「ま、待てエリシ……んんっ! んん――――っ!!」
 制止の言葉は重ねられた彼女の唇に封じ込められる。
顔を引いて接吻を解こうとするも、エリシアがしっかりと私を抱き込んでいたためバランスを崩し、
そのまま後ろに倒れてしまう。
うつ伏せに組み敷かれた状態では、私は彼女に成すがまま唇を許すしかなかった。
「おーおー! 随分と情熱的だねぇ」
 外野でヴァルターが茶化すが、こっちはそれどころじゃない。
あのお堅いエリシアが、私を組み伏して人前で唇を重ねているのだ。正直いって信じられなかった。
いつくしむように、そして全てを味わうかのように続く濃厚な接吻。
ヴァルターのような慣れた感じが無い分、それが余計に淫靡なものに感じる。
 先ほどヴァルターに多少弄られたせいもあるだろうが、エリシアがようやくその唇を解放してくれた頃には、
私の体はすっかり熱く火照ってしまっていた。
「レスティアーナ様……わたしを……感じて下さいますか……」
「……エリ……シア?」
「決して表に出す事が適わぬ想いであると、心の奥底に封じ込めておりました。
それなのに思わぬ形でとはいえ、貴方様と肌を重ね合える日が来ようとは……。ですから今宵は……」
 私を見下ろすエリシアの目は、うっすらと潤みを帯び、それでなお真剣であった。故に私は何も言葉を返す事ができない。
「……私の想い、お受け取りいただけますか」
 拒絶を許さぬ強い口調で宣言した後、彼女の口が再び私の口を塞いだ。その刹那、私の体はびくりと跳ね上がる。
いつのまにか彼女の右手が私の秘部の一番敏感なところに延びていたのだ。
思わず足を閉じようとするも、片足を彼女の両腿で挟まれておりそれも適わない。
左手は私の背中に伸びてこの身体をしっかりと抱きとめ、互いの腹を擦り付けるように動く。
 二人の胸の豊かな双球は、互いを押し潰すように擦り付け合い、痺れるような感覚を生む。
 そして互いを繋ぐ唇は、動きに合わせて吸い付き、
離れながらぴちゃぴちゃと淫靡な音を立てて唾が互いの唇を繋いでは切れる。
そのたびに再び舌が絡み、唇が私を貪り尽くす。
 それは獣が本能に従ったかのような、乱暴で情熱的な愛撫だった。
適うはずなき想いの発露が、彼女から理性を奪い欲望に狩りたてているのだろうか?
ともかくそのエネルギーが、全て私への奉仕のために向けられているのだ。
ようやく女の身体を意識し、処女を失ったばかりの雌にその刺激はあまりに強過ぎた。
「んあぁッ! そん……な、乱暴にっ……んんぅ、あ、あ、ああああぁっ!!」
 体の中で快楽が荒れ狂っている。
ヴァルターにされた時にも味わった、頭の上から指の先まで快楽が染み込んでゆくような、
男とは明かに異なる快楽が身体を蹂躙し始める。
 そして何よりエリシアの指は、恐ろしいまで的確に私の悦びの急所を探り当て、確実にそこを刺激してくる。
同性ならではこそ可能な技巧か、その動きにまったく無駄がない。
 対して私はといえば、僅かな抵抗を試みることすらできなかった。
熱く火照った体はまったく言う事をきかず、エリシアの指を求めるかのように腰をうねらせる。
もはや私の体の主導権は完全に彼女のものだった。
――――つまり、私は彼女に……抱かれている?
