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あの無人島生活でつぐみが柳と、そして彩夏が幸村と結ばれてから、二人の彼女は一緒に立海テニス部に差し入れを持って度々顔を出すようになった。
そこで幸村は考えた。折角二人揃って来てくれているのだから、自分にとっても蓮二にとってももっと有意義な時間に出来ないものかと。

それから一週間後。今日も今日とてやって来た二人の彼女を笑顔で迎える幸村。

「今日も皆さん頑張ってますね」
「見てるだけでこっちも頑張らなきゃって感じになっちゃいます!精市さん、何か私達もお手伝い出来ることありませんか!?」
「あの合宿の時とは違うんだから、君達はこうやって傍で俺達のことを応援してくれるだけで十分だよ」
「もー精市さんったら水臭いこと言わないでくださいよー!ねっ、つぐみ!」
「うん。私も、少しでも皆さんの力になりたいです」
「そうか。じゃあそこまで言うのならお願いしようかな。ちょっとした荷物運びとか、あとこれから皆で走り込みに行く予定だから、戻ってきた時の為にタオルとドリンクの準備をしてほしいんだ」

そして、走り込みから戻ってきたテニス部の面々が目にしたものは。

「お疲れ様でーす!はい、これ飲んでちゃんと水分補給してくださいねー!」
「皆さん汗だくですね。タオルもどうぞ」

俗にエプロンドレスなどと呼ばれる、ふりっふりの純白エプロンを制服の上につけた二人の女子だった。

「なっ………お前達、その格好は何だ!」
「何って、精市さんが用意してくれたんですけど」
「お手伝いする時に制服が汚れたりすると悪いから、と貸していただいたんです」

唖然とする真田だったが、その他のメンバーには軒並み好評。

「なかなか可愛いじゃねえかぃ」
「可憐ですねえ」
「幸村も思い切ったことをやるのう」
「華があっていいよな、こういうのって」
「いいじゃんいいじゃん!幸村部長、流石っス!」

「ふふ、俺の目に狂いはなかったね。似合ってるよ、彩夏」
「やだもう精市さんったら!そんな直球で言われたら照れちゃいますって!」

人前で堂々とハグしてリア充ぶりを見せつける幸村彩夏組。
しかし一方の柳つぐみペアの雰囲気は、それとは対照的だった。

「…………………………」
「あ、あの、蓮二さん……やっぱり、変、ですか?」

受け取ったドリンクを飲むことすらせず、無言かつ無表情でつぐみを見つめ続ける柳。

「ほらみろ精市、蓮二も呆れているぞ」
「…いや、違うようじゃな」
「何っ?」
「今の柳君は、美術館で展示作品に見入っているのと同じ状態だとお見受けしました」
「…そこまでのめり込んでおるとは………」
「蓮二、感動したのは解るけど、君が何も言わないものだから小日向さんが困っているよ?」

幸村の言葉に、柳は顎に手を当てて、ふむ、と小さく頷く。

「…いい。実に、いい。すまないが、今はこれしか言葉が出てこない」
「いいんです、蓮二さんに気に入ってもらえたなら………」

(友人相手にこんな表現を使いたくはないのだが、正直、割れ鍋に綴じ蓋という言葉が頭から離れん………)

いつの間にやらラブラブオーラ全開状態になっていた柳とつぐみを複雑な気分で眺めつつ、真田は内心ひとりごちたのであった。


・・・・・・


次の日の立海テニス部・部室。

「精市、昨日家に帰ってからあのエプロンの魅力について一時間程度解析を試みたのだが」
「蓮二、お前そんなことに一時間も費やしたのか………」
「へえ、それで結果は?」
「あのふりふりには男心を惑わす何かがある、ということしか解らなかった」
「それはさあ蓮二、思考材料が少な過ぎるからじゃないかな。昨日の小日向さんのことばかり考えていたんだろう?」
「ああ」
「ならば今度は、全身一式揃えてみるとかどう?」

そう言って幸村が鞄から取り出したのは『萌えキャラコスプレ衣装カタログ』という本。
付箋の付いたページを捲ると、様々な美少女アニメのメイドキャラのコスチュームが載っていた。

「ふむ、この頭の飾りはなかなかにそそるな」
「いいよねえ、これ。ヘッドドレスって言うんだって」

「あー………あのよ、真田が『どこからツッコんでいいか解らん』って顔してるんだけどよ………」

腕を胸の前で組んで苦悩に満ちた表情で椅子に座り込んでいる真田を気遣うジャッカルの発言は、幸村と柳の耳には届かない。

「どうかな、蓮二。気に入ってくれたなら今度二人が来てくれる時の為に準備しておくけど」
「うむ……悪くはない、が、しかし………」
「しかし、何だい?」
「正直なところ、つぐみにはもっと清楚でクラシカルなデザインのものの方が合っていると思う」
「えー、そう?俺の彩夏にはこういうのがピッタリなんだけどな」

そのやり取りを聞いた柳生が、眼鏡をキラーンと光らせて鞄から本を取り出した。

「でしたらば柳くん、こういうのは如何ですか?」

柳生が柳に手渡した本、そのタイトルは『コスプレ衣装全集〜麗しのメイド編〜』。

「これは、世に無数にあるコスプレ衣装の中からメイド服をフィーチャーした特集本です。これならば、柳君の好みに合致する衣装も必ず見つかるはずです!」
「ふむ、そうだな…落ち着いた色合いに裾の長いスカート、彼女にはこういった服を着せてやりたいものだ」
「でしょうでしょう、質素なメイド服こそ至高ですよ!」

得意げに眼鏡をクイックイッさせる柳生と、「こっちの衣装の方が絶対可愛いと思うんだけどなー」と少しむくれ気味の幸村の二人を、仁王は「ハッ」とまとめて鼻で笑う。

「二人とも、まだまだ青いのう」
「いきなり横から何ですか、仁王君」
「どういう意味だい?仁王」
「柳が真に追い求める萌え………そいつはこれじゃあっ!」

知らない間に幸村の手から抜き取っていた『萌えキャラコスプレ衣装カタログ』の違うページを見開き状態にして、柳の眼前に勢い良く突きつける仁王。

「…なっ!こ、これは………!」

柳が目を見開いて驚愕する。
気になった幸村と柳生が後ろからそのページを覗き込むと、そこには着物の上にエプロンドレスを重ねた、明治・大正期の女給仕を彷彿とさせる衣装が載っていた。

「あー、こういうのるろ剣とかで見たことあるぜぃ」
「柳先輩ってホント和モノが好きなんスねー」

脇から暢気にコメントするブン太と赤也。

「着物ならこちらで手配出来る。精市、お前にはこのヘッドドレスをお願いできないだろうか」
「解ったよ蓮二。ふふ、任せといて」



「あー………何だ、その…今日は本当に良い天気だな。絶好の練習日和だな、うん。こういう時は無心になって練習に打ち込もうぜ、な?」

皆に背を向けて部室の窓からただただ青空を眺め続ける真田に優しい言葉をかけたのは、ジャッカルだけであった。

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