飲み会である。それ以外に形容のしようがない飲み会である。
メンツはマスタング組+α。ようはロイ、ハボック、リザ、ブレダ、フュリー、ファルマン、それにエド、アル、ヒューズといったメンツである。
それぞれに気持ちよく酔い、話題は少々シモのほうへと向かっていく。
その過程でフュリーがつぶれ、アルがフュリーを少しはなれた席で介抱していてその話題からはずれていたことをここに述べておこう。
「じゃ、ここらでテーマトークといきますか。じゃあー、男のシンボルについて!」
とテーマを提示したのは頭の回転が速いはずのブレダ。いまはただの酔っ払って陽気な肥満である。
その声におおー、と男衆からは歓声にも似た声があがり、リザは小さくため息をついて苦笑している。
ハボックがケラケラ笑いながら煙草に火をつけ、じゃあ、と煙草をくわえたまま手をパンと叩いて、
「このメンツに限りましょうや。ここにいない人の話だすのナシってどうスか」
「いいな、異論はない」
大佐をはじめとして、たがが外れ気味の一同は大きく頷いて無駄にジョッキを持ち上げたりしている。
「メンツ内ってことは、誰が大きいとか、小さいとか、そういった話ですかね」
普段ならのってこないだろう話題なのに、ファルマンが首をかしげてそう呟く。それを聞いたメンツの視線が、すーっと一点に集中した。
「……な、何だよ!」
熱視線に焦げそうになった鋼の錬金術師は、大人たちのにやけ顔に嫌な予感を察知し顔をしかめる。
その手にもちゃっかりサワーのジョッキがある。未成年に酒を強引に飲ませる、非常に悪い大人たちである。
ハボックはへらりと笑い、頭をかきながら、
「や、一番ちっせぇっつったら問答無用で大将かなと」
「誰が豆粒どチビじゃー!!!!
「「「「「そこまで言ってねぇし!」」」」」
どっかんと真っ赤になって噴火したマメツブに、リザがふわりと口元をほころばせ、
「まだ成長途中だから仕方ないわ。あなたの歳でここにいる男性に勝っていたら大変よ」
とフォロー。そうだそうだとハボックもブレダも同意を示し、
「そうだぞ!嫌でもそのうちでっかくなるしむけるし起つ!安心して成長しろ!」
と言ってビシっと親指を突き立てる。
それに勇気付けられ、おう!と親指を突き立て最高の笑顔を返すあたり、鋼の錬金術師も相当酔っている。
へたしたらベアリングの奥までアルコールが浸透しているんじゃなかろうか。
「じゃあ反対に最大は誰か、という話になるか?」
とロイ。こちらは見た目結構冷静である。中身は相当酔っている。飲み会の席で一番厄介なタイプである。
「そうなるかぁ。ってーとやっぱハボック少尉、お前じゃね? 結構なシロモンもってるじゃねーか」
ぐいっとジョッキをあけてそうさらりと言ったのはヒューズ。その言動に、犬に恋する炎の錬金術師はぴくりと反応を示した。
おいヒューズ。なぜお前はハボックの大きさを知っている?
そんな不穏な空気を感じることなく、ハボックは苦笑して煙草をぴこぴこさせ。
「なーにいってんすか。あんただって相当イイもん持ってるじゃないスか。持続力抜群、焦らし上手の最高のタガーナイフ」
その言葉の持つスキャンダラスさに気付けるほどまともな思考を持っていたのはその場に二人だけ。
一人はクールビューティーを崩さず、一人は思わずポケットの上から手袋の位置を確かめた。
その他のメンツはハボックの下品なたとえに大うけし、ぎゃはははは!!!とのけぞって笑う。
ハボックから指摘を受けたヒューズはにやりとニヒルに笑い、はやしたてる周囲にヒーローのように両手をかかげ、ありがとうありがとう、とおどけてみせた。
それからにやりと笑い、あごひげに手をやって一言。
「まぁそうだけど、今は俺のタガーナイフはグレイシア専用だからな」
「うーわー生々しっ。つーか、あれじゃないすか中佐。あんた、こっちの気が狂いそうなくらいの焦らしプレイ好きじゃないスか。
