体温。
呼吸。
抱き締める腕。
これら全てがダイスキな人のモノならば。
コトバがなくても大丈夫。(多分)
言葉より大切なもの
「…っ、触ん、なっ…!」
ぺし、と思わず腕に触れた涼平の手を払ってしまった。
泣き出したきっかけは何だったかもう忘れた。
多分、すごく些細なことだと思う。何時もそうだし。
自分の涙腺が弱いのは充分承知してるけど、涼平の前だけは、その弱さが倍増する。
普段はどんなに人前で泣きたくなっても、体裁ってモンがあるから何とか堪えるけど、
涼平と2人っきりだと全然堪え性がない。
ちくしょー、みっともねー…。
「…龍一…、ゴメン…」
「何でりょうへー、っが、謝んだ…、よっ」
ダメだ…。嗚咽で上手く呂律が回らない。
ってかさぁ、明らかにオレが1人で勘違いして怒ってるだけなのに、
何で涼平が謝るかなぁ。…甘やかしすぎなんだよ、オレを。
だいたい、何でこんなに泣いてんだよ、オレは。
ただちょっと、涼平が他のコと仲良く話してただけじゃんよ。
…ただ、それだけじゃん、オレ。
そんな、嫉妬、するようなことじゃないって、全然。
…でもコイツ。オレが楽屋に入って来たのに気付かなかった、全然。
そのコとの会話に夢中になってさぁ。
「龍〜vv」とかって、いっつもウルサイぐらいにひっつくんだったら、
徹底してずーーーっとオレの名前呼んどけよ!ばーか。
すごい、色んな感情が体中を駆け巡る。
冷静にモノを考えられなくて、身体が熱を持ってるのがよく分かる。
嗚咽も、涙も、…ついでに鼻水も止まらねー…。カッコわる…。
この熱は「大人になりたい自分」と「なりきれない自分」が身体の中でケンカしてる証拠。
「浮気してたワケじゃないんだから、嫉妬する必要がナイ。冷静になれよ。」って思う自分と。
「オレがいるときは、オレを見てよ!」って思う自分と。
ケンカ勃発中。
「龍一…」
…心配そうな涼平の声。
何とか自分の気持ちを伝えたくて、コトバにしようと試みるも失敗。
感情が爆発しすぎてて、上手くまとまらない。
アタマの中が自分の部屋並に雑然としてる。…自虐的だ、オレ。
「…っちょっ、ゴメ…」
独りになってアタマを冷やした方がイイと思ったから、部屋から出ようとしたら。
きゅぅ。
いきなり腕を掴まれて、思いっきり抱き締められた。
「…りょー…」
「しー…」
開きかけたオレの唇を人差し指で遮ると、オレのアタマを優しく抱え込む。
涼平の意図は全然分からなかったけれど、おずおずと涼平の腰に自分の腕を巻き付けた。
ほんわりと、涼平と触れ合ってる部分から涼平の体温が流れ込んでくる。
その暖かさが、緊張とストレスでカチカチだったオレの身体を柔らかく解していく。
殆ど身長差がナイから、涼平の心音を聴くことは出来ないけど、
涼平の正しい呼吸音が、静かに耳に届く。
涼平の首筋から、トクトクと柔らかい鼓動が、体温と共に直接頬に響く。
涼平を抱き締める腕に少し力を込めると、更にきゅっと身体を密着させる涼平の腕。
何時も自分を支えてくれてる力を、全身で感じる。
…スッ、と全身から余分な力が抜けていくのが分かった。
「…りゅう…?」
「りょーへ…。ごめん…、で、ありがと」
ぽふぽふとアタマを優しく撫でられて、オデコとオデコをくっ付けた。
「落ち着いた?」
「…ん」
「泣きすぎて、瞳がウサギちゃんだ」
ぶっ…、ウサギちゃん…?
可笑しくて吹出すと、涼平も笑顔になった。
「あのね、無理にコトバにしようとしなくてもイイから」
ちゅ、と柔らかく唇が触れ合い、また涼平に抱き締められた。
コトバにしなきゃ分からないことの方が多いけど、
でも、コトバに出来ないこともある、って分かった。
で、コトバにしなくても涼平は分かってくれる、ってことも分かった。
…それって涼平のオレへの愛がコトバよりも勝ってる、ってこと?
…ちょっとぐらい自惚れてもイイよなぁ…?
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最後のまとまりが悪い。