「と、いうことなんですけれど……」
結局行き場のなくなったコーヒーを中尉に差し出しながら、フュリーは事の顛末を語って聞かせた。
丁度休憩の時間で、部屋は閑散としていた。
ありがとう、とキレイに微笑み、カップに口をつけた麗しい副官は、少し考えるそぶりを見せてから、ふ、と苦笑した。
「フュリー軍曹、考えれば簡単なことなのよ。何故大佐がその日に休暇を取ることにこだわっているのかを考えれば、おのずと見えてくるものもあるわ」
私が言えるのはそれだけかしら。
なにやら裏の事情に通じているらしいホークアイのその発言に、フュリーはウーン、と給湯室へとトレーを戻しに向かいながら悩んだ。
何故休暇をその日に、その日に……?
給湯室から戻る時、不意に廊下をこちらに向かってくる声がする。
耳を澄ませば、どうやらハボックとブレダのようだ。
ブレダが、だからよ、となにやらハボックに話かけている。
「お前来週末、非番だろ。あの日午後出勤なんだよ俺。久々に飲みにいこうぜ」
どうやら、久しぶりに飲みに行こう、と誘っているらしい。
それに対し、咥え煙草を上げ下げしつつ、あー、うー、とハボックは唸り、それから笑って、
「だぁめー。前日の帰宅後から次の出勤までみっちり予定入ってんの。まるっと俺、予約済み」
「何ぃ? 聞き捨てならねぇな、また性懲りもなく女ひっかけたかよ?」
「性懲りもなくって、ひでぇなぁブレ子。ん、でも秘密。教えてやんない」
「何ィ!?」
あ。
通り過ぎていった会話に、給湯室から出るタイミングを失っていたフュリーは目を見開いた。
来週末に、予定外の非番を。
お前来週末非番だろ。
「なんだ、そっか」
そっか。
抜けずにひっかかっていた棘が取れたような爽快感と、多少のくすぐったさで、フュリーはくすくすと笑った。
何故ロイが必死になって休みを取ろうとしているのか。
何故そんなロイにハボックが『甘やかしてしまうから』とコーヒーを運ぶ役を自分に頼んだのか。
「……ね。考えれば簡単なことだったでしょう?」
柔らかな声が降り注ぎ、見れば、空になったコーヒーカップを片手にリザが微笑んでいる。
その微笑がとても優しく少尉の後姿を見送るのを見て、フュリーもまた、微笑んだ。
「中尉は全てご存知なんですね」
「さあ、どうかしら。でも、あの方に、心のよりどころがあるのはとてもいい事だと思うのよ」
あの、全てを背負い上を目指す人に。
きっと普段でも面倒見がいいだろう、鷹揚としていて優しいあの人のぬくもりが与えられるのなら。
誰よりも近い位置で。
コーヒー一つで、相手を透かし見れるくらいに、近い心の距離で。
「……そうですね」
自然、不快感も感じず、フュリーは頷いた。
あの二人には、その距離が相応しい気がした。
「いいなぁ」
うらやましいなぁ、と思わず漏れた呟きに、リザがクスっと楽しげに笑った。
「精進なさい」
End
間接的なイチャコラ。
多分この二人は「ロイハボ」ではないかと。