「おい〜っす」
九時を回ったころ、一人の学生が入ってきた。
池田佑一(いけだゆういち)、二人とは同期生だった。
難しい研究テーマを扱っているため、たいてい朝一番で研究室に現れることが多かった。
「おはよ〜」
いつもどおりの挨拶を返す真希。だが、その口に一瞬ニヤリと邪悪な笑みが浮かんでいた。
もちろん、佑一がそれに気づくはずもなかったが。
「おお、黒田さんか。珍しいね、ゼミもないのにこんな朝早くからいるなんて。
お、誰? 裕紀の席なんかで寝てる彼女。黒田さんの友達?」
「どう? 結構可愛いでしょ? 彼女にしてみたくない?」
「ははっ、いいねそれ・・・なんちゃって。こんな可愛い子がそうそう俺なんかに・・・」
「ねえ池田くん、その娘誰だと思う?」
席に座っていた真希が、いつのまにか佑一のすぐそばに来ていた。
「誰って・・・?」
「実はね・・・彼女、裕紀なんだ」
「( ゚д゚)ハァ?」
思わず佑一が真希のほうを振り返った時、いきなり背後から抱きつかれたのを佑一は感じた。
「えっ・・・き、君はいったい・・・」
背中から伝わるやわらかい感触に戸惑いながらも後ろを振り返る。
女の子の視線がまっすぐに佑一をとらえてくる。
その顔には言われてみれば、男だったころの裕紀の面影もよく見ればわからないではなかったが、
充分に美女、いや美少女といっても通じそうな造形だった。
「だから言ったでしょ。その娘が裕紀なの。もっとも今は裕美って言う名前だけどね。
さあ、裕美、たっぷりと可愛がって上げなさい」
「ち、ちょっとま・・・うむっ!」
反論する前に、裕美の唇が佑一に押し付けられた。
そのまま裕美の舌が佑一の口内を侵す。
あまりの積極さにたじろぐ佑一だったが、徐々に裕美のペースにのまれはじめていた。
「ぷ・・・はぁ・・・」
息が苦しくなるほど密着していたこともあって、二人とももう顔が真っ赤になっていた。
「はあ・・・き、君が裕紀だって? 冗談もほどほどにしてくれよ・・・それとも、二人して俺を・・・はめようとでもしてるのか?」
「そんなつまらないことじゃないわ。せっかくもっといいことしてあげようって言うのに」
真希がいたずらっぽく微笑む。
「うふふ・・・あたしね、真希様にこんな綺麗な姿に変えてもらったんだ・・・
ねえ、佑一もあたしとおんなじ真希様の僕になろうよ・・・とっても気持ちいいんだよ・・・
真希様に可愛がってもらう時なんて、ああ、もう・・・」
ねっとりとした視線で佑一を見つめてくる。
こんな状況でもなかったら、男なら今すぐ押し倒したくなるくらいだ。
しかし佑一は、昨日裕紀がそうであったように、必死に理性を動員して抵抗を試みた。
「そ、そんな、俺を誘惑しようったって・・・だいいち、おまえが裕紀だなんてぶっちゃけありえないだろうが!」
思わず声を張り上げてしまう。
だが、裕美はにやっと笑って返した。
「ふふ・・・あたしは本当に裕紀だったの。なんだったら、あの秘密でもばらしちゃう?」
「な、なんだって? 俺の秘密?」
「そう。佑一、一週間くらい前に振られたって言ってたわよね」
「!!」
「サークルの後輩の酒井さんって言ったっけ?今年入ってきたばかりの一年の子。
そりゃあそうよね、大学入ってきたばかりでいきなり4年生の男に告白されてもねえ」
「そ、そんな馬鹿な・・・あいつにしか話してないはずのことを何でおまえが・・・」
目に見えてうろたえだす佑一。
「わかったでしょう?彼女は紛れもなく裕紀だったのよ」
「本当に・・・本当にこんな・・・だいたい、その体も・・・そのしゃべり方も・・・とても裕紀だなんて・・・」
「あたしは・・・真希様に身も心も女の子に変えてもらったの。
さあ、佑一も一緒に真希様の僕になりましょ・・・」
「真希様? 僕? どういうことなんだ?」
「真希様の力を増すためには、穢れない精気を集める必要があるの。佑一にもあたしといっしょに協力してもらうわ」
「な・・・何を言ってるんだ・・・二人ともしっかりしろよ・・・」
「あら、私なら正気よ」
さらっと真希が流す。
「それにね・・・真希様に女の子に変えてもらうと・・・とっても気持ちいいんだ・・・
男だったころ必死にオナニーしてたのがバカみたいに思えてくるの・・・
それに、真希様と一緒なら・・・あの子も思い通りになるわ」
「へっ?それはどういう・・・」
それ以上の説明を、裕美はさえぎった。
「さあ、もういいでしょ・・・まずは佑一の精気をあたしが頂くわ」
言うが早いか、裕美は佑一を床に押し倒した。
一気に押し倒し、佑一の両手両足を押さえつける。
そのまま佑一の上に馬乗りになる。
押さえつけられた佑一の首に両腕を回し、再びのキス。
一方的に攻められる中、佑一は理性と肉欲の間で揺れ動いていた。
裕美の小さくも魅力的な唇が、男らしく厚みのある佑一のそれからそっと離れる。
「はあ・・・はあ・・・だいたい、もし・・・おまえが、本当に裕紀だったとしても・・・
男の俺なんかと、平気で・・・こんなことをできるはずが・・・」
裕美は、にこっと笑ってこう返した。
「そりゃあ、あたしも前は男よりも女の子のほうが好きだったから・・・
それに、やっぱり女の人・・・特に真希様とのセックスなんて本当に気持ちいいし・・・
でも、これも真希様と・・・そして、これは、佑一のため」
そういうと、裕美は男との経験が初めてであるとは思えないほど手馴れた手つきで、
佑一が履いていたジーンズをトランクスごと一気に下ろしてしまった。
すでに固くそそり立った佑一のものが裕美の眼前に晒された。
「ふふっ・・・いくら強がっててもやっぱり体は正直なんだ」
佑一は、その様子を腕を組んで見下ろしていた真希に言った。
「ま、真希・・・ここで・・・こんなことして・・・」
いつ誰が来るとも知れない研究室。特に教官に見つかりでもしたら・・・
しかし、真希の返答は佑一の予想をはるかに越えていた。
「あら、それは心配ご無用。この部屋には私が誰も入ってこられないようにしておいたから。全部最後まで終わるまでね」
「最後まで・・・? それは・・・」
「あなたが私の忠実な僕として生まれ変わるまでね」


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