確か、明日が彼の非番の日ではなかったか。
あまりにも多忙なので、休み返上で出る、と主張はしていたが、あきらかに無理をしている青ざめた顔に有能な中尉が半休だけでもとるように説得していた気がする。
常日頃は人使いが荒く、サボり癖がある上司だが、意外と部下思いだ。つらいのは皆同じだからと、休みたがる己を自ら律し、仕事に打ち込んでいる。口は悪いし素直じゃないが、そんなところがハボックは好きだ。
やはり、今日はぐっすり眠ってもらわねば、と、荷物を置いたらすぐにロイの部屋へ向かう事を決めたハボックは、階段を軽快に上り、自らの部屋の前に来たところで中から響く電話の音に気付いた。
「やべっ!」
今日は平日なので、知り合いなどから電話があるとは思えない。と考えると軍だろうか。休日出勤を言い渡されても不思議じゃない現状を思い起こし、ハボックは口元を引き締めて電話を取った。
「はい」
『やあ、私だが』
「あ」
電話を取ると、電話の向こうから優しく爽やかな声。
常日頃かけられる言葉や口調とは少し違うものの、それはロイの声だった。思わず、ハボックの引き締めた口元がまた緩む。
が、その次の瞬間、思わずだまりこむことになる。
ロイの声は穏やかに、優しく、こちらに話しかける。

『やあ、ジャネット。君に電話するのは久しぶりだね』

「ジャ」
ジャネットぉ?
はあ?と思わず、ハボックの眉間に皺が寄る。
ひょっとしてロイはジャネットという女性の番号と間違えてこちらに電話をしてきたのかと、嫌な可能性が頭を過ぎり、むっとする。
だが、次に続く言葉に、ああと納得した。


『ジャネット、君は久しぶりの休日だったようだが、どうだね、ゆっくり休めたかね? 私も明日は半日だけだが休みだ。久しぶりにゆっくりできそうだよ』
 心地よいロイの声は、確かに電話の相手がハボックだと認識していることをその内容で告げてくる。
おそらく、執務室ではなく皆がいる司令室のデスクからかけているのだろう。
その声は、日頃よりひどく疲れて聞こえた。

「大佐、声が疲れてるスね」
『ああ、そうかね?まあここ数日ろくに寝ていないからな。そろそろ君の暖かな胸に包まれて安らかに眠りたいよ。そこでジャネット、相談なのだが、今夜は私の家に来ないか?君の手料理が食べたいな』
こちらの言葉にあくまでも女性相手として振舞う彼に、ハボックはついに緩みきってしまう頬を戻せなかった。
いつもは素直に言えないだろう言葉の数々が、相手を女に想定することによって口にできているのだ。
素直に今日はハボックの手料理が食べたい、とリクエストした恋人に、ハボックはこのまま紙袋をロイの部屋に持ち込もう、と決めた。
「OK。じゃあ、この後向かって、ついでにシーツや洗濯済ましときます。夕飯に何かリクエストでも?」
『そうだな、最近あまり食べていないので、あまりハードなものは胃にこたえそうだよ。ひょっとしたら仕事で遅くなるかもしれないが、気長に待っていてくれ。明日の午前中までゆっくり過ごそう』
Yes,Sir
『じゃあ、また後で』

電話を切り、ハボックは大きく伸びをする。玄関先にある灰皿に短くなった煙草を押し付け、一つ伸びをしてきびすを返した。
今日はたっぷりと甘やかしてやろう、と疲労困憊の恋人を思いながら。

コメント:アマッ。そしてロイ編へ続くのです。
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