 それを意識した途端、身体がびくんっ!と跳ね、お腹の中の「何か」がきゅっと震えるような感覚を覚える。
まるで「される側の快楽」を心が受け入れたのを、身体が歓喜しているかのように。
「エ、エリシアぁ! だめっ……んっ……そ、それ以上は……」
 エリシアの指が私の中に入り込もうとした時、私は制止の声を上げた。
もはや処女ではないとはいえ、まだそこは純潔を失って幾許も経ってはいないのだ。
 エリシアは刷り上げるようにそこを撫で、指を顔の前に持ってくる。
その指は白い快楽の雫とともに、私が純潔であった証である紅い血が混じっていた。
その指を彼女は私に見せ付けるように愛しげに舐める。その光景に私は、彼女にまで処女を奪われたかのような錯覚を覚えた。
 そして彼女の涎で満たされた指は、再び私の体をなぞるように降りてゆく。
だが今度は私が制止する間も与えないかのように、彼女の指はいきなり私の中に差し込まれた。
「んああっ!!」
 奥深くまで差し込まれた指から、じんじんとした感覚が身体中に響く。
なんとか声を押える私を余所に、エリシアはその指を膣の内側をなぞるようにゆっくりと抜き出そうとしていた。
「んっ……あっ…………ん…………」
 じわり、じわりと何かを確かめるかのように彼女はゆっくりと指を引きにかかる。
その時、唐突に身体に電気が走るような衝撃があり、びくんっ!と身体が跳ねた。
「あああぁァっ!!」
「ここ、ですね……」
 見つけました、というようにエリシアは呟くと、指を引きぬくのを止めた。
そしてその刺激をもたらした秘部の内側を2、3回ほど確かめるように軽く触れると、
突然容赦なくその場所を責め始めたのである。
「あ、あ、あっ……ふああぁっ! え、エリシアそこっ……なにそこっ!
あぁっ! あ、あ……やああああぁぁ! ダメっ! そこ弄るのダメっ……んああぁう!」
「女にも、特別に感じる部分というのがあるのですよ。
城の教育官より夜伽の教育があった時に、お聞きになった事もあるでしょう?
もっともレスティアーナ様としては聞いた事がないのかもしれませんが……」
 確かに私も将来は一国の主となるよう育てられた以上、そのような講義を受けた事はある。
王たるもの、抱くのは自身の伴侶だけとは限らないし、その場合には相手を満足させる必要だってあるからだ。
だがそれはあくまで「抱く側の視点」での話である。
いかな運命の悪戯か、今私はその実戦を、受ける側の立場で与えられているのだ。
「だ、ダメだ……エリシアっ!! 来るっ……あっ……またっ!
やめてくれっ、い、イかせないで……あああぁん! あ、あ、あ、ああああぁっ!!」
 そして私は受ける側として、それを防ぐ技術を持ち合わせてはいない。
皮肉な事に責める側の知識だけを持ち合わせているがため、
逆に彼女からの責めが回避不可能であるという錯覚に捕らわれてしまいそうになる。
いや、現実に今の私にはこの状況から逃れる術はないのだ。
 そしてエリシアは、確実に私を「満足」させようとしている。
「ご遠慮なさらず……おイき……下さい。んっ……さあっ……」
「やめっ……イく……見るな! 見ないで……いやあっ! あああぁっ!」
「だめですよ。レスターさ……レスティアーナ様のイくお顔を……んっ……しっかりと見てて差し上げますから……」
 恥かしさで赤く染まった私の顔を、エリシアは互いの息を感じるぐらいの距離で見下ろす。
そして彼女が力強く私の「特別に感じる場所」を刺激した刹那、私は人として一番無防備な顔を彼女に晒す事になった。
「やっ、ダメっ……だめっ……あ、あああああぁぁァ――ッ!!!」
 きゅきゅきゅっと秘部が収縮する感覚とともに、私は悦びの声を上げる。
しばし身体を反らせてびくん、びくんっ! っと震えた後、
身体の主導権が戻ってくるような感覚とともに、静かにベットに崩れ落ちた。
 より抱かれる事を意識させられた二回目の絶頂は、意識がなくなりそうなほどの悦びを身体に与え、
その快楽はなかなか冷めようとはしない。
波が引くように落ち付く男の絶頂とは違い、女の体は求める姿勢をなかなか解こうとはしないのだ。
 そんな慣れぬ女の絶頂の余韻に荒い息を吐いていると、エリシアが軽く唇を合わせた後、こちらを見下ろして微笑んだ。
「レスティアーナ様のイくお姿、可愛ゆうございましたよ」
「え……エリシアっ!!」
 エリシアの言葉に、私は顔を真っ赤にして怒鳴った。
 そうだった。私はエリシアに全てを見られ、彼女によって悦びの頂に導かれたのだ。
幼馴染であり、姉のような人であり、部下でもあった彼女との思いもしなかった形での奇妙な情事。
顔から火が出そうになるほどの恥かしさに捕らわれ、私はぷいと顔を背ける。すると彼女の唇がそっと、私の頬に触れた。
「ずっとお慕いしておりました。そしてこれからも……」
 そっと耳元に囁きかけるような、優しい言葉だった。それはあの日、性転の儀が行われた日に失ったと思っていたもの。
そう、彼女の気持ちはあの日から何も変わってはいなかったのだ。
 何か言葉を返そうと、静かに身体を起こす。が、唐突に地面が大きく揺れ、何かがベットの上に何かが飛び込んできた。
「よし、3人! 今度は3人でな!!」
 甘い空気をぶち壊す唐突な大声。無論それはヴァルターだ。
見ればいささか興奮ぎみで、なにより「彼自身」がおそろしいまでに自己主張していた。
「……ヴァルター、元・男として気持ちはわかるが、もう少し待てなかったのか? ヤボは夜伽で最大の禁忌だぞ」
「馬鹿野郎、据え膳食わねぇ方が男としては失格だろうが!
