「うう・・・ううん・・・」
「お目覚めかい?」
「こ、ここは・・・えっ? な、なんであたし、縛られてるの?」
裕美があたりを見回すと・・・そこは病院の手術室のような場所だった。
その中央にあるベッドの上に、裕美は両手両足を拘束されて寝かされていた。
彼女の服装は捕まった時のまま、何かをされたという様子も無かった。
彼女を数人の白衣の男やスーツ姿の男が取り囲み、見下ろしていた。
「気がついたかな? 裕美ちゃん・・・いや、小林裕紀君」
「なっ・・・誰? あたしをこんな目に・・・こんなことして、ただで済むと思ってるの?」
自分の以前の名前を出されたとたん、裕美はうろたえ始めた。
「ほう、以前の記憶も若干ではあるものの残っていたか。では黒田真希という女も知っているな」
「真希様の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ! いいから離しなさいよ!」
じたばたと暴れる裕美。
「おい、どうだ」
彼女を覗き込んだ背の高い白衣を着た男が、横のなにやらモニターつきの機械の前に座っていた男に問う。
その機械からは何本ものコードが出ていて、それが裕美の頭につながっていた。
「はい、脳波には異常はありませんが、かなり強力なマインドコントロールをかけられているようですね」
「なんとかなりそうか?」
「かなり強力ですので、無理にマインドコントロールをはずそうとすると精神が完全に破壊される可能性があります」
「そうか。時間をかけるほかないか」
「はい。完全に自分が黒田真希の僕である、自分が女性であるという認識を植え付けられています。
ただ、元の記憶が消されているわけではなく、意識の奥底に封じられているだけのようですので、
そこを突けばなんとかなるかと」
「わかった。なるべく急いで欲しいがあせらず確実にやってくれ」
「わかりました」
白衣と背広の男達は、部屋を後にしようとした。
「ねえん、あなた・・・あたしといいことしない・・・?」
裕美は、去ろうとする男達に甘い声をかけて誘惑しようとした。
背の高い白衣の男がちらりと裕美を一瞥する。
「あたしのいうこと聞いてくれたら、あなたたちも真希様の僕に・・・」
両手両足を拘束されている中必死に体をくねらせ、潤んだ瞳で男を見つめる。
「頼んだぞ」
男達は裕美を全く相手にせず、部屋を出て行った。

