GS美神 極楽大作戦!! 「私が道を切り開く。 前衛は私に付いて来い。 後衛は結界の作成・維持だ。 行くぞ」
亜麻色の髪をロングにしている少女が冷静な声で背後の少女達に指示を出し、そのまま自ら目の前の妖怪達へと駆け出した。
「来るがいい! そのまま冥土に送ってやる!」
神通棍を握り締めて、襲い掛かる妖怪達を片っ端から薙ぎ倒してゆく。
除霊される妖怪達の数は少女の勢いそのままに増え、ますます少女は勢いを強めていった。
『コロセ……コロセ……』
その様子に上空で漂っていた悪霊達が少女を目標にしたらしく集まり始めた。
気配を感じた少女は瞬時に薄っすらと赤い膜を全方位に向けて作り上げる。
ジュアッ ジュジュジュッ
飛びかかってくる悪霊は膜に触れると一瞬で焼き尽くされて虚空に消えていった。
「行けっ!!」
少女が手を水平に薙ぐと、実体の無い霊すら焼き尽くす膜から赤い球体がいくつも現れ、螺旋を描きながら空へと放たれる。
螺旋の軌道上にいた上空で動き回る悪霊は撃ち抜かれ、さらに開けられた風穴から走る炎に焼き尽くされてその数を減らしていった。
悪霊がまとめて消えてゆくのを見ながら少女は朗々と宣言した。





「さぁ! この美神ひのめが───まとめて極楽へ行かせてやる!」





臨海学校。
現在ひのめが参加している学校行事である。
一般的には海へ行って楽しむ学校での行事だと思われるものだが、GSの卵が集う名門『六道女学院』だとその意味はガラリと変わる。
近い将来第一線に身を置くGSとして、除霊現場で必要な実戦勘を養う訓練としての意味を持つのである。
訓練といっても相手は海に巣食う妖怪、命を取らずやられるだけという訳ではない。
当然現場と同じであり、命を落とす事もありえる。
その為、六道女学院ではこれまでに築いた太いパイプから腕のある現役GSに付き添いとしてフォローを頼むのである。


「姫、この左の方が苦戦してる!」
「わかった」
ひのめに追い付いて応戦を始めたクラスメイトの一人が戦況を伝えた。
『姫』の愛称は単純に名前から『の』を抜いただけだったのだが、普段の変な人ぶりと、そして特殊能力を含む能力の高さから今では畏敬を込めて呼ばれるようになっていた。
ひのめは1年生だがやはり美神の名を継ぐ者、六女内でもトップの実力を誇っていた為に遊撃部隊としての役目を理事長から背負わされていた。
ちなみに理事長は変わらず冥子の母で、副理事長に冥子が着任していた。
「はぁっ!!」
気合を込めた神通棍を振り抜いて近くにいる雑魚を弾き散らし、陣形が崩れつつある左方へと辿り着く。
そこには、
「救護班へ送れ! 前衛はフォロー! この辺りに寄せ付けるな!」
倒れた生徒の周囲に結界を張り、大声で指示を出しながら自分も手にした霊波刀で妖怪を退け続ける一人の男性の姿があった。
その名を横島忠夫………日本GS界で最も有名な『美神除霊事務所』の一人であり、業界最高のGSの一人と数えられる人間である。

「義兄さん!」
「ひのめちゃんか!?」

横島の姿を目にして声を上げると、横島も振り返って声を掛けた。
その際もしっかりと妖怪を手の霊波刀で斬り倒しているのはさすがである。

「この子を救護班に送れるか?」
横島は目で気絶して横になっている女生徒を示す。
ひのめが見たところ自分より背が高くしっかりとした体格だった。
「私だと時間がかかります」
「あー、それもそーだよなぁ。 わかった。 俺が連れて行くから援護を頼む」
「なら向こうで敵を引き付けます。 その隙に」
ひのめが目で前線を示す。 海から来る妖怪の大群はまだ尽きる様子が見えない。
「無茶はすんなよ。 俺がみんなに顔向けできないからな」
「大丈夫です。 今日の昼のおかげで力が有り余ってますから」
そう言ってひのめはチラリと意味深な目で横島を見て口元でニヤッと笑う。
その様子に横島はあはははと大きな冷や汗を流して空笑いをしていた。
視線を自分の下腹部に移すと、ひのめはそっと手を当てて優しく撫でた。
「久々でしたから私も止まりませんでした。 義兄さんに注ぎ込まれた熱い精がまだまだここに残ってますよ」
小悪魔の笑みとはこういうものだ。 そう今までの経験から横島は思った。
「アハハハ……」
「だから私は今増幅(ブースト)モードです。 というか暴走(スタンピート)しようと身体の中を駆け巡るので身体がひどく火照って熱いんですよ」
ひのめの言葉に横島はジッと見つめた。
見た目は普段と変わらないひのめだが、長い付き合いのある横島から見ると多少顔などが赤くなっているのはわかった。
「まぁ……みんなを焼くなよ?」
「努力します」
そう言ってひのめは前線の方へと駆けていった。
「……ひのめちゃんがプッツンしたら俺のせいか? 他の子らの為にもすぐに戻ってこないとな」
ボソッと横島は呟くと、少女を抱え上げて走り出した。
お姫様だっこと言われるそれに、後方から援護する少女たちの視線が集まった。
「なははは……これはさすがに目立つか……後でこの子に怒られるかもなぁ……」
横島が走り去った後で、顔を赤くした少女たちの「ずるいぃ……」とか「いいなぁ……」などの声があちこちから聞こえたのは余談である。




