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八月一日の午前中。
柳とのデートで行った花畑の帰り道、つぐみは行きの際に話題になった彼の好きな食べ物について考えていた。

(ある料理人の作る食べ物で、家庭を持つ人なら誰でもその状態に身を置ける、かぁ…。それで、和食がメインで、洋食や中華もありで…。最近好むようになったって言ってたけど………)

ここまで思考して、つぐみの頭の中で点と線が繋がった。

「あっ………」
「む?どうしたつぐみ」
「ごめんなさい蓮二さん!」
「…いきなりどうしたというんだ、お前は」

唐突に激しい謝罪をしてきたつぐみに、柳は平静を装いつつも、心の中で

(まさか、告白もしていないのに振られたのか?)

と動揺した。

「蓮二さんも辛い思いをしていたのに、私ったら自分のことばっかりで…」
「………待て。俺のデータをもってしてもお前の言いたいことの予測が全くつかん。頼むから説明してはくれないか」
「私、解ったんです。さっき言っていた蓮二さんの好きな食べ物が」
「…そのうち解ってもらいたいとは思っていたが、あまりにも急だな」
「ピンときたんです。家庭を持つ人が食べられる、ある料理人の食べ物。これは家族が作る食事、つまり家庭料理のことですね?」
「まあ…おおよそは合っているな」

(もっとも、その料理人とはまだ家族という間柄ではないが………)

と柳は心の中で補足する。

「そして蓮二さんは、最近それが好きになってきた。ということは…」
「…………………」

真剣な顔で語るつぐみの言葉を続きを、柳はただ静かに待つ。

「蓮二さんは柳家の食卓が恋しくなってきた。要するにホームシックなんですね!」
「…………………………………は?」

見事なまでに明後日な方向だった回答に、柳の緊張が抜けて目がパカンと開く。

「それなのに私、自分のお父さんのことばっかり心配して…。蓮二さんの気持ちを解ってあげられなくて、本当にすみませんでした!」
「いや…まあ…出会ったばかりの者より海難事故で行方不明の家族の身の方を案じるのは当然だと思うぞ」
「早くみんな無事に帰れるといいですね!」
「あ、ああ…救助もそろそろ来るだろう」

仕舞いには目尻に涙を浮かべ始めたつぐみに、柳は懐から手ぬぐいを出して差し出してから、言い辛そうに言葉を紡いだ。

「だがしかし、俺はホームシックには罹っていないぞ」
「え?」

目をぱちくりさせてきょとんとするつぐみ。

「合宿で一、二週間家から離れることは珍しくないし、今回だって遅くとも二週間はかからずに救助が来ると確信しているからな」
「え?え?」
「家族が作ってくれる料理も確かに好きだ。だがさっき言ったことは、それとは別の意味になる」
「え、それじゃあ…………………………………………………………………蓮二さんの好きな食べ物って、何なんですか?」
「………さっきも言ったが、そのうち解ってくれると思う。だから答えを焦らず、ゆっくり考えていればいい」

ハテナマーク大量発生中のつぐみの頭を優しく撫でてやりながら、柳は内心溜息をついた。

(なるほど、薄々気づいてはいたが………彼女には、とんでもないド天然の素質があるな)

一見性格が全くの正反対で傍目からすると合わなそうに思えるあの彩夏とこのつぐみが何故大の親友同士なのか、身をもって理解できた柳だった。

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