Chapter 3







脱出

見事にはめられた! 

罠だったのだ。

おそらく、ワドゥクたちが散り散りにいろいろな星に移住した地球種族を狙って仕掛けたのだろう。地球船を装い、自分達を仮死状態にして
ADD隊員を誘い込む。

内部調査のためにユーティリティー電源が入れられると、蘇生スイッチが起動する。隊員と船を捕らえ、そしてそのフライトレコーダーなどからターゲットとする星や宇宙ステーションを割り出そうというのだろう。

わたしは、まんまとその罠に引っ掛かってしまったのだ。そして、飛行艇に侵入されれば、
ADDの本部の位置や地球のコロニーの情報も知られてしまう。そこをワドゥクに襲われたら・・・

(さきに、逃げ出さないと・・・)

逃げて、この船を吹き飛ばさないといけない。


わたしは、息を吹き返しつつある何体ものワドゥクのカプセルの間の回廊を駆け抜け、もと来た方向とは逆にある扉の開錠ボタンを押す。

 

開かない!

 

ばかな! わたしは何回も、何回も黄色いボタンを叩き続ける


(どうして、どうして!)



ドア自体は地球のシステムを使っているはずだ。


(そうだ!)


ドアの左下にあるケースを開く。中にはレバーが入っている。そのレバーを開錠ボタンの横の穴に差し込み、猛烈なスピードで回しはじめる。と、同時に、きしむような音を立て、ドアが開いていく。


(あと、すこし・・・)

部屋の中からきしむような音が聞こえ始める。解凍が終わりかけているのだ・・・はやくしないと!全身からドッと汗が吹き出してくる。スーツの中がぬめりだし、気持ちが悪い。


(いける!)


わたしは、40センチほど開いた扉の割れ目をすり抜けるようにして反対側にうつる。そして、今度は先ほどのものとちょうど反対側の位置に開いた穴にレバーを押し込み、手動でドアを閉める。


     ・・・・!

ギギーという鈍い金属音が響いたのと、部屋の中から無数の獣の雄たけびのようなものが聞こえたのはほとんど同時だった!

わたしは弾かれたように扉から飛び去り、左の回廊に向かって疾走する。

 

回廊は長く、薄暗い。物陰から今にもワドゥクが飛び出てくるのではないかという恐怖を脱出路を何度も頭の中で繰り返すことで、必死に押さえ込む。 

最初の分岐が迫る。右の方に続く通路は他のワドゥクが収容されている通路に続いている。


まっすぐ行くと行き止まり.
ここは左に行くべき! 



角を左に曲がる、


獣のような叫びが聞こえる
!

ふりかえる!



(!!)

10メートルほど後方から、五匹のワドゥクがこちらに向かって走っている!!


わたしは、立ち止まり、曲がり角に設置されていた扉の施錠ボタンを叩く、扉が閉まる
! コントロールボックスを銃で一撃する! ほんの数十センチしか離れていない扉の反対側からワドゥクたちがボタンを叩く音、そして扉に体当たりする音がきこえてくる。

もう一度走り出す、右のほうに通路がある・・・


(どっちにいったらいいの!)


そう思いながらその通路との分岐にたどり着いた私の目は、緩慢な動作で通路の奥から進んでくる一匹のワドゥクの姿を認める。


(閉まって!!)


施錠ボタンをたたく、ドアが閉まり始める、


(まにあったか・・・)


そう思い、ドアの隙間からまだ遠くにいるはずのワドゥクをさがす。次の瞬間!

 
「ぐぁあああ!!」


わたしは叫んでいた。ドアの向こう側にいたワドゥクの腕が狭まり続ける隙間から伸び、その大きな手でわたしの喉をつかんでいた! 


(い・・・痛い! 苦しい!!)

首だけでつかまれた状態で身体が上に引き上げられる。

扉がワドゥクの腕にぶつかり、動きを止め、きしむような音を上げる!


わたしは、何とか腰からつった銃を抜き、ワドゥクの腕が扉に挟まれている部分、肘の辺りを狙って引き金を引き絞る!

1発、

2発!

3発!!

びくともしない。

出力をマックスに!

4発!

5発!!

身体が落下する、


「グゥアォオオオオオ!!」


怒りに満ちた叫びをBGMに扉が閉まっていく、わたしの目の前にはちぎられたワドゥクの腕が震えながら転がっている。

「ぐぇっ! がぁはぁつ!」

わたしは締められていた喉をかばうようにしながら銃をしまい、たちあがる。手首につけたコミュニケーターにわたしの船から連絡が入る。


「接舷船に敵対的生態信号。シークエンス
Dスタートしますか?