「私が前に出る。 少し下がっていろ」
ひのめは一言言うと海岸で戦う少女たちの横を駆け抜けて波打ち際まで辿り着く。
強力な発火能力(パイロキネシス)を生まれたときから持つひのめは念力発火能力者(パイロキネシスト)である。
その元から強力な発火能力を使って、半径2〜3メートルほどの結界にする事で薄く赤い膜を纏っていたのである。
その上に増幅を受けて普段の全力を軽く上回る状態そのままでも走る要塞、いや火の精霊『火蜥蜴(サラマンダー)』として妖怪達には脅威だっただろう。
しかし。
「さぁさぁ! 久々にやってみようか!」
その場に足を止め、巨大な妖怪の波と化したものを見据えてポケットから小さなビー玉を取り出した。
するとビー玉が淡い光を放ち、『剣』という文字が浮かび上がると同時に掴んでいた手から左右に長い剣上の霊気が収束した。
ひのめを包んでいた膜が消えると同時に亜麻色の少女は妖怪達に斬りかかった。




「ごめん! この子をお願い!」
「あ〜、忠夫さん、いらっしゃい〜〜〜」
横島は救護班が待機する場所に辿り着くと、式神のショウトラと共に六道冥子がいた。
「ショウトラちゃ〜ん、お願い〜〜〜」
横島が連れてきた少女を横にすると、冥子がショウトラに命じてヒーリングを掛けさせた。
「忠夫さん、大丈夫〜〜〜?」
「俺はなんともないけど、ひのめちゃんが敵を引き付けてるんで今から行ってくるっす。 冥子ちゃん、頼んだよ」
「は〜〜〜い」
その言葉に横島はにっこりと笑うと、もう一度ひのめの元へと駆け出していった。
「頑張ってね〜〜〜〜」
冥子は横島の後姿に手を振った。
横島の姿が見えなくなると、冥子は横島が連れてきた少女へと振り返った。
少女を舐めて癒すショウトラの頭を優しく撫でながら、冥子は指を咥えた。
「お姫様抱っこ………い〜〜〜な〜〜〜」




「ひとつ! ふたつ! みっつ! よっつ! いつつ! あがりだぁっ!」
妖怪の群れを双方向へと伸びる剣で斬り裂き続けたひのめは剣舞を舞うかの様に美しかった。
「ふん、そろそろいいか」
自分の周囲を取り囲む妖怪達を見渡す。 上空からは漂う悪霊がひのめの様子を窺っていた。
ひのめはもう一度炎の結界を纏うと、
「身が火照っているんでな。 手加減はできん」
ビー玉を持つ手とは反対の手で優しく下腹部を撫でると嬉しそうににっこりと笑った。




「あれか! ひのめちゃん!」
横島はひのめが取り囲まれている場所を見つけてサイキック・ソーサーを投げつけた。
当たった妖怪たちが弾き飛ばされ、包囲網に穴が開く。
その中にひのめの姿を見つけた瞬間───























───炎が、弾けた。


































「ふむ、やはり義兄さんの精は相性がいいようだ。 また威力が上がっている」
目を閉じてその場に立っていたひのめが口を開いた。
ゆっくりと目を開く。 が、暗い夜の中に先程海の中で焼けた妖怪を冷やす際に発生した霧と、その上妖怪たちを吹き飛ばした際に巻き上がった砂のせいもあって一寸先も見えない状態だった。
「砂まみれになってしまったな。 後で義兄さんに流してもらおう」
そう言ってひのめは歩き出した。 全方位に向けてその能力を解放する瞬間に、包囲網に穴が開いた方角へ向けて。
「これで終わりだな。 文珠を使ってもそんなにいないようだし」
手にしたビー玉───文珠には『感』が浮かび上がっており、ひのめは気配が鋭敏に感じ取れる状態になっていた。
ひのめが吹き飛ばしたのはどうやら主力だったらしく、ひのめの周囲には妖怪たちの気配が根こそぎ消え去っていた。
トンッ
足に何かが当たったひのめは視線を足元を落とした。
それは黒焦げになった人型の物体だった。
ウエルダンな焼き具合で、その物体からはプスプスと音がしていた。
「む? 大丈夫か?」
しゃがんで煤を払う。 しかし中々落ちない。
「………………」
「ん? 何か言ったか?」
ひのめは口らしき場所に耳を寄せた。
「ふひ……ふひひひ……!!炎だ……!!炎が踊っている……!!俺は熾天使を見たぞ───ッ!」
「なんだ、義兄さんか。 こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」
声で横島だとわかったひのめはそう言って煤まみれの横島の顔を膝の上に乗せた。
「ふむ、先生が来るまで待つか。 役得もある事だし」
そう言うとひのめは歳相応な笑顔を浮かべてパリパリになった横島の髪を撫でた。
その間も横島は意味不明な事を口走り続けていた。

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