『人間は限界までくすぐったらどうなるか』
試してみろチャンスだと言わんばかりに、居眠りしている不敵な教師を前にして。
5分休み中の馬鹿話が後をひいただけの話だった。


「くすぐれっ。今だやれ!」
純が号令をかけるのとほぼ同時である。一斉にくすぐられて息が詰まる。
「うっ!」
「ひるむなやれ!」
「うぐっ、があぁっ!」
「いってっ!テメちゃんと押さえろよ!」
「、がはっ、ぎゃっはっはっ!!あは、あははははっ!っは!はあ、ううっ、くーっ!、、ギっ!ヴっ、ッ、ギブッ!」
「何だよ先生ー、意外と弱いな」
1対4でここまでくると拷問である。
真剣な目だった生徒達も、ギブのサインどころか発音すらままならない弘にいつしか笑いを堪えきれなくなる。
「実験だな。くすぐり続けるとどうなるか」
「いいね」
「んっ!ぐううーっ!くっくっ、へははは!」
「でも大丈夫かよ、失禁とかされてもよ」
「いいから手がつるまでやれ!」
「笑い死にって水死位苦しいって言うよな」
「それギャグじゃねえの?」
「うっ、うっ、ふぇへへ、くっくっ、う、」
「よし、大人しくなって来た」
「笑いに勢いがねえな」
「…どっかのサイトでみたな。くすぐりすぎるとラリって戻ってこないとか」
「それ壊れるって事だよな」
「…普通にヨダレでてるぞ」
「う、…」
口は半開き。軽く頬を二、三度はたかれても反応が薄い。
いわば泥酔者のそれである。
息は途切れ途切れ。吸っているのは解るが、吐いていない。
開いてしまった涙腺を気にする様子も無い。
「センセイ?」
「う、んっ!」
動揺からくすぐる手のスピードが落ちると、びくりと反応が返った。
強く目を閉じて唇を噛んでいるので、先ほどの放心状態からは回復したらしい。
とりあえず緩いスピードを継続してくすぐってみる。
これは「実験」であるから、今さら退くに退けない。
オチがつくまでは容赦は許されない。それが暗黙の了解である。
弘は腰と脇の手から逃れようと、跳ねる様に身をよじった。
顔が先に増して赤い。笑いが収まって、代りに現れたのは苦痛の表情。涙やら唾やらが流れているので無闇に生々しい。
「んんっ、うあっ、あ、」
「先生?」
「ああっ!やあっ、んっ、あ、やぁ、、っ!」
泣きながら痙攣し始めたので、思わず手がばらばらと離れた。8本の手で蹂躙されたのは流石に応えたらしく、弘はヘッドホンを首に巻き付けたまま丸まって泣いている。その姿にようやく良心が痛みを訴え、異様なテンションが下がって行く。
首が絞まるといけないと、純がコードを解こうとしたので竜太が再度体重をかける。弘の抵抗は思った通りだったが、それは首に触るとより強いものになった。
まだショックから立ち直れないのか、目を閉じたままで腕を突っ張るのを、真吾が何とか横にして押さえこんだ。やり過ぎた感があるので、それでも幾分丁寧である。
「ごめん先生、首締まっちゃうから」
「や、…う、う…ゥっ」
コードをゆっくり回しながら抜き取って行くと、びくり、と首をすくめた。背を丸めるように痙攣が何回か続く。引き抜かれるコードまでが刺激になっているのかもしれない。指が触れると、やはり同じ反応。もうくすぐってはいないのだが、くすぐり過ぎて感覚が過敏になってしまったらしい。
皆が首筋に集中しているので、さっきまで腰に乗っていた竜太は弘の下半身の変化に気がつかないふりをした。


余程応えたようで、しばらく大の字に寝たまま弘は物も言わなかった。

その後5分位して、ようやく顔面を覆っていた手の甲が降りた。
苦虫を噛み潰すのを通り越し、何とも忌々しげな表情で体を起こす。
思わず左右に退いた悪ガキの間を通り抜け、
先生は一瞥もくれずに屋上から出て行った。
勿論その後で呼び出しを食らったのは言うまでも無い。

俺はと言えば、たいして反省もせずにまたこの屋上の欄干にいる。
柵に乗り出し、上履きのスニーカー越しの金属の柵の感触を弄ぶ。
きつい日差しと冷たい風とを受けながら、高く霞んだ空を眺めて。
左の胸から鳩尾にかけて感じた、絞るような痛みを宥めたり、すかしたりしながら。
自分の立つ瀬の無さを思って、ぬるまったサイダーを飲み干した。

結局今回は本人にゲンコツを食らっただけで済んだ。
担任に言いつけなかったのは、俺達の前で泣いたことを
言いふらされるとでも思ったからかもしれない。
心配しなくてもそんなこと言いやしない。
とてもじゃないが口外できないような反応をした癖に。
今度やったらPTAに言いつけるぞなんて、良く言ったものだ。



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