あれ奥さんにやってんじゃないすか? かわいそうに。アレは焦らされる方が結構ツライんスよ」
とハボック。酔いでかすかに染めた顔に無意識に顔を寄せ気味にして、ヒューズが雄の表情を垣間見せながら低く笑う。
「ばぁか、するかよ。そゆのは卒業したの。愛しい愛しいグレイシアには思いのたけをこめるんだよ俺ぁ。その愛の結晶がこのエリ」
「まぁそれはともかくとして。大きさ一番はやっぱハボック少尉なわけ?」
家族自慢が始まりかけたのをうまくかわし、エドが話を元に戻す。
うーん、どうだろね、とハボックは苦笑する。その横で静かにカクテルを傾けていたリザがにっこりと笑う。
「少なくとも、私の関わった男性の中ではダントツかしら。中佐がいかほどかは存じ上げないけど、持続力もテクニックも中々よ?」
その発言に一同がおおおおー!!!といろんな意味でどよめく。
だって、美男美女だ。お似合いなことこの上ない二人なのだ。
この氷の微笑を持つ中尉をただの女に還元するに相応しい男だと誰もが頷かざるをえない。
拍手すら沸きあがった中、ただ一人機嫌が急降下していく人物がある。
その「お似合い」の二人を側近に据えるロイ・マスタング大佐その人である。
「中尉、んな周りをあおるようなこと言わんで下さいや」
「あら、私は正直なだけよ?」
「な、な、リザちゃん、こいつ特に舌づかいがよくね? こんだけ繊細にうごくのも珍しいと思うんだよな俺」
話が合う人間がいたとばかりに顔を向けたヒューズに、にいっこりと笑ったリザが
「その発言はセクハラですね?」
流した視線の先、ヒューズが参った、と言いたげに肩をすくめて笑った。
そろそろ自分の右横の不穏な空気に気付き始めたハボックが、焦って中尉をたしなめた。
「も、マジであおらんといてください。俺、右見れないッスよ」
「あら。私よりも結局彼を選んだ罰だわ。でも……そうね。たまにあなたのプライベートの時間をくれるなら、フォローに回ってもいいけど、ジャン?」
ひそひそと耳元に囁かれた声に対し、極上の甘さを含ませ、リザはしっとりとその耳元に囁きかけた。
その囁きに若干前かがみになった後、ハハ、と苦笑して、ハボックは肩をすくめた。
「そうしたいのはやまやまなんすけどね。今の恋人、けっこう独占欲強いんスよ。そういう約束は、誰もいないところであらためてしましょうや」
「おいおい、なにひそひそ話してんだよ。うら話戻すぞ!テクといえばやっぱお前もなかなかの使い手だったよな、ローイ♪」
ヒューズがロイの肩に手をかけ、にんまりと笑う。唐突に話題をふられ、ロイは面食らって瞬きを繰り返した。
「い、いきなり何を言う、ヒューズ」
「まーまー、もったいぶらねぇで話してくれよー。気付いたらチェリー君卒業しやがってて、随分俺ぁ焦ったぞー」
「ちょ、ちょっと待てヒューズ、そんな、揺らすなっ!!」
 ヒューズは話しながらロイの身体を両肩にかけた手でもって縦に横に揺らす、揺らす、揺らす。
 顔に出ていないものの、実は酔っている人間が身体ごとシェイクされたどうなるか。
 ……っ、やばい!
 ふわふわとしていた感覚が、急速に落下していく感覚。に、ロイはかすかに青ざめた。
 このままでは、盛大にリバースしてしまう。
 炎の錬金術師、若きイシュヴァールの英雄、麗しの大佐、が、すっぱい嘔吐物まみれになってしまう!!
 それだけは避けなければならない。
「いいかげんに……っ!!
 本気でやばいと声を荒げた時。
「はーいそこまでー。中佐、揺らしすぎっスよ。今の自分そんだけ揺らされたらどうなりますか。この人顔に出ないけどこれでかなり極限なんスから」
「あっ、わりーわりーついなー。こいつ顔かわんねぇからうっかり★」
「★じゃないぞヒューズ!!
「はいはい、あんたもほら立って。そろそろ一回頭冷やしてきましょうねー」

