なぜそういう事をしようと思い立ったのか、自分でもよくわからない。
学校から帰って来て、部屋のベットに腰掛けた時、ふとベットの横に置いてある姿見に移る自分を見て、なんとなく考えた事だ。
ちょっとしたイタズラ心だったのか、あるいは動機なんか元からなかったのか。
ただ何か言いようのない奇妙な矛盾を感じたような気はする。
そして気が付いたら自分はベットに横たわり、制服のまま仰向けになっていた。


「……っつ、はあぁっ…………」
いつのまにか息が随分と熱く、そして甘くなっていた。
始めてからどれくらいの時間が経ったのかも自分では把握していないが、
体がすっかり高まってしまっているのは息の荒さを聞かずともわかる。
だが、今はあえて声を殺して想像に身を委ねる。何故なら声を出すと現実に引き戻されてしまうから。
頭の中で考えているのは、一組の男女の交わり。有り体に言えばセックスだ。
このテの行為を行う際には定番の想像。男女の容姿などは曖昧に心の流れにまかせて、ただその様子を頭に想い描く。
目の前の少女の胸を蹂躙し、強引に唇を奪う。声を荒げて喘ぐ少女の制止を聞かず、ゆっくりと責めを激しくしていく。
胸を揉み、その頂を口で吸うごとに甘い声を上げ、少女は鳴く。
だめぇ! そんなに激しくしないで!
声を押えられないのが恥かしいのか、少女は頬を染めた顔で懇願するが、手は決して緩めない。
―――想像に合わせて、現実の自分の息も荒くなる。興奮が高まる。
舌を胸からお腹、腰へと這わせた後に、静かに足を開かせる。
あ―――と、少女は軽く羞恥の仕草を見せるが、拒否はしない。
今度はゆっくりと足に舌を這わせ、そのまま静かに根元に下ろしていく。
行き付くのは当然秘部。根元に触れるか否かのタイミングで、少女は思わず足を閉じようとするが、当然男はそれを許さない。
ちょっと手に力を入れて拒絶の仕草を跳ね除けた後、舌を茂みの肉目に添える。
きゃっ! ひゃあああぁぁん!
びくんっ! と少女の腰が跳ねる。あまりの刺激に少女は自身の秘部舌を寄せている男の頭を押しのけようと、手に力をこめる。
しかしその手が逆に男の頭を押し付ける形になり、快楽は減るどころか増幅されてしまう。
―――想像につられて、だんだん自分の手のスピードが上がっていく。
首を振って、少女は叫び続ける。
しかしいくら叫んでも、快楽は収まるどころか次々と自分の体に注ぎ込まれてくるため、どうしようもならない。
そしていよいよ高まりがピークを迎えると思った途端、男は不意に顔を上げた。
突然の寸断に少女は静かに顔を上げる。が、男の姿を見て全てを理解した。
当然これで終わりなのではない。男女の交わりならば、当然その先がある。
男は自分のペニスをゆっくりと少女の秘部にあてがう。
じゃあいくよ―――と少女の顔を見て同意を求めた。
男の視点で、少女の顔を見つめ……
―――あ、
少女を覗きこんだ途端、ぼやけていた輪郭が突如クリーンになり、目の前にはっきりと少女の顔が写る。
彼女は他の誰でもない、自分自身「三木原 令」だった。
刹那、視点は唐突にぐるりと少女の側に切り替わる。
―――なっ! ま、待って!!
慌てて自身の思考を修正しようとする。しかし何故か視点は切り替わらない。
「ひゃうぅっ! やあああぁ―――ッ!!」
想像が挿入の段階に入った途端、令は声を押える事ができなくなった。
想像の中でされている自分とシンクロし、スカートと中に入れた右手をより激しく動かし、
腰から制服の中に入れた左手で胸をより強く揉みしだく。
制服姿のまま、令はベットの上で自らの指が生み出す快楽に逆らえなくなっていった。
想像の中で、男のペースが早くなる。激しく腰を打ち付けられ、中をかき回される。
それに合わせて令は無意識に指の抽挿ペースを上げ、腰をバンプさせた。
「ひぃん! きゃうぅぅっ! そん……なに、激しくしないでぇ! きゃあん!!」
抱かれている自分になりきらされ、令は自身の想像の中の相手に懇願する。
しかし心の中の相手は、そして暴走した令の指は、当人の意思を聞こうとはしなかった。
下着や制服のインナーをもどかしげに押しのけるように、より責めは力強くなっていく。
そんな激しさを増した自身の責めに、令の体は否応なしに高まってきた。
「あ、あ、ああっ……イく、ふああぁッ!! もうだめぇ!!」
自身の高まりに合わせるように、想像の中の相手も最後のスパートに入る。
そしてとどめとばかりの一突きが来た途端、令も絶頂を迎えた。
「ひゃっ、ああああぁぁぁ――――ッ!!!」
腰を弓なりに反らせ、ニーソックスを履いた足の指先がぎゅっと握られる。
きゅうっと子宮が収縮する感覚に、想像の中で精を注がれる感覚を重ねた。
しばし頂点の感覚……そして静かに高まりが引くと、そのまま体がどさりとベットに落ちる。
荒い息を吐きながら、令は朦朧と想像との境界をさまよう。
想像の中、令を責めていた相手が静かに顔を近づける。そのまま静かに唇を重ねた。
「…………あ」
想像の中でキスをされ、その顔を見た途端、令の意識は完全に現実に戻った。