つーか、これでも途中で手を出すのを必死で押えてたんだから、感謝しやがれ」
 それはそれは嬉しそうに話すヴァルターを見て、私は深い溜息をついた。
どうやらこの男に、ムードとか雰囲気とか、そういうものを求める事は不可能らしい。
「しかしヴァルター様、それではレスティアーナ様の性霊の安定が取れないのではないのですか?
霊的な力の交換というものは……」
「ああ、あんなもん嘘に決まってんだろうが」
 ヴァルターのそっけない一言に、私とエリシアは凍り付いた。
「単に自分の嫁さんが喘ぐのを客観的に見たいと思っただけだって。
レズってのは見モノとしては楽しいしな。だがダメだ、やっぱ自分で犯った方が俺の性分に合ってるみてぇだ」
 一人納得したように頷くヴァルター。こちらは呆れてモノも言えない。
王の命令を出すというのは普通は冗談で言うような事ではないのだ。
まして先ほどの真剣な顔……つまりヴァルターは、私の言った「ああいう顔して平気で冗談を言える稀有な人間」だったわけだ。
 なにか恐ろしいまでの脱力感が体を襲う。すると彼は、その顔をエリシアに向けた。
「あとな、エリシア、お前だ」
「わ、私ですか?」
「お前どうせ“レスター”の事が好きだったんだろう?
どうせもう女同士なら浮気にもならんしという俺様の暖かい好意だったわけだ。
いやー、しかし激しかったな。普通女同士にレズれって命令しても、そういう性癖や経験無い場合は全然ダメなんだが。
こりゃもうよっぽど溜め込んでたのか? 性別なんか関係あるかって感じで、もう真性レズビアンもかくやというか……」
 ヴァルターの言葉にエリシアは顔を真っ赤にしてうつむく。確かにアレは、まるで容赦がなかったが……。
 が、そんな事を考えていた私の目の前で、にやにやと笑ったヴァルターがエリシアを小突き、
そしてその視線を二人同時に私の方に向けた。
――――まさか……
「”レスティ”には今宵のうちに、せめて痛がらないぐらいまでにはなってもらわんと、俺の楽しみがない。
やっぱ愛ある夫婦生活の基本は、互いに楽しめてでこそだろ」
「お手伝い……させていただきます」
 二人の言葉は、私の嫌な予感を肯定していた。思わず後ずさろうとするも、左右から二人に両手を掴まれる。
「ま、待て二人とも! いくらなんでも初夜から二人がかりなんて……」
「おや、”お人形さん”はまだ反抗するかい?」
「……ヴァルター、さすがに怒るぞ」
 この後におよんでまだそんな事を言う彼を睨みつける。だが彼は笑ったまま動じない。
「なら、お前は誰だ? お前は何故ここにいるんだい?」
 ニヤニヤした顔で、そしてどこか嬉しそうに問うてくる。
思わず彼の望まぬ答えを口にしてやろうかとも考えたが、さすがにそれも野暮だ。
――――覚悟を、決めるべきか
 それはあの日から頑なに否定しきてたもの。なにより言葉にすることで全てが消えそうで恐かったもの。
 だが今宵、ようやく「この私」を受け入れることができそうだ。だからこそ、言葉にしよう。
 私は軽く目を閉じたあと、静かに顔を上げた。
「私はレスティアーナ。貴方の妻であり、この国の王妃だ…………これで満足か?」
「……上等」
 ヴァルターが満足げに、そして心底嬉しそうに笑う。そしてエリシアも、静かに微笑み頷いた。
