちゃ!
じんじんが強くなってくる。それしか考えられなくなる。突起が気持ちいい。そこに円を書くようにグリグリとつぶし、擦る。
しびれる。腰が浮くよう。ぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ!
凄い水音。でももはや耳に入らない。
もっと! もっと気持ち良く! そう願い、手に強く密着させようと腰を目いっぱい突き出す。
その時バランスが崩れ、尻餅をついてしまう。でも、止まらない。
楽な体勢になった、くらいにしか感じなかった。今はただ快楽を。びちゃびちゃびちゃびちゃ!!!
仰向けに横たわり、激しく身をよじりながら、片手はたわわな胸の先をぐりぐりぐりぐり。
片方の手は股間を強く強く擦る。びちゃびちゃびちゃびちゃ!
もっと! もっと! もっと!
「はぁぁ、はぁぁぁぁ、ひぃ、はぁ、ぁはぁぁんぅ!」………そして、波が来る。
最後。
股間に伸びた手で思い切り突起を、思い切り、グリ、とつねる。胸にある片方の手は胸の突起をつねった。
その瞬間。

「ひぃぐぅっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

爆発した。足は大きく開かれ、股間は思い切り高く突き上げられ、体はアーチ状に反る。そして痙攣。
上を向いた、たわわな胸は痙攣に合わせてぷるぷると揺れた。股間からはオシッコのように潮がダラダラとタイルに垂れる。
滝のように大量に。初めての女体の自慰行為。それでも卓哉は激しくイってしまった。

数秒経過。
「――――――――――――――――――っっっ………………っはぁっはぁっはぁっはぁっ……」
全身の力を抜く。くたっ、と転がる。ぺたん、とお尻が落ちる。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
肩で息をする。腰がぴくぴく痙攣する、股間からは白く泡立ち濁ったような粘液がとろとろと湧いている。
「はふぅ、はふぅ、はふぅ、はふぅ、はふぅ…………すぅーー……はぁーー……」
深呼吸。体はまだあまり力が入らないものの、さっきよりましになる。
男のそれとは違う。体にめぐる波。今はそれにただ身を任せるのみ。

…………ふと寝たまま横の鏡を見やる。泡だらけでタイルに横たわり、恍惚とした表情の女の子。
一気に我に帰る。
「っ………! な、なにを、俺、は……」
手をさっと股間から放す。
離れた手と泡まみれのアソコの間に粘性の糸が数本、つつー、と引く。体に鞭打ち、何とか上半身を起こす。
「い、いかん、こんなことしてる場合では………」
紅潮した顔をぶんぶんと振る。

とにかく灰谷が帰ってくる前に終えないと。裸で鉢合わせてうっかり発情させてしまっては、また貞操の危機が。
と、とにかく次を洗おう。今度は膣内を直接。頑張ってふら付く足でまたしゃがみ、そっと指を入れはじめる。
「いっっ!!」
さすがに痛い。狭い穴。今の愛液もあるとは言え、指一本がやっと。
「(………あの野郎、こんな狭いとこにあんなふっといのを………)」
思い出し怒りをしつつ、狭くきつい痛みが走る秘口にゆっくりゆっくり細い指をじわじわと侵入させる。きつい。
指をぎゅうぎゅう締め付けてしまう。指先に血がいかなくなるほど強く。締め付けたくないんだけど……。
しかし、そうするとより密着して、より強く擦れてしまう。痛い。傷口に塩を塗り込まれてる感じ。
ソープが染みるのもあるだろう。だがまさか洗わずにそのままというわけにもいかない。
我慢してようやく奥まで指を到達させる。そしてゆっくりゆっくり戻し、抜く。
「……はぁっ」
その指にまたソープをつけ、入れる。それを数回。
「んぐぅ………くぅぅ……っっ!!」
じくじくと痛む。
くちゃ………にちゃ………先ほどの行為の愛液も手伝って音が浴室中に響く。しかし痛くて気に出来ない。
歯を食いしばり、端正な顔が歪められる。でも……数回が限界だ。指を抜く。
「んく……いちち……ぅぅ」
今の痛みでだいぶオーガズムの余韻も冷め、感覚も完全に戻ってきた。よし。急ごう。

