日が落ちてすっかり暗くなった夜道を、令は一人ぼんやりと考えごとをしながら歩いていた。
その内容はここ2日ばかりの唐突な状況の変化、ようするに体を含めた自身の事だ。
「女の体……か」
誰に言うでもなき呟きを漏らし、令は自身の掌を顔の前に持ってくる。
白くきめ細かい肌の、細い女の指……がさつな男の肌の名残りはどこにも見えない。
そしてそれは手だけではない。今の令の体には”令が男である事”を証明するものは何一つ残されていなかった。
あるのは他人からは見えない心という曖昧な存在だけだ。だから女になった直後は、最後の砦である心で必死の抵抗をした。
この体は本来の自分のものではない、本当の自分の姿ではないと心で自己を支えていたのだ。
その気持ちは今でも変わってはいないはずだが……しかし令は最近奇妙な不安を覚じている。
その不安とは、その抵抗が時が経つにつれて弱くなっているような気がする事だ。
とはいえその事自体は、状況に対して令が落ち着き冷静になったがゆえだと言えなくもない。
要は令がこの状況に”慣れた”にすぎないと。
何時かの間に令は、歩くとき胸が揺れる感覚やスカートの少し肌寒い感覚にも違和感を感じなくなっていた。
当然それらも慣れたという事。
−それは……何に?−
令は再び自問する。答えは簡単、この状況に慣れつつあるという事だ。
じゃあこの状況とは何か? それも簡単、女の体で女として生活する事。
つまりそれは、心が女の体に慣れて……―――令はそこまで考え、思考を中断した。
それは女になってから幾度となく考えた問いが、一番恐れている結論に達しそうだったからだ。
そういう意味では思考を中断したというのは嘘かもしれない。
その結論への道を意図的に封鎖するという事は、内心ではその可能性に気が付いているという事なのだ。
とはいえ女になりたての頃と異なり、それを思っただけでパニックになる事はなかった。
慌ててどうになるものではないと令自身いい加減気が付いた事もあるし、
それに自分を騙し続ける事を何度も行うのに疲れたというのもあるだろう。
令自身、そういう”可能性”もありえる事はとっくに理解しているはずなのだから。
つまり、心が体に慣れるという事は……そう、それは心も女になるという事。
要は一番恐れていた可能性”身も心も女になる”というそれは、時間が経てば経つほど現実になりかねないわけだ。
そのためにはできるだけ早く男に戻らなくてはならない事になる。
体が女なら心がいつまでも男のままではいられない、時間と共に女としての自分が形成されてしまうのだ。
心と肉体は切り離せない。つまり心を守るには、女の体を捨てるしかない。
「…………?」
令の足が止まった。何かが心にちくりと刺さった感覚があったからだ。
−この体を……捨てる?−
もう一度先程の問いを反芻してみる。何故だかわからない……しかし妙に心が痛んだ。
自然と手を胸に当てる。そこには女の体である事を誇示するように豊かな双球があった。
令の頭に、漠然と鏡に写した自分自身の体が思い出される。
それは贔屓目を差し引いても他人が羨むレベルの、女として魅力的な体。
それが自分である事に誇りを持てるような、そんな体だ。
令は男の頃、自分の体に半ば劣等感すら持っていた。
とはいえ別に容姿が悪くて嫌われていたわけではない。逆に好感を持たれていた方ではあると思う。
事実、よくクラスの女子に「令君はカワイイから」などと言われていた。
しかしそれは”男としての評価”ではない。それどころか正反対の意味とも取れる。
悪意のない賞賛だからこそ、令は逆に心のどこかでそれに傷ついていたのかもしれない。
童顔の顔、平均よりも低い背……その事で他人に嫌われる事はなくとも、
令の心のどこかにその容姿に対するコンプレックスがあった事は確かなのだ。
ところが今は……令はこの数日に起きた自身の体の変化が、
そんな感情からある種の開放をもたらしていた事にようやく気がついた。
「…………」
令の頭の中で何か複雑な感情が責めぎあい始め、少しづつ気持ちが落ち付かなくなってくる。
かつて令は自分がもっと男らしくなれる事を望んでいた。
その感情の裏には、自身の容姿のコンプレックスから開放されたいという意味があったのだろう。
ところが令は気が付かぬうちに、まったく思ってもみなかった方法でその望みを手に入れてしまった。
男らしくはなっていないが、結果論とはいえ望みは適ったのだ。
「でも……女の体なんて……」
何かに流されるようとする心を令は口に出して否定しようとする。
しかしそれは、令の心に明らかに今までとは違う思いが生まれようとしている事を、令自身が認めてしまう行為でもあった。
令の心に、もう一つの”心”が問いかけてくる。

−何故迷う必要があるの? 望みは全て適っているのに−
僕は男だ。これは僕の望んだ体じゃない。
−望んでいたのは体ではないはず。それにこの体が嫌いなの?‐
嫌じゃあないけど……心がそれに合わない。僕の心は女じゃない。
−何故合わないの? 体を否定しないなら、心を合わせれば良いだけなじゃい?−
そんな事はできない! 僕は女じゃない!
