目薬が口に入った場合は、口を濯ぎ気分が悪くなったら病院に行きましょう。
 歯磨き粉と間違えて、洗顔料が口に入っただけであれだけ辛いのに。

 一般規格よりは大き目の体を窄めて、なにやらごそごそと作っているウォークを眺めて、めんどくさそうにサラスニが声をかける。
「ウォーク、ご飯。早く。」
 サラスニの推測が当たり、朝から林檎の飾り包丁を入れていたウォークがしぶしぶ手を下ろした。サラダの中にいれたハムのバラ造形だけでは気に喰わなかったらしい。
 タイマーを使わず、調味料は目分量なウォークは、何故か変なところに凝る。シチューのにんじんは大概ウサギと星ときりんのかたぬき器が使われている。珍しくプリンを作ったと思ったら、中からチョコの星が出てきた。など、力の入れようがどこか違う。
 不味かったら文句も言おうが、それなりなのでサラスニは急いでいる朝食ぐらいしか、珍しく文句を言わない。
「今日はなんだって。」
「『社』の不安定さの原因究明。それ以上は別途料金で相談しろだと。」
「ふーん、それじゃあ、いつものメンバーぽいな。」
 並べられた皿から手をつけるまえに、サラスニの手の中の物をテーブルに置く。一瞬、ウォークはそれを見たが、取り合わず、サラスニ分のコーヒーを押しやる。
「派遣社員の会社がまたダブルスタンダードで潰れたらしいぞ。」
「サラスニ。」
「ラジオやテレビをつけてないだろ。『聴』こえてくるだけなんだからさ。」
「サラスニ、言っておくが。昨日のは、まずいと思う。」
「なにが。」
 ぐっと睨みつけられて、ウォークの眉間に皺が寄る。
「女性に目薬みたいなおいしくないもの飲ませるのは、よくないと思う。可能性の話だ、なんて言うなよ。」
 一瞬話についていけなかったらしく、うつろな顔をサラスニはしたが、適当に頷く。
「そのことは大丈夫だ。水系精霊渡してある。異変があれば反応するから飲むまでもない。」
「ならいい。それで。」
「まだなんかあるのか。」
「潰れた会社は、どこのだ? 」
 聞こえなかった風にサラスニは、卓上の目薬をいじくる。片付けてあったものを引っ張りだしたのに、反応の薄さに面白くなさを感じる。
「サラスニ。」
「なんだよ。」
「行儀が悪い。それに。」
「それにィ? 」
「それは不味い。いれるなよ。」
 舌打ちをして、それから手を離さざるを得なかった。



おしまい





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