夏
「「あぢぃ〜〜」」
目はTV画面にクギ付け、手にはコントローラーをしっかり握ったまま慶太と龍一が見事にハモる。
久々のオフである本日、二人は涼平のお家に集合していた。
最初はソファーに座ってゲームを楽しんでいた二人だが、ソファーの皮の感触が汗で次第に気持ち悪くなり、
今はフロアーに直接座り込んでいる。
扇風機の首がジーっと音を立てて回りながら二人に近づいて行く。
「確かに今日も暑いねぇ・・・。」
口では暑いとは言いながらも、ナゼかそこまで暑そうに見えない千葉涼平。
さすが名前に「涼」が入っているだけあって(?)三人の中で一番涼しげに見える。
涼平は手にしたウチワではたはたと自分に風を送り込む。
生まれた風が彼の髪をふわふわと揺らし、涼平を更に涼しげに見せる。
((・・・扇風機より千葉さんを見ていた方が涼しくなれるかも・・・))
涼平を見ていた二人は思わずそんなことを思う。
「ねー、クーラーつけようぜ、クーラー!」
痺れを切らしたように龍一が言う。
三人の中で一番暑がり、かつ汗かきな龍一にとってこの暑さは地獄のようだ。
汗で髪が頬に張り付いている。
「だーめ。慶太のノドにも悪いし、カラダがだるくなってダンス辛くなるよ?」
カラダのことを言われると、やはりプロとしては黙らざるを得ない。
「それに、夏は暑いモンでしょ。せっかくなんだから暑さを楽しめば?」
だから風鈴も吊るしてんじゃん、と窓を指しながら言う。
チリリン・・・
タイミングよく風鈴がキレイな音を奏でる。
殆ど風はないけれど、それでも思い出したかように時々風が風鈴を揺らす。
「・・・龍一くん、見てる方が暑いから、髪縛れば?」
「オマエ、俺のこと見てないじゃん、全然。」
二人ともゲームに集中しながらも憎まれ口を叩きあう。
「そうだ。龍、髪を括ったげるよ。」
何処からともなく髪ゴムを取り出してきた涼平は龍一を手招きする。
普段だったら確実に嫌がりそうだが、さすがの龍一も暑さには勝てない様子。
「何でゴムなんて持ってんの?」
「ん〜?だって自分で括ってるもん、髪。」
((・・・似合いすぎかも・・・))
思っても決して口には出さない二人。
「ん〜♪龍は髪が長いから括りやすいねぇ。」
器用な手つきで龍一の髪を縛っていく涼平。
龍一の頬や首筋、段々と風と触れ合う面積が広がっていく。
・・・チリリン
また風鈴が涼しげな音を運ぶ。
「はい。出来上がり〜vv」
「・・・ぶっ・・・」
涼平の言葉に振り向いた慶太は思わず吹き出す。
龍一は後ろを二つに、前を一つに括られていた。
髪が下に大人しく垂れるほど長くもないので、ぴこぴこと跳ねている。
「大五郎?」
「うっさい。」
慶太に笑われながらも、大分暑さから開放されたようで口調はさほど怒って聞こえない。
ありがと、と言いながらまたゲームに戻る。
「はい、次は慶太ね。」
「え」
カムカムと手招きされて行かざるを得ない慶太だった。
「う〜ん、慶太は別に後ろ括る必要はナイよね〜。」
慶太の後ろ髪は龍一ほど長くはないので、それほど暑そうに見えない。
涼平は慶太の前髪をいじりながら、「どーしよっか」と呟く。
「ボク、そんなに暑くないから大丈夫だよ・・・?」
龍一のように大五郎スタイルにされるのを恐れた慶太は恐る恐る言う。
しかし、時既に遅し。
涼平はまたもや器用な手つきで慶太の前髪をゴムで縛った。
「あはは。慶太オデコ出すとますます幼くなるねぇ。」
「だははははは!オレが大五郎なら、慶太はキューピーちゃんだな!」
リベンジ、とばかりに龍一は大爆笑。
確かに慶太はオデコがちょびっと広いため、幼顔が更に幼く見える。
「どーせオデコの広い赤ちゃん顔ですよ〜だ。」
“幼い”と言われることに抵抗があるのか、少し拗ねる慶太。
九州男児たるもの、男らしく!と思っている彼としては不本意な評価だ。
「拗ねない、拗ねない。似合ってんだからイイじゃん。」
ね、と涼平に慰められながらも、
(幼いのが似合う、と言われて喜ぶオトコがどこにいるの・・・)
と内心納得の行かない慶太であったが、しぶしぶその髪型を受け入れた。