−何を根拠に? すでに体は女なのに−
体の事は関係ない! あれは男の僕の望みであって、女の心では……
−すでに望みも適ってる。女である事を否定する要素はないんじゃない?−
それは……
−望みも満たされ、今の自分の体も好き……そこまで気がついていて、何故気付かないフリをするの?−
気付かないフリなんて……違う!
−違わない。本心では気付いている。そう、本当は……−
違う!! 違う!!!!

「違う!!!」
令は思わず自身の心に対して声を上げてしまった。言ってしまってから、思わず口を手で隠す。
ふと前を見ると、目の前には驚いたような目で令を見る男の人がいた。
当然だろう。何の脈絡もなく突然何か喚いたりしたら、誰だって何事かと思うはずだ。
人に聞かれた事が恥かしくなり、令は顔を赤くしてそのまま駆け出す。しかし……
「……!?」
突然令の先をその男が塞いだ。見るとその口がかすかにつり上がっている。
その瞬間、悪寒が背中を駆けた。心の中の何かが令にここにいてはダメだと警告している。
令は咄嗟に反対方向に駆けだそうとした。
しかしその瞬間、令は突然後ろから別の何者かに羽交い締めされ、口を塞がれる。
「んッ!!……んんッ!!!」
令は何の警告もなく突然体の自由を奪われてしまった。
助けを呼ぼうとしても押えられた口からは声が出せない。
それじゃあと、誰か辺りにいないかと必死に視線を巡らせる。
しかし、令はその時になってようやく自身が迂闊な行動を取っていた事に気が付いた。
この通りは廃工場跡地と林に挟まれた、昼はともかく夜は電灯もなく真っ暗闇となる道だった。
令が徒歩で通学する場合はここが近道だったのでいつも利用していたのだが、
色々物騒な話もあって夜は女性だけでは絶対通らないようにと言われている場所である。
とはいえ当然令は今までそんな事を意識した事はなかった。多少不気味な場所、程度の認識があったぐらいである。
しかし今の令は、まさにその狙われてしかるべき存在になっていたのだ。
令は半ばパニックになって必死に手を振り解こうとする。
しかし令を押えこんでいる相手の腕はびくともしない。
それどころか令の非力な抵抗を楽しんでいるかのようにも思える。
見るといつのまにか先程道を塞いだ男が目の前に来ていた。
闇のせいでその顔がはっきりとは見えないが、微かにその顔がにやりと笑っているのがわかった。
恐怖で足ががくがくと震える。口を押えられてなければ悲鳴を上げていたかもしれない。
当たり前だが、この後に待っているのが自分にとって良い事であるはずがない。
それは令とって、これまで感じた事のないタイプの恐怖だった。
不意に目の前の男の手が令に伸びる。その手には白いハンカチが握られていた。
令が何かを思う間もなくそれが口に当てられる。抵抗しようと頭を振ろうとするが、あっさり押えられた。
すうっと風が器官の中に入ってくる感覚、そしてその意識が静かに闇に沈んだ。

いったいどれぐらいの時間が経ったのかがわからない。
令が最初に意識したのは堅い床に寝かされているという感覚だった。
朦朧とする意識の中、令は目を開ける。そこは薄汚れた廃屋とおぼしき場所の、蛍光燈が一つあるだけの薄暗い部屋だった。
体を起こそうとして手を動かそうとするが……何かが軋む音とともに、それは遮られた。
両手だけではなく両足まで動かせなかった。何故動かせないのか?
