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「お前は、どのような男性に興味を持つのか教えてほしい」
「えっ?えええっ!?」

山側合宿所、憩いの場。
そんな柳とつぐみのやりとりを、他の山側立海メンバー四人が茂みに隠れて聞いていた。

「柳………幾ら何でもあからさま過ぎじゃよ」
「これは流石に小日向さんも意識してしまうのではないでしょうか」
「いーんじゃないスかむしろ?あいつだってどう考えたって柳先輩に惚れてるし、お互いの気持ちが解ってめでたしめでたしじゃないっスか」
「早合点は良くないぞ、赤也。こういう時こそ慎重にことを進めないといかん」

ニヤニヤする赤也を睨んでたしなめる真田。

「そ、そうですね……………知的な人、かな?」
「ふむ、他には」
「え、ええっとー……………テニスの上手い人、とか…………………」
「テニスが?それは珍しいな」
「えっと、そ、それは、その」

「ほらほら、明らかにキョドってるし!これはもう確定っスよ!」
「解らんぞ。この合宿メンバーに限っても知的と言って差し支えない者は蓮二の他にもいるからな」

「他にはないのか?身体的特徴などでも構わないぞ」
「あー、えっと…見た目のことですね?」
「そうだ」
「その………直毛でサラサラな髪の毛の人って、素敵って言うか、憧れるって言うか………」
「そういえば前に、同じ事を言っていたな」
「え?そ、そうでしたっけ!?」
「ああ。それから、他には」
「あ、あの、その………目が細めな人は涼しげな目つきで格好良いかなーって………」

「直毛サラ髪で細目!こりゃもう柳先輩そのものじゃないっスか!」
「待て!不二のことを指しているのかもしれんぞ!」
「条件だけ見れば、確かにそうですね…」
「もう一押し欲しいのう」

「他には何かないのか?どんな要素でもいいが」
「え、えっと、和風な人とか」
「他には」
「そ、そのー、苗字と名前に植物の名前が入ってるとか!」

「ハイ不二外れたー!柳先輩ケッテーイ!!」
「早まるな赤也!橘桔平という手もあるぞ!!」
「あーもう!真田副部長はどうしてそんなに否定したがるんスか!!」

興奮のあまり目が真っ赤に充血した赤也が、勢い良く立ち上がって叫ぶ。

「小日向が好きなのは!絶対に!柳先輩で間違いないですってば!!」
「こっ、こら赤也!!」
「切原くん!!」

真田と柳生が制止しようとしたが、時既に遅し。

「む?」
「えっ?」

柳とつぐみが、茂みから頭を出した赤也の方に振り返っていた。

「………ピヨッ」

気まずげに鳴き声(?)を漏らす仁王。

「赤也、お前…いや、お前達、か。いつからそこに」
「こ、これはだな、その」
「我々は別に悪気があった訳ではなくてですね」
「って言うかむしろ二人のことを心配してっつーか」
「ピヨピヨ」

しどろもどろ弁明する四人を前に、柳は眉間に皺を寄せる。

「それに赤也、お前がさっき言っていたことは」
「あー!あれはっスねー、そのー!!」
「………う、ううっ………………」
「…小日向?」

四人を詰問にかけようとする柳だったが、つぐみの声に気づいてそちらを見ると、彼女は目から大粒の涙をぼろぼろこぼして泣きじゃくっていた。

「あ、あのだな小日向、俺は」
「うわああぁぁんっ!!」

柳の言葉も聞かず、つぐみは一際大きな泣き声を上げて走り去って行った。

「……………終わった………全てが……………」

その場に力なくパタリと倒れる柳。

「ど、どうすんスか先輩達!!」
「まずは誠意を持って謝りましょう!!」
「うむ、それに尽きるな。よし、皆で小日向を追うぞ!!」
「それはいいが、柳はどうするんじゃ?」
「放っていく訳にはいかないでしょう。仁王君、一緒に連れてきてください!」
「了解ナリ」

