その日、ツナは日直当番であった。
「失礼しまーす」
日誌を職員室に持っていくことが日直の最後の仕事。
やっと帰れると内心喜んでいたのもつかの間、
「ついでにこれ音楽室まで運んでおいて」とプリントをどっさり渡されてしまった。
「なにがついでだよ…。ちぇ、ついてねーな」
ぶつぶつ言いながらも階段を上り音楽室に向かう。音楽室は三階にある。
そしてその途中には今一番近付きたくない場所があった。


「応接室…」


先日応接室であったことを思い出し背筋が寒くなる。
リボーンにそそのかされてうっかり入ったこの応接室で、ツナたちはひどい目に合わされたばかりであった。
雲雀恭弥――風紀委員長であり不良の元締めでもあるという。
非常に獰猛で危険な人物。なんせ応接室に踏み込んだだけでトンファーで殴りつけてくるような人間だ。
出来れば、もう二度と顔を合わせたくない。
しかし同じ校内にいる以上、いつかまた出会うことになってしまうのではないかとビクビクして生活していた。
そんなツナとは反対に「今度会ったら絶対にぶっとばす!」などと獄寺は息巻いていたが…。
とにかくいつまでもこんなところでじっとしていない方がいい、足早に通り過ぎる。






プリントも運び終え、今度こそ帰れるとツナは伸びをした。
「んー、その前にトイレ行っとこ」
ツナは音楽室に一番近いトイレに入った。
しかし、音楽室に近いということは応接室にも近いということで。
トイレのドアを開けたその先には、今一番会いたくない人物の姿が目に入った。
「君は…」
「ヒ、ヒバリ…さん…」
手を洗ったばかりなのか、ヒバリはハンカチで手を拭いている。
綺麗に畳まれた白いハンカチは、ヒバリの神経質さを表しているようだった。
「こんな場所でまた会えるなんて嬉しいよ」
ヒバリは口の端をつりあげてゆっくりとツナに向かってくる。
ツナの中で警報が鳴っている。これ以上ここにいては危険だと。
「そ、そうですね」なんて言いながら顔に作り笑いを張り付け、後ずさりをしていく。
そしてそのままドアを閉めようとした――が、ヒバリから逃げるなんて到底無理な話だった。






あの時は獄寺も山本も居てくれて、リボーンも助けに来てくれた。
しかし今日はツナひとり。
獄寺はサボりだろうか、学校に来なかった。山本はもちろん部活。
リボーンは…神出鬼没でどこに居るか分からない。
はっきりいって絶体絶命である。
しかも今、ツナはヒバリの腕に囲まれ、目前にはヒバリの顔が迫っていた。
目を合わせるなんて出来る筈がない。ツナは咄嗟に目を逸らす。
しかしヒバリの視線はツナに向かっているのを痛いほど感じて、身体が硬直する。
「知ってる?ここは僕専用のトイレなんだ」
「専用のトイレー!?」
学校に自分専用のトイレなど普通はあるはずがない。
でも応接室をまるで自室のように使っているヒバリなら、なんでもありなのであろう。
とんでもないところに入ってしまったと今更ながらに後悔をする。
こんなことなら、トイレなんか我慢して帰れば良かった。
今死ぬ気弾を撃たれたら全力で家に帰るのに…。


「人の私室に勝手に入ってきておきながらそのまま帰るなんて、許されると思ってるの」
いつの間にか取り出したトンファーをツナの下腹にぐりぐりと捩じ込んでくる。
「んぅっ」
ツナの身体がぶるりと震えた。
トンファーによる刺激と恐怖がツナの尿意を強くしていく。
どうしよう…ツナの頭には最悪の事態が思い浮かんでいた。
こんな歳にもなって漏らすなんて、ダメツナもいいところだ。
そんなツナの様子を見てヒバリはああ…と呟いた。
「そういえば君は用を足しに来たんだっけ」
「っはい…」
「そうだね…今日の僕は気分がいいんだ。それに君もいつもの草食動物たちと群れていないしね。
僕のトイレを使わせてあげる」
一瞬、ツナに希望の光が当たったように見えた。だが、ヒバリはただし、と言葉を続けた。