後はシャワーの水で洗おう。シャワーをつっかけからとり、しゃがんだまま股間の下に持っていき、蛇口を上向きに。
そして、開いたもう片方の手で、こわごわ栓をひねる。
最初は弱く。きゅっ。しゃーーーーーーー。
「!!!!……………あり?」
水圧の痛みに覚悟して身構えたものの、水は入り口をマッサージするくらいの勢いしかない。
「……………むぅぅ」
シャワーの勢いを見て顔をしかめる。やはり………やるしかないか。最大。………栓を再度握る。
「………うし……」
気合いを入れ、覚悟を決める。泡だらけでしゃがんで、その股間の真下にシャワーを持って気合いを入れるその姿は実に滑稽だ。
………本人には解るはずが無いが。

「ん!」
一気にひねる。しゃーーーーーーー!
勢い良く赤く腫れたアソコを水が叩く。
「!!!!!…………く…んむ……ぅ」
殆ど痛くなかった。膣口の部分はちょっとは痛いけども。
栓を握っていた手を股間に移し、中指と人差し指でアソコを広げ、奥まで水を導く。
じゃーーーーーーーーーーー。
「いちちちち…………」
ひりひり痛むが別段、耐えられないほどじゃない。
奥の子宮に暖かい湯が注ぐ。腰を少しくねくねとくねらせ、子宮の隅まで水を行き渡らせようとする。
まあ、子宮口は小さいからそう水は行かず、殆ど意味は無いが、本人には解るまい。
じゃーーー。逆流してきた水は少し濁っていた。子宮にはまだ相当精液がこびりついてたらしい。
「な、なんて量…………」
あきれた。さっき拭いた量、シーツに垂れた量。さっきの自慰で押し流された分の量もだ………。
…………想像したくない。止めよう。しかし、昨日何回やったのか……。
把握している5回よりももっと? 気絶した後も犯られていたのだろうか。それぐらいの量。

想像する。
失神して体を投げ出してる自分の体にまだ張り付きガクガクと腰を振り、何回も射精を繰り返す灰谷を。
そして思う。…………ストリーキングさせるべきだった………。卓哉はうなだれて、深く深く後悔した。

しゃーーーーーー。1分程度くらい続けたら逆流する水が濁らなくなった。栓をひねり、止める。
シャワーを立てかけ、立ち上がる。と。ちょぽちょぽ…………。子宮の中に入った水が逆流してくる。
オシッコみたいだ。しかし、体の内側に水が直接入るなんて………なんとも女とは不思議なものである。
まあ、いい。とにかく、汚されたところは清まった。あとは残ったところを洗うだけ。

手早く髪を洗う。早くしないと帰ってきてしまう。ガシガシガシ!!
すすぐ。じゃーーーーーーー。長い髪は面倒だ。うーむ、リンスもするべきか……。
住んでる2人してろくに使ってないリンスのボトルを手に長考する。まあ、ぼさぼさは嫌だし……。
性別に関係無く格好はつけたい。そんなわけでリンスも使った。がしがしがし!
「(泡立たない……?)」
………そういう物だというのをよく知らない卓哉であった。
大体、髪を撫でるようにするべきだが短髪、長くても軽い五分わけにしかしたことがなく、リンスなんて使ったことのない卓哉には知る由も無い。
じゃーーーーーー。泡を洗い流す。
「うし。完了」
両腕で胸をかぽんと叩く。親父か。
しかし音はむにゅん、だが。
「女って悲しい………」
呑気な事をいいながら体を拭きつつ上がろうとする。
………そのときふと何の気無しに鏡を見やる。卓哉の全身が写っている。

………何か違う。昨日のと違う。
「………………????」
微妙に感じる違和感。じろじろ。
顔だろうか?いや、違う、なんかこう、全身の均一性というか………。はて………。
しげしげと鏡に映る自分を見る。
「……………え?」
……気付いた。
「…………!!」
胸をぐわし、と掴む。明らかに大きい。気付かなかったが、なんか重い。
「……………なんてこと………」
卓哉は青ざめた。起きたら男に戻ってるどころか、女の道を突き進んでいた。一体どうなっているのか。
女として理想的な体型になろうとしているのだろうか? その内、生理とかはじまったりするんだろうか?
「……………………。」胸を掴んで鏡に映る自分を見つめ、しばし考え込む。

