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あの夏の無人島合宿で柳とつぐみが出会ってから、秋、冬と更に季節を二つ越え、そして春。 「蓮二さん、中等部ご卒業おめでとうございます」 保温ボトルに淹れてきたお茶を飲んで一息ついてから、つぐみは若干もじもじしながら口を開く。 「あの…気の早い話なんですけど……」 真剣なつぐみの瞳を、優しく見つめ返す柳。 「そうすれば、お前と毎日会えるようになるな」 手元の保温ボトル用カップに視線を落とすつぐみ。その頬は赤く染まっている。 「何だ?」 返答が返ってこないことに、これは呆れられたのだろうと感じたつぐみが慌てて謝る。 「…ご、ごめんなさい。いくら何でも気が早過ぎますよね…。それに蓮二さんだって、ご家族の作ってくれた弁当とか学食とかの方が―――」 ようやく返ってきたイエスでもノーでもない回答に、きょとんとするつぐみ。 「それは困ります…。これから入試までみっちり勉強しないと落ちちゃいますよ……」 上目遣いで遠慮がちに、つぐみは柳の顔色を窺う。 「余裕がある時だけでいいですから、勉強教えてもらえませんか?」 柳の視線が、つぐみの膝の上に置かれた弁当へと落ちる。 「良ければ煮物の人参を貰えないだろうか?自分の分はもう食べ終えてしまったのでな」 自分の弁当箱を差し出してくるつぐみに、柳は首を横に振って応える。 「恋人相手なら、もっと相応しい受け渡し方があるだろう?」 その時の出来事を思い出し、つぐみの頬がほのかに染まる。 「理解出来たようだな。では、早速頼む」 箸先で挟んで差し出された角切りの人参を、柳は静かに口に含んで味わった後、「うむ、美味い」と一言感想を漏らした。 「こちらからも何かお返しをせねばな。よし、お前にはこの卵焼きをやろう」 晴天の下で微笑ましいやり取りを交わす少年少女を暖かく包み込むかのように、柔らかな春風が色づき始めたばかりの桜の枝葉を優しく揺らしていた。 |
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