「ほらほら、かっこよく入っただろう?」
ジャロンはわたしの顔を両側から挟むように掴むと前を向かせた。スクリーンには黒々とした「S」の字の刻印をされたわたしの自慢のお尻がプルプルと震えていた。
「や、いやあああ!!」
永遠に汚されてしまったことにショックを受けたわたしは、ヒステリックに叫ぶと、顔を背けようと激しく首を左右に振った。
「そんなに嫌がるな、これで諦めがついたろう? 仲良くしようぜ」
そういうと男はわたしのあごをぐっと掴み、口を無理やり開かせて太い舌を押し込んできた。
「うぐ・やぁ!・・・んんんんん!!!!!!」
わたしは必死で顔を引き剥がそうともがいた、そして、前歯で、男の分厚い舌をぐっとかんでやった。男が口を押さえ後ず去った。
「こ・・・ころして・・やるわ・・・」
わたしは、ありったけの気力を振り絞って男をにらみつけた。
男は居住まいを正し、まっすぐ立ち上がるとこちらのほうをもういちどみつめなおした。そして、にっこりと笑うと、口を開いた。真赤、いや、真紫に染まったくちからぽたぽたと血が滴り落ちた。その目はしかし、笑っていなかった。いや、怒っても、また狂気に染まってもいなかった。それは恐ろしくつめたい、そして残忍な目だった。
(こ・・・こわい!)
心臓をわしづかみにされるような感覚だった。そして、男が一歩、二歩と近づくにつれ、恐怖が体の心を凍りつかせ、底知れない嫌悪、気持ち悪さが喉元に競りあがってきた。
(いや・・・こ・・・こないで!)
「ヒトミ、なぁ、お前がなんと言おうとどうしようもない。お前の身体も、心も、おれのものだ。なんてったって、お前の身体には俺だけの鍵がかかってるんだぜ、わかるか??」
わたしは必死でかぶりを振った。なんなのそれ? さっきの烙印のこと? それとも、何か、別の?? 嫌!・・・そんなのわかりたくない、本当だとしても、知りたくないし、認めたくない!!!
そんな、わたしの気持ちをいたぶるかのように、ジャロンはわたしの左側に立ち、左手でわたしの首元を掴み、耳元に生臭い息を吹きかけながら、あいている右手の指先で、烙印が押されたばかりのわたしのお尻をゆっくりと円を描くようにまさぐってくる。
「お前のからだの鍵っていうのはなぁ、こういうことだ・・・」
ジャロンはそういうと、右手の指先をわたしのお尻の下左、ちょうど「S」の烙印のあるあたりに移動させ、そのパターンをなぞるかのように移動させ始めた。そして、2回、それを繰り返すと、こんどは下から逆になぞりあげはじめた。わたしは、ジャロンがわたしの身体をまさぐっている間、気持ち悪さと恐ろしさにびくびく震えていた。そして、 ジャロンの指先が、「S」の字を逆さになぞりおえて、ジャロンが身体を離すと同時に、大きく息をついた。
いったい、今の儀式が何を意味したのか、いぶかしげに思い始めたその瞬間だった。
(くっ・・・!! ぐぁあああああああああっ!!!!!)
これまでに味わったことのない感覚だった。
もう、すべての産毛がみだらな静電気を帯びて逆立ち、その根元にある全細胞が官能の毒で膨張し破裂しそうにでもなっているみたい。骨盤の灼熱が、背骨と大腿骨とを伝って全身に伝わり、すべての感覚が危険にざわめき立っていた。いや、ざわめきなどというものではない・・・性器をはじめとする、体の内外のあらゆる粘膜は燃えさかり、やけどをしたかのようにただれ、体中の穴から、体内の熱気が噴出すような錯覚を起こした。もう、身体をくねらせただけで・・・・イッてしまいそうだった。でも、ジャロンがわたしに施した空間拘束のおかげで、わずかに動かせるのは首のみだった。
「い・・・・ひぃ! あ・・・・ぐぁあああ!!!」
目はかすみ、視界に赤い霧がかかった。燃えてる、そう、本当に燃えていた。骨が熱で溶けてしまいそうだった。血が沸騰し、脳や眼球、内臓が茹で上がってしまうのではと思もった。皮膚が煙を立てて焦げ始めるような、それでいて、体の芯は冷え切り、からだがぶるぶる震える・・・それほど強烈な感覚だった。
そして、目に、ジャロンの醜悪な姿が映ったとき、圧倒的な気持ちのおののきが官能の炎に加わった。
(いや・・・・いやぁあああ!!!!)
「あ・・・・うぁ・・あ・・・ああ!!・・・あ!・・・・う・・・ああああ!!」
身体をねじることも、顔ををそむけることもできないわたしの声帯から、圧倒的な衝動と慟哭が盛大で断続的なうめき声となってあふれ出した。
「おら、ヒトミ! たまんねぇだろう??」
あ、ジャロンがちかづいてくる!
「もう体中に火がついているはずだ・・・」
や・・・いや! こないで!!