ベットに膝をかかえて座り、先ほどの行為でしわだらけになったベットのシーツを見ながら、
令はぼんやりとさっきの想像を思い返していた。
最初はどちらでもない、第3者としての視点だった。
自分を高めるのに使ったのは、AVを見るような感覚。そこに自分はいない。
途中から自分の意思で男の視点に切り替えた。
それが結構慣れ親しんだ視点だし、自分の価値観も、どちらかと言えば今だにそっちの感覚だと思っていた。
しかし…………高まってしまった途端、無意識に自分は責められる側にまわってしまった。
潜在意識なのか、それが今の自分の価値観なのか、自分でもよくわからない。
でも、昔なら「される側」の立場で自慰を行うなど考えもしなかった。
だが今は、それに嫌悪を抱くどころか、その方がより高まる感じすらある。
それはつまり……

「やっぱり、心も女の子になりつつあるのかな…………」
思わずつぶやき、少し暗い気持ちになる。
随分前に覚悟したような気もするが、やっぱりどこかに引っ掛かりがあるのだ。
寂しさなのかもしれない。
昔の自分として残っている、最後の部分が消えるような、そんな漠然とした不安というか、未練に近いもの。
少々憂鬱な気持ちをかかえたまま、令はふうっと溜息をついた。
が、その行為で想像の最後の締めを思い出す。
無意識に最後をキスシーンにしたのは、自分でも少々やりすぎかと思うが、自慰が誘発したものなのだから仕方がない。
まあ、そういう考え自体が言い訳にすぎないのだが。
最後に男にキスされて終了……だから、まさにこれは少女の願望だろう。
自分の意識がそういう方向に行ってる証明でもある。
そう、ただし相手が”男”だったらなのだ。
途中の行為までは確かに男だった。
しかし最後がああであった以上、結局令は最初から最後まで無意識にその相手を本来の相手と重ねていたのではなかろうか。
おぼろげな男の像は、単なる記号にすぎないものだったのだ。
なにしろその相手は……
「ただいま! あ、令ったらもう帰ってたのね」
と、階下から声が聞えた。どうやらその”相手”が帰って来たようだ。
そう、令の一応”夫”となるセネアである。先ほどの最後、令にキスをした相手は、最後の最後でセネアの顔をしていた。
つまりそれは、自身が快楽を与えられる相手に彼女を望んでいたという事。
階段を上る音の後、部屋の扉が開く。そこには黒いスーツを着たセネアが立っていた。
「おかえりなさい、セネアさん」
「ただいま。また、貴方に似合いそうなお洋服色々買ってきたわ。もちろん下着もね」
「ま、またぁ? ……最近やけに散財癖がついてない?」
セネアの言葉に令は少々呆れた声で答える。
なにしろセネアがこの家に住み着いて半年も経ってないのに、
令の服のレパートリーは昔の倍ではきかないぐらい多くなっているのだ。
ある意味、セネアの令に対する溺愛の結果なのだが、セネアの好みか妙にかわいらしい衣装が多いだけでなく、
妙にマニアックなものまで買ってきては令に試着を強要する。
そんなこんなで、最近ではその収納場所も難儀するほどなのである。
「酷い反応ね。令にもっともっと可愛くなって欲しいなって思ってるのに……」
セネアはわざとらしく怒ったような仕草でむくれる。無論本気で怒っているわけではない。
それどころか最近は、セネアもこういうやりとりを楽しんでいるフシすらある。
「それにしても、最近はペース早すぎない? だいたいセネアさん、どこにそんなお金持ってるのさ?
…………まさか、いかがわしい事してるわけじゃないよね」
