「轍(わだち)を踏む=前人が犯した失敗と同じ失敗を繰り返す」(現代国語辞典/小学館)




教訓




「今日の涼平くんの服装、なんだか桜餅みたい」

某雑誌の写真撮影とインタビューが終わってスタッフとわいわいやっていた時に、
慶太が涼平の私服姿を見て言った。

「桜餅・・・?」

食べ物の名前は聞き逃さない龍一が涼平の方を見やる。

本日の涼平の洋服はパステル基調。
長袖のやや濃い目の桃色Tシャツに綺麗な萌葱色の半袖シャツをラフに羽織っていた。

基本的に車移動が多く暑い外に出ている時間が少ないため、長袖でも暑さは余り感じない。
それに撮影が行われる部屋では照明器具など熱を発する機材を使うので、
部屋の温度はかなり低めに設定されていた。

体調管理も自己責任である以上風邪を引いてはプロとして恥ずかしい、
と思う涼平は夏でも必ず何か羽織れるものを持参するか、
あるいは薄手の長袖を着用している。

「そう言われれば確かに」

自分のシャツを指で摘みながら涼平はほんわり笑む。

「Tシャツがお餅でこのシャツが葉っぱの部分だね」

何時もの涼平スマイルを振りまいて、目の前にあった飲みかけのお茶のペットボトルに手を伸ばす。

コクコクとノドを鳴らしながらお茶を飲む涼平を見てその場にいたインタビュアーが一言。

「涼平くん、お茶のCMに出たら?とっても爽やかで似合ってると思うわよ〜v」

パステルカラーがそこまでに会う男の子も珍しいんじゃない?
とその彼女は周りのスタッフに同意を求めていた。

そんなほんわかした雰囲気の中、爆弾を落とした人物が一人。

「でも、中身は腹黒くってアンコ〜vv・・・なんちゃって」

・・・シーン・・・。

重い沈黙。

「あ、あれ?あれれ??」

静かになってしまった現状を招いたのは自分だと気付かずにきょろきょろするのは勿論(?)龍一。

「龍」

静かに涼平が龍一の名前を呼ぶ。

「ハ、ハイっ!」

ナゼだか背筋がピッと伸びて良い子のお返事をしてしまう龍一。
チラと涼平を見るとにーっこりと笑っている彼。

だがしかし。

何時もの涼平スマイルとは一味違う。

・・・瞳が笑っていない。

((こっ、こえ〜〜!!))

自分は何をされた訳でもないが、
龍一と同じように背筋を伸ばして龍一の側に立っていた慶太は、龍一共々ビビる。

一年に数回しかお目にかかれないと言う千葉スマイル。(“涼平スマイル”と違って瞳は笑っていない)
直接怒られていない慶太は余裕なのか、こんな所でお目にかかれるとは・・・、とある意味感動していた。

「ちょっとこっち来て」

「えっ、えぇ〜!?」

その細い体のどこにそんな力があるのか、
涼平は龍一の腕を掴むとそのままずるずると龍一を引きずるようにして部屋から出て行こうとする。

(た、助けて〜!慶太〜!!)

真剣にビビっている龍一は大きな瞳で慶太に助けを求めたものの・・・。

(ゴメン!ボクも命は惜しい・・・!)

龍一に負けるとも劣らない大きな瞳で返事を返す慶太。
そして頑張って!の意味を込めてガッツポーズを返してきた。

慶太が当てにならないとなると、残るはスタッフのみんな!と思いきや。
全員明後日の方を向いて我関せず状態。

「薄情もの〜〜〜!」

龍一の空しい叫び声だけがこだまして二人はどこかへと消えて行った。

二人が抜けた部屋ではスタッフが苦笑している。

「龍一くんって、いっつも地雷踏んでるんだよね。何で学習しないんだろ」

不思議だよねぇ?と慶太は呆れた。
自分はそこまでバカじゃないぞー、と思いながら帰る支度をする。

スタッフの方々と挨拶を済ませて帰ろうとした時、「あ、でも」と付け加えた。

「龍一くんが『腹黒くってアンコ〜vv』って言った時、可笑しくって吹出すかと思ったんだよね、ホントは。
『ウマイ!座布団五枚ね!』って言いそうになって。ボクも危なかったよ〜。言わなくてヨカッタvv」

それじゃぁ、と言って踵を返した途端、思わず慶太は「ぎゃっ」と叫びそうになってしまった。

そこに立っていたのは・・・。

「ち、千葉サン・・・。」

・・・シーン・・・。

再び部屋に重い沈黙が訪れた。そしてザ・千葉スマイルが炸裂。

「ひぃぃぃっ!!ゴっ、ゴメンなさい〜〜〜ぃ!!!」



教訓:龍一くんの振り見て我が振り直そうね、慶太くん。 by スタッフ一同。






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実話だったり。
桜餅の写真が無かったので桜の背景。(内容と一致してないし)




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