首をかすかに傾けその手を見る。そこには金属製の支柱から延びたロープで縛られた令の手首があった。
つまり令は今、ロープで両手足を縛られて大の字に寝かされているという事になる。
何故……?
混沌とした意識の中の記憶を必死にさぐる。何故自分がこんな状況にあるのかを考える。
意識を失う以前に自分は……? 記憶が少しづつクリアになっていく。
学校に行き、和真と会い、学校を出て、そして……帰宅途中に……
令がその男が目の前にいるのに気が付いたのは、それを思い出したと同時だった。
「……なっ! なんだよこれは!! あんた誰だよ!!」
「どうやら気がついたようだな」
あの、令の道を塞いだ男があの薄気味悪い笑みで令を見下ろしていた。
黒い上下の、さも三流映画のその筋の人間とおぼしき容姿をした男で、
その何を考えているのかわからない笑みが気味悪さをさらに引き立たせていた。
そしてその脇にもう一人、こちらは街の崩れ者といった感じのいかにも三下風の男。
多分こちらが令を後ろから押えた男なのだろう。
最初の男とは違い、露骨に下品な目つきで令を見下ろしていた。
「タケ、時間がない。意識が戻ったのだから即品定めをしろ」
「へい! へっへっへ……今日のはまた一段と……なぁ?」
黒服の言葉に、タケと呼ばれた男がいきなり令の腹をまたぐように立つと、目の前でいきなりズボンを下ろし始めた。
「うああぁっ!! や……な、何を! 何するんだよ!!」
狼狽する令をタケと呼ばれた男はニヤニヤしながら見ていた。ベルトを外し、ジーンズも脱ぐ。
愚問である事はわかっていた。こんな状況でされる事など一つしかない。
それでも令は言わずにおれなかった。そうでなければ恐怖に押し潰されそうだったからだ。
そして男のブリーフが降ろされた時に現れたそれに令は戦慄する。
令が男のころに持っていたものよりも遥かに大きく、ドス黒いイチモツ。
しかもところどころに奇妙なイボがあるのが、よりその存在を不気味にさせていた。
ブリーフを脱いだ男が令の腹の上に屈みこむ。”それ”が静かに令に近づいてくる。
そしてそのイチモツが令の眼前に突き出された時、令の恐怖は頂点に達した。
「うあああぁぁ――!! いやだ、いやだああぁぁ―――!!!」
必死に首を振り、手足をなんとか動かそうと令は必死に抵抗する。
しかし当然手足を縛るロープはびくともせず、全ては無駄な抵抗に終わった。
「無駄なこたぁやめろって。ま、こっちも遊びじゃねぇんだ。ま、とりあえずは口だな」
「く、口って……」
聞くまでもない事だった。いきなり男のイチモツが令の目の前に突き出される。
令は顔を逸らし口を閉じて抵抗するが、その程度は男にとって予想の範囲の行動のようだった。
いきなり乱暴に鼻の頭を押えられると、鼻を塞がれたまま正面を向かされる。
しかしそれでも口さえ開かなければ……令はそう思って必死に耐えた。
だが呼吸が苦しくなり限界がくる。そしてついに耐え切れなくなって口を開いた瞬間を男は見逃さなかった。
「んんぅッ!! むううううッッ――――!!!」
いきなり男のモノが口の中に突きこまれた。酷い異臭と嫌悪感が令に突き刺さる。
思わず令は歯を立て、男のモノに噛み付いた。
「があっ!! こ、このアマ!!!」
パァン!!