  ◇◆◇

「こ、ここは?」
「気がついたかね? 自分の名前、言ってみな?」
「小林・・・小林、裕紀・・・?」
名前を言ったところで、自分の喉に手をやった。
お、女の声・・・? 何で俺が女の声を・・・?
「よかった。自分を取り戻したね。小林裕紀君」
目の前にいたのは、白髪の年老いた印象を受けるが優しい目をしていた白衣の男。
「こ、ここは? あ、あなたは誰なんですか? 何で俺が女の声を・・・!」
座っていた椅子から身を乗り出し迫ってくる迫力に驚きながら、男はなんとかなだめる。
「まあまあ落ち着きなさい。そう興奮しないで。座った座った」
裕紀のなで肩を押さえ、そのまま椅子に座らせる。
「一つずつ説明しようか。私は臨床心理の研究をしている木村博明(きむらひろあき)という者だ。
ここはね、精神医療関連を扱う国直轄の研究所だよ。ここに今君は保護されている」
「精神医療? 研究所? 保護? どういうことなんですか、木村さん!」
「落ち着いて落ち着いて。本来男だった君がどうして今その女の姿をしているのか、思い当たることはないかね?」
「そ、それは・・・」
裕紀の中に、あの夜の記憶がおぼろげながら再現される。
「そうだ・・・あの夜・・・真希に何かが・・・それで、そいつが真希に・・・それで・・・ううっ・・・」
「だいたいは思い出したかな? それ以後の記憶は君に残っているかわからんが・・・今は無理に思い出そうとしないことだね。
そう、その真希さんに取り憑いたものの力で、君はその姿へと変えられた」
そう言われ、改めて自分の体を見下ろした。
フェミニンなシャツの下からは同年齢の女性と比較しても魅力的な乳房が自己主張し、
同系統色の短いスカートから伸びる白く細い両脚が裕紀の目を釘付けにする。
「綺麗な女性だよ。誰が見てもはっとするようなね。
君がもしずっとそのままの姿でいたいというのなら、それもまた面白いかもしれないね。
なにしろ男女両方の人生を経験するなんて普通の人はどう願ってもできないことだ」
「何を言ってるんですか木村さん。俺は男なんです。それに・・・」
「それに・・・?」
「真希を・・・真希を助けないと・・・彼女はまだ助かってないんでしょう? 俺・・・彼女を助けてやらないと・・・」
裕紀の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
それを見て、木村はにっこりと笑った。
「なるほど、聞いていたとおり正義感の強い青年だ。君ならやれるかもしれない」
「木村さん、真希を助ける方法があるんですか?」
裕紀がぐっと身を乗り出す。
「おっと、そんなに近づかれたら興奮しちゃうじゃないか・・・うそだよ、はっはっは。
黒田真希さんを助けてやるには、彼女に取り付いている存在を祓ってやるしかない」
「木村さん、奴はいったい何者なんですか? 俺が見たのは、紫っぽい煙状の奴で、そいつが真希の口の中に入っていって・・・」
「あれはおそらく、400年程前に封印された妖魔の思念だろう」
「妖魔の思念?」
「そうだ。そいつの封印が何らかの原因で解け、そこにたまたま君達が通りかかった」
「しかし、何でそいつは真希に?」
「古い文献によると、その妖魔は人間の精気を力の源としていたらしい。
それも、穢れない純粋な女の精気を好んでいたようだ」
「それで真希に・・・でも、それではどうして俺をこんな姿に?」
「文献にはこうも記されていた・・・女の精気を吸い尽くすと、今度は男を女に変えて男の穢れた精気を排し、
残った純粋な精気を吸っていた・・・しかもその種の精気は純粋度が高く奴にとって理想の精気だった、と」
「そんな・・・真希はそんな奴に・・・」
「真希さんを助けたければ、奴を祓うしかない。我々も対策を試みているのだが、難しい問題があるのだ」
「どういうことですか?」
「奴は手下を増やし、彼らを使って人間達の精気を集めている。
つまり手間取れば手間取るほど、奴の力は増し、犠牲者も増えることになる」
「そんな・・・じゃあ、奴と一緒に手下も何とかしないと・・・」
「その手下、誰だと思うかね?」
「・・・だれなんです?」
「一人は、君だった。君は女性の体に変えられた後精神をコントロールされ、奴の手下として働かされた。
手下も・・・奴が君を使って増やしていた」
「お、俺が・・・そんな・・・」
裕紀はめまいがして、頭を抱え込んだ。
「そして、その手下とは・・・君と真希さんが所属していた大学の研究室のメンバー達だ。
全員が君のように精神をコントロールされ、男は・・・君のように女に変えられている。
彼らは今なお奴の手下として人間達の精気を吸って回っている」
木村から次々と告げられる衝撃的な事実に、裕紀は吐き気を催してきた。
「幸い、君だけは我々が何とか奴らの隙をついて助け出すことに成功した。
しかし、君にかけられたマインドコントロールはものすごく強力でね・・・君をその呪縛から解き放つのに一週間かかった。
その間中君は我々をしきりに誘惑してくるものだから全く参ったよ。
なにしろそこまで美しい女性だ。男としちゃなかなか我慢できるものじゃない。
だが・・・それに乗ってしまうわけには何としてもいかなかった。
どうしてだかわかるか?」
「え? さあ・・・」
「奴の手下は奴から力を授かっていることが多い。特に今度のケース・・・君も含めた手下全員が、
セックスをする・・・いや、キスをする程度でも・・・相手の精気を完全に奪ってしまう力を与えられている」
「え? じゃあ・・・」
「そう。手下達は人間とセックスをすることで精気を吸収している。
しかも全員が今の君のような美しい女性ときている。逆らうことなどそうはできない。
我々も君の誘惑に負けてしまったら精気を吸い取られてしまうところだったからな」
「そ、そんな力が・・・」
「君に関して言うと、自分を取り戻した今でもその力は消えていない。
我々も何とかしようと試みたが、どうにもならなかった。我々ではその体を元に戻せないのと同じようだな」
「じゃあ、真希だけじゃなくて、みんなも助けてやらないと・・・」
「そういうことだ。だが奴らの行動は実に巧妙でな。こちらが大人数で行動すると隠れられてしまう。
かといって少人数だと、巧みに奴らに引き込まれて餌食にされてしまう。
君一人を救出できたのも奇跡に近い。しかも彼らは君の一件でより用心深くなっている」
「俺に・・・俺にやらせてください!
真希を助けられなかっただけじゃなくって・・・みんなまで・・・俺の責任です!
俺にチャンスをください!」
裕紀の目にはっきりと強い意志の光が宿った。
「うむ。それにもし祓うことができれば、君のその姿も元に戻るはずだ」
「えっ、それは本当ですか!」
「文献に書いてあることが本当ならばな」
確証はなかった。だがやるほかなかった。
「裕紀君。真希さんが君をすぐに吸収してしまわず、しばらく傍に置いておいたということは、
恐らく君を手元において置きたいという思惑があったからだろう。
君を解放すれば、奴らは間違いなく再び君を狙ってくる。だからこそ我々もここで君を保護していた。
君が外を出歩けば、恐らくまずは手下が君を捕らえにかかるだろう。
今までの傾向からいって、多くても二人程度の小人数のはずだ。
そこを一人ずつ捕まえて彼らを支配から解放させたい。
我々はできる限りのバックアップをする。
少々危険が伴うが、そのための囮役をやってもらいたい」
裕紀は、力強くうなずいた。
「荒なことはしてこないはずだ。だが、万一君が捕らえられたときのために保険をかけておきたい。いいかね?」
「保険?」
「ちょっとした暗示を君にかける。もしものときに時間稼ぎくらいにはなるだろう」
そういうと、木村は裕紀に向かって何か呪文のようなものを呟き始めた。


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