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「え?嘘?エイプリルフール??」

四月一日の夜、水度坂家屋敷の勘久郎の自室。
先程までルンルン気分で帰りがけに買ってきたアヒルのおもちゃの包みを開けていた勘久郎のにやけ顔が、気の抜けた真顔へと変わった。
彼の前には畳に額、というか目元をすっぽり覆い隠す前髪を擦り付けて土下座する寧々の姿。

「勘久郎様への無礼を承知の上で憲剛様に協力致しましたこと、もはや謝罪の言葉もございません」
「あ〜…そういや今日四月一日だったんスね〜………」

勘久郎の言葉からは、遠足当日の朝に雨天中止を告げられた小学生の如く深い落胆の色が滲み出ている。
敬愛する主にそのような思いをさせてしまったこと、そしてそれが自分の主への裏切りと言える行いから生じたものだという罪悪感から、忠実な臣下である寧々は頭を上げることが出来ず、ただ顔を伏せ続ける。

「………寧々ちゃん、顔を上げて」

だがそこは水度坂勘久郎、寛大であった。
流石御前試合でろくろに『俺が勝ったら水度坂家全員傘下になれ』などとふっかけられても、憤慨するそぶりすら見せず大人の対応をしただけのことはある。
恐る恐る寧々が頭を上げると、そこには優しく微笑む慈悲深い勘久郎の姿
……………………………………………は、なかった。

「………ぅあっ!?」

急にあごを掴まれて呻く寧々。
眼前には超至近距離で勘久郎の顔が迫っていた。顔色こそいつもの飄々とした感じであったが、視線には明らかに怒気が含まれている。さらには先程まで着けていたマスクを外していた。

「寧々ちゃんってば、いつから他の男に誑かされて僕を騙すような悪い子になったんスかねぇ〜?」

頭を上げさせたのは許したからではなく、詰問する為だったようだ。

「なぁに?憲ちゃんから金でも貰ったんスか?それともまさか、彼と寝たとかぁあぁ〜?」

体勢だけ見ればいわゆる『首クイ』という萌えシチュだったが、実際の状況はそれとは真逆だった。脅威度SS。
寧々は悟った。
これは、ケガレ喰いを撃つ気だ。この密着した状態でぶちかまし、雛塚寧々という存在を跡形もなく消し去るつもりなのだ、と。

「ひっ……ち、違いますっ………」
「ホントにぃ〜?」
「本当ですっ、信じてください…!」
「じゃあ何で、憲ちゃんに加担するような真似したんスかねぇ〜?」

死への恐怖にガタガタ震える寧々を、なおも冷酷に糾弾する勘久郎。

「わっ…私はただ………」
「ただぁ〜?」
「…勘久郎様の……これまで、見たことのない…可愛らしい表情を、見て、みたかった…だけ、で………」
「………………………」

白状というよりもはや懺悔と化した寧々の言葉に、勘久郎の追及がピタリと止まる。

「あぁ、困ったスね〜………本当はもっとみっちりお仕置きする気でいたんスけど、君にそんなこと言われちゃうとね〜……」
「……………え?」

勘久郎の表情が、ふと、和らいだ様な気がする。
寧々がそんな事を思ったのとほぼ同時に、彼女に唇に勘久郎のそれが押し当てられていた。

「……………!!!」
「今日のところはこれで許しといたるっス」

何故か関西弁が混じっていた。

「じゃ、僕、お風呂入ってくるスわ」

そう言って勘久郎は立ち上がると、寧々を連れずに一人で自室を後にした。アヒルのおもちゃも持っていかなかった。
襖が閉まると同時に、寧々の身体は畳へと崩れ落ちた。もう限界だったのだ。なんかもう、恐怖とかときめきとか色々混ざったやつが大量過ぎて。




ちなみにアヒルのおもちゃは後日、どういう意図なのか勘久郎によって水度坂病院の院長室に飾られることとなり、寧々が訪れる度に部屋の主の笑顔と共に彼女に得体の知れない威圧感を与えてくるのであった。

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