と。がちゃ。灰谷が帰ってきた。我に返り、現実に引き戻される。
「……………!! まずい!!」
着替えを浴室内に持ってくるのを忘れてた。いかん、このまま出るわけにはいかない。
さっきは勢いでよかったが、むやみに裸を見せて奴を刺激するのは得策ではない………!!!

「………………」
…………ならば解決方法は一つ。

「はぁ、卓哉……持ってきたよ。居間に置いとくよ」
"ターゲット"の声だ。今は発情はしてないらしいが油断は禁物だ。
すざっ! ドアの脇にの壁に張り付く。ぶるん。動きに合わせて大きな乳がゆれる。
トン、トン、トン……足音が奥へ向かう。
「(今だ……!)」
バスタオルを体に巻き付け、音を立てないように浴室のドアを開ける。首を出して様子を伺う。居間に入っていく。
「(……!よし!)」
ここから先は一気に行く。
躊躇うと殺られる。いや、犯られる。さっ!と風呂場を飛び出し居間に向かって足音を立てずに、しかし高速で足を進める。
トトトトトトトト!! 居間を覗く。"ターゲット"がテーブルにトレイを置いた瞬間だ。

「(好機!!)」
ドン! 一気に間合いを詰める! "ターゲット"が気配に気付き振り向こうとしてる!

「(甘い!)」
俺の方が早い! 一気に決めるぜ! しかしバスタオルがはだける!
いや気にしてたら殺ら、犯られる! かまわず助走をつけ一気に!

「オォォラァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
思い切り"ターゲット"の横っ面に廻し蹴りを叩き込んだ!
ズドォォォォォン!!
「ぁびょ!!!」
奴の体がピンポン玉のように弾かれる。

会心の一撃。弾かれた"ターゲット"は、その勢いで台所のシンクにも頭をゴン!とぶつけた。

ずる……ぱたり。やつの巨体(180cm)が台所の床に沈んだ。
「ふぅ…………」
落ちたバスタオルを掴み、再び体に纏う。
そっと近づき、バスタオルを胸の辺りで持ち、ずれないようにしつつ足を恐る恐る延ばしチョン、とひっくり返す。
………ごろり。……幸せそうな顔で伸びている。
「……そうか…やはり見たのか…」
死の間際ですらしっかりと発揮されるその人並み外れたスケベ根性。やはりこいつは危険だ………。

………もくもくもく。上下共にジャージという、わざと色気の無い服に着替えてから、持ってきた食事を食べる。
目の前には意識を取り戻した"家畜人ヤプー"が酷い顔をして座っている。
「…………また今日は一段と醜いな」
「だ、誰のせいか!」
ドン! テーブルに手を突き、詰め寄る。
「……………………」
ぴし。ハンバーグの上のグリーンピースを指で掴み、顔に投げつける。
「近づくんじゃない。変態。ホモ。ゲイ」
「げ、ゲイとホモは一緒では………」
………もくもくもく。無視して食べる事に集中する。いや、答えようにもゲイとホモの区別なんて知らんが。
「………………」
「………………」
もくもくもく。静寂。目の前の"丸い知的生命体"は居心地が悪そうにチラチラと見やる。が、無視。
「………………」
「………………」
もくもくもくもくもく。
卓哉の咀嚼音しかしない。続く無音状態。