そうして真田・赤也・柳生の三人は猛ダッシュでつぐみを追い、それに少し遅れて柳のジャージの首根っこを掴んで引き摺る仁王がついて行った。


・・・・・・・・


管理小屋の前。
騒ぎを聞きつけてやって来た手塚・不二・乾の三人が、只ならぬ様子の立海勢を観察していた。

「まず状況を整理しよう」
「そうだね。最初に小日向さんが泣きながら管理小屋に駆け込んで行くのが見えたんだけど」
「うむ。それから真田・切原・柳生が慌てた様子でやって来て、それから少しして仁王が蓮二を引き摺って来た」
「この状況から導き出せる真相は、つまり」
「立海の皆で小日向さんを力ずくで手篭めにしようとしたけど、一瞬の隙を突いて彼女が逃げ出したので、発覚を恐れて口封じをする為に急いで追って来た、と」
「強豪スポーツ校のエリート達が、堕ちたものだな」
「哀れだね」
「「「違ぁーうっっ!!!」」」

息ピッタリに突っ込みを入れる真田・赤也・柳生の三人。仁王はその横で溜息をついている。

「確かに、今の不二の説明には蓮二がこうなっている理由が含まれていない」
「む、それもそうか」
「そういえば柳は小日向さんと仲が良いみたいだったね」
「ということは、つまり」
「わざと柳の前で小日向さんを犯して、それを見た柳が精神崩壊してしまった、と」
「エロゲの世界だな」
「「「んな訳あるかーっっ!!!」」」

必死の突っ込みを続ける三人。仁王はその横で面倒臭そうに「柳生、おんし紳士語が崩れとるぜよ」とぼやいている。

「確かに、立海の面々が蓮二に何故そのような仕打ちをしたのかは不可解だな」
「性癖じゃないのかな。エロゲでも寝取られモノばっかりプレイしてるとかレイプじゃないと抜けないとか言う人結構いるみたいだし」
「性癖か。それならもうどうしようもないな」
「そうだな」
「「「だーかーらー!!!」」」

三人の怒鳴り声が虚しく山に響き渡る。仁王はその横で遠い目をして空を眺めていた。


・・・・・・・・


「君達がチームメイトの恋愛事に興味を持つ気持ちも応援したいと思う気持ちもよく解る。けれど、幾らなんでも四人全員で張り込み続けるなんてないだろう。それじゃあタチの悪いパパラッチと同じだよ」

夜の山側合宿所・食堂。
青学の三人によって呼び出された幸村が、真田・赤也・柳生・仁王の四人に説教をしていた。
ちなみに柳はブン太とジャッカルによってロッジのベッドへと運ばれていった。

「面目ない………」
「返す言葉もございません………」
「同じくぜよ」
「へーい………」

しゅんとしてうなだれる四人。

「よし、解ったなら四人全員で小日向さんに謝っておいで。蓮二には俺の方から話しておくから」
「そうだな。ならば明日の朝一番で…」
「明日の朝?何甘いことを言っているんだ弦一郎」

真田の言葉に、幸村が醸し出す特有の威圧感が五倍増しになる。

「彼女は今もなお悲しみに打ちひしがれて寂しい時間を過ごし続けているというのに、君達は朝までのうのうと寝ていようと言うのかい?」
「まさか、今から行けというのか?しかし…」
「こんな夜遅くにレディの部屋に入っていくのは、紳士として…」
「マズいのう」
「ていうかその方が問題っスよ」
「そうだね。だから君達が管理小屋に入っていくのではなくて、彼女が出てくるのを待つんだ」

それを聞いて、四人は顔を見合わせる。

「…出てきますかね?」
「彼女はミーティングに無断で欠席し、夕食もとっていない状態だ。皆の様子が気にかかっていたり、何か食べようとして自分から出てくる可能性は大いにある。そこで、すかさず頭を下げるんだ」
「てコトは、管理小屋の前で待つんスか?」
「そう」
「いつまで経っても出てこない場合はどうするんじゃ?」
「出てくるまで待つに決まっているだろう?」

赤也・仁王・柳生の三人は縋るように視線を真田に向ける。

「…解った。ゆくぞ、皆」

しかし三人の思い虚しく、潔く覚悟を決めた真田は率先して管理小屋の方へと足を向けたのだった。


・・・・・・・・


午後11時を回った頃。
泣き疲れてベッドで眠っていたつぐみが目を覚ました。

「…もう、こんな時間……。彩夏、どうしたのかな………。それに、ミーティングも夕食もすっぽかしちゃったし…。どうしよう……みんな、もう寝ちゃってるよね……柳さん、も………」

何て謝ったらいいんだろうと考えつつ、外の様子を窺う為に寝室を出て小屋の入り口のドアノブに手を掛けたその時、外から声が聞こえてきた。

「あ―――も―――!!いつになったら出てくるんだよー!!」
「静かにしたまえ切原くん。就寝している皆に迷惑です」
「俺だって眠いんスけど………何かしばらくは出てこなさそーだし、それまでここで寝てていっスかね?で、小日向が出てきたら起こしてくださいよ」
「それいいのう。柳生、俺も頼んだぜよ」
「それが心から謝罪をする者の態度か!赤也、仁王、たるんどる!!」
「うおっ!」
「いってー!!」

鉄拳を食らったらしい約二名の呻き声にさーっと血の気が引いたつぐみは、恐れをなして寝室へと駆け戻った。

(な、何で立海の人達がいるの!?それに私のことを待っていたっぽい…?でも、あの雰囲気じゃ出て行きづらいんだけど…どうしよう……)

つぐみがひとり動揺していると、窓の方からコンコン、とノックのような音が鳴った。

「ひっ!なっ、なに!?」
「小日向、俺だ、柳だ」
「…柳さん!?」

聞こえた声と名前に、閉め切っていたカーテンを急いで開けると、窓の外に柳が佇んでいた。寝間着だろうか、いつものユニフォームではなくラフなTシャツ姿になっている。

「柳さん、私、あの、その…というか、どうしてこんな所から…?」
「精市から言われてな。他の者は管理小屋の入り口の方にひきつけておくから、君は裏から接触を計れと」
「精市って、海側の幸村さんですか?あっ、それに彩夏は…」
「辻本なら海側に数部屋空いているロッジがあるから、今晩はそこで過ごすそうだ。心配するな、とお前に伝えてくれと言われている」
「そうなんですか…彩夏に悪いことしちゃったな……それに、あの、立海の皆さん、いやそれだけじゃなくて他の皆さんは…」
「まず、落ち着ける場所に移動しないか?話はそれからしよう」



管理小屋の裏手に広がる雑木林を少し進むと、若干開けた場所に出た。
柳は草むらに腰を下ろすようつぐみを促すと、ロッジから持ち出したランタンを地面に置き、それと一緒に持ってきていた包みを広げて彼女に差し出した。
包みに入っていたのは弁当箱とお茶の入ったマグボトル。弁当の中身はおにぎりと、見た目が綺麗だとはちょっと言いづらい出来栄えの野菜炒めだった。

「これ…ひょっとして彩夏が作ってくれたんですか?」
「精市が手配してくれたものだから、恐らくそうだろう。それにしてもよく解ったな。流石は親友同士といったところか」
「ええ、まあ、あはは………」

苦笑いを浮かべつつ、おにぎりを食べ始めるつぐみ。
柳もその隣に座り、木々の合間から覗く星空を見上げる。

「…………………………………………」
「…………………………………………」

しばし無言の時間が流れたが、それを終わらせたのは柳の方だった。

「今日の昼間、お前が泣き出したのは、お前の意中の男性が俺ではないのにも関わらず、俺のことが好きなのだと赤也からあたかも真実の様に決めつけられてしまい、しかもそれを皆の前で豪語されてしまったから、だろう?」
「…あっ、あの、それは………」
「赤也にはきつく言っておくし、他の皆の誤解も俺が解いておこう。それで許してはくれないか?赤也達も悪気があった訳ではないんだ。ただ、勘違いをしていただけで」
「………違います!」
「…何?」

つぐみの返答に、柳はハッとして彼女の方に視線を移すと、彼女は崩した正座の膝の上に手を置いて俯いていた。

「切原くんの言ったことは、間違ってなんかいません………」
「………………」
「でも柳さんはあくまで仲間としてデータを集めているみたいだったから、私に好きだって言われたら迷惑かなって思って、それで………」
「………………」
「ですから、その…こんなこと言える立場じゃないですけど、切原くん達のこと、あまり怒らないであげて――きゃっ!?」

