+
+
「わぁっ、こんなにたくさん!どうしたんですかこれ!?」 管理小屋の前。 「さっき青学のみんなで採ってきたんだ。かなり大量に採れたから海側の方にもお裾分けしようかと思ってね」 河村の後についてきた乾が、河村の言葉に続いて依頼を持ちかける。 「あっ、はい。このうちの半分位でいいんでしょうか?」 ガタイも良く筋肉自慢の河村ならともかく、一介の文化系女子に過ぎないつぐみにはどう考えても無理難題でしかない。 「あー…えーと…」 あまりの無茶振りに絶望するつぐみの肩に、後ろからそっと手が置かれる。 「小日向一人では無理な確率100%だ。こんなこと、考えるまでもあるまいに」 つぐみが振り返ると、すぐ横に柳の姿があった。小脇にはノートのような冊子を抱えている。 「あっ、柳さん」 眼鏡の蔓を指の先で軽く押し上げ、らしくもない言葉を口にする乾。 「それは立海の部誌だな?それを持ってここを通りかかるということは、これから幸村の元にそれを持って行く確率100%。ちょうどよかった、お前―――」 乾の台詞を先読みしてから、柳は呆れ加減に溜息をついた。 「あの、すみません…。私が頼まれたことなのに…」 海側合宿所の食堂に向けて、並んで歩く柳とつぐみ。 「柳さんは優しいですね」 はにかんだ笑顔でこちらを褒めてくるつぐみに、柳は立海が誇るかの紳士の口癖を引用し、照れを隠した言葉で応える。 「でも仁王さんや切原くんだったら多分逃げてますよ」 顔に冷や汗を滲ませて焦るつぐみに、フッ、と落ち着いた笑みを返す柳。 「論理的思考で至った結論を客観的に述べただけだ。お前を責めた訳ではないのだから、うろたえる必要はないぞ」 控えめに見ても異性に向けての好意が溢れまくった賛辞を一身に受けた柳に今出来ることは、短い言葉で答えることと、こちらの行動を予測してこの場をセッティングしてくれたのであろう幼馴染に何と礼を言おうか模索することで、高揚し過ぎる気分を静めようとすることだけだった。 「………ああ、ところで帰りのことだが」 |
+
+