…………耐え切れず"豚バラ肉"が口を開く。
「な、なぁ、卓哉…………」
「誰が発言権を与えたのだ。この歩く産業廃棄物め」
ぴし。またグリーンピースを顔に投げつける。
「うぅ…人ですらなくなった…………機嫌なおしてくれよぅ………」
ムカッ!その言葉で一気に頭に血が上る。ドバン!机を叩き椅子をひっくり返し立ち上がる。ビクッ!
灰谷が怯み脅えた目をよこす。
「お前は! どの面下げてそんな言葉を!」
咀嚼中だったものを撒き散らしながら怒鳴る。
「だ、だって、卓哉が、卓哉が、そのぉ……あんまり……可愛いから我慢出来なくて………その………」
「我慢出来なかったんだから許せと!?
じゃあお前はゲイに思い切りケツ掘られても我慢出来なかったんならしょうがないやあっはっはで済ますのかこの腐った豚足が!」
箸を投げつけ女特有の高い声で怒鳴り散らす。
「ぅぅぅ……っご、ごめん………!」
萎縮する灰谷。
ぜいぜい……………。肩で息をする。いかん、冷静にならねば。
はて…………外でざわざわ声がする。………そうか。ここは男子校の男子寮。
普段は女の金切り声が聞こえるはず無いしな……。騒ぐのはよそう。というか、こいつにはまだまだいい足りないが、騒ぎになるのはマズイ。
「…………………はぁ…ふぅ」
深呼吸。
それに合わせて大きな胸がプルンと揺れる。よし、落ち着いたぞ。しかし、それを見逃さない灰谷。
「卓哉………その、胸………」
一日のうちに見分けるか。
「く………もういい。それ戻してきてくれ」
まだ少し食事の残ったトレイを指して言う。
「え、いや、コレはもう返せないし、そこのごみ箱に………」

実は寮の食堂から食事を持ち出すのは厳禁である。それを卓哉はわかっていて持ってこさせた。
それにこの姿で廊下に出られないし。というか、腹いせでやらせた意味合いが強いが………。そ
れはまあいいとして。さて、もう少し苦労してもらわねば。
「駄目だよ。もったいない。きちんと戻してこい」
灰谷がうろたえる。
「そ、無理だよ。今度規則破ったって問題起こしたら次は停学になっちゃうし……」
「自業自得ではないか」
フン、と鼻で笑う。
「うぅぅ」
苦虫を噛み潰した顔をする。
「まぁ………大丈夫だって。それも許してもらえるさ」
俯いていた灰谷が顔を上げる。
「え……………?」
なんで?と目で訴えてくる。ふふん。昔から、死ねばなんとやら、というじゃないか…………。

「その場で、腹切れ」
「嫌だよ!」
「うるせえ! お前は少し削ぎ落とした方がいいんだよ!」
「削ぎ落としてないじゃん! 内臓イっちゃってるじゃん!」
「俺が痛くないように介錯してやるから! いやむしろお前が腹を切る前に介錯してやるから!」
「駄目じゃん! それ腹切りじゃないじゃん! ただの断頭処刑じゃん!」
「うるせえ! 喚いてないでさっさと………!」

馬鹿な口論してるその時、玄関の方で電子音が聞こえた。内線の呼び出し音。

「ち、命拾いしやがって………」
吐き捨てるようにいって居間の入り口壁にある電話を取りに行く。
「何も問題解決してないし…………」
泣き言が聞こえるが無視。レイプ魔にかける情はない。
ガチャ。
「はい。554号室です」
この部屋の番号。
「………あ……担任の斎藤だが、蘇芳か?」
………担任の斎藤先生。なんというか、普通のひと。七三分けでぱっとしないし、普通に真面目。
……他にいう事はないな…………。まあそういう人。

「はい。そうです。……先生は俺の事、聞いてます?」
少しの間の後、
「あ、ああ、理事長から聞かされて……。職員の間ではもう話題だよ……。それより、その声、まさか、やっぱり?」
……やはり、声を聞いて改めて面食らっているらしい。
「はい。…………残念ながら。それより、なにか用では?」
「あ、ああ、これからのお前の生活だが…。どうするんだ?」

漠然とどうすると言われても困る。眉間にしわを寄せる。
「どうする,といいますと?」
「ああ、お前、その姿じゃあ学園生活送りづらいだろうし……。生徒の人目につくのもまずかろうし…。男が女性化なんて大騒ぎになるだろうし……」

