◆ 絆 〜追憶〜 ◆   作・水風光輝


優しい風が吹いている・・・都会の暑さとは無縁な場所・・・

「どうしたの?」

『え?あ、うん・・・』

「ボーッとしてたよ?」

『あ・・・ちょっとね・・・』

「考え事?」

『何でもないよ・・・』

「あ・・・隠し事?」

『い、いや・・・違うって』

「あやしい・・・」

『ちょ、ちょっと歩こうか?』

「・・・うん」

周りは一面のラベンダー畑。辺りにはラベンダーの匂いが漂っている。

『・・・・・・』

「・・・・・・」

『・・・・・・』

「・・・・・・ねぇ」

『ん?』

「何かあったの?」

『どうして?』

「なんか・・・いつものあなたじゃないみたい・・・」

『そうかな?』

「・・・うん」

『いつも通りだと思うけど・・・』

「ううん、なんか悩んでいるみたいに見えるから」

『・・・・・・ふぅ、わかっちゃうか・・・』

「だって、あなたと一緒になってから、ずっとあなたのことを見てきたからわかるんだよ。ううん、
あなたと一緒になる前から、あなたのことばかり見てきたから・・・」

『ありがとう・・・でも、ここに来て・・・ラベンダーの香りのおかげで・・・落ち着いたみたい』

「そう・・・でも、何を悩んでいたの?」

『悩んでいた・・・というか、考え事だよ。ちょっとある夢を見て・・・』

「夢?」

『うん・・・』

「どんな夢なの?」

『・・・それは・・・』

「それは?」

『・・・・・・』

「もう・・・話してくれないと、今夜はおしおきだよ?」

『そ、それは・・・ちょっと嬉しいけど(汗)』

「もう・・・エッチなんだから」

『だって・・・』

「で、夢の話は?」

『・・・う〜ん、話題をずらせなかったか・・・』

「無駄だよ。私には、あなたの考えていることがわかっちゃうんだから」

『そ、そうなの?』

「うん。だから観念して話しなさい」

『うん・・・実は・・・僕が交通事故で死んじゃう夢を見たんだ・・・』

「うん・・・それで?私は?」

『もちろん悲しんでいたよ。そして僕が死んでから、二年ほどたって・・・』

「うん」

『心の一部を失ったみたいになっていたんだけど、ある人に出会ってまた僕が死んでしまう前のように戻れて・・・』

「ある人って?」

『僕にもよくわからない。・・・どこかの大学生だったけど。それでその人のことが気になっていって、
その人に僕に向けてくれるのと同じ笑顔や、キスも・・・』

「・・・うん」

『それで、なんか・・・遠くに行ってしまうような気がして・・・』

「私が遠くに?」

『うん・・・』

「・・・その人にやきもちやいてくれたの?」

『い、いや・・・でも・・・そうかもしれない・・・』

「大丈夫だよ・・・私はどこにも行かないから・・・」

そう言って背中に抱きつく彼女。

『・・・うん』

「あなたのこと、こんなに愛しているのに・・・」

『僕もだよ・・・』

「あ・・・・・・」

『・・・・・・』

「・・・・・・」

『でも、この夢が心にひっかかってしまったのは、他にも・・・』

「あなたが、交通事故に遭って入院したことがあるから?」

『うん・・・よくわかったね』

「さっきも言ったでしょ?」

『あ・・・僕の考えていることがわかっちゃうんだね』

「大好きなあなたのことだもん」

『・・・・・・』

「・・・・・・」

『そう・・・あの交通事故のことだよ・・・とりあえず、普通に生活できるようには回復したけど・・・』

「そうだよね・・・結局後遺症が残っちゃっているんだもんね・・・」

『・・・うん。あの入院して寝たきり状態だった時は、夢でも見ているのかと思っていたよ』

「毎日お見舞いに行ったけど・・・最初のうちのあなたは何が起こったかわからない・・・っていう顔してたよね」

『突然のことだったからね。信号待ちで止まった所を後ろから・・・いきなり後ろから衝撃をうけて、
風景が変な角度で回ったと思ったら、地面に倒れてた・・・あとはそのまま救急車で運ばれて・・・
気絶しなかったから、まだ鮮明に憶えているよ・・・』