 すばやくハボックがヒューズの手をロイの肩からはずし、そのままロイに両手を添えてそっとたたせる。

 直前までの嫉妬から本当はハボックの手も借りたくなかったのだが、そうも言ってられないくらい極限までにこみ上げた嘔吐感に、ロイは不覚にも上背の勝る彼にすがりついた。

「んじゃ、ちょいと席はずすわ」

 ハボックはそのまま軽く皆に手をあげ、ロイを席から遠ざけた。

「はー、ったく、あんたもあんたッスよ。飲み方考えてくださいや」

 トイレに誘導しながら、ハボックが低く笑った。その目が意外と正気を保っているという事実をはじめから知っていたのは、おそらくロイしかいないだろう。

 ハボックは、いつだって酔ったふりをしているだけなのだ。

「ふん、あんな話題で飲まずにいれるか」

「……っあー、あああ、あれね」

 触れたくない話題にきたとばかりにハボックは苦笑いを浮かべた。トイレの中、個室の手前の洗面台に両手をついて、ロイは低く笑う。眉間に皺が深く刻まれた。

「今日ほど親友を憎らしく思ったことはなかったぞ」

ヒューズは親友である。だが、それと同時にロイと同様、ハボックを組み敷いたことのある人間である。自分より先に、彼がハボックに触れていた、という事実はいつだってロイを苦しめた。

 親友として大切なのに、最愛の人の元愛人、というだけで憎らしい。

 わかるから、ハボックもヒューズも滅多にその話をしなかった。それを感じまた複雑だというこちら側の心情は置いておくとしても、それでまだ平静でいられたのに、今日は。

「……まーったく、また余計なこと考えてるでショ」

 黙りこんだロイに、ハボックが苦笑した。

 そしてそのままロイの後ろにまわり、そっと彼を後ろから抱きしめる。

「ローイ。ね、お願いだからこっちみてください」

「む」

 階級ではなく、名前で甘く囁かれ、ロイは抗うことができない。

 のろのろと背後のハボックと向かい合うよう身体をひねれば、思いがけず真摯な空色の瞳とぶつかった。

「ロイ。俺は、彼と関係していた間、甘く名前を囁く、なんてしたことがないんスよ? いつだって階級で呼んで、距離だけはしっかりおいていた。踏み込ませない為に」

「ハボック……?」

 いつだって、中佐、と呼んでいた。

 好きだったけど、それでも踏み込ませたくなかった。

 それを変えたのは、ロイだ。

「プライベートにも踏み込んで欲しい。もっと知りたい。名前で呼びたい。……そう思ったのは、あんたが初めてなんス」

 信じて下さい。

 ハボックはそっとロイの唇にキスを落とした。

「ジャン」

「ね。キスしてくださいよ。今日だって本当は、あんたと二人で静かに飲みたかった」

 可愛いことを言う恋人に、ロイはついに眉間の皺を解いた。

 勝てない。

 勝てるはずがないのだ。いつだってこの恋人は、常にロイのことを第一に考えている。

 そっと寄せた唇は、アルコールとニコチンの匂いがした。

 思い切り深く噛み付けば、んんっ、とハボックが喉の奥であえいだ。

 

続く。

 

ハボロイ変更、ロイハボ。

可愛くウワテなハボを書きたくなりました★。

飲み屋のトイレでディープキッス萌え!!

 

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