そういえばそういうの考えてなかった。とりあえず昨日のドックの結果は2週間後ってことですっぱり考えるのを止めていたような……。
「うーーーーーーーーーーん」
受話器を耳に当てたまま考え込む。
「す、蘇芳? どうした?」
うーーーーーーーーーん。

2週間後結果を教えてもらうとする。そのあとは?
……もし、結果が「普通ありえないへんなのがありました」だったとする。
その後さっさと直るわけじゃない。色んな検査して。投薬して。時間がかかるはずだ。
………というか、軽く「病気だ」→「病院行って直してもらおう」って考えたが、これ、投薬だの手術だのでどうこう出来るのか………?
顔をしかめてもう片方の手で胸をぽよん、と叩く。
第一、こんな奇天烈な病気、さあ治しましょうといっても通院治療ですむとは思えない。
まあ、数年間入院したり、研究所行かされたり……。その時学園の勉強はどうするんだ?
留年はいやだし。しかも復数年の留年……冗談じゃない。
「あの、先生、もし病院行って入院したとしても出席くれます………? その、病院で勉強したり」
こわごわ聞いてみる。
「あ、ああ、それはちょっと無理だし、この学園の規則でな…2留以上は文句無く退学になるってのが…」
「……………………」1
留でも嫌なのに、退学か……。
「…………蘇芳?」
受話器から声が響く。しかし、意識は別へ向いてる。
「……………」
思考にふける。
治療となると結構な年月を費やすのは間違い無い。病気というのはまず仕組みを調べて、それから治療法を模索する。
とても1年2年じゃ効かないだろう。留年も退学も嫌だ。とすると。

……………じゃあ、これはどうだろう。
在学中は治療を受けずに女でいい。戻るのは社会人になってから。まあ、そうするしかない、かな?
俺としてもすぐ治したい。しかし現実問題としてそれは不可能っぽい。ここはよりベターな選択を……。
頭がぐるぐると回る。ぐるぐる。ぐるぐる。しばらく時間が過ぎる。そして………決まった。

なにも焦って戻す必要は無い。やる事やってから治そう。別にもうすぐ死ぬってわけじゃなかろうし。
よし……そう告げよう。
「…先生、俺、授業受けます。生活、続けます」
電話先で息を飲む声が聞こえる。
「お、おい、大丈夫なのか? 色々と問題があると思うし。騒ぎになったら居辛いだろう? 誰かが言いふらしてマスコミとか来ちゃったりとか…………?」

ふむ………誰かが園外に言いふらす図を思い浮かべる。
誰かA「おい!聞いてくれよ! うちの学校、男から女になった奴が居るんだ!」
誰かB「へー、性転換手術とか? 最近あったよね、性同一性障害の競艇選手だったか……」
誰かA「違くて!朝起きたら女になってたんだって! 実際女だったし! すげえだろ!」
誰かB「( ´_ゝ`)………………」

うん。「先生。何も、問題は、ありません」
一語一句、はっきりと告げた。
「う、そ、そうか? で、でもそれにここは男子校だし、いっそ他の学校に移るとか………」
もごもごと返答が返ってくる。しかしこの学園を辞めるわけにはいけない。
何故か。それには訳がある。実はここはエスカレーター式の超難関校。この先の大学も日本で1、2の大学。
せっかく苦労の末、合格を勝ち取り、将来が約束されたというに、こんな訳の解らん病気の所為で転落なんて冗談じゃない。
何とか説得して残らねば!

説得…………しかしどうやって………? …………いや、ここは得意のごり押ししか!

「先生。俺は、男です」
また一語一句はっきりと告げた。
「え、な、お前、だって、女になって」
………混乱している様子。そりゃそうだ。女の声で男ですなんて。
でももはや一歩もひけない。この煮え切らない先生を無理矢理説き伏せるしか、ない。
「先生。ここに受かったのは、俺が男だからです。だから俺は、男です」
引けない。引いてはいけない。
「う、そう、なん、だが。…で、でも今は」
「先生、俺は男です。戸籍もそれを証明してます。何も、問題は、ありません」
「う、まあ、そう、かもしれんがしかし……………」

