part A_b
俯いたまま、利き手で身体を擦り始める弘。
揺れる髪の間から見える頬が赤い。
何を考えてるんだろうか、この人は。
軽く脅しあったのはお互い様だけど、何かさせようってつもりじゃなかったんだけど。
「もっと、こっち来て。見せて」
ん、と曖昧な声が漏れて、弘は俺の膝に乗り上げて、俺に見せるようにして手を動かした。
その内にする事が派手になって来て。触りたいと言うと許可が下りた。
先生は今度こそすっかり浸ってしまっていた。
シャツを捲りあげて腰を抱き寄せると、尻が前後して股間の辺りに当たった。
大仰な動きの間を縫って、シャツの下の胸に手を遣る。
既に自分で腰を擦り寄せていた弘は、腰を捩って、息を洩らしながらそれに応じていた。
「あ、 う…、や…」
「ちょっと膝立てて」
「な、ビデオと同じ事してみない?」
先生にこんな事をさせていいものかとは思ったが。
ビデオの真似をして口に指をを突っ込んだら、思いの他興奮してくれたみたいで。
意外と生真面目な人なんだと思う。再現しないだろ、普通。
「ヤ…っ、何で抜くんだよ…っ!」
「だってもう7時だし」
「あ、」
「嘘だよ、帰らないって」
「…」
「ゆっくりしたいからさぁ。途中で止めると、先生のそれ面白いし」
「入れろよ」
気怠そうな目で一瞥して、弘は目をそらしながら言う。
「先生乗れば」
「ハ?」
「まあ、良いじゃないんすかたまには」
「おい…てめー、覚えてろよ…、」
「息、吐いて」
「ん…そう、痛くない?」
「別に…」
「ちょっときついかな」
「こんなもんだろ。お前は…痛くないか?」
「…入っちゃったね」
「…」
「顔、見せて」
「厭だ…」
「先生、カワイー…」
「…、動かせよ」
「駄目だよ」
「ああ?」
「このカッコ、恥ずかしい?」
「…」
「先生も動いちゃ駄目」
「…、う、」
「ほら…」
「う…、うっ、ん…!」
「腰、動かしちゃ駄目だって。締めるのも駄目だって、先生こういうの弱い?」
「だってお前が首、」
多分、顔だけじゃなくて目も赤くなっているんだろう。鼻を小さく啜る音がした。
「首、弱いんだ?」
首筋を小刻みに噛まれ、弘の身体が強張って痙攣した。
悪戯心に、執拗に抵抗を押さえ付けてみる。
手首を押さえられた弘は、身を捩って鋭い快感から逃れようとする。
不規則に反応する腹筋は魚の様だ。
そんなに強張らせて痛くないのだろうか。
「やめっ、、竜太、」
「だからー、締めちゃ駄目だって」
「あっ、あっ、あ…っ!あ…」
圧迫の間隔が狭くなる。
くぐもった声が、泣き声に近くなる。
感じ入ってしまっている弘は無理に腰を揺さぶり始めた。押さえている為に抜き差しはできず、上下左右に鈍い振動だけが伝わってくる。
宥める様に腰を撫ぜても止めようとしなかった。
パーカーの奥、手の平に感じる胸元が熱い。背は已に汗を帯びてぬめっている。
項垂れた、日に焼けた顔。
そんなに背を丸めたら痛いんじゃないだろうか。
胸にかかる髪をふとかきあげてみた時、目が合った。取りあえず誤摩化しました感の強いキスが来る。
「先生さ、結構照れてる?」
「うるせぇ」
こういう時、はぐらかされるのが何となく癪だった。時々泣かせてやりたい気分になる。
どうせなら取り繕い様のないタイミングで目を合わせてみようかと、ふと思った。
行ってる間、腕を押さえつけて無理矢理目を合わせた。
「ぁ、やっ!ぁあ…っ!」
意図にすぐに気付かれて目を閉じられたが、頬を押さえてそのまま顔を凝視する。
背けようとする顔は、どう見ても先ほどまでより興奮している様だった。
「先生?」
「ん、ンっ、っ、…あ…」
体液が腹に飛んで流れる一部始終を竜太が見届けると、涙ぐんだ目がうっすらと開いた。視線が容赦なくぶつかる。まだ少し荒い息が唇から漏れていた。
無機質な目か、恥ずかしさに動揺した目を想像していた。瞬間怯えた目をされて、怯んだのは竜太の方だった。
弘の恍惚としていた表情も少し曇って、竜太はその首を抱き締めてその場をやり過ごした。しかし回ってきた弘の腕は先ほどと違って、幾分照れ隠しの要素の薄いものになった気がした。
酷く蒸すので扇風機だけでは足りず、開け放した窓から見下ろす、蔦の絡むブロック塀。ニ、三日前のぼつぼつ降る雨に叩かれて、褪めた色合いの紫陽花はやや灰色がかって見えた。
蝉の一、二匹鳴いていた声が途絶え、まだ夕方だというのに妙に空は暗かった。
一雨きそうだな、と帰宅を促されて。
水道水と同じ温度になった各々の分のサイダーを飲み干した。