「ますます酷い言い様ね。私は令に軽蔑されるような事は、貴方を好きになって以来してなくてよ。
こう見えても最近じゃあ、真面目に仕事して稼いでるのに、ひどいわ」
さすがに言い過ぎたか、セネアは拗ねて横を向いてしまう。
令はベットから立ち上がると、拗ねてるセネアの頬に軽くキスをした。
「ごめん、冗談だよ。僕がセネアさんの事、悪く思ってるわけないでしょ」
「……もう、そういう態度を取られちゃうと、何も言い返せないじゃない」
素直に謝る令に、セネアは拗ねてるだか照れてるんだかわからない表情で答える。
結局しばし二人で見つめ合った後、なにか可笑しくなって互いに笑ってしまう。
「もう令ったら……じゃ、今日はコレね。良ければ今すぐ着る?」
セネアが令に差し出した大きなケース、中には案の定新しい服と下着一式が入っていた。
しかし……
「セネアさん、これって―――」
入っていたのは普通はお目にかかれない類の服。
いや、そういうタイプの飲食店や、本当のブルジョワの家では見られるのかもしれないが。
それは西洋のお手伝いさんの制服―――ぶっちゃけて言えばメイド服だ。
「普段の家事の時にいいかなって思ったんだけどね。あとおまけで夜伽の時も……かしら?」
「……そのおまけの方が本命なんじゃないの?」
ちょっと皮肉っぽく令はセネアにつっかかる。が、それに返って来たのは言葉ではなくダイレクトな行動だった。
突然腰を抱えられたかと思った途端、令はベットに押し倒される。
「わかっているのなら、余計に問題ないんじゃなくって? まぁ、これは夜のお楽しみでいいわ。
今日は久しぶりに制服の令をいただいちゃおうかしら」
「久しぶりっておとついも制服で……むうぅッ!!」
反論しようとした口を強引にキスで塞がれる。
そのまましばし舌で口内を蹂躙され、ようやく開放された時には、もう歯向かう気力も全て吹き飛ばされてしまっていた。
「ずるいよもう……いっつも一方的なんだから」
「ふふっ、そうね。でも令は、そういう風にされるのは嫌? いっつもされてばかりなのは嫌?」
何気ないセネアの問い。しかし偶然にもそれは、あの自慰の時抱いた感情への間接的な問いだった。
先に抱いたのは、抱かれる立場の葛藤。しかし……
「嫌……じゃないよ。入れられるのは慣れないけど、好きで抱かれるのは……嫌じゃない」
それが先ほどの行為の果てに思った素直な感情。立場的な葛藤はあるが、好きで体を重ねるのなら行為の意味に差はない。
心の立場は問題ではない―――令は結局、そう結論づけた。
素直な想いでセネアに微笑む。それに返すようにセネアも笑った。
「そう…………じゃ、了承ね! 夕飯の準備の時間まで、たっぷり喜ばせてあげるわ!」
「あぁもう! ムード台無し!」
嬉々として喜ぶセネアに、令は抗議の声を上げる。だが反論もそこまでだった。
すぐさま服の中にセネアの腕が滑り込み、体中の意志をセネアと自身の快楽に奪われる。
こうなるともう令に反撃の余地はない。あとはなすがまま、抱かれるだけ。
すぐに息が荒くなり、体が汗ばむ。心が再び抱かれる悦びに浸される。
そんな状況に対して男の意識が微かに悲鳴を上げる。
あそこまで悩んでまだ未練があるんだなと、令は自身の心を可笑しく感じながらも、
そんな葛藤もまた悪くないんじゃないか……最後は結局、そんな事を思っていた。

  了


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