ことば



なんでこんなことになったのか、わからない。
気が付いたら彼に愛撫されている自分がいる。
いつもならこんなこと、ない。
けれど彼の腕や、声、目、そう表情すべてに、私は従順になってしまう。
だから簡単に、ベッドにも押し倒されてしまう。
押し付けられた腕が、なぜか心地いい。
「俺は君が好きなんだよ」と彼の声は言ってくれるけど、本当とは思えない。
私は彼にそんなこと、いえない。
彼よりも私のほうが相手を好きに決まってる、
けれどそれを言葉に出すとなんだかうまくいかない気がしてしまう。
ただ、短く「うそ」とだけ、言った。
彼は「うそ」と言われて、少しだけ意地悪く微笑んだ。


ベビードールの上から身体を触られる。
彼の手は大きくて平たくて、私の身体を全部包み込んでしまいそうだ。
気持ちいいのだけれど、それを口に出すのが憚られる。
「どうしたの、太ももすり合わせて」
彼に言われてから気づいた。
声に出さないようには気をつけていたけれど、身体はそうもいかなかったのか。
媚態を見られたくなくて、彼から目を背ける。
彼は私の表情を少し見て、それから突然に私の足を無理やり開いた。
「俺、まだ撫でただけなんだけど?」
少し喜んでいるように聞こえて、「なんで?」この声はいたずらのときの声だ。
私は、何も答えないでいた。口を硬く閉じて。目をそらしたまま。
「ゆかりは強情だね」
彼は言い放ち、足を左手で開いたまま、ベビードールの中に右手を入れてきた。
胸を揉みあげられる。
時には触れるか触れないか、の強さで…時には、痕が付くんじゃないかと思うくらい、強く。
息が詰まる…
彼が私の表情を見ているのが分かるので、なぜだか緊張した。
乳首に集中して刺激を与えられる。
やはり声が出そうになる、けれど出さないでいる。

すると突然、刺激を取りやめられた。
何事かと思っていると、彼が私を見下ろしている。
「俺を愉しませてよ」
左手で私の足を固定したまま、右手で私の腕をあそこに持っていく。
「自分で触ってみなよ」
触ってみるまでもなくわかっていたが、私のあそこはもう、だらだらと液体が流れていて…
触るとそれはべっとりと指先に絡みついた。
「どうなってる?」
彼の声がしても…答えない。答えたくない。
「言えないの?」
聞かれたから、うなづいた。
「じゃあもっとしっかりさわって」
自分の顔が紅潮していくのがわかる。
どうすればいいのかわからない。
彼の言葉に従っていけば…彼の、が、入ってくれる?
彼の言葉に従っていけば…彼にもっと喜んでもらえる?
彼の言葉に従っていけば…彼が私を愛してくれる?






安藤アンナ嬢よりいただいたイラストに絡めて。






2005.5.16





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