 なにか奇妙なまでにすがすがしい開放感があった。あの日より私を縛り付けていたもの。
おそらくそれが先ほどの言葉で解き放たれたのだろう。
 私は二人に自然に微笑み返した。あの日以来、ようやく笑顔というものを思い出した気がする。
そう、私はようやく人形ではなくなったのだ。
 ようやく戦いを終えたような余韻に浸りながら、私の意識は静かに薄れ……

……なかった。ふと思い出す両腕を掴まれている感覚。
目を上げればヴァルターとエリシアが、心底嬉しそうにこちらを見ていた。
「さてレスティ、覚悟もできたこったし、日が昇るまでは寝かせねぇぜ」
「レスティアーナ様、ヴァルター様の命令ですのでご容赦下さい」
言うが早いか、エリシアが私を後ろから抱きとめ私の自由を奪い、そしてヴァルターは私の上に覆い被さってくる。
「ふ、二人とも! こういう時は素直に寝かせてくれるものだろう!? 冗談が過ぎる……」
「夫の冗談に付き合うのもまた一興だろ。それに俺は、全然冗談のつもりは無いぜ?」
「ご命令ですので」
「え、エリシア! それにしては随分と嬉しそうじゃないか!」
「そんな事はありませよ。さ、レスティアーナ様……」
「や、やめっ……ふあっ! ま、まてエリシア! う、後ろは……はああぁん!!」
「さあ、夜はまだまだ長いからな。レスティ、たっぷり悦ばせてやるぜ」
「だめっ……やああぁっ!! いきなり入れなっ……い、痛っ!
まだ二回目なんだから優しくしっ……あああああぁ―――ッ!!」
 二人の容赦ない責めが始まると、私はもうなすがままにされるしかなかった。
そしてこの宴は、本当に冗談ではなく日が昇るまで止まる事はなかったのである。
 あれから一月、併合された両国はなんとかその混乱期を脱し、
甲虫族との戦線もなんとか海岸近くまで押し戻す事に成功した頃、私の病もようやく完治した。
もっとも私自身には多少病弱であるという程度の自覚しかなかったので、
鬱陶しい風邪を引く事が少なくなったぐらいの感覚しかないのではあるが。
 だが、私の病気の完治を泣いて喜ぶ父に対し、
家臣のいる前で股間を蹴り上げてのたうちまわらせた時は、さすがにエリシアに怒られた。
ヴァルターは腹をかかえて笑っていたが。
親の心・子知らずとはいうが、今回のことはさすがに隠し事が多すぎだ。
だからそれぐらいで「娘」の怒りが収まるのは安いものだと納得してもらおう。
 国はまだ戦乱にあるとはいえ、かつてより遙に平穏な日々……しかし私は、最近になって再び悩みを抱えてしまった。
それは……

「やっぱり最初は男が良いな、レスティアーナよ」
「親父! 俺の嫁なんだから親父が注文付けんじゃねぇよ! 俺は絶対最初は女の子がいいと決めてんだからな!」
「あらあらヴァルター、そんな事、貴方が決める事ではなくってよ。
ま、義母としてはどっちでもいいから、早く孫の顔が見たいものね」
「実の父としては、双子で両方というのが一番嬉しいのだが……」

 ……これである。みんな好き勝手な事を言っているが、
考えてみれば王家の嫁として「それ」を期待されるのは当然の事だった。
 正直な気持ちとして、今だ実感どころか想像すらできぬ事だ。
これは今だに私が女になり切れていないという事なのだろうか?
