アズーリ伝統の『鍵』を破壊出来るか!?
2001年11月7日・埼玉サッカースタジアム2002
日本代表 VS イタリア代表
◇
いよいよ目前に迫った2002年・日韓ワールドカップ。
日本代表監督フィリップ・トルシエ氏はこの試合を
「W杯の開幕戦だと思って挑め」
選手達にそう言って奮起を促した。
ただのフレンドリー・マッチ(親善試合)ではない、それくらいこの試合を重要な
一戦と位置付けていたのである。
イタリア代表チーム。
アズーリの異名で日本中のサッカーファンが注目する強豪が11月6日、ついに来日。
アズーリとはイタリア語でマリン・ブルーの意。
代表のユニフォームのカラーからサッカーファンからそう親しまれるイタリア代表は
W杯3度の優勝経験を誇り、日韓W杯も優勝候補に上げられる
名門中の名門なのである。
◇
アズーリの監督はセリアA最多優勝経験を誇る”優勝請負人トラップ”こと
ジョバンニ・トラッパトーニ監督。
GKは24才にしてアズーリの守護神を務めるジャンルイジ・ブッフォン(ユヴェントス)。
昨年のユーロ2000で大活躍した、フランチェスコ・トルド(インター・ミラノ)が
控えというのだからまったく恐れ入る。
3バックはアレッサンドロ・ネスタ(ラツィオ)、ファビオ・カンナバロ(パルマ)、
そして来期で現役引退を発表したパウロ・マルディーニ(ACミラン)。
この強固な守備陣があってこそ、アズーリのゴールには
”カテナティオ”
(イタリア語で錠前、もしくは南京錠の意)
を掛け続ける事が可能なのである。
しかし今年のアズーリはカテナティオだけではない。何と言っても
イタリアサッカー史上最強と評価される驚異の攻撃陣。
トップ下からファンタジー溢れるラストパスを連発する
”王子様”フランチェスコ・トッティ(ASローマ)。
その控えには”色男”ステファノ・フィオーレ(ラツィオ)。
そして2トップはフィリッポ(ピッポ)・インザーギ(ACミラン)と
”貴公子”アレッサンドロ・デルピエロ(ユヴェントス)の”デルピッポ・コンビ”。
さらにディビアッジオ、キエーザ、ディバイオなど日本だったらレギュラー間違い無し(笑)の
一騎当千の強者達が控えに名を連ねる。
さらにトッティ、インザーギ、デルピエロの驚異のトライアングルを
擁しているにも関わらず、トラップ監督が
「復帰したらこの男を中心にアズーリを編成し直す」とまで明言している
”野牛”クリスチャン・ヴィエリ。
現在ポストプレイヤーとしては世界最高の選手と評価されるヴィエリと、
”イタリアの至宝”と称されるスーパースター
ロベルト・バッジョの代表復帰も
視野に入れているのだ。
伝統のカテナティオに加え、文字通り史上空前のアタッカー陣。
トルシエ監督が「W杯開幕戦のつもりでいけ」というのも充分うなずける。
◇
もうスグ完成予定の真奈美本の原稿を描く手を休め、ワクワクしながらTVの電源を入れる。
サッカー専用スタジアムとしては、国内最高の設備と集客能力を誇る、
試合会場である埼玉サッカースタジアム2002。
アズーリとのAマッチとあって、6万以上の大観衆を飲みこんだ。
時差ボケで冴えない表情の(笑)アズーリが入場。あれ・・・?
キャプテン・マークをつけているのは5番のカンナバロではないか。
「マルディーニは出ないのか・・・」
やはりスタメンでも3バックの左サイドにはユリアーノ(ユヴェントス)が入る。
いきなり幕の内弁当の鮭を落したようなガッカリ気分。
日本代表は前日、トルシエ監督が示唆していた通り、中田をスタメンから外し
トップ下には森島(セレッソ大阪)を起用。
日本は実質的な3トップ、3−4−3の攻撃型フォーメーションでアズーリに挑む。
セレッソは残念ながら2部落ちが決定したが、森島には奮起を望みたい。
◇
19時22分、キックオフ。
アズーリの面々は時差ボケに加え、渋滞のせいでアップも満足に出来なかった状態。
その最悪コンディションのアズーリに、ホイッスルと同時に日本は襲いかかった。
「もしイタリアのDFラインが破られるとしたら、マルディーニがいない左かな・・・」
そんな事を考えたりしたら、まさか本当にそうなろうとは(苦笑)。
前半10分。左サイドを突破した小野が、稲本にパス。さらに稲本が柳沢にクロスを入れる。
走りこんでDFラインの裏を取った柳沢はドンピシャリ右足で
ボレーを叩きこむ!