沈黙。でもこちらからは何も言わない。相手の出方をじっと待つ。俺は男として生まれた。それは事実だ。
しかしそれで充分。なにも問題はない………はず。

しばらく後…………
「そ、そうだな。わかった。生活を続けなさい」

ほっ。言ってみるものだ………。
「だ、だがいいか? くれぐれも目立つ行動は避けてくれよ。学園の風紀が乱れるような事になっては…」
「承知してます。俺も目立つのは嫌ですし、影の方でこそこそやってますから心配しないで下さい。」
「う、うん。そうか、それならいいんだ。じゃあ………」
「……はい。何かありましたら後程」

ガチャ。
話はまとまったし、今の電話でやる事は決まった。今迄通り、生活するしかない。
検査の結果がどうあろうとも、しばらく女で通すほかない。そうときまれば……
日常に戻ろう。そう、学園へ。………時計を見やる。8時20分を回っていた。授業開始は30分から。
マズイ! そんなに話し込んでしまったか。急いで着替える。上のジャージを脱いで……っはっ! 灰谷は!?
胸を隠し、スバッ!と振り向く。………いない。言いつけ通りトレイを持っていったようだ。
更に言いつけ通り腹を切ってくれたら…………。まあ、ありえんな。馬鹿な考えもそこそこに。
帰ってくる前に一気に着替よう。ガバッ! 一気に全部脱ぐ。トランクス以外。女だけどトランクス。
まあ当たり前だ。女ものの下着を持っていたら大変だ。靴下を履き、ワイシャツを着る。
肩幅、裾はガバガバだが、胸の部分はパツンパツンだ。でも今更、代えなんか無いし、時間も無いし。
気にしない事にする。ズボンをはいて。腰のとこがガバガバだ。ベルトを締めあげて調節する。
ネクタイを締める。ぽよぽよと胸が邪魔だ。くそ。そして最後にブレザーに袖を通し、ボタンを留め、ピシッと襟を正す。完了。
肩がガバガバだが、どうしようもない。まあいい。着替えは完了。

次!
ささっ!と台所兼洗面所に移動し、ざばざばと顔を洗い、髪形を整える。まっすぐ櫛を通すだけだが。
これだけでも髪質がいいのでまとまる。よし。できた。可愛い。……あんまりめでたくないけど。
まあいい。準備完了。所要時間1分以内。本物のには真似できまい。しらんけど。

そうした所で灰谷が帰ってきた。
「………ちゃんと返したか?」
ネクタイを締め直しつつ、玄関で靴を脱いでる灰谷にジト目で言う。
「ま、まあね」
怪しい。恐らく食堂まで行ったもののトレイを入り口において逃げてきた、ってとこか。ちゃんと行って、ちゃんと腹を切れといったのに。
と、灰谷が気付いた。
「………た、卓哉、まさか授業に?」
「ああ、出ないわけにも行かないだろ」
「ぅ………でも………」
複雑そうな顔をしている。…………俺が昨日の事をばらすとでも思ったのか。
でも、ばらせるはずが無い。なにが悲しくて自分の最大の汚点を公表しなければならないのだ。
そう思っても灰谷には言わない。とりあえず今後の平和のために灰谷にはアドバンテージをとっておこう。
灰谷はチラチラと俺を見ている。
「………なにをジロジロ見とるか、ばか」
今日の教科を入れたバックを持ち玄関で突っ立ってる灰谷の頬を手の甲で軽く叩く。パシ。
「あぅ」
情けない声を上げる灰谷。
「先、行くぞ」
灰谷を横ぎり、ごそごそ靴を履きながら言う。
「え、あ、待ってよ」
我に返り、どたどたと用意をしに奥の部屋に行く。
俺が電話してるときに既に着替えたのか、後は灰谷はバッグをぶら下げてくるだけだ。少し待てば来るだろう。
しかし、俺は先に行くといった以上、俺は絶対に先へ行かなければならない。うむ。

いざ! がちゃ。ドアノブを握り開け放つ。廊下の淡い光が差し込む。
卓哉は女としての人生の第一歩を踏み出した。
しかし、この先、卓哉は自分がどんな目に会うのか、全く知る由もなかった…………。


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