後ろから呼びかけてくる栗田を振り切るようにして帰宅して、自分でも驚くくらい大きな音で扉を閉めて、何も考えずに一目散に部屋に向かった。 部屋の扉も閉めて、床に座って扉に寄りかかる。 一瞬、安堵している自分がいた。 行き場を失くしたムサシの感情が暴発して発されたあの言葉に安堵している自分がいたことは否定できない。 自己嫌悪で頭の中がグラグラする。 ―――あいつがいれば西部に勝てるかも知れない。――― 実際キッカーの不在はデビルバッツにとって不可避の重要な問題なのだから、そう思ってしまったことは致し方の無いことだ、と言い切ってしまえるだけ現実的な人間であればこんな風に思うことはなかっただろう。 だが自分はそれほどに現実的にはなれない。 口先では勝率だの作戦だの合理的なことばかり言いながら、心の奥底では決してそれだけでは割り切れない感情が自分の中にはある。 ムサシが帰ってくれば勝率は上がる。 それはたぶん、いや、絶対に確実だ。 本当に合理的に生きることができたなら、そのことだけを考えただろう。 でもそれ以外のこと、ムサシの感情も思わずにはいられない。 父親の危険を知った時のムサシの気持ち。 フィールドから駆け出していく時。 車で病院に向かう時。 父親を見た時。 翌日俺たちと顔を合わせた時。 しばらくしてアメフトはおろか、高校までもやめてしまう時。 いつだってムサシはアメフトが好きだった。 アメフトがあったから今の俺がある。 同じことがムサシにも言えるはず。 にも関わらずムサシはアメフトを捨てざるを得なかった。 その心境を1年のチビたちに理解しろ、と言っても無理な話だ。 ただ俺は違う。 あいつの考えてることは手に取るように分かっているつもりだ。 あいつがどれほどに再びアメフトをすることを熱望しているか、俺は分かっている。 それなのにアメフトができないムサシの心情も分かっている。 でも、これではまるで勝手に分かったつもりになっているだけの勘違いなヤツにしか見えない。 つくづく自分は無神経な人間だと思う。 長年共にありながら、1年のチビの発した無神経問いに対する答えに同じように安堵しているのだから。 どれほどムサシが苦しんだかを知りながら、あの答えに安堵しているのだから。 こうしている今だって、もう一度ムサシと同じチームでプレーできるかもしれない、という期待が消えないのだ。 |