柳から急に抱き寄せられたことで、つぐみの言葉が止まる。

「あ、あの…柳さん?」
「迷惑だと思うなら、こんなことはしない」
「………あ……………」

柳の言葉を理解して、つぐみの頬が紅潮する。

「ならば、赤也の言ったことを皆に訂正して回る必要はない。そうだな?」
「……はい…………」

柳の胸の中で、つぐみの頭が小さく頷く。

「なるほど、承知した。以上で俺の話は済んだのだが」
「あ、はい…。色々とご心配おかけして申し訳―――あ、あの、柳さん…?」

名残惜し気な顔で柳から離れようとしたつぐみだったが、自分を抱きしめている腕の力が全く緩まらない為、動こうにも動けない。

「もうしばらく、こうしていてもいいだろうか」
「……はい。柳さんの好きなだけ、どうぞ」
「…ありがとう」


・・・・・・・・


翌日の早朝。
日中の作業による疲れもあって結局眠りに落ちてしまった真田(それでも四人の中では最後だったが)は、人の気配を察知して目を醒ました。

「お早う、弦一郎」
「お早うございます、真田さん」

するとそこには、柳とつぐみが二人揃って、平常と変わらぬ元気な様子で立っていた。

「小日向!それに蓮二も………おい皆、起きろ!起きんか!」

真田は眠りこけている他の三人を慌てて叩き起こす。

「昨日は急に泣いて逃げ出したりして、ごめんなさい」
「俺も、呆然自失で倒れたりしてすまなかった」
「む?いやそれは仕方ない…と言うかだな、お前達が悪いことでは………」

謝る対象だった柳とつぐみに先に頭を下げられてしまい、どうしていいか解らない四人。

「今日のお前達のスケジュールは夜のミーティングまで各自ロッジで謹慎。手塚と精市からそう伝えてくれとのことだ。ゆっくり休むといい」
「その前に、お腹空いたでしょう?今用意しますから、皆さん食堂で待っててください」
「つぐみ、俺も手伝おう。お前達はまず顔を洗ってくるなりしてくるといい」
「ありがとうございます、蓮二さん」

柔らかな笑みを交し合って炊事場へと向かう柳とつぐみの姿を、しばしじーっと見つめる四人。

「あの二人、すっかり仲直りして、更にそれ以上の進展を遂げておられるようで、誠に喜ばしい限りですが…」
「しかし小日向が管理小屋から出てきたり蓮二がこちらに来ていたりしたなら、俺が気づかぬ筈はない。あの二人に、一体何があったというのだ?」
「………もしかしたら、幸村の奴に一杯食わされたのかもしれんのう」
「え?それって俺達、幸村部長に騙されてたって訳っスか!?ひっでーや!!」

「まだ反省が足りないような声が聞こえてきたんだけど、気のせいかな」

そこに丁度、海側の合宿所から幸村が彩夏を伴ってやってきた。

「気のせいでしょう」
「皆、頭のてっぺんから足のつま先まで反省完了ぜよ」

それを見て、すばやく柳生が赤也の口を手でバッと塞ぎ、仁王がぐっと赤也の頭を押さえて問題児後輩の動きを封じ込めた。

「そうか。それならいいんだけど」
「ああ。では精市、俺達は一旦ロッジに戻るからな」

そう言うと、真田はダブルスコンビから引き渡された問題児を連れて、幸村に背を向けて歩き出す。
柳生と仁王もそれぞれのロッジへと向かって行った。

「やれやれ…。君にも迷惑かけて、すまなかったね」

申し訳なさそうな笑みで、幸村は彩夏に軽く頭を下げる。

「いいんですよ全っ然!皆さんこういう部屋で寝泊りしてるんだーって体験出来て楽しかったですし!」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「それに〜………」

彩夏の視線が炊事場の方を向く。そして隣に並んで仲良く野菜の皮むきをしている柳とつぐみの姿を捉えると、その目がキラーンと光った。ような気がした。

「昨日の夜何があったのか、つぐみに絶対聞かせてもらんですから!あーっ、楽しみぃー!!」
「駄目とまでは言わないけど、まあ、ほどほどにね」

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