「触られただけで、くるっちまいそうだろう?」
指先が切り落とされているレザーグローブに包まれた大きな手のひらで、おののくわたしの頤をつかみあげながら、もう一本の手の人差し指をピンと伸ばして、まるでサバイバルナイフででもあるかのように首筋に突き立てる・・・
「ひっ・・く・・・うううううう!!!!」
その指先がわたしののどから鎖骨のあいだを通り、おへその辺りまで滑り降りる・・まるで、肌が引き裂かれるかのような感覚に、わたしは情けない声を上げてしまう・・・
「全身が燃え盛っているはずだぜ。もう少し触ったら気が狂うほどいっちまう・・・」
や・・・そんなの・・・いやああ! こんなやつに!
「さ・・・・さわらないでよぉ! き・・・気持ち悪いからぁああ!!」
口ではそういうけど、ああ・・・全身が熱くて・・・!!!
皮膚の下を、みだらな毒虫にかきむしられているような感覚・・・
あああ・・・もう・・・!
うずいて・・・もう・・・!!! い・・・いやぁ!、
まけちゃ・・・ だめえええ!
「気・・・気もち悪い・・・いやあああああ!!」
必死で、何とか嫌悪感をあらわす・・・
ジャロンはわたしの顔を憎らしげな目で覗き込んだ。
「そうか・・・そんなに気持ち悪いのか・・?」
わたしの髪を掴んで顔をもちあげる・・・
「それなら、こうしてやろう・・・」
そういうと、ポケットから汚れた黒い布を取り出した。そして、それをわたしの目の周りに巻きつけてくる・・・
「こうすれば俺の顔が見えないだろう?」
な・・・こいつ、何をする気・・・?!!
次の瞬間、わたしの右耳の後ろから声がした・・・
「そのかわり、俺がどこにいるかもわからないぜ・・・」
「ひっ!」
慌ててそちらをふりかえる・・すると、今度は左の乳首に冷たい氷のようなものが突きつけられる!
「くぅっ!」
いつの間に、空間拘束は緩められていたらしい。声を上げ、振り向きざまに身体をくねらせる。すると、今度は逆のわき腹に、わたしは、吊り上げられた若鮎さながらに身体をくねらせてしまう。
「ほうら、息をかけただけでこんなだ!たまんねえだろう??」
えっ?! そんな、い・・・息をかけただけなんて・・・そんなの・・・・
きゃぁああ! 今度は右の、内腿に!
「あはぁあああ!」
左の、首筋!
「うわぁああああ!」
背中の・・・真ん中!
「・・・・・!!! うぶあああああああ!!!」
お・・・お尻の!谷間に!
「そうさ、お前の身体に触れてるのは俺が吹きかけた息だけだ。それだけ敏感になっているのさ! その証拠に・・・」
あ、いや! ジャロンの声耳元に近づいてくる・・・
「こうしていやらしい音を立ててやるだけで・・・」
だらしない、舌なめずりのような汚い音が耳元に響く。とたんに、熱いナメクジがわたしの右耳に滑り込んでくる!
「いやああああああっ!!!!」
わたしは絶叫をあげ、身体を弓なりにそらせてしまう。
(やああああ!!! 汚されるうううう!!)
「どうしたぁ? 俺はどこにも触ってないぜぇ??」
うそ! そんなの!!ありえない・・・!! でも・・・確かに、身体には触れられてない・・・それでこんなだったら・・・もしも・・・触れられたら・・・いったい、どうなってしまうの!!
あああ! ジャロンが背中から覆いかぶさってくる・・・あ・・・ 強烈な体臭やタバコくささと、熱い体温が背中にジンジン伝わってくる・・・ひっ! わたしの開いたまま拘束されている太ももの間に、ドクンドクンと脈打っているこわばりまで・・・まるで、押し付けられているかのように感じられる・・・
「うぁああああ!!」
胸が溶けるように感じられるのは両手が、今まさにわたしの乳房を掴まんとしているから?!!
「ヒトミ!」
ああああ・・・こいつの声が、まるで頭の中で響くよう。
「いい身体だ・・・細い割に体力もありそうだしな、感度もいい。これから何年も何年もかわいがってやるよ。簡単には堕ちるなよ。楽しみが減るからな・・・」
アアアア・・・そんなの・・・・そんなの・・・・!
男の言葉にめまいがするような絶望感を感じる。この状況じゃどうしたって逃げようがない。それに、あの・・・忌々しい刺青のおかげで・・・わたしはこいつに縛り付けられてしまっている・・・!
頭の中に、幸せだった数週間前の光景が浮かんでくる。アカデミーでの日々、大学時代の友達。いとこのやんちゃ坊主たち・・優しい両親・・・別の道を選び遠くの星へメディカルとして派遣されたボーイフレンド・・・
ああああ・・・どうして・・・どうしてこうなってしまったの・・・?
あつい涙があふれ、目を覆う生地に浸透していく・・・いや・・・こんなの・・・・ぜったい! いやあああ!!
「ふふふ! 泣くのは早いぞ、ヒトミ。 もっともっと楽しい目を見せてやるからな。」
いきなり、視界が明るくなる。目隠しがはずされた。背中からジャロンの気配が急に消えた。 \\
「このドアの向こうに俺のかわいい犬どもがいてな・・・」
目を上げると部屋の隅にジャロンが立ち、その横に長方形の金属製の扉があった。
「入ってこい」
扉が開かれる! そして・・・