シークエンスDとは、最悪の事態を想定したいわば自爆モードだ。船へのデータ侵入が起きる前兆があったら、航星データを含むすべてのデータベースを削除し、実際に私以外のものによる侵入があったら、船自体を爆破する。

わたしは、躊躇せずに「YES」のコマンドを入力する。もう、なんとしても早く船にたどり着くしかない。

 





遠くの方で小さい爆発が聞こえ、それと同時に重い足跡が響いてくる。



(破られた・・)

さっき巻いたワドゥクたちに違いない。
再び駆け出す。

左に廊下が1本、2本、3本目を曲がる、床の材質が違うのだろう、やけに足音が響く、


(見つからないで!


懇願しながら通路の終わりまで、

右に向かう通路を走る、直ぐ左側の階段を駆け上がって!

 

飛び出した通路の先にカーゴ室に通じる背の高い、灰色の扉が見える!



(ここを抜ければ、ドッキング・ブリッジ・・・)


 

そう、安堵しかけたとき、わたしは心臓をわしづかみにされたような衝撃に襲われた。

 

目の前に迫った扉の右側から、一匹のワドゥクが現れたのだった!

(!!!)

思わず立ち止まる。 

(一か・・・八か・・・だわ!)

わたしは、銃のセレクターを「Hyper」にセットし、ワドゥクに向かって駆け出す、わたしがワドゥクの目前に迫り、銃を構えたまま飛び上がったのと、解凍され、意識の混濁が収まったばかりのワドゥクがわたしに気が付いたのはほとんど同時だった。

(あたれっ!!!!)

銃からのビームをワドゥクの頭頂部の一点に叩き込む!

反動で、身体が後方に泳ぐ!

何とかバランスをとり、両足で着地したわたしの目の前で、肉の雪崩のような様相でワドゥクが崩れ落ちた。

 


カーゴホールド

 

幸い、この辺りにいたワドゥクは一匹だけだったらしい。わたしは、床に崩れた巨体をまたぎ、カーゴ室の扉を開くと、怪しまれないようそのカラダをカーゴ室に引きずり込み、床に残った血をふき取った。レーザーを微弱にして乾燥させる手もあったのだが、先ほどの一撃で銃のエネルギーを使い果たしていた。無駄な時間がかかってしまったが、脱出まではあと一歩だった。

 

カーゴ室の中はかなり暗かった。いや、扉が閉まってしまうと真っ暗だった。わずかな非常灯の光のみを頼りに、わたしは進んでいく。どうやら真ん中の通路の両側に荷物が並んでいる様子だった。なんなのか判らないが四角い筒のようなものが並んでいた。(ワドゥクの武器だろうか・・・) そうならば、脱出と同時に、このエリアに砲弾を一発お見舞いしてやればことが簡単に済むかもしれない。

 

先のことをいろいろ計画しながら、私は荷物らしいもので作られた壁伝いに進んでいく。カーゴ室の真ん中辺りまで来ると、壁沿いに設置された非常灯の明かりは届かず、真っ暗だった。銃のエネルギーは使い切ってあるので、トーチも点灯しない。しばらくすると、左側にある荷物の壁が途切れた。手がかりがなくなる。

 

(真っ直ぐいくしかないわね・・・・)わたしは、極力、両脚を均等に出しながら前に進んでいく。もう、かなり近いはず。倉庫の反対側には自由への扉があるはずだ。そう思ったとき、前の方から何か圧力のようなものを感じた。そっと手を前に差し出す。硬い、つるつるしたものに触れた。 (なんだろう・・・)何かに気づき、足元に視線をおとす・・・

 

弱い光が数字の「1」の形に光っている。慌てて後を振り向くと、わたしを取り囲んで円のように、光る数字がならんでいる。

(ば・・・ばかな・・・ここには無い筈・・・)

呆然とするわたしの前で、数字が、「0」に変わった。

 

次の瞬間、あたりが一面明るくなった!カーゴ室の全照明が点灯したのだ!

 

そして、

 

「グゥォオオオオオッ!!!

「ウグァアアアアアアアア!!!!」

 

この、巨大な船全体が揺り動かされんばかりのうなり声がわたしの周りで上がった。わたしは、6つのカプセルが円の形に並んだ真ん中にいた。カプセルを形成するガラスは分子レベルで分解し、埃のようになって、床に落下した。そして、中にいたワドゥクたちは永年のねむりから目を覚まし、雄たけびをあげていた。

 

わたしは、逃げた。

目の前にいる一体の横をすり抜けて。5メートル先に扉が見えた。

(ドッキング・ブリッジ!)

わたしは夢中で「開錠」ボタンを押した!

 







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