暑い夏の夕方、なんとなく空が見たくなってくたびれたTシャツとサンダルのまま外を歩く。
花屋の角を曲がり小さな川沿いの道へと。
「なんとなく」こんな気持ちになったのは随分と久しぶりな気がする。
辛い訳でも悲しい訳でもない。
気が付けば次の朝を迎えている毎日だからゆっくりと歩く時間があってもいいじゃないか。
自分でも納得できない理由をこじつけて「なんとなく」今夜の空を見上げている。
雲の間で姿を出したり隠したりする夕陽。
憂鬱なんて物はきっとこういう時にあるんだろうな。
そして、案外幸せと隣合わせになっていたり。
色の錆びたジーンズにツキが飛び込む。
目を閉じて三度目のコールで受け取とろう。
「やっほぉ・・・元気?」
<以心伝心>
どんな時でも気持ちを素直にしてくれる気持ちの弾んだ声。
一番星が胸に零れる。
「どうしたんだい急に」
「ん~。なんとなく」
電話の向こうでも同じ気持ちだったみたいで少し嬉しい。
難しい事を考えても結局は声が聞きたかった、僕もそれだけなんだ。
「そう。多分、僕も今日は同じ理由でかけてたと思うよ」
「じゃ失敗だったかな。電話代かからなかったのに」
「ははっ、そっちもやっぱり暑い?」
「もう扇風機がドライヤーだよ~。暑くて困ってたの」
日に焼けたコンクリートが陽炎を作る夏。
暑いのは東京も大阪も同じ事なんだろう。
いつもの様にありふれた一日をお互いに話していく。
バイト先が一人急に抜けてキツくなったとか、ジョギングしてるとヒマワリが咲いてたとか。
繰り返される毎日をそうやって笑い飛ばす二人。
「ところで何やってたの?」
「夕陽を見てたんだ」
「夕陽?・・・ちょっと待ってて」
控えめに階段を駆け下りる音の後に軽快な靴音が聞こえる。
暫くして弾んでいた呼吸が落ち着きを取り戻す。
「はい、おまたせ」
「・・・さては夕陽が見えるところまで走ったな」
「正解だよ。家からじゃ見えないから。わぁ・・・綺麗な夕陽」
「うん。大阪も良い天気みたいだね」
僕も改めて空を見上げる。
薄いオレンジ色の間で静かに浮かぶ夕陽。
主役を譲ったのか雲はあまり見えなくなっていた。
本当に綺麗な夕焼け、でも何故かじっと見ているとチクリと痛む。
「今、同じ空を見ているんだ。なんか不思議な感じ」
土手の向こうから風が吹いて濃い緑色をした背の高い夏草が揺れる。
緩やかに流されていく雲をあと何回数えれば朝になるのだろう。
時間はいつも思い通りにはいかず何かを求める前に不均衡な速さで過ぎ去る。
「夕陽を見ているとさ、初めて出会った時の事を思い出すよ」
「そうだったね。私が校庭を走っていて」
重なっていくあの日の夕焼け。
全てが淡いオレンジ色に包まれた世界。
今も昔もこれからもこの夕焼けは何一つ変わらない景色であって欲しい。
時がどれだけ流れても変わらない物。
景色だけじゃなく、あの時の気持ちだってそうだ。
「夏穂は・・・今でも好きだから走ってるの?」
「う~ん、それだけじゃないんだけどね。最近は調子悪いし」
「そうなんだ」
「そうだよ」
何秒かの沈黙が続き、川辺の草原に仰向けになる。
遠くに聞こえる桟橋の上を電車が走る音。
まだ熱を持った風。
ゆらゆら水面を光らせている川。
1分も無い時を僕はただ眺めるだけに費やす。
「・・・」
「・・・」
「・・・気付いてよ、バカ」
どこか投げやりで強い願いのこもった一言。
微かに唇が震えている、そんな気がする。
今、夏穂はどんな顔で空を見ているのか。
辛いのか悲しいのか、そのどちらでも無いのか。
(気付いてたよ)
けれど僕だって少しは成長したんだ。
心のどこかで「なんとなく」気付いてた。
人に言われる程に僕は鈍感じゃない。
「時々感じるの・・・・自分の夢が見えなくなってる時がある。もちろん信じてるけどそれだけじゃ
不安で・・・」
「・・・夏穂、憶えてるかい?ちょうど今みたいなオレンジ色の夕陽だったよね」
「えっ・・・何が?」
「夕焼けの中を楽しそう走ってる夏穂の後ろ姿。よく憶えてるよ・・・僕は何で楽しそうなのか
解らなかったから思い切って声をかけたんだ。そしたら”気持ちいいからよ”って。
なんか妙に納得してさ。ああ、そうなんだって。」
「私も覚えてるよ。不思議そうな顔して・・・忘れるわけないよ」
鮮やかな色に染まる川辺のグラウンド。
音も無く今日が終わりを告げていく。
僕は器用でも無いみたいだよ。
「これからもあの時の自分の気持ちに真っ直ぐな夏穂でいて欲しい。我が侭かもしれないけど
僕の本当の気持ち」
変わらない風景、変わらない想い。
変わらない・・・本当の気持ち。
いつか時が過ぎて心が変わったとしても忘れはしないあの笑顔。
「ねぇ・・・それじゃまたいつか二人で夕陽を見ようよ、ね?」
「うん。約束する」
「ちゃんと憶えててよ。あ~あ、もう夜になっちゃったね。いくらなんでも店手伝わないと。・・・
えっと・・・」
「なに?」
「ちょっと挫たり思いがけない失敗したり、でも長電話に付き合ってくれて・・・だからまた笑って・・・
大切な宝物だよ。これ、私のホントの気持ち。あははっ何言ってんだろ・・・じゃ、またね」
日は落ちて星が流れる。
頬を撫で通り過ぎる涼しい夜風。
心が浮かれている。
僕は雲一つ無い夜空の下で大きく背伸びをした。
来週には夏穂に一番の処方箋を届けよう。
以心伝心なんて神様みたいに大袈裟なものじゃなくて「なんとなく」気付いていた言葉。
逢いたい
それは蒸し暑い夏の日のことだった。
来週の大阪は晴れるかな?
-fin-
あとがき
ある人がいいます。
「言葉で伝えなくては気持ちは伝わらない」と。
また別の人がいいます。
「言葉を越えられないのならそれだけの関係なのだ」と。
果たしてどちらが正しいのでしょう。
案外、答えが出ないのが答えなのかもしれませんね。
2001年 夏 fuku
復活した鹿児島の若大将・fukuさんから夏穂本発行を記念して(?)夏穂SSを頂きました。ところで
皆さんは夏穂はゲーム版の標準語で話した方がいいですか?それともジャーニー版の関西弁?オレは標準語で
話した方がいいです。
fukuさん、本当にありがとうございました!!
fukuさんのセンチSSサイトです →【 cry and smile 】
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