「私も、あなたが事故に遭ったっていう連絡を受けて、どうすればいいかわからなくて呆然としちゃったもの・・・
我に返って、すぐにあなたが運ばれた病院まで急いで行ったんだよ」

『最初の検査が終わって、病室に運ばれてまもなく来たんだよね。僕の前に来るなり、
凄い勢いで泣き出しちゃって・・・』

「だってもの凄い心配だったんだよ?もしあなたが死んじゃったら・・・って思うと・・・それで、
あなたの病室に着いて、あなたの顔を見たとたんに気がゆるんじゃって・・・」

『それで、僕がどういう状態が改めて再認識できたんだけどね』

「でも・・・本当に無事でよかった・・・最初は下半身不随になる可能性もあったんだもんね・・・」

『・・・うん。ヘタすれば一生車椅子・・・』

「もしそうなっていても、私はずっとついていてあげるけど」

『まぁ、そうならなかったから、ここにもこうしていられるんだし』

「そうだね・・・」

『・・・・・・』

「・・・・・・」

主人公&ほっきゅん

『あの事故からもうすぐ3年経つのか・・・』

「あと一ヶ月ほどでだね・・・」

『あの時からずっとそばにいてくれたんだよね』

「だって・・・私の知らない所で何かあったらイヤだし・・・ずっと近くにいたいし・・・」

『僕もだよ・・・一緒にいてくれたから、入院中・リハビリってがんばってこれたんだし』

「大変だったよね・・・」

『そりゃ、自分の足で立つことさえ困難なほどに脚力が落ちちゃったからね』

「でも、あなたは凄くがんばっていたよね」

『早く退院したかったからね』

「うん・・・」

『結局、二ヶ月ほどの入院。退院してもそのまま療養生活・・・』

「私は、あなたとずっと一緒にいられる時間ばっかりで、嬉しかったな・・・」

『で、でも、そのままじゃ・・・ね』

「うん、そうだね」

『その療養生活の間で、結局僕は誕生日越えちゃったし・・・』

「そうだったね」

『あれ・・・誕生日って言えば・・・』

「どうしたの?」

『いや・・・あのことを・・・』

「あ・・・もしかして、私の誕生日のこと・・・?」

『・・・う、うん。つい思い出しちゃった・・・』

「もう・・・よけいなことを思い出さなくてもいいのに・・・」

『思い出しちゃったものは仕方ないじゃない』

「・・・・・・」

『あの時、誕生日プレゼントで欲しい物があるって言っていたから・・・』

「だ、だって・・・」

『この紙にちょっとサインして印鑑を・・・って』

「も、もう・・・」

『つい、勢いに圧されて、サインをして印鑑を押しちゃったんだよね・・・そうしたら、
凄い勢いでその紙をしまっちゃうんだもん』

「・・・」

『後日気づいたら、その紙は婚姻届で、すでに役所に届けられたあとだったし・・・』

「だって、私が欲しかったのは、あなたなんだもん」

『ってことは、僕は誕生日プレゼントだったの・・・?』

「うふふ・・・だから、あなたは私のものなんだよ」

『そ、そのあとは大忙しだったね。一ヶ月後にすぐ結婚式なんだもん。すでに式場まで予約済みだったし』

「あの展望台のチャペルね・・・」

『懐かしいな・・・』

「あの時は、凄く嬉しかった・・・」

『うん・・・・・・』

「・・・・・・」

『あの時改めて思ったんだ・・・』

「・・・何を?」

『ずっとそばにいて、守っていきたい・・・って』

「・・・」

『絶対に離れない・・・って』

「もし、離れてほしいって言っても、私は絶対にあなたから離れないよ」

『大丈夫、これからもずっと一緒だよ』

「うん」

『さてと・・・そろそろ行こうか?』

「そうだね」

『子供たちも待っているだろうし』

「もう少しあなたとの子、欲しいな・・・」

『え゛!?』

「いいでしょ?」

『い、いや・・・そ、それは・・・』

「帰ったら、あなたの体に聞いてあげるね」

『う゛・・・』

「フフッ・・・」

『さ、さぁ、帰ろう・・・ほのか』

「うん!」

〜fin〜


 と言う訳で(どんな訳だ)、当サイトのSSコーナー、掲載第一号は川崎市のホノカーナ、水風光輝さんが
ご自身の体験を元に執筆された(オイ)ほのかSSでした。ありがとう、光輝さん!!

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