*****
午後三時。日差しがますます強くなって来た。
暑い〜、ダレる〜、などと文句を言いながら龍一が冷蔵庫へと向かう。
「あり・・・?」
冷蔵庫を開けた龍一は、目的のお茶を見つけられない。
暑さに耐え切れず、どうやら最後の一本までも飲み干してしまったようだ。
「りょーへー。お茶がない、お茶が。」
リビングの日陰で読書(無論マンガ)に勤しむ涼平に声をかける。
「自分で・・・」
“買いに行けば”と続けようと本から顔をあげると龍一と目が合う。
目は口ほどにモノを言う、とはまさにこのこと。
“暑いから外出るの、ヤダvv”
黒目がちの目は明らかにそう語っていた。
「・・・行けばイイんでしょ・・・。」
溜息をつきながらも、自分も何か飲みたいし、と思いながらコンビニへ行く支度をする。
財布を手に取り、玄関へ向かおうとすると
「ボク、抹茶アイスが食べたいー!」
「あ、オレあずきアイス!」
「「ヨロシク〜!」」
とリビングから声だけが威勢よく聞こえてくる。
思わず、“イイ根性してんじゃん、二人とも”と小声で呟く。
「w-inds.のリーダーは誰だと思ってんのかねー、あの二人は。」
一人ごちながら玄関で靴を履き、帽子とサングラスを装着して準備完了。
玄関を開け、コンビニへと足を運んだ。
*****
「ただいまー。」
帽子とサングラスを外しながら中の二人に帰宅を知らせる。
徒歩で五、六分ほどのコンビニに行った程度なので、大して汗もかいていない。
しかも、コンビニで面白そうな雑誌を何冊か見つけたので、小一時間ほど立ち読みをし、涼しんできてしまった。
「遅くなってゴメンねー。」
涼平がリビングに向かって歩く度に、がさがさと袋の中でアイスが音を立てる。
「ありゃりゃ。」
リビングで涼平が見たものは。
床で大の字になって寝ている慶太と龍一だった。
この暑さで体力が消耗されてしまったようで、二人とも汗をだらだらかきながら必死で寝ている。
しかも、髪をくくったままで。
「・・・ウチの子達は寝てるとカワイイねぇ・・・vv」
いそいそと涼平は自分の部屋にあるデジカメを持ち出し、パチリ。
「後で現像して貰って、大きく引き伸ばそっかなぁ〜。」
いやに嬉しそうに呟きながら、買ってきたアイスを冷凍庫へ収納する。
自分用に買ってきたお茶のペットボトルを手に、再び日陰へと(自分だけ)移動し読書を再開した。
・・・チリリン
風鈴の軽やかな音色が涼平の耳をくすぐる。
風鈴へ目をやると、その後ろに目の覚めるような青空が広がっていた。
雲一つない真っ青な空。
しばらくの間ぼんやりと空を眺めていた涼平は、何故かしらノスタルジックな気分にさせられた。
「こんなにゆっくりした時間も久しぶりだなぁ・・・。」
ポツリと一人ごちて床に転がっている二人に目をやると、イイ夢を見ているのか、
二人とも幸せそうな顔ですぴすぴ寝ている。
思わず涼平の口元も綻ぶ。
・・・チリリン
ガラスの儚くキレイな音色が一つ、幸せな空間に鳴り響いた。
END
オ・マ・ケ
「うをぉ!?何じゃこりゃ〜!?」
「・・・マジ・・・?」
目を覚ました二人が目にしたものは、見事に日焼けした足。
慶太は右の膝下、龍一は左の膝下、とモノの見事に対になっている。
暑さに耐え切れず、途中でハーフパンツに履き替えたのがマズかった。
それぞれの足が西日の差す窓際に投げ出されていたのもマズかった。
しかも。
「「涼平(くん)〜!!」」
ご丁寧にも、涼平は二人の足の甲に落書きをしていた。
慶太には「美」、龍一には「愛」。
顔料マジックででかでかと書かれたこの文字は洗い流せたものの、
なんとその部分だけ日焼けを免れたので、押し印のようにその文字だけがほんのり浮いて見える。
「あはは〜。新しいタトゥーみたいでイイじゃん〜v」
((・・・やっぱり、千葉さんのリベンジが一番怖い・・・))
二度と涼平をパシらせない、と心に誓った慶太と龍一、17歳の夏だった。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
マジックタトゥーは実験済み。ホントにそうなります。