ファザー・コンプレックスがファザコン、マザー・コンプレックスがマザコン。じゃ、赦汲牟はファミコンということで。



「うちの親はあんまりヒドイ親じゃなくて、とっても困ってた。」
 手紙を作成しているディーズムの背に背を合わせて、面倒臭そうに呟いた。
「母親のほうは死期を見ちゃってから、猫可愛がりに走って、まだまだ小さい頃だから良かった。疎んじなくてすんだ。」
 赦汲牟が背を伸ばすようにして、圧し掛かる。
「父親のほうは自分でも連れ合いと自分の死期を見ちゃったから、ゆっくりと逃げ出した。別に死んでも、変わらないのに、抱きしめんのも手を繋ぐのも頭撫でんのもしゃべんのも笑うのも、少しずつ減らして、お金と権利残して子供にも小銭が稼げるように紹介して。抗わないで、そのまんま。」
 ぐりぐりと頭をこすりつけたら、やっと腕を回して背中にいる赦汲牟を軽く叩いた。宥めるみたいに。
「別に死んだって変わらなかった。」
 抱きしめて額くっつけて何がおもしろいか笑い声をあげる母親が死んでも、寂しくないように忘れるように慣れるように消えようとしていた父親が死んでも。
 ただただ、目の前から消えたことを憾んで、どうしようもなくどうしようもなく寂しくて哀しいだけ、それは変わらない。両親がどんな生き方をしようが。
 死を認識して、二人は残すもののことだけ考え出して、自分を削っていった。なんてひどい。
 捻くれた所為か、捻くれていた所為か、その時間がもったいないように赦汲牟には思える。制限をつけられたのなら、自分自身のことだけで時間を消費して欲しかった。
 愛しているとも言わなくて良かった。子供の未来のことなんて考えなくてよかった。終わりが来るまで、自分の時間を過ごして欲しかった。
 ぐぐっと背中を押し返される。殆ど直角になったところでディーズムからの押し返しは終わって、またペン先が紙を引っかく音が聞こえてくる。
「それはしょうがないだろう。」
「何? 」
「それがやりたいことなら、シャームがどう思うとしょうがないだろう。」
「……自分が死ぬってのに? 」
「瞬時の判断じゃないだろう。何日も何ヶ月も何年ものことに誰も口出しできんだろう。」
 これは。これはもう一回言ってもらわなくてはならない。背中越しなんかじゃなく、きちんと顔を見て……。


「ーーまだ、色事の夢のほうがよかったな。」
 巣の中で、本日の勤務をずる休みに決定した、元・子供が呟いた。
 


「父さん、また猫だ。」
 自分の子供のジュダルが、抱き上げたそうに見下ろしてくる。
「学校は。」
「これから。母さんが父さんの様子を知りたいって言ってたから、待ってたんだよ。ーーねえ、抱きあげていい? 」
「勝手にしろ。」




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