「なにか面白いことしてみせてよ」
「ええっ!?」
いきなりそんなこと言われても。
お笑い芸人でもなければクラスでも比較的地味なツナには、人を笑わせるような技術など持っていない。
むしろいつもクラスでは笑われているような存在なのだ。
「ボ…ボクにはそんなこと、無理…」
「何、口答えする気?」
「いえっとんでもないです!」
ここで余計なことを言ったらまた殴られるかもしれない。
そもそもまだ殴られていないことが奇跡なのだから。
ツナは慌てて首を振った。


とはいっても目の前にヒバリがいて、下腹をトンファーで刺激されて、
今にも漏らしそうなこんな極限状態で面白おかしいことなんて思い浮かぶはずもない。
「えっと…うーん…」
少しでも我慢しようともぞもぞと足を擦り合わせる。
一向に思考はまとまらないどころか、ますます真っ白になっていく。
「ねえまだ?」
待ちくたびれたと言わんばかりにあくびをしながらヒバリが聞いてきた。
「もうそろそろタイムリミットだよ」
そう言うとヒバリは更にトンファーを強く捩じ込んできた。






もう、限界だ。
「あ…」
さっきまで緊張して強張っていた身体から一気に力が抜けていく。
生暖かい液体は制服に濃いシミをつくり、足を伝って水たまりになっていった。
「ふあっ」
ついにやってしまった。中学生にもなって、おもらしを。しかも人の目の前でしてしまうなんて。
ツナは羞恥で顔を真っ赤にし、涙が流れそうになるのをぐっと堪えた。
ここで泣いてしまったらもっと惨めになりそうだったから。


一瞬の沈黙の後、トイレにヒバリの笑い声が響いた。
「…ふぅ、今のはなかなか面白かったよ。さあどうぞ」
ヒバリは身体を避けて道を空けた。
自分がもうトイレを必要としていないことを分かっていながら
そんなことを平然と言ってのけるヒバリに、悔しくて恥ずかしくて、今度こそ目から涙が零れ落ちた。
「…もう、いいです」
「今度は目からおもらしかい?」
「!!」
怒りのあまりツナは反射的に顔を上げてしまった。
ヒバリと、目が合う。
しまった…怒りはあっという間に後悔と恐怖に変わる。
ヒバリの目を見たら改めて分かる、自分には到底敵わない相手だということが。
「あ…あ…」
こわいこわいこわいこわいこわいおれころされるいやだいやだよしにたくない。
顔は血の気が引いてすでに白くなっていた。膝はガクガクと震える。
壁に手をついてなんとか立っていられるような状態だった。


「君、今いい表情したね」
ヒバリは手を伸ばすと、ツナのあごを掴んで引き寄せた。
ヒバリの瞳の中に自分の姿が見えるくらいの至近距離。
「そそられたよ」
「ぐっ…」
ヒバリの指があごに食い込む。ツナは苦痛に顔を歪ませた。
「ふーん、さっきの顔もいいけど、その顔もいいね」
「ぐぁっ」
「なんだか君を見てたらまた催してきちゃったよ」
気付いたらベルトが外され、ズボンとパンツに手をかけられていた。
「ひっ!」
「君もいつまでも濡れた服着てちゃ気持ち悪いでしょ?」










―――ねえ、君まだ意識ある?
君、使い心地良かったからこれからも特別にここのトイレを使わせてあげる。
それと応接室にも遊びにおいで。おもてなししてあげる。
ただし君ひとりでだよ。よけいな草食動物を連れてきたら、噛み殺しちゃうから。
とりあえず明後日ね。約束破っても噛み殺すよ。
それじゃあまたね…沢田綱吉君。






あ、そうそう。ちゃんと掃除して帰ってね。










おわり





後書きという名の言い訳


今回の目標はツナにおもらしさせることでした、無事達成できたのは満足です。
本当はもっとス○トロっぽくしようと思ってたんですけど、まあ徐々に。
初期のヒバリさんを想定して書いたのでちょっと鬼畜めです。今のヒバリさんだったらもっと優しく書いたかな?
でもこんなんじゃまだまだ鬼畜じゃないですよね。最後もつい優しくしてしまった。
ツナは悲惨な目に合わされてるのが萌えます。


校内についていろいろ捏造ありますがまあそこは…ね!





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