+
+

「わぁっ、こんなにたくさん!どうしたんですかこれ!?」

管理小屋の前。
河村が運んできた段ボール箱に山盛りの果物を前に、つぐみは感嘆の声を上げた。

「さっき青学のみんなで採ってきたんだ。かなり大量に採れたから海側の方にもお裾分けしようかと思ってね」
「それでなんだが、小日向さん、君にこれを海側に持って行ってもらえないだろうか」

河村の後についてきた乾が、河村の言葉に続いて依頼を持ちかける。

「あっ、はい。このうちの半分位でいいんでしょうか?」
「いや、これ丸々全部だ」
「…えっ?」
「山側の分は、もう炊事場の方に運んであるからね」
「ええっ!?これを私一人でですか!?」

ガタイも良く筋肉自慢の河村ならともかく、一介の文化系女子に過ぎないつぐみにはどう考えても無理難題でしかない。
青学の二人も勿論それは理解しているらしく、河村は気まずそうに顔を逸らして隣にいる乾に視線を向け、如何にも弱ったという感じの声を漏らした。

「あー…えーと…」
「本当ならば俺達が運ぶべきなんだろうが、時間がおしていてね。すぐ次の作業に移らないといけないんだ。だから、君に頼むしかないという訳だ」
「そ、そんな………」

あまりの無茶振りに絶望するつぐみの肩に、後ろからそっと手が置かれる。

「小日向一人では無理な確率100%だ。こんなこと、考えるまでもあるまいに」

つぐみが振り返ると、すぐ横に柳の姿があった。小脇にはノートのような冊子を抱えている。

「あっ、柳さん」
「おお、蓮二か。『偶然』だな」
「……………………」

眼鏡の蔓を指の先で軽く押し上げ、らしくもない言葉を口にする乾。
対する柳は、そんな彼を無表情に見つめている。

「それは立海の部誌だな?それを持ってここを通りかかるということは、これから幸村の元にそれを持って行く確率100%。ちょうどよかった、お前―――」
「『ついでだからこの箱も持っていけ』と、お前は言う」

乾の台詞を先読みしてから、柳は呆れ加減に溜息をついた。



「あの、すみません…。私が頼まれたことなのに…」
「気にするな。これもトレーニングの一環だと思えばどうということはない」

海側合宿所の食堂に向けて、並んで歩く柳とつぐみ。
果物の箱を抱える柳に代わって、つぐみが部誌を胸元に抱きしめて持っている。

「柳さんは優しいですね」
「…当然のことをしたまでだ。ああいう場面に出くわした場合、大抵の男はかなり高い確率で俺と同じ選択をする傾向にある」

はにかんだ笑顔でこちらを褒めてくるつぐみに、柳は立海が誇るかの紳士の口癖を引用し、照れを隠した言葉で応える。

「でも仁王さんや切原くんだったら多分逃げてますよ」
「その二人なら、80%以上の確率でそうするだろうな。だが弦一郎や柳生ならば………いや、弦一郎の場合、『自分達でやるべきことを身勝手な理由で他人におしつけるとは、たるんどる!』と怒鳴りだして一悶着起きる確率が非常に高いか」
「柳生さんも柳生さんで『こんなに重たい荷物をレディに持たせるとは、紳士の風上にも置けません!』とか言って説教が始まりそうな気がします」
「つまり、一番文句を言わない大人しい人物が標的になった、ということか」
「………あっ、あの!やっぱりその箱私が持ちますよ!」

顔に冷や汗を滲ませて焦るつぐみに、フッ、と落ち着いた笑みを返す柳。

「論理的思考で至った結論を客観的に述べただけだ。お前を責めた訳ではないのだから、うろたえる必要はないぞ」
「…そうやっていつも気を遣ってくれて、やっぱり柳さんは優しいですね。私、優しい人って素敵だと思います」
「………そうか」

控えめに見ても異性に向けての好意が溢れまくった賛辞を一身に受けた柳に今出来ることは、短い言葉で答えることと、こちらの行動を予測してこの場をセッティングしてくれたのであろう幼馴染に何と礼を言おうか模索することで、高揚し過ぎる気分を静めようとすることだけだった。



「………ああ、ところで帰りのことだが」
「え?何かあるんですか?」
「荷物がなくなるからな、その代わりにお前を抱えていこうと思う」
「えっ、ええええっ!?」

+
+

戻る

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル