「そーいえばさー。」
 まだ白い紙の上に面白い記憶が残っていたように眺めていた赤い瞳が、ヨレイエを捉える。
「昔、子供作ったことあったわ。思い出した思い出した。」
 いわゆる爆弾発言である。



 作りかけの城壁見取り図。とうに干していたコップ。小腹がすいたと持ってこさせられた果物の皮と種。手を拭いた布。どこかそこらへんに、今先はなった自分の驚愕の声が落ちていやしないだろうか。
 指を舐りながら上司は、ずりずりと背もたれから体をずり落として、休憩の姿勢に入る。足はもちろん机の上だ。
「あれはねー。ちょっと昔の話だな、髪が長かったときだから。」
 そういって、胸よりもう少し上で線を切る。この数百年、赤髪が肩より落ちたことのなかったラインを。
「おもしろそうだったから、つくって押し付けた。」
「何をです? 」
「子供。三人。」
 ふひゃひゃと笑う、世間一般的に言われる魔王は少し前のことを思い出して、口を開いた。



最初の触り・おしまい





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