先制は日本!!
ココ、マークを外されたユリアーノ、GKのブッフォンは呆然。オレも呆然だ(笑)。
さらに日本の猛攻は続く。
しかし先制された事でアズーリの闘志にも火がついたようだ。
ゴール前、デルピエロからのリターンをココが返し、さらにそれをデルピエロが
ヒールで(!)でトッティへ。3列目から飛び出したガットゥーゾにトッティがラストパス。
この間何と6秒弱!! デルピエロ、トッティ、これがアズーリが誇る
”ファンタジスタ”達の真の力なのだ。
曽ヶ端がファインセーブによって防ぐものの、徐々にアズーリも本気モードに切り替え始める。
23分、ザンブロッタとガットゥーゾが正に”セリエAのプレス”でボールを奪う。
ユヴェントスとACミラン、イタリアを代表する名門の中盤の心臓部を担う
この二人のスタミナは本当に無尽蔵の印象すら受ける。
しかし日本も反撃。30分小野のスルーパスなど、惜しいシーンが続出。
互角で前半が終了。
◇
冒頭で、埼玉サッカースタジアムのことを、”国内最高の設備を誇る”などと書いたが、訂正。
どうやら芝生だけは最低レベルのようだ。
前半だけでピッチ上がボコボコになってしまっている。
こけら落としとなった、浦和レッズ対横浜Fマリノスとの試合でも、
芝に足を取られてケガ人が出たが、それが今だ改善されていない模様。
後半戦開始。
アズーリは足を負傷しているディビアッジオに代えてザネッティを、
そしてトッティに代えてこれがアズーリデビューとなるドニをトップ下に投入。
日本も高原に代えて鈴木、そして森島に代えトルシエ監督との確執が噂される中田英を
トップ下に投入。お互い勝負に出た感がある。
お年の割には元気いっぱいのトラップ監督(失礼)、立ちあがって大声でドニに指示を出す。
そのトラップ監督の願いが通じたのか後半6分、
デルピエロが蹴ったCKのこぼれ球、日本ゴールに突き刺したのは
ドニだった!!
アズーリのデビュー試合で同点ゴールを決めたドニは大喜び。
負けないくらいトラップ監督もピョンピョン飛び跳ねて大喜び(笑)。
こうなるともう、攻撃的なトラップ采配にも冴えが出る。
14分、今度はデルピエロに代えてデルベッキオが登場。
24分、またしてもドニ!! 狙いすましたダイビング・ヘッド!!!
しかし狙いすぎて、僅かにポストの外。頭を抱えるドニ。
ウルトラス(日本代表サポーター)もこの決定的な場面には、思わず声を無くす。
トルシエ監督も22分、柳沢に代えて西沢を、29分、波戸に代えて明神を、
さらに30分、稲本に代えて伊東を投入するが、どうもトルシエ監督というのは
選手交代がいつもワンテンポ遅い気がする。
最悪コンディションながらも、自軍ゴールにガッチリと『鍵』を掛け続けるアズーリ。
後半44分。鈴木に代って
ゴン中山登場!!
この日一番の大声援。
残り少ない時間ながらも、懸命に走るゴン。やはりこの男のプレイは熱い。
タイムアップ。1−1の引き分け。
W杯のV候補・アズーリ相手に引き分けたトルシエ監督はご満悦な表情。
対してトラップ監督は悔しさを滲ませる。
「カウンターを早く仕掛け過ぎたのは反省しているが、同点になって良かったよ」
それでもトラップ監督は最後は笑顔で会見を締めくくった。
「日本のマスコミの皆さん、来年夏にまたお会いしましょう」
◇
柳沢驚異のダイレクト・ボレー。そしてアズーリの本気のプレイ。
本当にエキサイティングなゲームだった。
ただ、新聞等は「互角の勝負」などと書いていたが、
6速全開だった日本に対し、アズーリはアイドリングの状態だった事を忘れてはいけない。
さらにトルシエ監督と中田の確執。
来るべきW杯へ向けて、まだまだ日本がクリアしていかなければならない
問題点はたくさんある。