だが、あの夜から私は毎晩ほぼ欠かさずヴァルターの寵愛を体に注がれてしまっている。
それも一晩に3、4回は当たり前のように。
 おそらく愛の女神の慈愛が景品となったルーレットが当たるも時間の問題だろう。
それを思うと少々憂鬱ではあるが……
「レスティは俺のモノだ! 親父達の好き勝手にはさせん!」
 と、いきなりヴァルターが私を座っていた椅子から抱き上げたかと思うと、脱兎のごとく部屋から飛び出した。
開け放たれた部屋のドアの向うから、義父達の叫びが聞こえる。
「おっしゃあああぁぁっ!! よしレスティ、ウダウダ言う親父達から先手を取るために、とっとと作っちまおうぜ!
今日もこのまま…………ぐはあぁっ!!!」
「何が『今日もこのまま』か! この万年性欲満点男!」
 私の怒号とともに、ヴァルターは口から泡を吹いて気絶した。
私の放った鳩尾に肘、顎に拳、股間に膝の三段コンボが決まったからだ。
「そういうことはまず雰囲気を大切にしろと何度……おい、聞いておるのか!!」
 私は彼の肩を揺すって怒鳴るが、当然ながら聞いてるわけがない。
追撃加えて叩き起こそうかとも思ったが、このまま寝かせておく方が面倒がないのでやめた。
 なにか数日に一度はこういうやり取りがあるような気がする。
私は情けない姿で廊下につっぷしているヴァルターを見ながら、そんな彼の「暴走」を思い出し頭を抱える。
「愛しては……くれてるのだろうがなぁ。もうちょっと節度を持てんのかコイツは……」
 何か複雑な気分。私は疲れたように溜息をついた。
「ふふっ、またですか?」
 唐突に横から笑いが漏れる。いつのまにかエリシアが私の横に立っていた。
「『また』って……まあ確かにそうか。それを一番見てるのはエリシアだもんなぁ」
 反論しようとしたが、一瞬だけ考え素直に諦めた。なにせ事実なのだし……。
ましてそれを横から見てて、あげくに彼との行為を毎日のように「手伝う」彼女に隠したり、隠せたりするような事ではない。
再び呆れたように溜息をついた私に、エリシアは優しく微笑みかけた。
「レスティアーナ様はどうなのですか?」
「わ、私……?」
 唐突な問いに思わず声が裏返る。
「はい。レスティアーナ様は、いかがお考えなのですか? 愛の女神の慈愛を受けたいのか、受けたくないのか。
受けたいとするならば、どちらなのですか?」
 姉のような、そして母のような暖かさを持った笑顔で彼女は私に聞いてくる。
それは堅い宮廷魔道士である彼女が、私にだけ見せる顔。
――――ずるい。この悪意なき笑顔に、私が逆らえないのを彼女は知っているのだ。
「そ、そのようなこと……言える……わけ……」
「他言しませんよ。お気持ちを知りたいだけです」
「…………」
 無言で睨んで彼女を牽制するが、まったく怯む様子もない。
しばらく黙っていたが、結局根負したのは私だった。
まったく諦める様子がない彼女に対し軽く溜息をついた後、彼女を引き寄せそっと耳打ちした。
後で聞いたところによると、この時の私の顔はこれ以上ないというぐらい赤かったそうだ。
「…………と思ってる。ほ、本当に誰にもいうなよ? 約束だぞ?」
「はい、約束です」
 私の言葉を聞いて、彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。
それはおそらく、私の言葉が彼女を満足させたからなのだろう。話したという事実がではなく、話した「内容」がである。
「早く、見てみたいものですね」
「だ、だからそういう事も言うな! 誰かに聞かれたら……その……まずいだろう?」
「ふふっ、了解いたしました」
 慌てる私に、エリシアは軽く笑い答えた。そして二人静かに廊下を後にする。

 ところがこの話、この場で気絶していたと思われていた、地面に寝そべる男がしっかりと聞き耳を立てていた。
その日のうちに二人の父と義母の耳にも入り、あげくに噂は城の家臣達から、数日で城下町の民の隅々まで届いたという。
 その時のレスティアーナ王妃の怒りたるや、今でも城内で伝説となっている。
新王ヴァルターが生き延びたのは、当時を知る者であれば奇跡と呼ぶに相応しいとか。

 そして1年後、噂ではレスティアーナは自身の望む通りのカタチで、愛の女神の慈愛を受け取ったという。

(完)


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