「きゃああああぁッ!!!」
いきなり強烈なビンタを浴びせられ、令は悲鳴を上げてしまう。
あまりの痛みに自然と目に涙が浮かぶ。
そのまま声を上げて泣き出しそうになるが……令は自分を見下ろす男を見て、恐怖のあまりすくんでしまった。
その目にあるのは明らかな狂気。常人にはない危険な光を宿していたからだ。
「てめぇ……あんまりオイタが過ぎると、いくら上物でもぶっこわしかねねぇぜ……」
その手が静かに令の首にかかった。少しずつ指に力が入っていく。
「あ……やだ……ああああぁ……!!」
その力がどんどん強くなってゆく。多分このままでは簡単に令の耐えうる限界を超えてしまうだろう。
そして男のその目は、令に何かを容赦するような者である事を否定していた。
殺される……令がそう思った瞬間、黒服の手がその男の肩に置かれる。
「タケ、一度だけなら許してやれ。そう何度もブッ壊しては商品選定もできん」
黒服の不気味な視線がタケを見据える。その途端、突如男の力が緩んだ。
「へ……へい。あ、アニキが言うんでしたら……」
黒服の一言にあっさりとタケは従った。
どうやら両者の力関係は完全に黒服が上のようで、タケは黒服の視線に半ば縮こまっているほどだ。
その黒服の視線が、今度は締め上げから開放されげほげほと咽ている令に向いた。
「女……、素直に従わないなら今すぐバラすぞ」
その視線に令の呼吸が止まった。その瞳が恐ろしいまでの虚無を湛えていたからだ。
まるで物を見るような目で令を見下ろす冷酷な瞳……多分、男の言った事は本当だろう。
このまま抵抗を続ければ、令は間違いなくこの男に殺される。
彼は令を殺すのに何の躊躇も迷いもない。そう確信できるほどの冷たい目だった。
「ま、お前に商品として資格がねぇ場合も同じだがね、へっへっへ……」
タケが再び下品な顔で令を見下ろして笑う。
もうタケには先程の狂気は欠片も見えなく、ただ欲望を剥き出しにしているだけだった。
その余裕は、令の選択肢がすでにない事を確信しているが故なのだろう。
そして事実令には、もう従う以外の方法が残されていなかった。
「じゃあ続きだ。しっかり奉仕しろよ!」
再びタケのイチモツが令の眼前に突き出された。再びあの嫌な匂いが鼻をつくが、もう顔を背ける事はできない。
「早く口を開けな。グズグズしやがると……」
いやだ……いやだ……− 心が必死に否定するが、逃げ出す事はできない。
恐怖と嫌悪の中、令は瞳に涙を浮かべてゆっくりと口を開いた。
途端、タケのイチモツが容赦なく令の口内に突き入れられる。
「むううぅ!! んむうッ――!!」
再び訪れた肉棒が口のを満たす感覚に、令は叫びにならない声を上げた。
そしてすぐにタケは自分のモノの抽挿を開始する。
口内を突き嬲られ蹂躙される感覚が断続的に襲いかかり、そのあまりの気持ち悪さに令は無意識に顔を背けようとした。
だがその頭はタケが抽挿のために手でがっしりと固定しており、
さらに口には杭のようにイチモツが突きたてられているため不可能だった。
それでも意識はなんとかこの苦しみから開放されたいと、今度は舌でそれを押し返そうとする。
しかしそれらの行為は結果的にタケのイチモツにさらなる刺激を与え、その気にさせるだけだった。
「へっへっへ……随分とノってきたじゃねぇか。ま、がんばんねぇとなぁ……!」
それを令の奉仕行為だと勘違いしたタケは、そのペースを一気に上げた。
加減のない抽挿が加えられ、口の中にむせかえるような雄の匂いが充満する。
令は呼吸すらままならない状態だが、タケは容赦なく責め続けた。


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